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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第161話 1周年ライブ:絵毘シューコ

「"ラン ラン ランデブー アタシずっと待ってるの"」

「"深淵藍色電脳世界 見つけてくれるまで"……」


 静かな始まり。

 儚い女の子を思わせる弱々しい声。

 その印象を一変させるように、二人は目を見開き、声に圧を加える。


 楽曲:『奈落乙姫』

 歌唱:絵毘シューコ&絵毘シューコ(異迷ツムリ)


「「"見 て る か ら"」」


《わぁ……迫力2倍……》

《怖いよ……色んな意味で怖い》


 うん。歌いだしも好調。

 問題なく絵毘シューコに成れているみたいだ。


 可愛いと言うにはあまりにも面倒な地雷女の曲。

 普段は隠している、彼女の内面が曝け出される曲。


 導化師アルマに執着し、一度は見限り、やはり諦めきれなかった。

 感情の起伏が激しい、女の子らしい女の子の曲。


 そんな曲で、2人の歌唱を聞いて、こんな声が上がった。


《なんか……同じ声なのに別々で歌ってる感すごいな》 

《超絶仲悪そう》

《シューコさん同士って考えるとらしいっちゃらしいけどw》


 そうだね。私も同感。

 他メンバーとのデュオなら、完成度高めるために寄り添って演じるつもり。 

 でも絵毘シューコは異迷ツムリに寄り添ったりしない。


「"海の奈落に乙った女"

 "待つこと決めた 城を築いて"

 "目立たせようとライトアップ!"

 "ふんぞり返った 姫を気取って"」

「"踊るヒラメもタイもおらん?"

 "ならアタシが踊り狂ってやんよ"

 "誰でも見下ろせるとこ立って"

 "道化にだってなってやんよ♪"」


 同担拒否。強い言葉で他人を遠ざけ、推しと二人だけの世界を望む。

 推しの良さを広く布教しようとする異迷ツムリとは違う形の推し活。


「"ファンインハイテイ"

 "おいでよ底辺竜宮城"

 "ウォーアイニー"

 "癒えない傷を刻みつけて?"」


 全く異質な二人。彼女は私達を嫌ってる。

 でも、そんな彼女のことも紬は好きなんだよね。

 だから今、私は絵毘シューコを演じられてる。


「"ラン ラン ランデブー海の底で待ってるの"

 "ここまで来てよ 手を伸ばしてよ"

 "掴んだら絶対離さないわ"」

「"臨海後悔ランデブー 推しを待ち続けてるの"

 "埋まり続けてる地雷なの"

 "アイ謳うよネイビー"」


 見てて紬。

 あなたのことを嫌って、あなたの邪魔ばかりする人なんて推す必要ないから。

 あなたを嫌わない絵毘シューコもいる。

 ……私ならできるから。


「"あなたは貢げてハッピー"」

「"アタシも貢げてハッピー"」


 私は何にでもなれる。

 あなたの望む理想になれる。


「"推しの推しのそのまた推しに"」

「"しあわせりんね♡"」


 これからは私と推し合えばいい。

 私は紬さえ居てくれればそれだけでいいから。


「"病めるあなたは心配だけど"

 "病んでからが始まりなのよ"」


 だから紬、お願いだから……生きて。

 間宵紬を見失わないで。

 異迷ツムリになれなくてもいいから。

 私の側で、幸せに生きて。


「"さあ、一緒に推し事しましょ?"

 "二人で輪廻を築きましょ?"」


 ……なんて、少し歌に引きずられすぎたかも。

 一人の世界に入り込んでしまうのも役柄のせいか。


《おお……過去一感情乗ってるなシューコさん》

《でもやっぱバラバラだな。感情の方向性が違うというか》

《片方は悲しげ、もう片方は荒々しいというか……バチクソキレてない?》


 そう。今は一人で歌ってるわけじゃない。

 見ないようにしてるだけでちゃんと聞こえてる。

 見なくても感じる……後ろから刺すような熱視線。


(コイツ……アタシなんか眼中にないってか……?)


 しつこく構えばウザがるくせに、無視すると憤慨する。


(そりゃそうだわ……ライブじゃシューコが一番無個性。コピーすんのも楽でしょ)


 プライドが高く、失望から逃げるために自ら最底辺を名乗り始めて。


(……なら精々かき乱してやる。元より最底辺、プライドなんて端からないわよ)


 本当に、人間臭さ全開の面倒な女の子。


(アタシらしくない感情任せのアドリブ、真似たければ好きにしろ)


 ……下手なアドリブ。

 あの子が表現したかったこと、私なら上手くできると思う。

 不完全なパフォーマンスで舞台の完成度下げるの、嫌いなタイプだと思ってたけど。


(だからせめて……アタシを見ろよ!!)


