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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第166話 1周年ライブ:導化師①

◆


 導化師アルマという名のカリスマが居た。

 共感能力に長け、多くの人々を導いてきた。

 けど自分としてはそんな大したことしてるつもりはない。

 その自認は……「ただのオタク」だ。


 1人の女性の願いを叶えるために始めた配信活動。

 雪車引グレイ。訳あって引退を余儀なくされたVTuber。

 代わりにVになってくれと願われたとき、自業自得だと思った。

 グレイを推し始めた理由は、彼女の儚くも一生懸命に生きる姿に惹かれたから。

 人の頑張る姿を観測して楽しんでおきながら、自分は何もしないなんて許されない。

 そう神様に言われている気がした。


 だから本気で尽くすことにした。

 頑張る女の子たちの夢を支えられる存在、導き手になれるように。

 まずは実力。歌もダンスも未経験、そんな弱みを見せれば舐められる。

 導き手として不安に思われないように、無敵の存在を演じるために1人の時間は全て研鑽に費やした。

 ブイアクトのみんなが困ってたら助けてあげたいと思って、配信を追い続けてた。

 でもみんな魅力的で応援したくなって、気づけばただのファンになってた。


 雪車引グレイだった者、灰羽メイには悩まされた。

 彼女は導化師アルマに依存しきっていたから。

 過去の栄光に縋る彼女は痛ましく、でも救う方法も見つからなくて。

 それでも10年越しに彼女を変えることができた。

 導化師アルマを諦めさせ、また自分の道を歩むように考え直してもらえた。


 みんな私を慕ってくれる、私の大切な推し。

 ……私の人生で2人だけ、導けなかった推しがいる。


 異迷ツムリ。

 多くの人格を宿し、私にも読みきれない少女。

 彼女は私を見限った。

 私に彼女を導くことはもうできないから……できる人へ託すことにした。

 その人が手を差し伸べるために、彼女を覆う硬い殻を打ち砕くのは私の役目。

 私は今から彼女を打ち負かす。


 それからもう一人……ずっと昔に推していた遠い存在がいる。

 雪車引グレイと出会うよりも前、私の好きに気づかせてくれた人。


 天陽結。

 テレビの中で多種多様な役柄を演じた天才子役。


 最初の印象は中身のない子、役を変え続けて本当の彼女が見えなかった。

 頑張って自分を探してるのかな? でも周りの大人は何にでもなれるあの子を求めてる。

 重い期待、生き苦しそうだな……応援したいな、と。

 気づけば彼女のファンになっていて、その頃に自分の好きを自覚した。

 必死に頑張って生きてる女の子が好きなんだと。


 しかし、彼女は突然テレビの中から姿を消した。

 ファンとしてもショックだったけど、それ以上に悩みに気づいていて助けられなかったことが悔しかった。

 ただの一視聴者の自分には何もできないことなんて分かってるのに、ずっと後悔として残り続けていた。 


 だから、異迷ツムリの正体が天陽結だと知ったときは本当に驚いた。

 この想いは今も昔も変わらない。

 私が導けないとしても、救われて欲しい。

 そのために手伝えることがあるならなんだってする。


 道に迷ってる推しのために生きること、それが私の推し活(じんせい)。




◆

◇




 舞台に立って宣言する。

 異迷ツムリを呼び、「決着をつけよう」と。


《ちょっと待てそのサプライズは聞いてない》

《ツムリのゲストパートなさそう?とか思ってたらこれ》

《10周年以来の共演、ですか……》

《楽しみより怖いが勝つな……》


 観客達もそれぞれの想いを文字にする。

 それだけ注目を集める存在、その女の名は……。


「――――まずは謝罪を。ワタクシめは以前このようにお伝えしました。『導化師の名を捨てる』、と」


 舞台の上、四条ルナは語る。

 一度捨てた名をもう一度拾い、舞台に立つ。


「しかし導化師には一つ、やり残したことがあります。……1人だけ、導けなかった少女がいるのです。その少女は今も導化師を求めてくれてる……」


 その少女とは誰のことか。

 言わずとも誰もが察する。


「だからどうか一度だけ。お許しいただけないでしょうか? ――――今宵一夜限り、導化師アルマの再演を」


《もちろんですとも!》

《やり残したまま去る方が無責任、ですよね?》

《どうか……迷子のカタツムリを導いてやってください》


 アルマの言葉に同調する観客たち。

 さながら正義のヒーローのように、皆の期待を集めながら導化師アルマは凱旋を果たした。

 ……気色の悪い茶番だ。君はそう思っているのかな?


