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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第179話 エピローグ①:表舞台のアイドル

「は? アンタ今ティアと一緒に住んでんの?」


 そう問いかけたのは同期の女性。

 4期生全員が集まった空き時間に雑談していたときのこと。 


「はぁい。お世話になってますぅ」

「お世話して、ます。ふんす」

「いやぁ実は住んでたアパート追い出されちゃってぇ、しばらくマネージャーさんのお家で寝泊まりしてたんですよねぇ。ちょっとベランダから落ちちゃっただけなんですけどぉ」

「……いや全体的に触れにくすぎるわ」

「それがどうしてティアさんとの同棲になったんスか?」

「それがどこからか話を聞きつけたティアさんから……」

「アルマとカチュア師匠が話してたの、聞いた。お泊りズルい」

「って言われちゃってぇ」


 ここ最近はそれぞれ活動が忙しく、集まれる機会も少なくなった。

 だからなのか、近況報告ついでに会話してるだけで思わされる。

 同期だろうと、この人達も私の大事な推しだなんだと。


「一応自分でも部屋探そうとしてるんですよぉ? けどその度に……」

「ずっとウチ、居ていい。家事も全部やるから、ツムリは、たくさんお喋りして、一緒に寝てくれるだけで良い」

「ヒモ製造機みたいなムーブしてるわね……いつからそんなヤンデレみたいになっちゃったのティア」

「だって……レプリカのティアとは、四六時中ずっと、一緒だった。なら私も、同じ時間一緒に居ないと、同じだけ仲良く、なれない」

「らしいですぅ。私はどっちが上とか思うわけないんですけどねぇ」

「なんか友達の域超えてきてないカ? 結婚でもすんノ?」

「んー。ツムリなら、いいよ?」

「え、カワイすぎ……じゃあカップルチャンネル作りますかぁ」

「ツッコミ不在っスね……」


 魔霧ティア。

 辿々しく可愛らしい口調に対し、歌になると別人のような美声を魅せる素敵な女の子。

 友達を増やすためにVtuberになって、自分を一番の友達と言ってくれる。


「マネージャーさんもティアさんの提案に喜んで乗ってくれて。やっぱりずっと居候してるの迷惑だったんですかねぇ?」

「ティアのマネージャーから、又聞きした。夜通し付き合わされるから、毎日寝不足って」

「夜通しって、ツムリのマネージャー男だったヨナ? お前ラ毎晩何してんダ?」

「年頃の男女、何も起きないわけもなく……ってやつっスね!?」

「え? なんか変な勘違いされてますかぁ? そういうシューコさんとダークさんはどうなんですかぁ。毎日よろしくしてるのではぁ?」

「あ、今別居中よ」

「はぇ? ……べべ、別居!? あっダークさんついに愛想つかされて……可哀想にぃ……」

「実家に、帰られた?」

「違うっスよ!? シューコさんが泊まりで合宿に行ってるだけっス!」

「3期生ハウスに居候してるのよ。あの人達とモノづくりすると毎回締め切りギリギリになるから」

「あっいつものやつですねぇ」


 絵毘シューコ。

 絵描きに加えて家事全般などなんでも卒なく熟すしっかり者。

 けどメンタルは打たれ弱く、好きなことになると特に感情の起伏が激しくなる、そんなところが可愛い女の子。……本人には絶対言えないけど。


「自分も一緒にお世話になろうかなーと思ってたんスけどね」

「シェアハウスとはいえ2人増えると流石に手狭でしょ? それに良い機会だから一人暮らししてみなさいって言ったのよ。で? ちゃんと栄養取ってんの? 洗濯は? 掃除は? 洗い物は?」

「あー……どうっスかねぇ……?」

「……今日帰りに抜き打ちチェックね。荒れ具合によってはタダじゃおかないから」

「え!? あの、最近忙しくて片付ける暇もなくて……って言い訳しても怒るんスよね……」

「当たり前でしょ、シューコの家でもあるんだから。忙しかろうがやることはやってもらうわよ」


 久茂ダーク。

 声の大きさとフィジカルの強さはピカイチ、しかしガサツで不器用。

 普段は同居人の尻に敷かれて頼りない姿を見る機会が多いものの、ヒーローに憧れを抱いておりいざというときは頼りになる女の子。


「なんかぁ。熟年過ぎてドキドキしませんねぇ」

「うん。面白味ない。センカの方は?」

「アン? センカにそんな浮いた話あると思うカ? こちとら配信に青春捧げてる灰色JKだゾ」

「そっちじゃなくて。サイコと」

「アー……別に、帰ってやると小遣いくれるからナ。たまにせびりに行ってるだけダヨ」

「相変わらず素直じゃないわねぇ。子供らしく甘えればいいのに」

「オメーに言われたくねーヨ。オツヒメ様(笑)」

「だからそれやめなさいって。いつまで擦ってんのよ」


 向出センカ。

 ブイアクト内最年少ながら大人顔負けの知識量を誇る天才少女。

 年相応に甘えたい気持ちもあるようだが、母親の前では素直になれない天の邪鬼な一面も愛らしい。

 

