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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第162話 1周年ライブ:久茂ダーク

◆


 間宵紬の命日、私の中の間宵紬は生まれた。

 2週間、誰とも会わずに紬と向き合った。

 暗い部屋に閉じ籠もって、私は二人になった。


 そして紬だけが外の世界へ進んだ。

 私は暗い部屋に閉じ籠もったまま。


 あのときと何も変わってない。

 本物の紬が外に連れ出してくれる前。

 母が死んで、部屋でずっとテレビを眺めてた頃。


 やっぱり私は変われない。

 誰にでも成れるけど、私自身は変われない。

 私は画面越しに紬を応援することにした。





 最初は見るだけでも苦しかった。

 仲間に疑われながらアイドルを続ける紬。

 でも目を逸らしちゃいけない。

 全部私のせいなのだから。


「私は……間宵紬ですぅ。改めてよろしくお願いしますぅ」


 それからもちょっとずつ間宵紬を学んで、少しは成長したと思う。

 でも、結局仲間には認めてもらえなかった。

 二人がチーム解散を希望して、紬は静かにそれを受け入れた。


「これ以上……嫌われて欲しくないですからぁ」


 本物を慮る言葉、つまり偽物を自覚させてしまっているということ。

 私のせいで間宵紬になりきれていない。


(ごめんね……私が紬のこと全然知らないせいで……ちゃんと紬に成れなくて……)


 このままではアイドル『間宵紬』が死んでしまう。

 どうしようって、焦ってたとき。

 兄が次の居場所を紹介してくれた。

 VTuber事務所、そのマネージャーに会わせてくれた。

 確かに紬を誰も知らない場所なら疑われることもない。

 新しい場所なら、紬はまたアイドルになれるかもしれない。


 それにもう一つ教えてくれた。

 紬にも、私と同じ特技があるって。


(……私の知らない紬。ホントに? でもお兄ちゃんは私よりもずっと紬と一緒に……)


 突然そんなこと言われて最初は疑った。

 でも、画面の先の少女を見て全部どうでもよくなった。


「そっか。私も声真似を……。お姉ちゃんと一緒ですねぇ……へへ」


 あの子はまだ間宵紬であろうとしてくれてる。

 まだ、間宵結の妹であろうとしてくれてる。

 なんて愛おしい。


(……インプットしなきゃ。アイドルの紬を……見てもらわなくちゃ)


 妄想? 一人芝居? なんとでも言え。

 この子は間宵紬。私の可愛い妹は今、私の中で生きてるんだ。




 新たに『異迷ツムリ』と名乗るようになってからも、変わらない形で紬を応援した。

 何があっても自我を出さないように、壁を一層厚くして。

 苦しいことがあっても、それが紬の選択だと思って。


 ……1年後。紬も閉じ籠もってしまった。

 紬のために生み続けてきた『レプリカ』。

 その存在を推してしまった紬は、レプリカと共に生き続けられないという、悲しい事実から逃げた。


(私が弱いから……全部私の実力不足。今の私に、紬のために何ができる?)


 私なんかにできることがあるのか分からない。

 でも、レプリカに任せたままではまた一人ずつ消えてしまう。

 そんなこと紬は望んでない。また紬を傷つけることになる。

 我慢が限界を迎え、私は画面の先に乗り込んだ。


 ……私が紬の代わりになって間もなく、兄の言葉が嘘だったと判明した。

 『声真似ができる間宵紬』を1年続けてきた少女、その存在を否定するような事実。

 その衝撃に目を醒ました少女は嘆いた。

 自分はもう、異迷ツムリになれないと。


 どうしたらいい?

 どうしたら妹を元気づけられる?

 あの子を愛してくれる人を探す?

 あの子が愛するものを輝かせる?


 なんでもいい。誰でもいいから……。


「早く……紬を幸せにしてよ……」




◆

◇




「"走れ! 掴め! その一条!"

 "茨の刺も握り潰せ!"」


 楽曲:『スレッド』

 歌唱:久茂ダーク&久茂ダーク(異迷ツムリ)


「"Fry! Sky! 高く跳べ!"

 "超えろ! 自分勝手のリミット!!"」


《うおおおお!!!》

《画面を超えて届けこの声ぇぇぇ!!!》


 ここまで戸惑いを隠せなかった観客らも、ダークの熱量に当てられライブに没頭する。


「"叫んでメサイア 醜くたっていい"」

「"晒してデザイア 生きてりゃなんでもいい!"」


 それもそのはず。

 以前見せたバンドフェスでの初お披露目は偽物。

 そして今日のパフォーマンスは……当時と比にならないほどの力強さがあった


「"救いの需要と供給が"

 "僕らの縁を紡ぐスレッド"」

「"平和な日々を共に生きる"

 "それだけが――――マイグリード"」


《うおおお……うおおおお!!;;》

《これが本物の久茂ダークだぁぁぁ!!!》


 本物のライブに歓喜する観客。

 久茂ダーク一人に集中する。本物だけに熱中する。

 共に歌う偽物の姿なんて見えていないかのように。


 どうして……どうして届かない。


 直情的で単純な動き。

 何を考えてるかなんて一目見れば分かる。


(もっと……もっともっと!)


 脇目も振らず、こちらのことも見ない。

 目が合わなければ先のセンカやシューコのように意志を伝えることもできない。


(もっと強く! もっと速く! もっと大きく!)


