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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第160話 1周年ライブ:向出センカ

 4期生1周年ライブ、開始数分前。

 動画配信のみのライブに、10万人を超える人々が待機していた。


《もうすぐ、か》

《ここまでドキドキするライブ始めてだわ……色んな意味で》


 ある人は応援に。

 またある人は怖いもの見たさに。

 始まる前から様々な感情を向けられる。


 そして定刻、活動1年を迎えた少女たちの晴れ舞台が幕を開ける。


「――――1つ。一裂き歌声の刃」


 暗い空間の中、一人にスポットライトが当たる。

 見えたのは最初に声を上げた魔霧ティアの後ろ姿。

 続いて次のライトが点灯する。


「2つ。二色染め上げる筆」

「3つ。三度垂れ伸ばす糸」

「4つ。四海を超える足」


《おお……バチバチに決めてるなぁ》

《…………あれ? 5人目?》

《こ、こない……》


 4人へスポットライトが当たり、そこで止まる。

 不自然に空いたスペース、そこに注目が集まる中……暗転する。

 そして次の瞬間、舞台全体が照らされ、そこには一人だけが立っていた。


《!?》

《ん? 3人も消えた??》

《センカちゃんの正面姿と背景に後ろ姿……鏡か?》


 遂に見せられたステージの全貌。

 特に注目を浴びたのは、1人の少女とその背後に設置された巨大な鏡。


「……5つ目は、お預けダヨ」


 向出センカはカメラへ向き直りながら口を開いた。


《……ダメだったか》

《1周年で出番なし、ですか……》


「今日は4期生の晴れ舞台、見にきてくれてありがとナ。……先に謝っとく。たぶん皆の見たかった1周年ライブにはならナイ」


《そうね……できれば5人のステージが良かったよね》

《このテンションで4人の記念ライブできる……?》


 観客は早計する。

 センカの発言の意図から、異迷ツムリは今日ステージに現れないのだろうと。


「今日は今の……ありのままの4期生を見てもらうことになるからナ」


 それに構わず、センカは予定通りに動く。

 後ろを向き、鏡に映る自分の姿を見据えて歩き始める。


《? 後ろ向いてどこ行くんだ?》

《なんかのパフォーマンス?》


「……この先どうなるか、今日で決まる。どうか見届けてクレ」


 鏡の目前にたどり着く。

 向出センカは手を伸ばし、虚像の自分に触れる。

 手のひら同士が合わさる。


「向出センカ、1曲目――――」


 センカは一歩後ずさる。

 すると、同じく後退するはずの虚像は……前進した。


《おおおおおえええええ!?!?》

《そのための鏡か……!》


 手先、腕、肩、一歩進むごとに鏡から露出する。

 そして虚像は鏡面を跨ぎ、完全に自立した。

 センカ本人とは異なる動き、確かに意志を持っている。


《これ出てきたのって……聞くまでもないよな……》

《ありのままの4期生って、異迷ツムリとしては出ないってこと……?》


 一瞬で誰もが察した。

 その虚像の正体が何者か。


 楽曲のイントロが流れ始め、二人の向出センカは改めて正面を向く。

 そして第一声、同じ声のハモリを世界中に響かせる。


「"「ドコ見テンダヨ。Bark Out」"」




◇

◆




 ライブ開始直前。

 舞台裏で準備を終えて会話する4人。


「うっわ……待機人数とんでもないわね」

「それだけ楽しみにしてもらえてる……のとはちょっと違うっスよね……」

「ある期待されてるんでしょうね。純粋に祝いに来れる人なんて居ないだろうけど」


 コメントの様子から観客の反応を察する。


「もうライブ始まるっスけど……」

「うん……結局、会えなかった。リハーサルも」


 一番注目を浴びているであろう人物。

 4人もしばらく会えていなかった。


「一応個別でリハしたらしいケドナ。今も待機場所は別。自分が居ると気遣うだろうってサ」