「――――"今更戻ってくるのは虫が良すぎない?"」


 舞台の上の導化師アルマ、その背後の鏡に映し出される虚像。

 語りかけ、鏡から身を乗り出し、対面する。


「"いくらあの子が導化師を求めても、それはアナタのことじゃないよ。元導化師さん?"」

「吠えるねぇ。ようこそ導化師アルマの舞台へ。アナタのお名前を聞いても?」

「"アナタに名乗る名前はないよ。好きに呼んだらいいんじゃないかな?"」

「ふーん。じゃあお言葉に甘えて。今や導化師アルマでも、異迷ツムリですらない。何者にもなれない偽物ちゃん♪」


 互いに互いを導化師アルマとは認めない。

 彼女自身、導化師を名乗らなかったということはきっと……。

 今彼女がどんな状態なのか見計らいながら会話する。


「"じゃあ中途半端同士、どっちが正しいかはっきりさせようか?"」

「うん。始めよっか。10周年ライブではちゃんと終われなかったからね。これが正真正銘……導化師アルマのラストライブ」

「"……最後にはさせないよ。今日ここから、新しい導化師アルマが始まる"」


 このライブ、私の役目は……彼女を救い導くことではない。

 決意を胸に、最初の楽曲が始まる。

 本物を終わりに導き、偽物を始まりに導いた曲。


 …………。


「"タイム・イズ・オーバー……"」

「――――"ピエロのサンカ、ご覧あれ!!"」


 楽曲:『ハイエンドピエロ』

 歌唱:導化師アルマ&導化師アルマ(異迷ツムリ)


 ゲストパートは各ユニット10分程度、2曲分の時間を与えられている。

 その詳細を異迷ツムリには導化師アルマとのデュオとだけ知らせた。


 曲目も歌詞割りも事前打ち合わせ一切無し。

 こんな大舞台でありえない蛮行だが、それもある意味双方合意の上。


「"ボイスとフェイスで魅了する 必中貫通投げナイフ"」

「"君も道を化かしてみるかい? 心を手玉にジャグリング"」


 導化師アルマなら相手の思考も読み切れるはず。

 もちろん舞台の上で失敗は許されない。

 この程度のこともできないなら導化師を名乗る資格はない、と。

 そんな無理難題な無言の応酬から実現した舞台。


「"アイアムトランス キラキラアナザー"」

「"ライイズラブ クラクラなアザー"」


 ……そう。たくさん準備してくれたんだろうね。

 歌い癖も振り付けも今までの完全上位、過去最高の導化師アルマを魅せてくれてる。

 本当に……凄いと思う。


《なんだこれ……目が離せん》

《全く同じ声と動きなのに……片方ばっか吸い寄せられる》


 観客達が圧巻のパフォーマンスに呟く。

 その視線の先は1人だけ。


「"仮面の下はどんな顔? そんなの知ってどうするの?"

 "愛想もない。愛嬌もない。知らぬが仏の素顔"」


(どうして……どうして届かない……?)


 焦りが見える。観客が自分を見てないことに気づいたみたい。

 舞台の上じゃ気付けないよね。

 観客席からの見え方なんて。


「"だから私はアタシになるの 理想の自分を演じるの"」

「"映える舞台爆ぜる歓声 アタシの居場所はここだけだ!"」


(いや、まだ負けてない! 私はまだ……!!)


 負けじとパフォーマンスの質を上げる少女。

 凄いね。まだ上があるんだ。

 じゃあ私もエンジン上げないとね。

 喧嘩しないように、綺麗に重ねて……ちょっとだけ、私の声を目立たせる。


「"オンステージ 喝采のウェイブライト"」

「"嘘色クラウンをかぶれば このハイエンドなピエロに釘付け♪"」


(わたし、は……)


 少女は気づき始める。

 たぶん、導化師アルマとして単純なパフォーマンス勝負になると思ってたんだろうね。

 ごめんね。正々堂々戦えなくて。

 でも、これが導化師アルマなんだよ。


「"ランラン会場沸かすのは 妄想具現のジョーカー"」

「"サンハイ唱和プリーズミー フェイクだからこそ美しい"」


(あ、これ……勝てない……)


 諦めにも似た絶望の表情。

 少女は思い知らされた。今まで踊らされていたことを。


 私はカチュたんみたいに歌が上手いわけでも、ロカちんみたいに踊れるわけでもない。

 でも、ライブの魅せ方は誰より分かってる。


 デュオならデュオの魅せ方で舞台の完成度を上げて。

 いつもなら両方に魅せ場を作るんだけど……今日は一つもあげない。

 観客、カメラ、共演相手、盤上の全てを操作して、私が主役のライブに仕上げる。

 4期生の記念ライブなのに、意地悪な先輩でごめんね。


「"惑わしてやる さあ一緒に世界を偽ろうぜ!"」


 さあ、もう十分力の差は感じてくれたはず。

 目を奪う。ファンの視線も、少女の視線も。

 無理やり瞳を合わせて、私の思考を流し込む。


 …………。


(気づいてたんじゃない? アタシがこの曲で本気出したことないって)


 憶測を彼女に問う。

 10周年ライブ、彼女のハイエンドピエロは本物を超えた。

 出演する予定のない曲目をあれだけ踊れるようにしてくれたのは、きっと導化師アルマを理解するためだったはず。

 私が教えるつもりのないことまで理解してきて、間違った解釈をしてくれた。


 最高峰のVTuberとして、本気の姿を10周年で見せる最高の演出。

 でもそんな自我はいらない。周りと歩幅を合わせることの方が重要だった。

 導化師として、皆の手を取れる場所に居られるように。


(昔の導化師アルマのままじゃ勝てないよ。ね、間宵結ちゃん?)


