3-23 決闘の条件
この2人に武力で敵うはずがない。ならば学園のルールを用いる他あるまい。
「決闘だ。」
白煙が晴れてシロが彼に追いついた頃、同時にラウルも合流した。
銃声を頼りに森をひたすら走った先にはシロとその彼女が戦っていた男。そしてラフィと猫を連れた見慣れない女性が居た。
「へぇ?まだ入学して1週間も経ってないのに決闘をするつもりなんだ?」
決闘。それは学園内でいざこざを解決する手段のひとつだ。コロシアムで決闘をし、負けた方は勝った方の要求を受け入れる。そんなシンプルなものだ。
しかしそれには双方の合意と第三者による要求の対価の平等が確認された上で行われる。
第三者は誰にでもなれるわけではない。それこそ学園からの信頼がある人物にしか務めることはできない。そんな人物が今まさに目の前にいるのだ。
「24番。俺はこの決闘の対価として貴様が勝てば二度と組織は貴様らに関わらないと誓おう。だが俺が勝てば貴様は学園を退学して組織へ戻って相応の対価を払う。どうだ?悪くない話だろう?」
彼はシロが勝てば二度と関わらないという提案を出した。それを今ここで断ることはできる。しかし断ってしまえば組織から新たな刺客が派遣されるだろう。ならばここで古い縁を断ち切る方がこれからにとっては良い。
「わかった。その決闘、受けて立つ。」
決意に満ちた目で提案を彼女は呑んだ。
「いいだろう。ならば僕が調停役として取り仕切ろう。対価は平等。決闘は明日、10時より行う。ルールはどうしたい?」
「3vs3の団体戦。1vs1の勝ち残り方式とする文句はないな?」
「わかった。」
彼女の返事を聞いた男は銃をしまって森の奥へと消えていった。おそらくゴーレムに拘束された男を助けに行くなりするのだろう。
「あのさ、ラウルーレンス。」
「どうした?」
男が去っていったのを確認したシロはいじらしく俺の名前を呼んだ。
「決闘の3人のうちの1人。やってくれない、かな?」
今更そんな風に言われても元々話を聞いている時からそうつもりだった。
「元々そのつもりだったけど?」
「一度乗りかかった船だし最後まで付き合うよ。」
「…ありがとう!」
そう告げると彼女は花が咲くように笑った。
「あと1人はどうするんだ?」
そう言いながらラフィの方を見つめた。
「駄目だよ。僕は調停役なんだ。そんな僕が決闘に出るわけには行かないしそうじゃなかったとしても君たちなんかのために決闘だなんてごめんだね!」
腕を組んで頬を膨らませて少し怒ったようにそう言う彼女から隣にいた女性になんとなく目を向けると彼女は気だるそうに「私はやらないよ」とだけ言って猫を撫でていた。
「彼女の事少しは聞いたことあるんじゃないのかな?2つの権利を持つ奇跡の人。リュシア・ヴェノーヴァ。聖女なんて呼ばれてるけどその中身はただの猫好きなただの面倒臭がりだよ…。」
それお前が言う?なんた言いたげな目を向けたラフィに向けたリュシアは少し何か考えた様子でとある人の名前を口に出した。
「リア・クリエイトなんてどうかな?あの人ならなんだかんだ言って面倒見が良いし事情を話せば手伝ってくれるかもよ?」
その名前。一度だけ聞いたことがある。というかその人は一度見たことがある。あれは入学試験の日。脱落者が試験監督者に向かって暴力を振るおうとした時に間に割って入った人だ。
「はぁ…彼は今どこぞの吸血鬼の女帝様の代わりに祖国へ行ってるみたいだよ?ホントに学園の時事についてなんも知らないんだから。」
「じゃあ他に誰か…。」
シロが残りの1人について頭を悩ませていると他2人のコソコソした会話が聞こえてきた。
「派閥の関係者はこういうことは大体トップの人間に釘を刺されているだろうし、派閥所属以外の人って考えたら…」
「ねぇ。ラフィ。なんでそんなにあの2人に肩入れするの?」
「はぁ?してないけど?そんなことより少しは案を出してくれないかなぁ?」
派閥と聞いて思い出したことがあった。
「ヴァナヘルム・ギャングの人ならなんとかなるかも…」
「勧誘されたからかい?」
「なんでそのこと…」
「僕に知らないことなんてないんだよ。」
「派閥に入る代わりになんて言うつもりなんだろうけどやめた方がいい。」
「どうして?」
「……」
なぜ駄目なのかの問いに彼女は俯いて沈黙した。
「どうしてもなにも、!とにかく!派閥になんて入ったら駄目なんだからね!」
凄まじい形相で詰めかけてくるラフィに俺は首を縦に振ることしかできなかった。
「じゃあもう頼れる人なんて…」
「はぁ…しょうがないなぁ…私はやらないけどこの子がやるよ。きーちゃん出てきて。」
どうしようかと嘆いているとリュシアがため息を溢しながら名前を呼ぶと金色の毛を持つ猫がニャーと泣きながら彼女の服の袖の中から出てきて彼女はその猫の顎を人差し指で優しく撫でた。
「猫…?」
シロの困惑した様子を見て彼女はさらに続けた。
「きーちゃん達はただの猫じゃないよ。この子達には私の権能の一部を使えるようにしてある。」「ラフィの友達のそこの金髪の人との色の縁ってことでこの子を貸してあげる。まぁ人数合わせ的なものだと思いな。この子になにかあったら承知しないから。」
そう言いながら彼女はラウルにきーちゃんと言う猫をそっと渡した。猫はラウルの手から肩へと乗り移り爪を立ててそこでくつろぎ始めた。
「え、先輩。別にそんな事しなくても自分たちであと1人探しますよ。」
「なに?私の善意が受け取れないってこと?」
聖女とは思えない威圧を向けられてまたも首を縦に振ることしかできなかった。
「これで3人。明日は頑張りな。きーちゃんの世話はちゃんとしてね。決闘が終わったら返してもらうから。」
「えーと、ご飯はちゃんと栄養のあるものを…トイレはきちんと猫砂でさせること…それから…」
そこからはリュシア先輩の独壇場だった。永遠に続くかと思うほどの注意事項を聞かされ続けた。
話を聞きながら森を抜けて学園の中庭までやってくると時計が見えた。
「あ!講義!」
時計の針は講義の始まりまであと10分もなかった。そしてそれはシロも同じのようだった。
「ラフィ!リュシア先輩!ごめんなさい、このあと講義があるので今日はこれで!詳しいことはまた後で石塔に寄るから!」
「私もこれで失礼します。ありがとうございました。」
「どうしてこうも僕の家にアイツが来ることになるんだか…」
風が通り過ぎたように消えていった2人を見てラフィは頬を膨らませながらそうつぶやいた。
「ラフィ。何度も言うけどあの人にそんな思い入れあるの?」
「そんなの知らないよ。入学前から入学後まで厄介事を持ってくる人ってだけだよ。」
「それにアイツ初対面の時、僕のことチビっ子って言ったんだぞ!?」
初対面の時の記憶を思い出してラフィは沸々と怒りが湧き上がってきた。
「チビ……(笑)」
「笑うなぁ!!」
身体を震わせて堪えるように笑うリュシアを指差して怒る石塔の幼女だった。




