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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第163話 1周年ライブ:魔霧ティア

 4期生1周年ライブ。

 同期と、それに扮した姉がぶつかり合う舞台。

 その光景を身体の内側から観測して呟く。


「お姉ちゃん……」


 舞台で全てを演じている者を姉と呼ぶ少女。

 自身を偽物と認識しながらも、姉から強く望まれ、今もその名を名乗っている。


「随分複雑な顔してるね。紬ちゃん」


 間宵紬を気にかけたのも同じ身体で作り上げられた偽物、導化師アルマ。


「友達傷つけて、自分もボロボロになって。もう見てられない?」

「それは……でも、やめてなんて私に言う資格ありませんからぁ……」

「そうだね。お姉ちゃんを否定するようなこと言えないよね。『異迷ツムリ』を放棄した紬ちゃんの代わりを務めてくれてるのに」

「…………」


 言葉にトゲを感じるのは敢えてなのだろう。

 導化師アルマがその程度の配慮、できないはずないのだから。


「それで答えは出た? 紬ちゃんがどうなりたいか。それがはっきりしないと結ちゃんはこのまま頑張り続けちゃうと思うけど」


 導化師は再び問う。

 未来の選択を迫るように。


「私は……お姉ちゃんに自由になって欲しいです。元々この身体もお姉ちゃんのものですしぃ……」


 少女は目を伏せて答える。

 それを聞いた導化師の声はさらにワントーン下がった。


「その自由ってさ。レプリカや紬ちゃんのことも全部捨てて、自分のためだけに生きて欲しいってこと?」

「……はい。私が居なければ、誰も苦しんでなかったと思うのでぇ……」

「ふーん。それ、あの子が一番望んでないことだと思うけど。それは分かってるよね?」

「そう……ですよねぇ……」


 少女も気づきながら答えている。

 その間違いを否定するために、導化師は分かりきってることを丁寧に説明する。


「前にも言った通り、紬ちゃんが望めばあの子は全部その通りにするよ。でもそれは君にずっと幸せに生きてほしいから。苦しい、消えたいって思って欲しくないから」

「……でも。私が幸せになっても、それは偽物で……」

「偽物でも縋るしかないんだよ、あの子は。生きる理由がそれしかないから」


 自分達偽物が生み出されたのはこの身体の主、間宵結が生きる気力を保つための自己防衛。

 間宵紬の役目はただ幸せに生きること。

 そして導化師アルマの役目は、間宵紬に推される者として道を指し示すこと。


「ツムりん。本当はあるんじゃないの? 君自身がなりたいもの」

「私は……でも、私なんかじゃ……」


 導化師は繰り返し問い、何かを答えさせようとする。

 その答えに気づきながらも、頑なに口を閉ざす少女。


 まだ足りない。臆病な彼女を動かすにはまだ。

 その場は一旦引くことにし、現実世界に目を向けさせる。


「勇気が出たら教えてね。今は……あの子達の頑張りを見届けなきゃ。結ちゃんだけじゃない。みんな君のために頑張ってるんだから」

「…………はい」


 少女のために行動しているのは姉だけじゃない。

 異迷ツムリを友達として一途に想い続けてくれている人。

 魔霧ティアの舞台を、二人は静かに見守る。




◇




「ツムリ……大丈夫なのか?」


 舞台裏、いつでもサポートできるように四条彰は待機していた。

 魔霧ティアとのデュオが始まり、ハラハラしながらその様子を視界に留める。 


「……いや。今は見守るしかない。ライブは同じ立場のタレントに任せて、僕はマネージャーとしてできることを……」


 既に4曲目、声も身体もどこか力が足りていないように見える。

 体力面も心配しながら見ていると、同じ目的で控えていた女性に声をかけられた。


「四条くん」

「肆矢さん……始まりましたね。ティアさんのステージ」


 魔霧ティアのマネージャー。

 かつて山文プルトとしてライブ経験のある彼女は今日のステージに何を思うのか。


「相変わらず生歌も凄まじいな。ティアさんの歌は」

「はい。でも……ちょっと張り切り過ぎですね」


 意味深なことを言って、彼女もどこか心配そうに担当タレントを見ていた。


「高音にロングトーン、声帯を駆使した幅広い表現力。使える武器全てを使った迫真の歌。そのおかげでツムリさんも再現に苦戦しているみたいですが……あんなペースで歌ったら最後まで保つか……」

「……同じですね。ツムリもここまで4連続……明らかにパフォーマンスが落ちている」

「そのようですね……」


 魔霧ティアの喉が強くないことは四条も把握していた。

 同じ心配を抱えながら、マネージャー達はただ見守ることしか出来ない。


「もう見慣れたつもりでしたが……こんなに苦しいデュオは、私も初めて見ます」


 肆矢は遠い過去を思い出すような目をして、小さく呟いた。




◇




「――――"新たな大地に生を得る 憧れた世界"」


 楽曲:『落葉滴る』

 歌唱:魔霧ティア&魔霧ティア(異迷ツムリ)


 高音域の透き通る歌声。

 遥か彼方まで伸びゆくロングトーン。

 歌うために生まれてきたかのような天性の喉。


「"誰もが眩(まばゆ)く輝く 日陰のない場所"」


 彼女の歌声を真似るのは至難だ。

 限りなく近い音は出せても同じにはならない。

 でも、彼女の喉は脆い。

 振るうほどに摩耗する、強く儚い才能。


「"照らしてくれる太陽光 初めてできたお隣さん"」


 持久力であれば確実に上回る自信があった。

 彼女の全力を9割程度でも再現、継続できればきっと。

 ……そんな甘い目論見で戦いに挑もうとしていた。


 「"言の葉交わし共に生きる 芽吹いた緑枯れるまで"」


 誤算は2つ。

 1つはこちらの消耗。

 3曲連続のパフォーマンスに加え、久茂ダークの再現にほぼすべての体力を持ってかれた。

 今の自分では、魔霧ティアより先にリタイアする可能性もある。


「"ひとひら 瞳は潤んで"