 ただ一方的にこちらが受信するだけ。

 久茂ダークは自分だけに集中し、それゆえに彼女のポテンシャルが完全に発揮されていた。


(優しいだけじゃ助けられない。護れない。伝えないと……自分が本気だってこと)


 今までの彼女からは迷いが見えた。

 異迷ツムリを救うべき弱者と見るか、打ち倒すべき悪と見るか。

 少なからず存在したわだかまりが迷いを生み、優しい彼女を足踏みさせた。


(ツムリさんも本気だ。でも……ツムリさんらしくない。まるで虫でも潰すかのような、愛のない接し方)


 その迷いがなくなったのは、やるべきことが定まったから。

 今求められているのはライブで自分を魅せること、誰も傷つける必要はない。

 そしてそれが、傷つけられた大切な人のためにできる唯一の手段だと。


(目を醒まして貰わないと。そのためには……自分も本気でぶつからないと)


 それほど純粋で、真っ直ぐな女の子。

 そして本気になった彼女は……何よりも強大だった。


(ツムリさんに、シューコさんに、ファンの皆に――――全力で、届ける!!)


 フィジカルだけなら群を抜いて一強。

 その久茂ダークが出す本気、常人にはおよそ真似できない運動量で成り立っている。


「"過酷を生き抜くヒーローは"

 "平和と縁を分かつ仮面"」

「"力も覚悟もない僕は"

 "あの日の夢から逃げている"……スゥ……」


《なんか、片方めっちゃ苦しそうじゃない?》

《むしろなんでもう片方ピンピンしてんの? あれだけ動いて声出して》

《ああ……体力までは流石にコピー出来ないか》


 ボロが出始め、観客にも気取られる。

 実際その指摘には何も言い返せない。


「"知らねぇよ 自己中上等 偽善なんざクソ喰らえ"」

「"さあ行こう 目指せ再興 至高のヴィジョン見せてやる"」


 声量、バカみたいに叫び散らかして。

 同じボリュームを目指せば喉がイカれてしまう。

 発声法で誤魔化すしかない。


[Set Ability : "カチュア・ロマノフ"]


「"謳え 語れ 己の生"」

「"超えろ 自分勝手のリミット"」


 ダンス、動きが激しすぎる。

 再現するには到底フィジカルが足りない。

 見せかけだけでも大きく見せるしかない。


[Set Ability : "ロカ・セレブレイト"]


「"叫んでメサイア 醜くたっていい"」

「"晒してデザイア 生きてりゃなんでもいい!"」


 なにより歌、音程がずっと安定しない。

 上手くないからこそ、久茂ダークを完全再現しても同じにならない。


「"過酷を生き抜く勇気もない"

 "平凡極めた弱者でも"」

「"凡骨なりに頑張るからさ"

 ”助ける手助けディマンド!"」


 下手同士が感情任せに歌えば不協和音になるだけ。

 その不快感の責は誰に向けられる?

 無論こちらだ。レプリカがいなければデュオなんて成立しなかったのだから。


「"叫んでメサイア 晒してデザイア"――――」


 ああ……使わされる。体力全部。

 この後もまだライブは続く。


「"救いを分け合う関係が"

 "僕らの縁その名もフレンズ"」


 ……でも、パフォーマンスにケチをつけられるわけにはいかない。

 レプリカを……紬の推しを輝かせないと。

 だから、一瞬たりとも手は抜けない。


「"平和な日々を共に生きる"

 "それだけが……マイドリーム"――――」


 久茂ダークとのデュオを終えた。

 ライブに勝ち負けなんてものはないが……先の二人と比べて醜態を晒してしまった。

 取り戻さなければ。


 意識を保て。呼吸を整えろ。疲弊した喉を少しでも癒やせ。

 次はダークとは違った意味で厄介な相手。

 歌唱力特化。その繊細な歌を再現するのは万全の状態でも至難。


 4期生最後の一人……魔霧ティアとのデュオが間もなく始まる。




◇




 異迷ツムリは友達だ。

 でも今日、彼女は異迷ツムリじゃない。


「――――こんにちは。魔霧ティア、です」


《4人目……当然ティアちゃんか》

《正直歌自体は楽しみ、って言うと不謹慎になるのか?》

《4連続になるけど体力保つのか?》


 心配、不安、期待。

 観客の反応を見ながら話し始める。


「今日は、2人で歌う。そうしたいって、言ってくれたから」


 同期の3人、それぞれを真似た姿を見た。

 すごかった。本物と見分けのつかない歌と動き。

 どんなに激しいパフォーマンスも再現して。


 そんな彼女が今、真後ろにいる。

 画面上では背後に鏡があるだけ。

 でも現実には彼女が立ってる。

 息を切らし、立ってるのもやっとな様子で。

 どうしてそんなに頑張るの?


「すごかったね。さっきのステージ。同じ人が、2人いるみたいで」


 ただ友達として遊びたいだけ。

 楽しいだけじゃダメなの?

 そう、何度も伝えてきた。

 毎日メッセージを送っても、今は既読すらつかない。


「……でも。1つだけ、言いたいことある」


 でも、今は目の前にいる。聞いてくれる。

 鏡に手を触れ、彼女を連れ出す。

 ステージ上に現れる、もう一人の魔霧ティア。


「ティアは……魔霧ティアは、ティアだけが、いい」


 きっと自分が頑張るほど、彼女も頑張ることになる。

 苦しませてごめんね。

 せめて早く楽になれるように、頑張っても無駄だって思わせるから。


「――――歌います」


 大丈夫。歌だけは、自信あるから。


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