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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第164話 1周年ライブ:ゲストパート①

 見た。聞いた。二人のライブを。

 苦しくて、苦しくて……。

 終わった瞬間、内側で何かが決壊した。


「……ごめん、なさい。ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 ここで謝罪したって届かない。

 でも、言わずには居られなかった。


「私なんかが、居るから……二人とも……」


 姉は間宵紬の推しを輝かせようと無茶している。

 ティアは異迷ツムリに想いを届けようと無茶している。

 名は違えど、その想いの先は間違いなく自分。


「……そうだね。あの子達が苦しんでるのは全部君のため。紬ちゃんが迷ってる間に、また誰か傷つくかも」


 追い打ちをかける導化師アルマ/レプリカ。

 言語化され、さらに罪悪感が押し寄せる。

 事実、魔霧ティアは喉を酷使しすぎている。

 このまま続けさせれば今後の活動にも影響が……。


「どうしよう……このままじゃティアさんが……止めないと。でも、そしたらお姉ちゃんが……」


 助けたい人が二人。

 ティアを助けるために彼女を受け入れれば、それは結の頑張りを否定することにも繋がる。

 ずっと迷い続けていたことに選択を迫られ焦燥する。

 

「ティアちゃんのことなら心配しなくても大丈夫だよ」

「え……?」


 導化師は声音が急に優しくなった。

 ずっと急かしてきただけに困惑させられた。 

 導化師の偽物、彼女は自分をどこに導こうとしているのか。


「あの子には――――頼もしい『友達』がいるから」


 この先何が起きるのか、全て理解しているような口ぶりで……まるで本物と話しているように錯覚した。




◇




 4曲目、魔霧ティアのステージが終了。

 舞台は暗転し配信上は完全な闇に包まれる。

 

 しかし配信裏、現実で二人は立ち尽くしていた。

 特に異迷ツムリは疲労の色が濃く、荒い呼吸で酸素を欲していた。


「ツムリ! 大丈夫か!?」


 四条はマネージャーとして駆け寄る。

 肩を貸し、急ぎカメラの前から離れる。


「かなり無茶したな……あんなパフォーマンスを、しかも4曲連続なんて……」

「……導化師アルマは……13曲でした。最後の曲を歌えなかったのも体調不良が原因……なのに、4曲くらいで音を上げてられますか?」


 疲れた様子を見せながらも反論する。

 自分のあるべき姿を、自分に言い聞かせるように。


「できなきゃいけないんです。導化師アルマは、最推しだから……」

「ツムリ……」


 自分を追い込むような表情を見せられ、かける言葉を見失う。

 呼び名すら正しいのか分からないのに。

 

「それより、今は私なんかよりあの子の方がよっぽど……」


 そう言って目を向けたのは、同じく舞台に立っていた少女。

 ツムリと共に限界になるまで歌っていた。

 しかしその表情は疲労と言うより、精神的に追い詰められているようにも見えた。


 ………………。


(――――届かなかった)


 本気で歌った。

 ツムリも本気だった。

 本気でぶつかり合って、決着はつかなかった。


(届けられなかった。……ううん。《《まだ》》届いてない)


 だから……まだ終われない。

 一度オフにしたマイクをオンにする。


(……歌える。上手く歌えなくても……声は出る)


「……きょうも、ひのめ、見られずに……らくじつ……むかえる……」


《ティアちゃんの声?》

《嘘だろ? まだ歌うの……?》


 真っ暗な画面に、魔霧ティアの声だけが届く。

 そんな異様な状況に観客もざわつく。


(ここで届けないと……ここで歌わないと、歌える意味、ない……!)


「かれきは、こどくにねをはる゛……だいちの゛、そくばく」


《喉ガラガラですやん……》

《もう休んでくれ……頼むから……》


(枯れ尽くすまで……歌え……!!)


「こきゅう゛ひとつ゛、ままならず……こ゛とのはひと゛つ゛……」


 届けたい。その一心で歌い続けようとした。

 けれど、音は途中で途絶える。


(あ、マイク……まだ、終われないのに……)


 強制的にマイクをオフにされたことを察する。

 これじゃ誰にも届けられない。

 打ちひしがれ、俯く。


「ティアさん。落ち着いて」


 誰かが自分に声をかける。

 マイクを止めるよう指示した者だろうか?


