第二十五話 言えない
## 第二十五話 言えない
七月の終わり。
教室には夏休み前の空気が流れていた。
授業はほとんど頭に入らない。
先生も、生徒たちも、どこか浮かれている。
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でも。
鈴木だけは違った。
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好きだと気づいてしまった。
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花本のことが。
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だからこそ。
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前より話しにくくなった。
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視線が合うだけで緊張する。
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笑われるだけで嬉しくなる。
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そして。
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前よりずっと怖くなった。
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嫌われることが。
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## 昼休み
花本はいつものように前の席へ座った。
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「ねえ。」
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「ん?」
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「今日静かじゃない?」
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鈴木の肩が少し揺れる。
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「そう?」
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「うん。」
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花本はストローを回しながら笑う。
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「最近ずっと変。」
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「別に。」
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「別にじゃない。」
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花本は鈴木を見つめる。
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その視線に耐えられなくて。
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鈴木は窓の外を見る。
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「ほんと変。」
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花本が小さく笑った。
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## 放課後
教室には夕日が差し込んでいた。
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鈴木は一人で帰る準備をしている。
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その時。
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「鈴木。」
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田辺だった。
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「なに?」
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「お前さ。」
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田辺は少し笑う。
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「花本のこと好きだろ。」
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鈴木の動きが止まる。
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「……。」
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「図星か。」
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田辺は呆れたように笑った。
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「いや、最近わかりやすすぎ。」
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「そんなに?」
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「そんなに。」
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即答だった。
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「前まで佐々木ばっか見てたのに。」
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「……。」
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「今、花本しか見てない。」
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否定できなかった。
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全部その通りだったから。
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## 帰り道
空には夏の夕焼けが広がっていた。
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鈴木は一人で歩いている。
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好きだ。
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もう認めている。
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でも。
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告白できる気がしなかった。
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花本がどう思っているかわからない。
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もう遅いかもしれない。
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自分はずっと気づかなかった。
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待たせすぎたかもしれない。
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そんな考えばかり浮かぶ。
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その時。
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スマホが震えた。
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花本からだった。
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『夏休み入っても忘れないでね』
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たった一文。
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でも。
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鈴木の心臓は大きく跳ねた。
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『忘れるわけない』
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送信する。
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数秒後。
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『ならよかった』
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それだけ返ってきた。
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けれど。
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鈴木はしばらく画面を見つめていた。
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夏休みが始まる。
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そして。
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この恋も。
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もう後戻りできないところまで来ていた。




