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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第159話 最後の分かれ道

 異迷ツムリに拒まれた。

 側で支えると言っておきながら、帰れと言われ素直に退いてしまった。

 

 雨の降る中、傘を開く気にもなれずただ歩いた。

 家まで数時間。ただひたすら水滴に打たれながら歩いた。

 散々苦しむ姿を見ておいて、何もできない自分に嫌気が差す。


 どれだけ考えても答えは出ない。

 自分が彼女にどう声をかけるべきだったのか……。


「…………ただいま」


 ただなんとなく声を出したかっただけ。

 暗い玄関に1人ずぶ濡れ、返事なんてあるはずもない。

 自分を情けない人間だと思いたくて、そうした。


 このままだと廊下を濡らしてしまうな、などとどうでもいいことを考えながら下を見て歩く。


「おかえり」


 不意に声をかけられ固まる。

 ふわりと頭にタオルをかけられ視界がいっそう暗くなる。

 明かりも点いていない空間、そこにいたのは……。


「姉さん? なんで……」

「そろそろ帰ってくる頃だと思ってね。解斗さんに話聞いて大体把握してる」

「……今日の行き先、あの人にも話してないぞ。どう予測したら今帰るってわかるんだよ……」


 相変わらず人並み外れた先読みにため息を吐くことしか。


「シャワー浴びてきなよ。温かいスープでも入れて待ってるからさ」


 優しい言葉に見せかけ逃げ道を塞いでくる。

 暗にこう言っているのだろう。

 落ち着いたら話を聞かせろ、と。

 この人は、1人で落ち込む時間すら与えてくれない。


 ……………………。


「それでどうだった? ツムりんの様子」


 遠慮なしに直球で聞いてくる。

 でも今はその方がありがたい。

 この姉と腹の探り合いなんてしてる余裕、今はないから。


「……どうだろうな。僕なんかにあの子の考えなんて分かるはずもない……」

「ふーん。彰が分からないなら誰にも分からないね。あの子、1人ぼっちになっちゃうけどいいの?」


 分からない、そんな安易な逃げを許してくれない。

 忘れようとしていた責任を思い出させてくる。


「聞かせてよ。彰の思う、異迷ツムリって女の子のこと」


 優しく寄り添うような言葉。

 彼女が『彰』と呼ぶときは冗談を言わないと知っている。


「……そうだよ。僕が見てきたのは異迷ツムリだ。異迷ツムリのことなら誰より知ってる。でも……あの子が今何者なのか、あの子自身分かってないみたいなんだ」


 思ったことを全て話してしまう。

 姉の口が上手いのか、それとも自分の口が緩くなっているのか。


「迷子に道を教えてあげるのも大人の役目だと思うよ。あの子は……間宵紬(こども)のまま成長できないんだから」

「そんなの……それが分かればとっくに教えてる!! 僕は……あの子の言葉通りに動くことしかできない……」


 ツムリに突き放され、情緒は不安定なまま。

 自分に自信を持てず……他人を頼ってしまう。


「恥を偲んで頼む……姉さん。もう一度導化師としてあの子を導いてくれないか……?」


 姉には一度裏切られている。

 二度と信じるものか、そう思っていたくらいなのに。

 結局頼ってしまう。縋ってしまう。


「導化師に戻っても無駄だよ。あの子にとっての導化師はもう私じゃない。あの子自身の内側に居るから……私の手なんて絶対に取ってくれない」


 首を横に振って否定する。

 姉がここまで強く断言するなら本当に可能性はないのだろう。

 そんな嫌な説得力を感じてしまう。


「でも、舞台は整えることならできる。台本と配役も考えてある。ヒロインのアイドルを助ける主役は――――マネージャーしかいないと思ってるよ。彰」


 姉にできないことを、自分ならできると。

 言いたいことが理解できないわけじゃない。

 けれど、2つ返事で了承できることでもない。


「こんな状況作った奴の台本信じて、重要な役目を引き受けろって言うのか?」

「あー……耳が痛いね。何言っても言い訳にしかならないし……でも、一応聞いてくれる?」


 姉は苦笑しながら、説得するための言い訳を始めた。


「私が最初にツムりんを見たとき、全部嘘に見えちゃったんだ。異迷ツムリとして幸せそうにしてるのも演技に見えて、できれば本当の意味で幸せになって欲しいって思って。その結果……導化師の力でツムりんの道を歪めちゃった。だからこうなったのも全部私のせい。これで助けられなきゃ、私は一生私を恨むことになる」


 懺悔でもするかのように自戒する。

 いつもなら絶対に語らないような行動理由、本当に後悔しているということなのか。


「結果的に本当のツムりん……間宵結ちゃんは出てきてくれた。あの子見て分かったよ。ツムりんが幸せになるには……紬ちゃんと結ちゃん、2人一緒に幸せにしなきゃいけないんだって」


 その結論だけは同意見だ。

 昨日の異迷ツムリは間宵紬を愛してもらおうと必死になっていたが、いつもの彼女は本当にそんなことを求めているのだろうか?

