第十九話 その気持ちの名前
## 第十九話 その気持ちの名前
体育祭前日。
教室は朝から落ち着かなかった。
みんな準備の話ばかりしている。
応援団の声が廊下から聞こえ、先生に注意される声まで聞こえた。
「完全に授業する空気じゃないよね。」
花本が笑う。
「確かに。」
鈴木も頷いた。
最近はこうして自然に話せるようになっていた。
前なら気づかなかっただろう。
花本が笑うタイミングも。
少し疲れた時の顔も。
考え込む時に髪を触る癖も。
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昼休み。
鈴木は友人の田辺と購買へ向かっていた。
すると。
前方に花本の姿が見えた。
中村と話している。
楽しそうだった。
「お。」
田辺が声を上げる。
「花本じゃん。」
「うん。」
「最近よく中村といるよな。」
鈴木の足が少し止まる。
「そう?」
「委員会一緒だろ。」
田辺は何気なく言う。
「なんか付き合いそうじゃね?」
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一瞬。
胸の奥が重くなった。
言葉にできない感覚。
嫌だった。
その想像が。
とても嫌だった。
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「鈴木?」
田辺が首を傾げる。
「顔怖いぞ。」
「え?」
「いや、マジで。」
鈴木は慌てて表情を戻す。
でも。
胸のざわつきは消えなかった。
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その日の放課後。
体育祭準備が長引き、外はもう夕焼けになっていた。
鈴木は教室で一人、荷物をまとめていた。
そこへ。
「まだいた。」
花本が現れる。
少し疲れた顔。
でも笑っている。
「委員会終わった?」
「やっと。」
花本は近くの席へ座った。
「疲れたー。」
机に突っ伏す。
鈴木はそんな様子を見ていた。
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「花本さん。」
「んー?」
「中村と仲良いんだね。」
二度目だった。
花本がゆっくり顔を上げる。
「またそれ?」
「いや。」
「気になるの?」
花本の目が少しだけ意地悪そうに笑う。
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鈴木は返事ができなかった。
その沈黙を見て。
花本の表情が少し変わる。
驚いたような。
期待したような。
そんな顔だった。
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「鈴木くん。」
「ん?」
「それね。」
花本は小さく笑う。
「普通は、好きな人にする質問じゃないんだよ。」
夕焼けが教室を赤く染めていた。
鈴木はその意味を理解できなかった。
でも。
なぜか胸だけが大きく鳴っていた。




