3-25 金猫との一夜
1日ぶりに帰ってきた我が家に少し懐かしみを覚えながら俺は部屋に荷物を置いた。
紙袋を置くのに屈んだ拍子できーちゃんは床に飛び降りて部屋の中を歩き回り始めた。
紙袋の中にあるものを取り出してみると全てにきーちゃんと名前の書かれたものが出てきた。
まずキャットトイレを取り出して同封されていた砂を一面に敷いた。
次にエサ入れと水入れをキッチンの上に置いて、そして年季の入った毛布を適当な所に置いておいた。
全部取り出した紙袋の底には一枚の紙切れが入っていた。
「ご飯は魚を食べさせること…か。」
「魚って…たしか前に買ってあったよな…」
冷蔵庫の中身を見てみると2匹の小魚が丁度あった。
魚を手に取っていると猫がこっちに寄ってきた。
「にゃー」
「ちょっと待ってろ。少し火にかけるから…」
きーちゃんに待ったをかけてフライパンを取り出してキッチンの魔法陣を起動させるためのボタンを押してコンロの魔法陣に火が灯った。
「セントコアルってホント便利だよな…」
この技術はここでしか使われていない。この街では魔法陣に遠隔で魔力が供給されている。
そしてこれらの魔法陣は複雑に絡み合っていて魔法陣についての研究とかしている人でもない限り読み解くのは難しいだろう。
両面を焼いて骨が刺さらないように取り少し冷ましてようやく小魚をエサ入れの中に入れた。
水入れの中にも水を淹れ、2個の皿をきーちゃんの前に置いた。猫は魚を見てゆっくりと食べ始めた。
「ふぅ…俺の分もそろそろ作るか…。」
食事を終えてシャワーを浴び終わり部屋着に着替えるときーちゃんは食事を終えてからは毛布の上で寝転がっていた。
「明日の用意でもするか…」
俺はクローゼットの中に隠してあるナイフやワイヤー、戦闘に必要なものの整備を始めた。
【いざという時に壊れてたら大変なことになるからな…】
これはルーブクに教えてもらったことの一つだ。
整備を終えて片付けようとしているときーちゃんが興味を持ったのかナイフに近づいてきた。
「危ない!」
咄嗟にナイフを引っ込めるとシャーと威嚇されが「これは危ないものなんだからあんまり近づくな。」と言葉が通じているのかはわからないがそう注意した。
【こういうもんはあんまりペット前に置いとくもんじゃないよな…】
そう自分でも反省しながら明日の準備を終えてベッドに寝転がって就寝の形に入った。
寝始めて夜も深くなったころお腹の上に何か重いものが乗っかった感覚があって目を覚ました。
暗闇で少し見えにくいが毛布で寝ていたきーちゃんが布団の上を歩き回っていた。
そして布団の中に入ってモゾモゾと動きまわってしばらくすると良い場所を見つけたのかそこから動かなくなった。
【まぁ、夜はまだ寒いしな…】
冷え込む夜の時間帯にあの毛布で暖を取れるとは考えにくかったので仕方がないなと割り切って再び瞼を閉じた。
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first grade fightまであと1日。
決闘まであと1時間。
ラウルーレンスはきーちゃんを肩に乗せ、昨日リュシア先輩から預かった紙袋とその中身を携えて石塔の前に着いた。
「おはよう」
「にゃー」
そこには既にシロフキンシエとリュシア先輩が待っていた。
「仲は深まったかな?ラウルーレンス君。」
きーちゃんは肩から飛び降りて先輩の方へ擦り寄っていきそのまま抱き上げられた。
「よくわからないけど仲良くはなったんじゃないですかね?」
昨夜のことを思い出して少しは心を開いてくれたのだと思って先輩の腕に抱えられているきーちゃんに手を伸ばすと「シャー!」と威嚇されてしまった。
「まだ早かったみたいだね…」
先輩は苦笑いしてきーちゃんの機嫌を直すためにゆっくりと撫で始めた。
「ラウルーレンス。今日は…」
「まだ巻き込んでるとかおもってるのか?」