 "ふたひら 瞼を溢れて"

 "ひらひら ひらりと滴る"――――」


 そしてもう1つは……魔霧ティアを見誤った。


「"諸行無常はみなに平等だ この世に永遠(とわ)など存在しない"

 "変化を恐れ 過去に縋って 霞の幸福喰(は)んでいる"」


《すっげ……》

《なんかもう、明らかにレベル違うな》


 既に2番サビ。

 彼女は最初から全力で、一瞬たりとも力を抜かなかった。

 こんな繊細な曲で、深く、深くまで力を入れて……。

 そんな歌い方で最後まで保つのか、そう思いながら必死に食らいついた。


「"君との日々は 春の宵夢"」

「"切なる刹那に想いを馳せる"」


《いかん良すぎて泣けてきた》

《これ生歌なの? 過去最高に上手い気がするんだけど》


 しかし彼女の勢いは、加速度的に増し続けている。

 想定していた全力、その120%は優に超えている。

 まだ上があるのか?

 止まらない。凄みが増し続けている。


「"ずっと居たい ここに居たい"」

「"どうか時間 止まって"――――」


 歌いきり、間奏に入る。

 するとティアは表情を変え、マイクを手で覆った。


「っ……けほっけほ……すぅ……」


 気づかれないよう配慮したようだが、動きと微かな音は配信に乗ってしまう。


《ティアちゃん大丈夫か……?》

《喉が……無理しないで欲しい、けど》

《それだけ本気ってことか……》


 観客に心配させてしまう。

 それでもティアは止まろうとしない。

 歌いながらもずっと、こちらに訴えかけてきている。


(見て)


「ん゛ん……"肥え、枯らし、繰り返し 衰え続ける"」

「"春待つ日々も何度目か 木枯らし吹きゆく"」


 喉は既に枯れ始めている。

 それでも強い意志は揺らがない。


「"枯れ葉照る 大空の君"」

「"死祟る 隣人の君"」


(こっち、見て)


 彼女の音は生きている。

 声に命を吹き込むかのように。

 自分の命を分け与えるかのように歌う。


「"舞い散り朽ちる 樹木の定め"」

「"されど臆することはない"」


(ティアを見て。ツムリ)


 寂しいほどに叫びは強くなる。命を激しく燃やす。

 寂しいって心の叫びを歌に乗せるために。

 助けるためではなく、助けを求めるために命を使う。


 こんな歌、再現できるわけがない。

 届かないって分かってるけど……食らいつくしかない。

 彼女の輝きに負けたら、紬が見てくれなくなる。


 だから……彼女の強い意志に張り合ってしまう。


("すごい熱量、だね。苦しく、ないの?")


「"大地は喰らう 次を育てる"」


(苦しいよ。辛いよ。寂しいよ。……でも、だからティアは歌えるの)


「"僕は誰かの何かになれる"」


(ねぇ、ツムリ。みんな好きなのは良いよ。みんな違う魅力があって、いろんな好きがあるから)


「"言の葉枯れさせ大地を追おう"」


(ティアも、ウラノさんが推しで、カチュア師匠のことは……尊敬?してて、ムルシェや同期、みんな友達で。その中でも、ツムリは一番)


「"君がまた芽吹く頃のため"」


(だから、ツムリがみんな好きなのは良いよ。でも……魔霧ティアだけは、ティアだけ見て。代わりが居るのは、やだよ……)


 必死の訴えを歌に乗せて伝える。

 そんなに声を震わせなくても、本気で言ってることくらい疾うに伝わってる。


「"再びみたび 何度でも"

 "ひらひら ひらりと……"」


 でも、こちらにも譲れないものがある。


「"枯樹生華 僕らの希望だ"

 "奇跡の救いを夢に見る"……!」


("魔霧ティアは、友達が欲しくて、VTuberになっただけ。でも、もうたくさんいるよね。友達")

(違う! ティアは、ツムリがいいの……ツムリじゃなきゃダメなの……!)


「"永く灯すより大きく照らす"!

 "命の篝火焼き尽くす"!!」


("ずるい、ね。なんでも欲しがって。ティアは、ここしかない。ツムリがいないと、ダメなのに")

(……ずるいのは、そっち。全部真似して……もうやめてよ。ティアの好きまで、奪らないで……)


 奪うな? それはこっちのセリフだ。

 これ以上……何も失いたくない。


 お願いだから……紬から魔霧ティアまで奪わないでくれ……。


「"刹那に過ぎ去る儚い春も"……っ゛」

「"幾度も訪れ芽吹きをくれる"……ぜぇ……」


(ツムリを……返して……!!!)


 私から……紬を奪わないでくれ……!!!


《なんだこれ……苦しいのに、良い》

《感情表現が上手いというか、本気の感情すぎてさ……》

《もう前が見えねぇよ……;;》


 心の声が伝わらずとも、二人の感情だけは観客にも届いていた。

 周りを気にする余裕もないほど、本気で歌っていた。


「"ずっといるよ……ここに……あるよ"

 "きみの、帰る場所……い゛つまでも゛"……」

「"枯れ尽くす……その……日まで"…………」


 息絶え絶えに歌い合う。

 アイドルらしく、想いの丈を歌に乗せて。

 ただひたすらに、己の身勝手を訴え続ける。


「「"らくようを……ふらす"――――……」」


 醜く、必死に……愛を奪り合う。

 私の声を聞いてくれ、と。


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