 まあ、明らかに異迷ツムリへの当てつけだよね。

 ……しょうがない。付き合ってあげるか。


 曲も終盤、焦らされ続けて感情は最高潮。

 そんな絵毘シューコ本人と、ようやく瞳を向かい合わせる。


「"ラン ラン ランデブーアタシずっと待ってるの……"」


("そんなに振り向かせたかったの? 可愛いわね")

(……チッ。敢えて無視してたってこと? 性格悪すぎでしょ。シューコのことなんだと思ってんの?)


 少し大げさに表情をつける。

 同類を嫌悪する彼女らしく、小馬鹿にするような態度で。


「"爛乱藍嵐(らんらんらんらん)ランデブー 君をずっと待ってるの……"」


("エゴダダ漏れ。いつにも増して気持ち悪いパフォーマンスね")

(けっ……知らなかったの? 絵毘シューコはこういう人間よ?)

("そうね。人一倍嫉妬深くて面倒くさい……最底辺の女の子、だったかしら?")

(腹立つ顔しやがって……赤の他人がシューコのこと分かった気になってんじゃないわよ)


 よかった。ちゃんと伝わってるみたいで。

 何を伝えればどんな顔するか、予想するのも容易い人。


「"推しの 居ない 幸せいらない"」


("他人じゃないけど? アタシはアンタ自身なんだから")

(アンタはシューコなんかじゃない。誰のフリしようと、誰かを真似てる異迷ツムリでしかない)

("随分異迷ツムリにこだわるのね。散々嫌ってたくせに")

(……分かんないの? シューコのコピーのくせに)


 ……その反応はちょっと嫌いかも。


「"再考再考再考再考 己(おの)が最幸導いて"」


("……分からないわよ。違う人間なんだから分かんないことくらいあるわよ! アタシは……ファンの観る、完璧な絵毘シューコにしかなれない")


 私にだって分からないことはある。

 自分に向けられる感情、特に彼女のような自分と対面すると身構えてしまうタイプは。


(アンタが完璧な絵毘シューコ? 笑わせないで。絵毘シューコは最底辺の存在、ワースト1は1人だけよ)

("ワースト1ね。それこそアタシにぴったりじゃない? 散々炎上して誰からも認められない絵毘シューコ。アンタは……十分愛されてるでしょ?")

(……愛されたいならそう言いなさいよ)

("言ったら愛してくれんの? 絵毘シューコが異迷ツムリを? はっ笑わせないでよ")

(何笑ってんのよ。あのさ……今さら言わせないでよ)


「"ラン ラン ランデブーアタシずっと待ってたの!"」


(とっくに認めてるわよ……異迷ツムリのこと。仲間だって)


 それは……さすがに卑怯だろう。


("ちょっと、やめてよ……。ただでさえ大嫌いな異迷ツムリが、大好きな導化師アルマ(推し)を騙ってたのよ? 憎いでしょ? 許せないでしょ? だったら連れ戻そうとせずに見捨てればいいじゃない!")

(許してないわよ! 許せるわけないでしょ……ファンの気持ち踏みにじりやがって……!)


 異迷ツムリを愛してくれるのは嬉しい。

 でも、それは今更すぎるだろう。


「"目立つとこでさ マイク持ってさ"」


(でも……それだけじゃない。異迷ツムリが悪意で人傷つけるような奴じゃないことくらい分かってる)


 ダメだ。昂った感情が戻せそうにない。

 絵毘シューコ、感情豊かでコピーしやすく、それゆえこちらも感情移入しすぎてしまう。


「"推しへのアイ叫び散らかしてさ!"」


(誰彼構わず推して、推しのためならなんでもするって。アルマさんのためにしたことだって分かってるから……)


 これだから他人は嫌いなんだ。

 すぐに本心を隠す。これが本心だって確証も得られない。


「"潜海満開ランデブー 君が来るの待ってたよ!!"」


(心の底から嫌いになんて……なれるわけないでしょ……)


 やっぱり……他人を推すのなんてリスクでしかない。

 目を見開き、はっきりと伝える。


("…………絵毘シューコは、そんな事言わない")


「"触れたら終わりの地雷なの"

 "アイの愛はネイビー"」


("最底辺のステージで目立てるように周りを遠ざけて、ただ導化師アルマの救いを求めてるだけの地雷女……それが絵毘シューコよ")

(……そう。アンタにはそう見えてるのね……)


 彼女からしてみれば、告白を拒絶されたような心境なのだろうか。

 デレてみればこちらも心を開くと思ったか?

