3-24 世界の輪廻
「あぶねぇ…ギリギリ着いた…。」
「お前が暴れるからだぞ…きーちゃん。」
これから講義がある教室の前で肩で息をしながら無理矢理腕に抱えた金毛の猫に「シャーー!!」と威嚇された。
先輩から離れてずっと肩に乗っていたこの猫を走る時に落としたら危ないからと腕に抱えようとしたら物凄い抵抗にあった。
きっとコイツは主人以外には傲慢で自分勝手な性格なんだろう。自分の選んだ場所でくつろぎ、それを邪魔されれば機嫌を悪くする。
「なにかあったら怒られるのは俺なんだから大人しくしてくれよ?」
俺は家に送られた資料に記載されていた教室の扉を開けるとそこは入学試験の時に面談をした薄気味悪い教室だった。
「ようやく来ましたか…」
グレーシス先生が壁棚に本を戻してコチラを振り向いた。
「えっと…他の生徒は?」
その教室にはラウルーレンスとグレーシス先生の2人…と1匹しか居なかった。
「あなただけをここに呼んだのは他でもありません。私は私のためだけに講義をします。本来の私の授業は生徒の運命や未来を観測しようとするものですが、貴方は既に入学試験の時に私自身で見ました。」
「運命学の講義を選択したことには感謝しますが私はもう貴方の行こうとしている道を知っています。なので正直言って意味がない。とだけ言っておきます。しかしそうは言っても選択した以上なにかはしてもらわなければいけません。」
「単刀直入に言いましょう。私の実験台になりませんか?」
「嫌です。」
実験台なんて言われて喜んで承諾する人なんていない。だから即答で断った。
「言い方が悪かったですね。私があの時見たのはこの先の貴方の一部に過ぎません。実験というのは私の扱う占命術をさらに発展させるためのものです。」
「突然ですが世界の話をしましょう。世界は1つの石から始まりました。その石は空を数多の星を創造してこの世界を作りました。」
「そして世界はいつしか崩壊して無に帰ります。崩壊した世界の塵は1つに収束して始まりに戻ります。これが私たちの生きる世界で起きている事です。何が言いたいのかというと世界は循環します。私達は何度も生まれては滅びを数え切れない数行っているのです。私はそのことを世界の運命を観測する占命術を用いて知りました。」
「私が開発している占命術は魔法陣の術式を利用して世界を観測する。そしてそれは人も例外ではありません。以前私が観測したのは貴方の数多の輪廻の中の一部に過ぎません。」
「私が研究しているのはこの無限に続く輪廻の解明及びこの世界の輪廻に干渉出来るのか実験する事です。」
「まぁ世界の真実なんて突拍子もないことをいきなり説かれても混乱していることでしょう。」
「答えはまた今度聞かせて頂きます。私の講義は貴方の家に手紙を送って日程を知らせます。今日はもう帰ってもらっても構いません。」
「はぁ…じゃあとりあえず今日は帰ります。ありがとうございました。」
そう告げて教室から出ていこうとすると「1つ言い忘れていました。」と呼び止められた。
「私は猫が苦手なので今後はそういった動物を連れてくることは控えてください。」
振り返ると彼は不機嫌そうな顔で猫を見つめてそう言い放ち俺を教室の外に追いやって扉を思い切り閉めた。
「お前嫌われてるってさ?」
「にゃー。」
何を言っているのかはわからないがコイツの性格ならどうでも良いとか思ってそうだなと思った。
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そのまま俺はその足でラフィに言ったとおりに石塔へやってきた。
扉をノックしてしばらくすると扉が開いた。
「早かったね。」
「なんというか色々あったけど早く終わったんだよ。」
軽い会話をして中に入っていくと石塔の応接室に着いた。
「えーとなんて言うのかなあの子。」
「シロフキンシエ」
「長い名前だね。」
「一応あだ名で友達はシロって呼んでるよ。」
「ふぅん…。とりあえず彼女が来るまでは紅茶でも飲んで待ってなよ。」
ラフィは机の上に置いてあるティーセットに目線をやってソファに座りこんだ。
