3-22 白煙の幻影
「……!」
石塔の扉が何者かによって叩かれた。視覚を共鳴させて見てみるもそこには誰もいない。まわりを見まわすといつかの金髪の青年が白い毛の獣人と3人の男たちから逃げていた。
「はぁ…面倒だなぁ…。なんでわざわざ僕のところへ来るかなぁ。助けて欲しいんだったらそこらの人に助けてもらえばいいのに。」
ソファの上で寝転がって行くか行かないか熟考したが折角頼ってくれたのならと立ち上がることにした。
「まったく。これで何個目の貸しになるんだか…。」
ラフィは机の上に置いてある魔法陣の描かれた小さな紙の束をポケットの中に入れて石塔の外へ出た。
「さて…今どこにいるのかな…あ、待ってそっち行ったら、!」
彼らの近くの建物から見ていると2人は森の中へ入って行って他3人も後を追うように森の中へ入って行った。
「はぁ…。参ったなぁ、森には視覚が無いって言うのに…。」
僕が視界を共鳴させることが出来るのは自らの一部が含まれたモノだけ。他の人たちには魔法陣で見ていると嘘を吐いているがその実、実際は自らが生成したモノを通してしか見ることはできないのだ。
「クソ…。僕が見れるのは僕の一部からだけだって言うのに…。」
かと言って、やると決めた以上、諦めるのは気に入らない。
「とりあえず森の前までは来たけど…まさか無闇矢鱈に探しまわることになるのか…。はぁ…。」
「あ、ラフィだ。」
これからやる事が憂鬱になり始めてため息を吐いていたラフィに話しかけたのは黒色と金色の2匹の猫を連れた黒と金のツートーンカラーの長い髪をした凛々しい顔立ちをした女性だった。
「え?な、リュシア!?いつも家で猫とダラダラしてる君がなんでここに?」
この女はこんな凛々しくてクールな感じを装ってはいるが中身は怠惰な猫好きな女なのだから外を散歩しているだけでも珍しいくらいだ。
そもそも、リュシアと面識があるのは過去のコロシアムでの件もあるが個人的に猫の遊び道具を気まぐれで作ってあげたりしたからだ。
「いやぁ…そろそろ講義に出ないと先生にまた怒られちゃうからさぁ。あ、この子達は外に出るついでに散歩でもさせてあげようかなって…。」
普段リュシアは人と関わろうとしない、そんな彼女にこうも好かれたのはおそらくその一件があったからだろう。作ってあげたら目キラキラ輝かせて「これ、!もらっていいの!?」なんて綺麗な顔してんのに玩具貰った子供みたいに興奮してたくらいだし。
「そうなんだ…って今はそんな話してる場合じゃないんだ!」
「?どうしたのそんな慌てて…」
パァン!
話に夢中になってしまっていた間に森の奥で突然心臓まで轟く銃声が鳴った。
「この音は…。まさか、」
「銃声。」
銃声に驚くラフィとは変わって冷静にリュシアは音のした方を見た。
「ラフィもそうだけど、どうしてこんな所で…。」
「どうせなら手伝ってもらうよリュシア!」
ラフィは突然彼女の手を取って森の中へ入って行った。
「ちょっと!待ってって!ほら乗って!」
リュシアは彼女に引っ張られながらも後ろから走ってきていた2匹の猫に手を伸ばして2匹はその腕に飛び乗り、服の中への入っていった。
「ごめん。説明は最小限にするよ、今この森に金髪と男の子と白い毛の獣人の女の子が3人の男に追われてる。だから追われてる2人を助ける。以上!」
「まぁ…なんとなくわかったよ。取り敢えず銃声のする方に行こう。誰かしらはいるはずだから。」
「それにしても石塔の錬金術師がこんな事で動くなんて…。それなら猫の遊び道具もっと作ってくれてもいいのに。」
「僕にそんなお願いするの君くらいだよ…。」
でも、確かにそうだ。どうして僕はそこまで関係の深くない男の子1人にここまでしてあげてるんだろう。善意なんてそんなくだらないものじゃない。
各国のお偉いさん方の頼み事は面倒だと言って断る僕がなんでただの青年1人に…。
考えても仕方がない、とにかく僕が動くと決めてここで死なれでもしたら後味が悪すぎる。うん、今はそれでいい…。