 あえて彼女が捨てたらしい本名で呼びかける。

 案の定、彼女は反応しまいと心を閉ざす。

 やっぱり。君は優しく差し伸べるだけじゃ手を取ってはくれなさそうだね。


(君は凄いよ。どれだけ非難を浴びても頑張って。アタシには真似できない特技を持ってて。本当に尊敬する。でも……ちょっとやりすぎじゃないかな?)


 視線を逸らせず、伝う思考に感情を乱されないようにと堪えている。

 言葉巧みにだまくらかす、導化師の導きを恐れているのだろう。


 でも今日の導化師はあの頃とは違う。

 万人受け狙いの仮面はもう取り外した。

 まずはその手を強引に掴んで、これ以上迷い込まないように引き止める。


(勝手な解釈違いで自分好みの偽物作って、そんなの厄介オタクの自己満足でしかない。それでアタシの推し達まで傷つけて……オタクが怒らないわけないよね?)


 少女は眉を動かす。

 否定され、憤りながらも平静を保とうとする。


 でも怒ってるのは君だけじゃない。

 君も推しを傷つけられて憤りを感じたなら、私の気持ちも分かるよね?

 もうこれ以上、ブイアクトのみんなを傷つけないで。

 ……間宵結、君の自傷行為も許さない。


(最初は理解しようとしてくれたんだよね。全員分の人格トレースして……でも、共感できなかったんだね。君は何でもできるから、できない人の気持ちが分からない)


 少女は震える。

 自分が理解できないことが耐えられないのか。

 それとも私が君を理解した風な顔してるのが気に食わないのか。


 どうやら我慢の限界も近いようだ。

 なら……あとは引き金を引くだけ。


(…………妹の気持ちもわかってあげられない。悲しい人)

(っ! やめろ!!)


 抑えていた感情が反射的に現れてしまう。

 その感情変化を一瞬で読み取り、すぐさま問いかける。


(なんで? 君が紬ちゃんのこと分かってあげられたらこんな事にならなかったよね?)

(分かったようなこと言うな! 私は……私は間違ってない。だって、紬の幸せだけを願って……)


 大きく揺らぐ。

 押せば倒れてしまいそうなほどフラフラと。

 吹けば消えてしまいそうなほどゆらゆらと。

 ダメだよ。自信あるなら最後まで堂々としなきゃ。


(それ、嘘だよね。オタクがよく「推しが幸せで居てくれればそれだけで」って言うのと同じ。願うだけなら言わなくていいじゃん。それでもつぶやいちゃうのは……承認欲求。結局君が推しに愛されたいんだよ)

(違う……違う……! 違う!!)

(違わない。頑張ってる自分を見て欲しいんでしょ? 他の人への愛が羨ましくて、妬ましくて、その人に成り代わって紬ちゃんの愛全部独り占めしようとして)


 彼女の強い反抗も理詰めで押し流す。

 口に出さずとも、きっと一言一句違わず伝わってる。

 そのくらい導化師アルマを理解してくれてるから。


(下手に実力があるせいで負けを認められないなら……教えてあげるよ。今まで君がしてきたこと)


 あとは君が理解できてない部分を教えてあげるだけ。


「――――"フォーゲット 惨劇は終わらない"

 "ヒビ割れクラウンを乗せても このハイエンドなピエロもお手上げ"」


(っ……ッ!)


 舞台の上は残酷だ。

 どちらが正しいとか、どちらの愛が上だとか関係ない。

 舞台の上では、いつだって強い者が正しい。


(辛そうだね? 苦しそうだね? でも頑張ってくれるんだね? ……いいね。そういうの大好物)


 ああ。やっぱりいいな。

 目的はなんであれ、必死に頑張ってる女の子は美しい。

 応援してあげたいのは山々だけど……今日だけは負けてあげられない。


「"乱嵐陰口放題の タネ暴かれてるトリックスター"

 "惨敗道化はクチナシ 反論せぬまま終幕"」


(さあさあどうした! アタシには絶対に負けられないんでしょ!? もっと見せてよ!! 君の頑張る姿を!!)


 こんなやり方しかできなくてごめんね。

 私がもっと上手く導ければ、私にもっと実力があれば。

 ……私にこんな歪んだ好きがなければ。

 君を苦しませることもなかったのに。


「"くらましてやる さあ孤独に世界を偽ろうか……"」


(っ……もう……やだ…………)


 ごめんね。

 君の望む導化師になれなくて。


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