「もてなしてくれないのか?」
「誰が厄介者なんかに紅茶を注ぐとでも?飲みたきゃ自分で淹れな。」
なぜか怒っている彼女を横目に紅茶を2人分注ぐと彼女は何も言わずに俺が淹れた紅茶を飲み始めた。
「ん、リュシアが来たみたいだ。」
そう呟くとラフィはカップを置いて部屋から出ていった。
先輩の分の紅茶も淹れて金毛の猫を膝の上で撫でていると紙袋を持ったリュシア先輩とラフィが入ってきた。
「お…きーちゃん!」
扉を開けると同時に膝から飛び出して行った猫は先輩の元へ走って行った。
「そんなに私が恋しかったか〜!」
「元気してたか〜?え〜?」
「元気してたかって、1時間も離れてないじゃないか。」
2人も席に着くと先輩は大きな紙袋を俺に渡してきた。
「この中にきーちゃんのお世話に必要な道具が一式入ってるからこれ貸しとくよ、明日返してねー。」
「どうも…。」
受け取ってとりあえずソファの脇に置くと先輩は黒猫の方を連れていないことに気がついた。
「くーちゃんの方は家に置いてきたのかい?」
「え?うん。そうしないときーちゃん嫉妬しちゃうかもしれないからね〜。」
ラウルが持っていた疑問を先にラフィがきーちゃんのゴロゴロと喉の音を鳴らしながら顎を撫でるリュシアに聞いて晴らしてくれた。
【人によって対応変えちゃってー…猫被りめ。】
【まぁ、主人は先輩だから俺に懐かないのなんて当たり前なんだけどな。】
そうして数十分の間、雑談をして時間を潰し、ついに講義を終えたシロが石塔へ入ってきた。
迎えに行ったラフィとシロが部屋に入ってきてソファに座ると早速明日の決闘についての話が始まった。
「君たちが講義を受けている間に決闘の申請はもう事務所に通して許可を貰っておいた。」
「改めて確認だ。今回の決闘のルールは2チーム3人ずつの1vs1の勝ち残り戦。君たちが勝利すればシロフキンシエとの関わりを今後一切禁止。敗北すればシロフキンシエは自主退学とする。」
「first grade fightが明後日に迫っている中で決闘が行われるのはこれまでに無いから観客も多くなるかもね。」
「観客…?」
「知らないのかい?コロッセオで行われる決闘や擬似戦争なんかは金持ちの娯楽にもなっているんだ。勝敗で賭けも行われていて学園の収入減のひとつなんだよ。見せ物にされているようで気分は悪いだろうけれど、まぁ我慢してくれ。」
誰かに見られることを知らなかった俺たちは少し緊張してきた。もちろん、なぜ見られなくちゃならないんだとも思う。でもそれがこの学園のシステムだと言うなら仕方がないと割り切った。
「とりあえずやる事は順番決めかな。」
「何番目に誰が出るのか決めようか。」
「きーちゃんは最後だからね。」
間髪入れずに先輩はそう言った。
「先輩。そりゃあそうしますよ…。」
「人数合わせだと思って言ったのはリュシア先輩なんですから。」
「とりあえず一番手は俺が出るよ。」
「それは駄目。」
ラウルーレンスの名乗りに真っ先に苦言を呈したのはシロだった。
「一番手は私。これはもともと私が原因なんだから私が一番手になって全部終わらせる。」
覚悟を決めているように手を握りしめる彼女を見てラウルも流石に折れた。
「そう言うなら…。じゃあ二番手が俺で三番手がきーちゃんで。」
「わかった。まぁいいんじゃないかな。」
「当日の行動は僕が調停役として案内するから明日君たちは8時30分までに石塔の前で待っていること。いいね?」
「わかりました。ありがとうございます。」
「それじゃあまた明日」
「あ、そうだリュシア先輩。」
帰ろうとして猫を預かろうとするとひとつ思いついたことがあった。
「そもそもその猫、明日先輩が連れてきてくれればそれで良いんじゃ…。」
「それじゃあこの子の扱いに慣れないで当日になって何かあるかもしれないでしょ?」
「控え室とか私は入れないんだから少しくらいはきーちゃんを手懐けてもらわないと。」
運び方を変えただけであそこまで抵抗する猫だと思い返せばそれも一理あると思い「そうですか…。」とだけ返して先輩から受け取った紙袋とともに肩にきーちゃんを乗せて帰ることになった。