「今更変な配慮してんじゃないわよ……喧嘩売ってる自覚あるってことでしょ? あんな構成変更押し付けてきて」


 会えていないが、代わりに連絡はあった。

 それは自分が出演する場面の要望。


「異迷ツムリのソロをなくして、4人のソロを全部デュオに変更……要はタイマンの果たし状ダナ」


 異迷ツムリの提案するデュオが何を意味するのか、全員察していた。

 自分を完全再現するつもりなのだろうと。


「自分達は歌う曲変わんないから大丈夫っスけど、ツムリさんの負担が……」

「レッスン室、ずっと借りてた」

「それだけ本気ってことよ。アイツはこのライブで……本物(アタシら)を越えようとしてきてる」


 前回の話し合いで見えた和解の兆候、彼女は考える時間が欲しいと言った。

 考えた結果、拒絶の意志を示しに来た。

 会話することを、異迷ツムリとして舞台に立つことを拒絶し、偽物として4人の舞台を奪いに来た。


「勝ち負けのペナルティがあるわけでもないガ……負ければツムリは今度こそ、本物を見限ってレプリカしか見なくなるだろうナ」


 ある意味これは異迷ツムリが提案してきた最後のチャンス。

 今後彼女が自発的に本物と向き合うことはもうないだろう。


「ダメ。そんなの絶対……。ティアが、ツムリの一番に、なる。から、勝つ」

「……今自分達にできるのは、全力を皆に見せることだけっス」

「勝手に勝負持ちかけてきて失望されるとかムカつかないわけないでしょ? わからせてやるわ」


 彼女の拒絶を、仲間は拒絶する。

 どちらも譲らない平行線。

 どちらの道が潰えるとしても、その終着は今日。


「っし。1周年ライブ、全力で行くゾ」


 決戦の舞台に、足を踏み入れる。




◆

◇



 異迷ツムリが提案したライブ構成。

 それは4人のソロを全てデュオにすること。


「"ハローあるいはコンニチワ"

 "相変わらずだな退屈ワールド"」


 4期生1周年ライブ、1曲目。

 楽曲:『夜襲復讐』

 歌唱:向出センカ&向出センカ(異迷ツムリ)


「"あのとき見ていたその平面"

 "あのとき聴いてた電子音"」

 "あのときオマエは何してた?"

 "苛立ちゼンマイ螺旋が疼く"」


《うお……マジでセンカちゃん2人動いてる》

《これどっちが本物だ……?》


「"ねじねじねじねじネジ巻いて"」

「"グルグルグルグル歯車回る"」


 2人のパフォーマンスを見て驚愕する観客。

 それについては向出センカ本人も同じ気持ちだった。


(オイオイオイ。この曲踊るの初めてだゾ? フリ覚えてきたっつっても初見でここまで合わせれるもんナノカ?)


 ライブでは初披露のオリジナル曲。

 レッスンを経て動きやすいように多少のカスタマイズもしたつもりだ。


(動きの癖まで把握してるっテカ……舐めやがっテ)


 全て見透かされているような感覚に苛立ちを覚える。

 まるで読みやすい単純な頭だと言われているようで。


「"さあさあ復讐決行だ"

 "ヤラレっぱなしはありえねー"」


(……オマエがセンカのこと分かるってんナラ、それはお互い様ダロ?)


 こちらの動きを、思考を、精巧に写したコピーだというのなら、それは自分にも読めるはず。

 もう一人の向出センカを注視する。


 足先から胴へ、細部まで見尽くす。

 そして首を通り、顔の一部で自分の視点は止まった。

 視線がぶつかり合う。

 それは彼女も自分の目を見ていたということを意味する。


("やっと見たナ? 向出センカ")

(へぇ……ヨウ。センカ/レプリカ。一応初対面か?)


 目は口ほどにモノを言う、そんな比喩が実現したような体験。

 相手も同じなのか、こちらの思考に明らかな反応を見せる。


(オマエ全然出てこないもんナ。他のレプリカに出番奪われてばっかで)

("オマエがパッとしないからダロ? ナンデモできるノニ全部2番手、宝の持ち腐れダナ?")

(うるせーヨ。気にしてることチクチクすんナ)


 煽り文句の応酬。

 目と表情だけでここまで伝わるのは「自分ならこう言いそうだ」という補完も働いているのか。


("ホントに気にしてんノカ?")

(ア? どういう意味ダ?)


