第二十四話 聞こえ始めた声
## 第二十四話 聞こえ始めた声
その日の帰り道。
鈴木は一人で歩いていた。
夕暮れの空は薄いオレンジ色に染まっている。
部活帰りの生徒たちが自転車で追い越していく。
いつもと同じ景色。
でも。
鈴木の頭の中は、全然いつも通りじゃなかった。
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**もし花本が誰かと付き合ったら。**
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考えただけで苦しかった。
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中村。
委員会の先輩。
知らない誰か。
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誰でもいい。
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花本の隣に自分じゃない人がいる。
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それが嫌だった。
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「……。」
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信号待ちで立ち止まる。
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そして。
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ようやく認める。
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認めたくなかったけれど。
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認めるしかなかった。
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「好きなのか。」
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小さく呟く。
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花本のことが。
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好きだった。
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気づいた瞬間。
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胸の奥が少し軽くなる。
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でも同時に。
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別の不安も生まれた。
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遅すぎたかもしれない。
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花本はずっと自分を見てくれていた。
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なのに。
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自分は佐々木ばかり見ていた。
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何度も。
何度も。
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傷つけていたかもしれない。
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それでも。
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今さら。
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今さら好きだなんて。
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本当に言っていいのだろうか。
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夏の風が吹く。
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鈴木は空を見上げた。
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答えはまだ出なかった。
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## 翌日
昼休み。
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花本はいつものように前の席へ座る。
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「暑い。」
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机に突っ伏す。
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「今日それ三回目。」
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「まだ昼なんだけど?」
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二人とも笑う。
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何気ない会話。
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でも。
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昨日までとは違った。
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鈴木は花本の横顔を見てしまう。
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笑った時に少し細くなる目。
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髪を耳にかける仕草。
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話している時の声。
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全部が気になった。
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「どうしたの?」
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花本が首を傾げる。
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「え?」
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「さっきから変。」
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「そう?」
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「うん。」
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花本は不思議そうに笑う。
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鈴木は慌てて視線を逸らした。
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心臓がうるさい。
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今まで。
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どうして気づかなかったんだろう。
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こんなに近くにいたのに。
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ずっと。
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ずっと前から。
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自分のことを見ていてくれたのに。
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その時だった。
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花本のスマホが鳴る。
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画面を見る。
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「あ。」
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「どうした?」
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「中村。」
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その名前だけで。
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鈴木の胸がまたざわついた。
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花本はそんなことに気づかない。
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「委員会の連絡だって。」
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そう言って笑う。
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けれど。
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鈴木はもう気づいてしまった。
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その名前を聞いて落ち着かない理由にも。
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花本が笑うだけで嬉しくなる理由にも。
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全部。