 どれだけ語っても語り尽くせない、それほど魅力的な女の子達。

 一時は自分のせいで関係を拗らせてしまったこともある。

 それでもこんな私を見捨てず、今も一緒に居てくれる。


 そんな彼女達と共に活動できる幸せな日々。


「まー雑談もそんなとこにしとくカ。そろそろ時間だヨ」

「ん。ライブ始まる」

「て言っても短めのミニライブだけどね。ライブなんてもう慣れたもんでしょ?」

「っスね。そこそこ経験は積んできたつもりっス」


 そんな日々の中、私達は一つの節目を迎えようとしている。

 今日は記念日を祝してライブが開催される予定。


「けど、4期生全員ちゃんと揃うのはこれが初めてっスね」

「あっえと……その節はご迷惑おかけしましてぇ……」

「ほんとにね。1周年のギスギス、今後一生愚痴ってやるから覚悟しときなさい」

「シューコ。またイジワル、よくない」

「イヤ? 触れにくい話題にするよりネタにするくらいの方がツムリも楽だと思うゾ。あれもシューコなりの優しさなんダロ」

「そうなの? じゃあティアも、ネタにするね」

「えぇ……絶妙に感謝しにくいんですけどぉ」


 いつも通りのやり取りで互いの緊張を解しながら、舞台に向かって歩みを進める。


「では行きましょうかぁ。4期生1.5周年ミニライブぅ」


 そう、多くの人に苦しい思いをさせた1周年ライブ。

 あの日から今日で半年が経過した。




 ………………。




《なんか、ミニライブなのに妙に緊張するな》 

《前回があれだったからね……》

《あの、大丈夫だと思ってるけど、今日は大丈夫なんですよね?》

《お、始まりそう》

《く、くる……!》


 今は不安に思うことなどないはずだが、過去の出来事がトラウマになっている様子。

 今日はそのマイナスイメージを払拭しに来たと言っても過言ではない。


 ライトが5人を照らし、開演する。


「1つ。一裂き歌声の刃」

「2つ。二色染め上げる筆」

「3つ。三度垂らし続く糸」

「4つ。四海を超える足」

「――――5つ。五光に彩る殻」


《……まずい。もう泣きそう》

《い……いる……;;》


 1周年ライブの始まりにできなかったことの再現。

 その原因である一人がマイクを持って進行し始める。


「はぁいブイアクト4期生ミニライブへようこそぉ。これカッコよくて私もずっと言いたかったんですよねぇ」


《これだよ。これが見たかったんだよ》

《おかえりなさい、だな》

《やっぱり記念ライブは全員揃ってないとね》


「楽しんでもらえてるみたいでなによりですぅ。1周年は見苦しいものをお見せしちゃいましたからねぇ……」


 喜びを噛み締めてくれるファンに同調する。

 しかしこれはライブ、開幕からしんみりした空気では盛り上がれない。


「なのでその分、今日は目一杯楽しんでくださぁい。皆さん声出す準備はできてますかぁ? 配信だろうと画面の前で応援してくれますよねぇ??」


《当たり前だろ!》

《既にペンラぶんぶんしてんのよ》

《同志集めてカラオケボックスで同時視聴してるぞ》


「うんうん準備バッチリみたいですねぇ」


 自分の煽りにノッてくれる観客。

 目配せすると、4人の仲間達もやる気に満ちた視線を返してくれる。

 おかげで自分も気兼ねなく楽しめそうだ。


「それでは早速1曲目――――全力で楽しみ尽くしましょう!」


 今までの謝意も込めて、今日は最高に楽しませてあげたい。

 そんな気持ちを胸に、仲間と共に歌い始める。




◇




「あっ! ツムりんおかえり〜!」


 ハイテンションで出迎えてくれたのは、「アルマ」という名で活動している女性、四条ルナ。

 家主の彼女にとっては言い慣れた言葉かもしれないが、今は「おかえり」という言葉が引っかかる。


「あの、しばらくお世話になりましたけどもう居候でもないんでぇ……」