「言っただろ?友達だって。」
申し訳なさそうな暗い顔で話しかけてきたシロにそう告げると石塔の扉が開いてラフィが出てきた。
「みんな居るね?それじゃあ早速コロッセオへ向かおうか…。」
そうしてコロッセオへ向かう途中。後ろを歩いていたシロが袖の端を掴んで話しかけてきた。
「その…ありがとう。」
「私の事を…」
「お礼を言うのは勝ってからな…。」
「…そうだね。」
慣れない言葉だったのかぎこちないシロにそう言って歩き続けていると円形の巨大な石で造られた建築物に着いた。
「ほら着いたよ!ここがアネモネ学園が誇るコロッセオさ!」
「一回遠くから見てみたけどやっぱり大きい…」
「ここの中を見てみたらもっと驚くと思うよ」
建物に圧倒されているシロより先に入って行ったラフィを追うようにリュシアはそう告げて中へと入って行った。
「俺たちも行くか」
「うん。」
建物内に入ると早速受付があり、ラフィが受付人と何か話していた。
「ラフィが戻ってきたら控え室に行くことになるから今のうちにきーちゃん預けとくよ。あとその紙袋もらうね。」
服の中から飛び出してきたきーちゃんは俺の肩に飛び乗り、俺は持ってきていた紙袋を先輩に手渡した。
「それじゃあきーちゃんまたねー」
先輩は俺の肩に乗るきーちゃんに手を振って観客席の方へと向かって行った。
「待たせたね。それじゃあ控え室に行こうか。」
俺たちはラフィに連れて行かれるままコロッセオ内を歩き回って控え室へと辿り着いた。
「ここが控え室ね。一応着替えたかったら奥に男女別に更衣室があるから使うこと。トイレはそこの通路を曲がった先にあるから。」
「決闘まであと1時間くらいあってそろそろ観客の入場が始まる頃かな…」
「それじゃあ20分前に僕が呼びに来るからそれまでここで好きにしてな」
そう告げると彼女は来た道を辿って入り口の方へと戻って行った。
控え室の中に入ると部屋の中は意外と豪華でソファや暖炉、カーペットやロッカーまであった。
「とりあえず待つか…」
ソファに座るときーちゃんは飛び降りて部屋の中で突っ立っていたシロの方へと歩いていき、足元のまわりをウロウロし始めた。
「え…なに?」
「構って欲しいんじゃないか?俺の方が少し長く居たはずなのにな、気が多いやつめ。」
困惑しているシロにそう冗談混じりに言うと彼女は猫を拾い上げて俺の隣に座り、膝の上で猫を優しく撫で始めた。
「やっと暗い顔じゃなくなったな?」
「え!?」
猫を撫でて微笑んだ彼女の顔を見てそう指摘するとシロは耳を立てて目を見開いて目に見えた動揺し始めた。
「いや、お前朝会ってここに来るまで…いや、なんなら昨日も少し暗い顔してたぞ?」
彼女は頬を赤くして目を見開いて口を噛み締めた。
「は!?」
「言った通りだよ。まぁ巻き込んでしまったっていう罪悪感でもあるんだろうけど…。」
「これは俺が選んでやると決めたことだからさ。大船に乗ったつもりでいればいいさ。」
「確かに…そうかもしれないけど…。」
「今でも後悔してないって言ったら嘘になる。ラウルーレンスのその優しさに甘えてしまいたいなんて思ったこともあったよ。」
「でも…私にはそんなことはできない。」
「だから俺が一番手を名乗りあげた時に反対したんだな?」
その問いに彼女はコクリと頷いて続けた。
「そう。これは私の戦い。私はもう覚悟を決めた。私が3回とも勝って終わらせる。そして今度こそ本当の自由を手に入れる。」
「だったら俺は止めないよ。存分に戦えばいい。」
そう告げるとラウルーレンスは拳を彼女の前に突き出した。
「、!うん。任せて欲しい!」
シロが拳をラウルーレンスに合わせると空気を読んだのか、きーちゃんもミャーと鳴いて前足をピトっと2人の拳の間に合わせた。
その光景にシロは口元を緩くし、ラウルーレンスは「お前も応援しような」ときーちゃんに呼びかけた。