「まだ……ツムリに゛……届いて゛な゛……げほ……げほっげほ……!」


 歌を止められ、落ち着いたところで症状を自覚し始める。

 咳が止まらない。もう、喋ることも……ダメだ。これ以上考えたら。


 心が苦しくなると余計に喉が苦しくなる。

 ほんとに、なんでこんな身体なんだろ……。


 上手く歌えなくなって、誰にも届かなくなる。

 また……一人ぼっちに……。


「大丈夫ですから――――こちら、薬なのです」

「でも…………ぇ?」


 薬を差し出された手の先を見る。

 自分のことばかり考えて、それが誰かなんて気にも止めなかった。

 ようやくその者を認知し、固まる。


「なん……で……?」

「ふふん。後輩のピンチに先輩が駆けつけるのは当然なのですよ」


 特徴的な語尾。

 その声を聞くのは何ヶ月ぶりだろうか。


「お客さんも待ってますから。ティアさんが回復するまで――――ライブは任せて欲しいのです」


 そう言い残して、彼女は舞台の中心に向かった。

 自分と同じくらい小柄なのに、その背中は大きく見えた。

 前に見たときより、ずっと頼もしく感じた。


 ………………。


《まだ再開しなさそう?》

《さっきのティアちゃんのやつはアドリブ?》

《さすがにあの声はなぁ……止めて正解》


 4期生らのパフォーマンスを見て、観客たちの不安も最高潮に達していた。

 演者は無事なのか。続きはどうなるのか。

 先の見えない、暗く重い空気のライブ。


「1周年を記念するライブ。楽しい夜ですね。なのに……なーんで皆さん暗い顔してるのですか?」


 そんな舞台に、一人の少女が光を運び入れる。


《……はい?》

《なんか、すっごい聞き覚えある声が……》

《いやいやまさか……え、ほんとに?》


「夜なのに光がないからですね? では――――照らしてあげるのです」


 とある事件をきっかけに、しばらく表舞台から離れていた。


《あの……休止中、でしたよね?》

《4期生の記念ライブなんですけど……それはサプライズが過ぎませんか!?!?》


「この夜を統べるサイキョーヴァンパイアが、世界中に笑顔を灯して!」


 眩しいくらいに純粋で、まるで太陽のような、吸血鬼を名乗る女の子。


《ああ……オレ達のサイキョーヴァンパイアが……;;》

《この声が……ずっと聞きたかった》


「皆さん、こんヴァンプです! そして……お待たせしました!! ブイアクト2期生紅月ムルシェ。4期生をお祝いするために、帰還したのですーーー!!!」


《うおおおおおおおおおおおお!!!》

《うお……うおおおぉぉぉ……;;》

《こんヴァーーーンプ!!!》

《おかえりぃぃぃぃ!!!》

《ずっと待ってたぞムルちゃぁぁぁああああ!!!》


 先程までの暗い空気が嘘のようだ。

 たった一瞬、ステージに立って話しただけで、全ての闇を取り払った。

 それほどまでの影響力が紅月ムルシェにはあった。


「早速歌いましょうか――――もちろんみんなで! かもん2期生!!」


 彼女の合図と同時に舞台袖から4人が現れ、音楽が流れ始める。


「では行くのです。せーの……」

「「「ピコピコオールナイト!!」」」


 2期生全体楽曲、『ピコピコオールナイト』

 今日のライブ構成、4期生のデュオが終わった後はゲストパートとしてこの曲を披露予定だった。

 2期生4人と、ムルシェの代わりにティアが参加する形で。


「"慎重にポチポチ"」

「"乱暴にガチャガチャ"」


 しかし今、歌えなくなった自分の代わりにムルシェが加わってあるべき姿になってる。


「"暗闇でピカピカ"」

「"ピコピコピコピコ……ピコーン!"」


 なんでムルシェがここにいる?

 元々サプライズで参加予定だった?


「"一人でピコピコ 楽しいだけだよ"」

「"マルチでピコピコ 無駄な時間だよ"」


 どんな理由にせよ、結果は変わらない。


「"でもでも僕らはそれがそれだけが"」

「"生きがいってやつなんだ!"」


 魔霧ティアはまた、紅月ムルシェに助けられた。

 最後に共演したゲーム大会、司会で喘息の発作を起こしたときと同じように。


「"サンフォールレディゴー 輝けゲーミング"」

「"ナイストライもう一度 勝つまでリトライ!"」


 頼れる先輩で、助けたくなるような可愛い人。 


「"オールナイトレディゴー 元気を飲み干して"

 "GG対あり 勝ったらもう一回!"」


 ずっと会えてなかった、会いたかった友達。


「"長生きよりも長く楽しもう!"