 甘いよ。愛は……日頃から積み重ねるものだ。


 もういい。彼女にはここで引導を渡そう。

 演技力、感情表現、目を引く愛嬌。

 この曲とも相性良さそうだね。

 ひょっとして、いつか一緒に歌いたかったのかな?

 じゃあ、叶えてあげるよ。


 だから、力を貸してくれる?

 …………ありがとう。

 

[Override(上書き) : "導化師アルマ"]


 最後は、あなたの推しで終わらせてあげる。


「"爆ぜたら終われる地獄なの"」

「……!! っ……」


《は? 声変わった?》

《おいおいおい……これアルさんの……》

《それシューコさんの目の前でやんの……? えげつな……》


 言葉を失った。戦意喪失、かな。

 最後は本物(アナタ)のパートだけど、代わりに歌ってあげるね。


「"アイの大罪は哀で曖昧な"――――」


 舞台の上は残酷だ。

 日頃どれだけ愛されていても、圧倒的実力の前では霞む。


《ほんまコイツ……マジでアルさんにしか聞こえないのさぁ……》

《こんな感じになるんだ。やっぱ再現力だけは本物なんだよな……》


 どんな嫌われ者も、実力さえあれば目を集めることができる。

 どんな正論も、異論に敗れることがある。


「"愛憎悪ネイビー"」


 舞台の上では、いつだって強い者が正しい。





◇




 ふらふらと歩くシューコとすれ違う。


「シューコさん? 大丈夫っスか……?」

「ダーク……ん。ありがと」



「やっぱり……シューコじゃダメみたいね。ごめん」


 憔悴した声で、弱音を吐いて謝る。

 珍しいなんてものじゃない。


「……シューコさん。1個だけお願いがあるっス」

「? 急になによ……アタシなんかにできることなら」


 完全に心が折れてしまっている。

 折られた? 誰に? それはもちろん……。


「助けてって。言ってくれないっスか?」

「は? なんでそんな……」


 突然の願いに反発しかけるシューコ。

 しかしすぐにダークの目が本気であることに気づき、顔色を変える。

 

「…………助けてくれんの? 全部」

「! もちろん! 自分に全部任せて……いや」


 初めて言葉にしてもらえた。

 自分の憧れた女性が助けを求めてくれた。


 その気持ちに答えたくて、ふと彼女の憧れを思い出した。

 ただ今は安心して欲しくて、その人の言葉を借りることにした。


「――――お任せあれっス!!」



 ………………。



 舞台の上に上がり、ダークは鏡に触れる。

 鏡を跨いで同じ世界に現れる二人目の久茂ダーク。


「皆さん。自分今から失礼なこと言うんスけど……ちょっとの間だけ許して欲しいッス」


 言いながらダーク本人は二人目に目もくれず、舞台の中央へと進む。

 そして大きく息を吸った。


「すぅ……行くぞぉ!! お前らぁ!!」


《!?!?》

《え、お、おう!?》

《声量えっぐ……w》


「コメントサボってんじゃねーぞお前らぁ!!」


《画面揺れてない? カメラ震わせるほどの音圧?w》

《……ああ!》

《おう!!》


「画面の前でも声出せお前らぁ!!」


《《《おう!!》》》


「一人の声に、負けてんじゃねーぞお前らぁっっ!!!」


《《《《《おう!!!》》》》》


 舞台を震撼させる声に呼応し、コメントも意志を一つにする。

 主役は誰か、はっきりさせる。

 そうなれば当然、もう一人は更なるアウェーを強いられる。


 まさか久茂ダークにしてやられるなんて。

 けど彼女のことだから舞台を盛り上げようとしただけだろう。

 ……そう思っていた。


「ツムリさん。いえ……今は久茂ダーク/レプリカっスかね」


 先ほど観客を熱狂させた者と思えないほどに冷静。

 まさか、意図してやったのか?

 相手の立場を悪くするような意地の悪い企み。

 それを普段天然で優しすぎる、あの久茂ダークが?


「覚悟しといた方が良いと思うっス。今日は……自分も本気で行くんで」


 明らかな敵意。

 久茂ダークの新たな一面。

 傷つけられた絵毘シューコを想い、闘志を燃やしている。


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