第二十六話 夏祭り
## 第二十六話 夏祭り
夏休みが始まって一週間。
蝉の声は朝から晩まで鳴き続けていた。
鈴木は自室で参考書を開いていたが、ほとんど進んでいない。
机の横にはスマホ。
そして。
画面には花本とのトーク履歴。
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『夏祭り行く?』
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三日前に送られてきたメッセージだった。
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クラスの何人かで行くらしい。
田辺も。
中村も。
花本も。
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もちろん鈴木も行くと返事をした。
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それなのに。
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なぜか落ち着かない。
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理由はわかっていた。
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好きだからだ。
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## 当日
夏祭りの会場は人であふれていた。
屋台の匂い。
提灯の灯り。
遠くから聞こえる太鼓の音。
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待ち合わせ場所へ向かう。
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「鈴木!」
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田辺が手を振る。
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その隣には中村。
そして。
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浴衣姿の花本がいた。
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鈴木は一瞬言葉を失った。
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いつもの制服じゃない。
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髪も少しだけまとめている。
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雰囲気が全然違った。
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「なにその顔。」
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花本が笑う。
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「え?」
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「固まってる。」
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「いや。」
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鈴木は慌てる。
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「似合ってる。」
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言った瞬間。
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花本の目が少し大きくなる。
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「……ありがとう。」
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少しだけ照れたように笑った。
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その顔を見て。
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鈴木の心臓はさらにうるさくなった。
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## 夜
みんなで屋台を回る。
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射的。
かき氷。
焼きそば。
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楽しい。
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でも。
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鈴木は落ち着かなかった。
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なぜなら。
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中村と花本が普通に話しているから。
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それを見るたびに胸がざわつく。
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そして。
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自分でも嫌になる。
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こんな気持ち。
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今まで知らなかった。
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## 花火の時間
人混みが一気に動き出す。
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「うわ。」
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誰かとぶつかる。
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鈴木はバランスを崩しかけた。
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その時。
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手を掴まれる。
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「大丈夫?」
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花本だった。
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ほんの一瞬。
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手と手が重なる。
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花本も気づいたらしい。
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二人同時に手を離す。
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「ご、ごめん。」
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「いや。」
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花本が少し笑う。
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「鈴木くん、本当に危なっかしい。」
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その時。
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夜空に花火が上がった。
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大きな音。
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色とりどりの光。
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みんなが空を見上げる。
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でも。
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鈴木は花火を見ていなかった。
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隣にいる花本を見ていた。
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そして。
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ようやく確信する。
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もう。
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好きとか気になるとかじゃない。
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ちゃんと。
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花本結衣が好きだった。
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誰よりも。