 "僕らは今を生きてるんだ"―――」


 そんな彼女だから、たくさんの人に慕われてる。

 ライブアレンジの長い間奏に入り、メンバー一人一人がムルシェを見て話し出す。


「ムルちゃおかえりーっ! 突然休止とか言うから心配したんだぞっ!!」

「あははごめんなさい……改めてただいまなのです!!」


 小言を言いながら明るく迎えるニオ・ヴァイスロード。


「君を待ってる間、やりたいゲームを大量に積んでしまったよ。覚悟しておいてくれ」

「それはそれは……たくさんコラボしないとですね!」


 以前と変わらない、友達を遊びに誘うような気軽な関係で接するツララ。


「言いたいことは山程あるのじゃが……ひとまず、これが終わったら打ち上げ兼復帰祝いじゃな。御馳走を用意するのじゃ」

「やったー! じゃあ……皆で打ち上げできるように、今は頑張らないとですね!」


 言葉をぐっと飲み込み、改めて語らう場を設ける狡噛リリ。


「エルはー……言いたいこと全部裏で伝えちゃいましたねー」

「あーここ最近は毎日押しかけて来ましたもんね……」

「なので今度は心配させたみんなに、ちゃんとお話しないとですねー」

「そうですね! 近々正式に復帰する予定なので、もうちょっとだけ待ってて欲しいのです!」


《それが聞けただけで十分安心したよ》

《裏の話までkwsk》

《雑談配信待ってるぞーー!!》


 心配するあまり既に話し終えてしまった法魔エルは、代わりに観客を気遣ってくれた。


 温かく、楽しく、ライブとして正しく盛り上がる。

 そして全員と話し終えたムルシェは舞台袖の方へ駆ける。

 画面に映らない場所で待機していたティアへ、手を差し伸べる。


「ティアさん。喉の調子はいかがですか?」

「えっと……うん。薬で、落ち着いて、きた」

「では……歌い足りてますか?」

「……ううん。全然」


 本当はまだ本調子じゃない。

 でも、歌い足りないのは本当だ。

 今ならツムリも見てくれてる。

 ここで歌わなきゃ、二度と伝えられないかもしれない。


「よかったぁ。ムルも久々過ぎてドキドキしながら歌ってたのですよ……一緒に歌ってくれますか? 失敗しても、二人なら怖くないのです!」


 友達と一緒に楽しく歌えたら。

 デビュー前に、そんな夢を見たこともあったっけ。


「"未来の楽しい誰が保証する?"」

「"寝て起きて働いて寝る"」

「"……それで満足か?健康老人"」


 もう諦めかけてた。

 だって、魔霧ティアは楽しいじゃ歌えない。

 寂しくないと、上手く歌えないから。


「"リスクヘッジで本気も出せない"

 "フラストレーション現実世界"」

「"でもでもここならなんでもできる"

 "理想の自分になれる場所"」


 友達もみんな離れていくから。

 ああ、そういう運命なんだって。

 『お前は歌だけ歌ってればいい』って、神様に言われてるのかなって。


「"沈む太陽どこに隠れた?"」

「"僕の闘志に火をつけた"」

「"闇に輝く僕が僕こそが"」

「――――"夜の太陽はこの僕だ!"」


 嬉しいな。寂しくないな。

 ……やっぱり、上手く歌えないな。


「"サンフォールレディゴー 輝けゲーミング"

 "ナイストライもう一度 勝つまでリトライ!"」


 発作は治まったのに、今度は涙混じりの汚い歌。

 けど……皆喜んでる。


「"オールナイトレディゴー 元気を飲み干して"

 "GG対あり 勝ったらもう一回!"」


 そっか。こういうのでも良いんだ。

 上手くなくても良いことってあるんだ。


「"長生きよりも長く楽しもう!"

 "僕らは今を生きてるんだ"」


 ああ、楽しい。

 上手く歌うのも大事だけど……やっぱり、楽しい方がいい。

 だから……諦めたくないよ。


「"君との時間は今だけだから"――――」


 また昔みたいに、一緒に歌いたいよ……ツムリ。


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