第二十一話 目で追う人
## 第二十一話 目で追う人
午後の競技が始まった。
空はどこまでも青い。
夏の太陽が校庭を照らし続けている。
鈴木はクラスの応援席に座っていた。
でも。
競技を見ているようで、見ていなかった。
---
「次、実行委員の種目だって。」
誰かが言う。
鈴木は自然と顔を上げた。
花本が出る。
それを聞いただけで。
---
校庭の中央。
実行委員たちが整列している。
花本もいた。
額に少し汗を浮かべながら、友達と笑っている。
---
「鈴木。」
隣の田辺が声をかける。
「ん?」
「さっきから花本しか見てなくね?」
---
一瞬。
鈴木の動きが止まった。
「そんなことない。」
「いや、ある。」
「ない。」
「ある。」
---
田辺は笑う。
でも。
鈴木は笑えなかった。
---
本当にそうかもしれない。
---
最近。
花本を見つけるのが早くなった。
教室でも。
廊下でも。
校庭でも。
---
どこにいるか探しているわけじゃない。
なのに。
気づけば見つけている。
---
その時。
競技が始まった。
花本が走る。
仲間と笑う。
誰かと話す。
---
鈴木はその姿を見ていた。
---
すると。
向こうから手が振られた。
花本だった。
少し離れた場所から。
笑いながら。
---
鈴木も反射的に手を振る。
---
その瞬間。
花本の隣にいた女子たちが何か言った。
みんなで笑っている。
---
「……。」
花本は少し照れたように顔を背けた。
---
鈴木には理由がわからない。
---
でも。
花本はわかっていた。
---
今のやり取りを見ていた友達たちが、
「絶対仲良いじゃん。」
「花本、顔赤い。」
「もう付き合えば?」
---
そんなことを言っていたから。
---
夕方。
体育祭は無事に終了した。
---
閉会式。
疲れ切った生徒たちがグラウンドに並ぶ。
---
鈴木は少し離れた場所にいる花本を見ていた。
---
その時だった。
---
「鈴木くん。」
---
声がする。
---
振り返る。
---
佐々木だった。
---
「今日、お疲れ。」
「お疲れ。」
---
佐々木は笑う。
相変わらず優しい。
変わらない。
---
でも。
---
鈴木は気づいてしまった。
---
今。
佐々木に話しかけられるまで。
しばらく存在を忘れていたことに。
---
胸が少しだけざわつく。
---
夕焼けが校庭を赤く染めていた。
そして鈴木の中では、
ずっと信じていたはずの気持ちが、
少しずつ揺れ始めていた。