「細かいことは気にしなさんなって。今日のコラボ、もう一人は到着まで時間かかるみたいだし。それまで久々にお喋りしようぜ~」


 住む場所を失い、しばらく住まわせて貰った手前強く言えずルナのペースに付き合わされる。


 彼女の言う通り、今日はこの家でコラボ配信をする予定で訪問した。

 まだ共演者が揃っていないらしく、アルマは思い出したように話し始める。 


「そういえば昨日のミニライブ、すっっっごい良かった! 初っ端から泣かされちまいましたよ……」

「あ、どもですぅ」

「わぁ無感情〜。ひょっとして私まだ嫌われてる?」


 何も考えず口にした返答が素っ気なく感じたらしい。

 普通なら聞きにくいことも遠慮なく聞いてくる。


「嫌いってことはないですけどぉ。なんかアルマさんにはもういいかなってぇ」

「私の扱い雑になったねぇ。顔合わせるだけで限界化してくれてた頃が懐かしいぜ……」

「そんな頃もありましたねぇ。もちろん『導化師アルマ』は永遠の推しですけど、やっぱりアルマさんは違うみたいですぅ」

「そっかぁ……ま、遠慮がなくなったならこれはこれでありかな♪」


 過去を惜しみながらもすぐ前向きに捉えて顔を輝かせる。

 そのメンタルは見習いたいところだが、彼女と話して聞きたいことが思い浮かんでしまった。


「……私って、どうやったら人気になれますかねぇ」

「ん? どしたの急に」


 突然の相談に目を丸くしながらも真面目に聞き返してくれる。

 相手の顔色に合わせた切り替えの早さは流石だ。


「アルマさんが言ってくれたんじゃないですかぁ。上を目指せばレプリカの導化師にまた会えるってぇ」

「あーそれで人気になりたいんだ? でも私も今は人気とは程遠いよ?」

「アルマさんは『導化師』としてトップVTuberなんて呼ばれたこともあるじゃないですかぁ。経験者のお話を聞きたくてぇ」


 改めて相談内容を説明すると、早速アルマは聞き返してくれた。


「経験者ねぇ。それならツムりんも導化師として配信したことあるでしょ? トップVとやらの景色はどうだった?」

「あー……。すごーーー……く息苦しかったですぅ」

「あははだろうねぇ。でもさ、アタシが言うのもなんだけど……自力で上まで登り詰めたときは気分良かったよ。なんだかんだで、たくさんの人に推されるのって嬉しいからね」


 導化師だった頃の心境を互いに語る。

 自分もこの身で経験したからこそ、彼女の気持ちはよく伝わってきた。


「一つ言えることがあるとしたら、数字伸ばすだけが人気じゃないってことかな。ツムりんさ、自分の悪いイメージがブイアクトみんなの足引っ張ってるって思ってるでしょ。それも人気になりたい理由の一つなんじゃない?」

「うっ……ホントになんでもお見通しですねぇ……」

「最近のツムりん読みやすいからね~。確かに、助けられてばっかりじゃ嫌だよね。でもそれで前向きに改善したいって思えるようになっただけでも成長だと思うよ」


 隠していたネガティブも明かされ、その上で肯定してくれる。

 彼女の目から見ても自分が良い方向に進めているのだとしたら、それは何よりも安心できる評価かもしれない。


「バズることが大事なときもあるけど、まずはいつも支えてくれるファンが安心して応援できる環境作りからかな。例えば……炎上対策とか、ね」


 耳の痛い話だが、深く同意する。

 これまで自分のファンには散々不安な想いをさせてしまったから。


「VTuberとして必要な知識とスキルを身に着けて成長すること。それができれば自ずと人気になるし、君のレプリカも世間に認めてもらえるようになるよ」

「……私なんかがなれますかねぇ。既に嫌ってる人も結構いるみたいですしぃ」

「業界1年半のぺーぺーが何言ってんのさ? こちとら10年選手、酸いも苦いも経験してきた。ツムりんはこれからだよ」


 まだ1年半しか経っていないのだと思うと、10年の経験をしてきたアルマの言葉がさらに重く感じる。

 

