第十三話 おかえり
## 第十三話 おかえり
翌朝。
教室のドアが開く音がした。
鈴木は反射的に顔を上げる。
そして。
「おはよ。」
少しだけ眠そうな顔をした花本が立っていた。
その瞬間。
胸の奥にあった何かが、ふっと軽くなる。
「あ。」
思わず声が漏れる。
花本は首を傾げた。
「なに、その反応。」
「いや……。」
鈴木は言葉に詰まる。
なんと言えばいいのかわからない。
「体調、大丈夫?」
結局、そう聞いた。
花本は少しだけ目を丸くする。
「大丈夫。」
「熱は?」
「下がった。」
「そう。」
「そう。」
数秒の沈黙。
そして花本は小さく笑った。
「心配してくれた?」
「まあ。」
「ふーん。」
なんだか嬉しそうだ。
でも鈴木は気づかない。
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昼休み。
いつものように花本が前の席へ座る。
それだけなのに。
昨日までの違和感が嘘みたいに消えていた。
「鈴木くん。」
「ん?」
「私がいないと寂しい?」
花本がニヤニヤしながら聞く。
「別に。」
「即答だ。」
「でも。」
鈴木は少し考える。
「なんか変だった。」
花本の動きが止まる。
「……え?」
「静かだった。」
「教室はうるさいじゃん。」
「そうじゃなくて。」
鈴木は言葉を探す。
「なんか足りなかった。」
花本はしばらく黙った。
それから。
「それ、反則だと思う。」
小さく呟く。
「?」
「なんでもない。」
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その日の放課後。
鈴木は昇降口へ向かっていた。
すると。
「鈴木くん。」
佐々木が声をかけてきた。
「あ、真帆さん。」
「今週の土曜日さ。」
佐々木は少しだけ照れたように笑う。
「映画、一緒に行かない?」
一瞬。
鈴木の思考が止まる。
「え?」
「友達が行けなくなっちゃって。」
「……。」
胸が大きく鳴る。
好きな人からの誘い。
断る理由なんてなかった。
「行く。」
「よかった。」
佐々木が笑う。
その笑顔を見て。
鈴木も自然と笑った。
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けれど。
その少し離れた場所で。
たまたま会話を聞いてしまった花本は、立ち止まっていた。
手に持ったペットボトルが、少しだけへこむ。
「……そっか。」
小さく呟く。
わかっていた。
最初からわかっていたはずだった。
それでも。
胸の奥が、少しだけ痛かった。
夕焼けは、昨日よりも赤かった。