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シロはどうにかして相手を倒すか思案しながら森中を逃げ回っていた。
「弾が切れるまでそうするつもりか?残念ながら残弾数はまだまだあるぞ?」
パァン!木の影や木の上に逃げたりしながら回避していくも、彼には近づく事さえままならなくなってきた。
【最初の接敵で勝負を決めときたかった…。】
過ぎたことはもうしょうがない、今は目の前の敵に集中するべきだ。
「所詮は元狙撃手。銃のない貴様なんぞ何の脅威にもなりはせん!」
彼の言うとおり、近接戦では相手に軍配が上がるだろう。しかし私には1つの能力がある。
数多の戦場で生き残りたいという意志。
敵に見つかってはいけない狙撃手という役割。
いつしかその力は身体に染みついた癖になり、最近になって自分で操れる特性となった。
シロはジャケットの懐から小さな1つの球を取り出して彼のいる地面に向けて投げた。
地面に触れた衝撃で弾けたそれは一瞬でそこ周辺を白煙で包んだ。
【一度姿を身失わせれば私の領域。】
シロは自らの心音さえも止まったように、流れる空気のように彼の意識から完全に外れた。
「小癪な…。また逃げるつもりか!」
シロの気配を掴めない男はまわりを見回して彼女の影を探す。しかしそこには彼女の姿も音も気配も全てがなかった。
「私は物心がついた時から組織に居た。」
「戦場に駆り出されて生き残れ続けたのはあなた達のおかげ…。」
「でも、私はずっと考えてた。」
「もし普通の家庭に産まれて生きていたらって…。そもそも私は望んで戦場に立っていたわけじゃない。」
「これは私の身体。私の人生。」
「だったら今からでも普通の女の子として生きてみたい。逃げ出した時はただあんな所から逃げ出したいと思ったからだけど、最近はそう考えられるようになったの…。」
「だから私決めたの。これからの道を妨げる過去はどんなことをしても消し去ってみせるって…。」
濃霧のような白煙の中、いたるところからそんな声が聞こえていた。そして男の耳元で空気を裂く音が聞こえた気がして反射的に彼は銃でその感覚をガードした。
キーンと高い金属音が鳴り響いた。振り向いた目線の先にはナイフを握りしめたシロフキンシエが虚像のように立っていた。
「なんなんだ…お前は!」
男は虚像に向かって銃を放つ、しかしそれは煙に穴を開けただけ、彼女本人は既に白煙の中に溶け込んでいた。
「これはあなた達のおかげで身についた技能。一度私から意識を背ければ私を捕捉することは不可能。」
声のする方へ無我夢中で銃を放つ。しかしそのどれも手応えはまるでない。まさに空気を撃っていた。
既に狩人と獲物の立場は変わった。この白煙の中ではシロは正に幻影。獲物は姿さえを捉えることはできずに静かに命を奪われる。
かと言って男も戦場を生き抜いてきた男だ。
わざわざ相手の領域で戦おうとするほど馬鹿ではない。男は躊躇なく一直線に走り白煙を走り抜けようとする。
男は闇雲に銃を前横後上。牽制するように撃ちまくった。その影響かシロは彼に近づくことは難しくなり、すぐに襲いかかることは出来なくなった。
「もうすぐで白煙の出口だ…!」
見えない敵に襲われる恐怖が初めてだったからか一心不乱に白煙を走り抜けた。
「な、どうして貴様らが…!?」
しかし白煙の明けた目線の先に映ったのは1人の少女と服の中から猫が顔を出した女性だった。
「あれ?ラフィこの人は…。」
「コイツはさっき言った3人のうちの1人だ。」
「その手に持ってるモノからすると君がさっきから銃を撃っていた人だね?」
目の前にいるのは2人の女。しかしその2人は普通の人物ではないとその男は知っていた。
少女の方は世界最高の錬金術師と呼ばれる石塔の錬金術師ラフィ・スフィクス。
2匹の猫を連れた女の方は世界で唯一の2つの権利を授かった光と闇の権者。大極の聖女リュシア・ヴェノーヴァ。
学園の中でも指折りの実力者を相手にただの一傭兵がどうこうできるとは思えない。彼はそのことをキチンと弁えていた。




