第十六話 いつもの帰り道
## 第十六話 いつもの帰り道
六月の終わり。
空気は少しずつ夏に近づいていた。
放課後のチャイムが鳴る。
教室では、みんなが急いで帰り支度を始めていた。
鈴木も鞄へ教科書をしまう。
その時。
「花本、帰ろー。」
女子の声が聞こえた。
「ごめん、今日ちょっと残る。」
花本が答える。
鈴木は思わず顔を上げた。
残る。
その言葉が、妙に気になった。
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教室の人数が少しずつ減っていく。
窓の外では運動部の声が聞こえていた。
鈴木は参考書を開く。
でも集中できない。
前ならすぐ勉強モードに入れたのに。
今日は何度も後ろを見てしまう。
花本は窓際でノートを広げていた。
何かを書いている。
真剣な顔だった。
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三十分後。
教室には二人だけになっていた。
扇風機の音がやけに大きく聞こえる。
「まだ帰らないの?」
花本が先に口を開いた。
鈴木は少し笑う。
「それ、前にも聞かれた。」
「あ。」
花本も笑った。
「確かに。」
少し懐かしい空気が流れる。
ここ最近、こんな時間はなかった。
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「何してるの?」
鈴木が聞く。
花本はノートを閉じた。
「体育祭実行委員。」
「大変そう。」
「めちゃくちゃ。」
「向いてそうだけど。」
花本は少しだけ驚いた顔をする。
「そう思う?」
「うん。」
「なんで?」
「人と話すの上手だし。」
その言葉に。
花本は数秒黙った。
それから。
「ありがと。」
と小さく笑う。
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気づけば、外は夕焼けになっていた。
オレンジ色の光が教室を染めている。
鈴木はふと思い出したように口を開く。
「そういえば。」
「ん?」
「最近、一緒に帰ってなかった。」
花本の手が止まる。
「……そうだね。」
「なんか久しぶりな気がする。」
鈴木は本当にそう思った。
でも。
花本にとって、その言葉は少し違う意味を持っていた。
――ちゃんと気づいてたんだ。
ほんの少しだけ。
胸が温かくなる。
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帰り道。
二人は並んで歩いていた。
夕焼けの色が街を染めている。
昔と同じ道。
同じ景色。
なのに。
どこか少しだけ違う。
「ねえ、鈴木くん。」
「ん?」
「最近、変わったよね。」
「そう?」
「うん。」
花本は笑う。
「少しだけ、人の話聞くようになった。」
「失礼だな。」
「事実です。」
二人は笑った。
その笑い声は、夏の風の中へ溶けていった。
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そして。
その日の夜。
鈴木はベッドの上でふと思う。
今日の帰り道。
楽しかったな。
その考えが浮かんだ瞬間。
自分でも少しだけ驚いていた。




