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『聞いてる? 鈴木くん。』  作者: ともり。


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第十七話 夏の入り口

## 第十七話 夏の入り口


 七月に入った。


 教室の窓は朝から全開だった。


 それでも暑い。


 扇風機が回っていても、夏の空気は容赦なく入り込んでくる。


「暑い……。」


 誰かが机に突っ伏しながら呟いた。


 クラス中が同じ気持ちだった。


---


 昼休み。


 鈴木は購買で買ったパンを持って教室へ戻る。


 すると。


「鈴木くん。」


 花本が手を振っていた。


 窓際の席。


 珍しく自分から呼んでいる。


「どうしたの?」


「これ。」


 花本が差し出したのは、体育祭の種目表だった。


「リレー出ることになった。」


「え。」


「嫌そうな顔した。」


「いや、意外で。」


「私だって走れるんです。」


 花本は胸を張る。


 その様子がおかしくて、鈴木は少し笑った。


「鈴木くんは?」


「綱引き。」


「地味。」


「ほっとけ。」


---


 二人で話していると。


 教室の入り口から声がした。


「真帆ー。」


 佐々木だった。


 隣のクラスの友達と一緒にいる。


「あ、今行く。」


 花本が立ち上がる。


 そして去り際に、


「また後でね。」


 と自然に言った。


---


 その言葉を聞いた瞬間。


 鈴木は少しだけ違和感を覚えた。


 前までは。


 花本は「鈴木くん」を中心に動いていた。


 でも最近は違う。


 体育祭。


 友達。


 委員会。


 自分の時間。


 ちゃんと自分の世界を持っている。


 それは良いことのはずなのに。


 なぜか少しだけ寂しかった。


---


 放課後。


 体育祭の準備で校内は騒がしかった。


 鈴木は教室からグラウンドを見下ろしていた。


 その時。


 下の方で花本が笑っているのが見えた。


 委員会のメンバーたちと話している。


 中村もいた。


 みんな楽しそうだった。


「……。」


 気づけば目で追っていた。


 すると。


「何見てるの?」


 後ろから声がする。


 振り返ると佐々木だった。


「あ、真帆さん。」


 佐々木は窓の外を見る。


 そして。


「ああ。」


 と意味深に笑った。


「花本さんか。」


「え?」


「最近仲良いよね。」


 鈴木は返事に困る。


 仲が良い。


 その言葉は間違っていない。


 でも。


 何か違う気もした。


---


 帰宅後。


 鈴木は机に向かっていた。


 参考書を開いている。


 けれど集中できない。


 窓の外では蝉が鳴いていた。


 夏が始まろうとしている。


 そして鈴木自身も気づいていない。


 胸の奥で何かが変わり始めていることに。


 まだ。


 本当にまだ少しだけだったけれど。


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