 意味深な問いに分からないフリをする。

 けれど、心の奥底では理解している。

 

("オマエ、前より弱くなったヨ。――――科楽サイコと絡むようになってカラ")


 理解してなければ、彼女の思考を読み取れるわけがない。


(……煽ってんノ? ソレ)

("煽ってんダヨ。牙抜かれてすっかり子犬みたいになって。ママに認知されて嬉しくなっちまったカ? ツンデレマザコンキッズ")

(っっ……)


 誰にも触れられないように隠してきた部分を、自分自身に撫でられる。


「"ガキだと思って……侮るな"……!!」

「……"人間同士だ。わかったか?"

 "わかったら……早くコッチミロヨ。バーカ"」


《うお、ビビった……》

《迫力あるなぁ。アドリブ?》


 毛が逆立つような気持ちを歌声に乗せてしまう。

 対して呆れたように歌うレプリカ。


("あんま熱くなるナヨ。らしくねーゾ?")

(テメー……自分のコピーってのが余計に腹立つナ……。ちょっと前の尖ってたセンカ見てる気分ダヨ)

("配信者なんて尖ってなんぼダロ? 変わることが必ずしも良いこととは限らナイ。コメント見てミロヨ")


《初めて見たなこんなセンカちゃん。今の本人?》

《らしくないよね。偽物のアドリブ? だったら普通に解釈違いだが?》


(っ……なるほどナ……)


 第三者の反応で正しさを証明する。

 これを見せるために自分を煽ったのか。


("今の大半のファンは昔のセンカを見て推し始めてくれたんダロ?")


 なんの反論も思い浮かばず、ただ相手の想いだけが伝わってくる。


「"アフタースクールのネバーランド"

 "子供の本分遊びの時間だろ"

 "ノンデリカシーなグロウンアップス"

 "大人の余裕でたまには付き合えよ"」


("自分を信じきれず、他人に絆されたのが今のオマエダ)


 ここまでのやり取り、自分の怒りを誘って観客の反応に繋げた。

 相手だけでなく周りの人々全てを誘導する、このやり口には見覚えがある。

 ……導化師アルマの導き。


「"エネミーロールのホームワーク"

 "責任放棄の言い訳はやめろよ"

 "デイリークエスト無限リポップ"

 "合理的逃避だ検討してくれよ?"」


(ケド、ファンは本当にその変化を喜んでるカ? どうせ全肯定オタクの反応だけ見て安心してたんだろーケド")


 心の何処かで未だに異迷ツムリを侮っていた。

 彼女には半年間、導化師アルマを務めた実績があるというのに。


「"拝啓老害覚えとけ"

 "半端な覚悟で関わんな"」

「"人生見届ける準備はできたか?"

 "特等席を用意してやる"

 "だから――――"」


(変わらなくたって向出センカはもっとヤレル。どんなジャンルでも、誰にでも勝てる。それだけの実力がアル")


 無駄に弁の立つ子供に言い負かされることがどれだけ腹立たしいことか、今更ながらに実感する。

 ああ、端から見た自分はこんなにも生意気なのか。


「"二度とアッチミンナヨ。バーカ"」


("――――向出センカを、舐めるナ")


 持ち前の高いスペックを活かし、マイペースに我が道を行く。

 向出センカのファンは、そんな自分の一面に惹かれた人が多い自覚はある。

 そして、今この場では……レプリカが上手だと証明されてしまった。




 ………………。




「弱くなった、カ……ぐうの音も出んナ」


 舞台を降り、反省するように呟く。

 負けた苛立ちよりも、未熟な自分への失望が大きい。

 そんな失意の中、すれ違いざまに声をかける者が1人。


「納得させられてんじゃないわよ。らしくない」


 次の出番、異迷ツムリと共に歌う2人目の4期生メンバー。


「シューコか……油断すんなヨ。飲まれるゾ」

「わかってるわよ。アンタ達目合わせすぎ。ライブの自覚あんの?」

「アー……途中から忘れかけてたナ」

「……ホントに珍しいわね。センカがここまでポンコツになるなんて」

「やめろヨ。……今は反論する気力もないんダ」 


 そう言い残して舞台を離れるセンカ。

 余程精神的に応える何かが舞台の上であったのか。

 それこそ異迷ツムリと通じ合っていたようだから、何か伝えられたのか。


「……上等よ。何言われようとシューコは揺らがない。最底辺らしく、地に足つけて語ってやるわ」


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