「目指しなよ。天下(テッペン)」


 今の自分には途方もない夢。

 それも彼女に言われると本当にできる気がしてしまう。


「心配しなくてもいざとなったら私がプロデュースしてあげるから。ドン底評価もバネにして最高峰まで連れてくプラン用意しますぜ?」

「えぇ~……頼もしいですけどそこまでしてもらうのはぁ……」


 手厚いフォローまで提案してくれ、さすがに遠慮するべきかと思った頃。

 自分の背後から物音が聞こえ、話に割り込まれた。


「あまり出しゃばるなよ姉さん。異迷ツムリのマネージャーは僕だ」

「お、アッキー。盗み聞きは趣味悪いよ?」

「灰羽さんが来たから案内しに来たんだよ」

「やあ。邪魔してしまったかな?」

「グレイもいらっしゃーい。ちょうど話まとまったところだから大丈夫~」

「勝手にまとめるな。これからもツムリは僕がマネジメントするから、あんたは後ろでガヤでも言ってろ。……たまにならアンタの意見も参考にしてやらなくもない」

「あら怒られちゃった。じゃー程よくアドバイス投げるとしますかねぇ」


 人数が増え一気に賑やかになる。

 アルマの弟でもあるマネージャーから頼もしい言葉を聞けて、さらに安心感を覚える。

 束の間の相談も一区切りつき、アルマがその場を仕切った。


「さてメンバーも揃ったことだし、配信準備済ませちゃおっか」




 ………………。




 導化師アルマは自身のチャンネル最後の配信でこのように言い残した。

 新たな配信チャンネルを開設する、と。


「ようこそおいでくださいました。ここは地獄の一丁目、罪深き者達の見世物小屋にございます」

「アタシ達が滑稽に踊らされる苦行配信、存分に楽しんで行ってくれ」


 活動方針は禊。

 罪を背負いし2人が、罰を受けるためだけに活動を続ける。

 苦行配信で程よい愉悦をお届けするとも。


 その配信チャンネルのメンバーは……。


「というわけで。今日もアルマとグレイの禊チャンネル、やっていきましょうか♪ 案内役改め囚人番号1番はこのワタクシ、今はただの道化となったアルマと?」

「同じく囚人番号2番、グレイだよ」


 10年以上前、雪車引グレイという名で活動していた女性。

 ブイアクトを運営する会社の社長を務めていたものの、とある騒動を起こした元凶として引退、その罪を償うという理由で再び活動を再開した。


「どうやらこの活動も始めてから1ヶ月が経過したみたいだね」

「あらもうそんなに経つんだ。これまで色々やらされてきましたなぁ」

「ほんとに色々と……ずっと筋トレさせられてた覚えしかないな?」

「体力系のリクエストばっかりだったからねぇ。このままだと体力身について苦行にならなくなりそう?」

「看守のみんな、もっとアタシ達を苦しめつつみんなが楽しめるアイデアくれないかい?」

「へいへーい。皆の愉悦力ってそんなもんなのかって。もっと欲望晒しだしてけ~!」


《アイデア出しでこっちが苦しめられてるの草》

《アルさん導化師やめて煽りカスになっちゃった……w》

《先導者ならぬ煽動者》

《煽動者は割と昔から呼ばれてるだろww》


「多少無茶なリクエストでもばっちこいですよ~。あ、流石に配信に乗せられない内容はそっ閉じするけどね」

「こんなアタシのことも受け入れてくれる数少ない居場所だからね。どんなことでもしたいと思っているよ」


《ん? 今なんでもって?》

《グレイ殿良い声で鳴いてくれるから好きよ》

《これからも楽しく苦しんでくださいませ》


「うーん……中々歪んだファンが集まってくれてるみたいだね」

「そういうチャンネルだから仕方ないね~」


 グレイを見ている人のほとんどは昔活動していた頃の彼女を知らず、不祥事を知っている者ばかりだろう。

 それでも、理由はどうあれ好んで見てくれる人がいる。

 おかげで彼女も前向きに活動できてるみたいだ。


「さて。そんな1ヶ月を記念して、今日はこのチャンネル初のゲストを招待させてもらったよ」

「どうやらゲストさんも何か罪の意識を感じているみたい? ならここで一緒に禊していけば良いじゃない!ってね」


 ゲストというのはもちろん自分のこと。

 確かに彼女達が引き起こした一連の騒動、その当事者として罪悪感を抱えている。


 それにゲスト参加は自分から提案したことだ。

 ファンのみんなに許してもらえても、やはり自分もアルマ達のように償う必要があると思ったから。

 自分の過去と正しく向き合うべきだと思ったから。


「それでは最初に自己紹介から。アナタのお名前は?」


 彼女に名を問われるのはこれで何度目か。

 今までいくつもの名をこの身体で名乗ってきたけど……。


「私は――――ブイアクト4期生、異迷ツムリですぅ」


 その答えに迷うことは、もう二度とないだろう。 

 

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