 2人の望むものが違う以上、2人とも納得できる道を探さなければならない。


「そのために力を貸して欲しいんだけど……どうかな」


 懇願するような目線。

 そんな姉の姿を見るのは初めてで、だからこそ本心が見えた気がした。


「本当に……僕にできるのか? 僕は……いつも大事なときに、かける言葉を見つけられない」

「できるよ。私の……元導化師の、自慢の弟を信じて」


 あの姉が頼ってくれている。

 どれだけ追い込まれても、何も言わず無敵の導化師を装ってきた姉が。

 昔はかける言葉も見つからなかった。

 ……いや、ずっと見つけられないフリをしていた。

 でも今は違う。

 ツムリを救うことが、姉の救いにもなる。


「……教えてくれ。その台本とやら」

「! ……ホントにいいの?」

「勘違いするな。まずは話だけ、やるやらないは自分で決める。だから……僕の責任まで奪えると思うな」


 今まで自分は責任を取ると言っておきながら、人の人生を左右する選択から逃げてきた。

 失敗することを恐れて何が責任か。

 見つけた言葉を口にできなかったのもただの臆病だ。


「腹括るよ。異迷ツムリのマネージャーとして――――ツムリは僕が幸せにする」


 もう逃げない。

 あの子の人生の責任を取る。

 その決意を宣言にした。




◇




 失敗した。

 間宵紬を絶対に裏切らない存在。

 その役目として四条彰は確かに適任だった。

 責任感という強い鎖で、彼は自ら縛られに来たのたから。


 でも、一つだけ条件を満たせなかった。

 アイドルを辞める。それだけはできない。

 紬はアイドルとして幸せになることを望んだのだから。


 どうすればいい?

 紬にもう一度立ち上がってもらうには。

 紬を元気づける方法、紬が好きなものは……。


「…………推し」


 彼女の今の推しは、絶対に裏切らないレプリカ。

 協力してくれるだろうか?

 ……いや、信用できない。

 勝手に体の負担を心配して、また消えようとするかもしれない。

 ならやっぱり……私が演じるしかない。


 レプリカの輝く姿を紬に見せるために。

 そのための舞台は……もうすぐある。


「1周年ライブ。レプリカを輝かせるには……ライブ構成変える? 異迷ツムリの出演を餌にすればいけるはず……」


 思案し、1人呟く。

 もう誰の声も届かない。

 同じ世界に住む、想い人の声さえも。


「お姉ちゃん……」


 間宵紬、その偽物。

 彼女こそ間宵結を辞めた少女の生きる理由。


「私は……どうすればぁ……」


 必死な彼女を見て、何かできることはないかと。

 でも間宵紬である以上、異迷ツムリにもなれない。

 間宵紬を辞めれば彼女は生きられない。

 自分は……このまま何もできないのか。


「ない、ですよねぇ。私なんかにできることなんてぇ……」

「それは違うよ」


 独り言に反応する者がいた。

 この世界で意識があるのは、この世界の主と間宵紬に加えてもう一人。


「あの子を助けられるのは君だけだよ。紬ちゃん」

「アルマさん……?」


 導化師アルマ/レプリカ。

 間宵紬を支える存在として起きているように命じられた存在。


「紬ちゃんが望めばあの子は全部その通りにする。だから、あとは君が決断するだけなんだよ。―――間宵紬はどうなりたい?」

「私がどうなりたいか……ですかぁ?」


 導化師は道を指し示す。

 本物と思い込もうとしている偽物と、名を捨てた本物。

 歪な迷子の姉妹を導くために。


「ライブまでに考えといてね。たぶん、嫌でも答えを出さなきゃいけなくなるから」

「え? それって……」

「深い意味はないよ。残り数日、後悔しないようにね」

「…………はい」


 それぞれが思惑を巡らす。

 理想は同じでも、その道は異なるものばかり。


 ここが最後の分岐路。

 迷っている時間はあっという間に過ぎるもので。

 刻一刻と決断の日……4期生1周年ライブが迫る。


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