第155話 センカの提案
四条ルナが束の間の休息に入ってもやることは変わらない。
向出センカらの目的は大きく2つ。
異迷ツムリの説得と、会員制サイト『ワンダーランド』に潜む異迷ツムリを狙った愉快犯の対処。
それぞれ個別で行動していた折、センカに一本の連絡が入った。
時間に猶予がないとはいえ、目的と無関係とも言えない者からの呼び出し。
センカはそれに応じ、指定の場所に向かった。
「そっちから声かけて来るとは思わなかったヨ……綾女と沙織、だったカ?」
「来てくれてありがとうございます」
「こういうのは直接会って聞いた方がいいと思ってね」
間宵紬のアイドルチーム『スターライト』のメンバー2人、日野綾女と月島沙織。
前回はセンカから接触し話を聞いたが、今回は相手から声をかけられている。
「『間宵紬』の偽物の話は、前にしましたね?」
「聞いたナ。その偽物がセンカの知り合いだろうってコトも」
「その知り合いって……センカさんの同期、異迷ツムリさんですか?」
会話の席について早々に核心を突く質問。
その答えにセンカは迷う。
(コイツらもあのアイドル事務所の一員……ワンダーランドのリーク容疑者カ。下手な情報は渡せんナ)
変に怪しまれないよう、悩みすぎず無難な回答をする。
「スマン。センカの口からは教えられんヨ。他人の個人情報だしナ」
「あっこちらこそ配慮不足ですみません。じゃあ会わせて貰うことも……?」
「難しいナー。そもそもこっちも今連絡スルーされててサ」
「そうなの? 同期なのに?」
「異迷ツムリのこと知ってるなら分かるダロ? アイツが今難しい状況ってコト」
「まあ……確かにね」
これは完全に嘘というわけでもない。
正確に言えばレスポンスが遅く、昨日送ったメッセージが未だに既読にすらならない状況だった。
警戒を怠らず、今度はこちらから探りを入れる。
「なんで急にツムリのこと調べて……というより、間宵紬のこと調べてるのカ?」
「両方ですね。最近異迷ツムリって子の配信で……荒らしコメントって言うんですかね? 紬ちゃんの名前が出たって聞いたので」
「アレかー。そんな話題になってんノ?」
「いえ? 私達は聞き馴染みある名前だったので驚きましたが、世間的にはそんなにですかね?」
「フーン」
平静を装ったが、内心かなり焦っていた。
まさか相手から荒らしコメントの件に言及してくると思っていなかったから。
「それに前センカちゃんと会ったとき、あの子のマネージャーがどうこうって話ししてたからさー。点と点が繋がって今に至るって感じ?」
状況証拠を一つ一つ提示し、異迷ツムリが間宵紬である可能性を詰めてくる。
その答えを確認するために、自分の反応を伺われているようだ。
不快に思ったセンカは少し乱暴に返した。
「ツムリに会いたいらしいケド、会ってどうすんノ?」
「え? いやー……ちょっとお話聞きたいなって?」
「こちらも少々込み入った事情がありまして……」
急に口籠る二人を見て、益々疑念を抱く。
(なーんか隠してんナ。まさか本当にコイツらが……?)
間宵紬を名乗る偽物に対して、二人が良くない感情を持っていることは前回の話し合いから察している。
となればリークの犯人であろうがなかろうが、ツムリに合わせるのは危険だ。
精神不安定な彼女にとっては劇薬、何が起こるか想像もつかない。
「……別に話さなくても良いケド、最初に言った通りセンカは協力できないヨ。詫びに他の相談ならまた聞くからサ」
「はい……今日はありがとうございました」
「こっちこそ無理言ってごめんねー」
こちらの断りに思いの外あっさり引き下がる二人。
互いに何も得られないままその日は別れた。
結局相手の目的も読めず、ただ悶々としただけ。
ひとまず考えても仕方ないと、センカは次の予定地に赴くことにした。
◇
「告知配信するゾー」
「「「おー……」」」
「分かりやすくテンションひっくいナー。マー気持ちは分かるケド」
その夕方、センカ主導の配信が開始した。
内容は告知、出演メンバーは4期生全員……のはずだった。
「なんせ折角の4期生重大告知配信なのに……1人足りてないからナ」
4期生最後の一人、異迷ツムリ。
結局今日1日連絡がつかず、やむを得ず4人で始めることとなった。
「これ以上引っ張って盛り上げる自信もないしサクッと言うけど。お察しの通り1周年記念ライブの告知ダ」
「ちょうど来週、配信限定ライブ、だね」
「参加メンバーは……当日のお楽しみってことで。ゲストも、4期生も……ね」
《参加すら危ういのか……》
《ツムリ……俺、お前の晴れ舞台も見たいよ……》
「心配すんナ。ツムリも絶対出させるからサ。……どんな形になってもナ」
ファンを安心させようと声掛けするが、不確実なことばかりで気休めしか言えない。
当然彼らが求めているのは『異迷ツムリ』の出演だろう。
……出てもらえるのだろうか。
「そいえば。アルちゃん先輩の10周年以降ライブ出てないのセンカくらいかと思ってたケド、ツムリもなのカ?」
《そうね。異迷ツムリとしてはね》
《バンドフェスで一応出てるか……導化師が》
《ああ……》
バンドフェス中も導化師アルマの中身が異迷ツムリだったことは既に周知。
やはりこの手の話題は名前を出すだけで嫌な記憶が連想されてしまうようだ。
この暗い空気をどうしたものかと悩んでいると、久茂ダークが割り込んだ。
「――――自分もっスよ。ライブ出てないの」
《ん? ダークくんも?》
《いや出てたよね? バンドフェスで》
彼女が何を言いたいのか、センカもすぐ察した。
決してノリと勢いで話すような内容ではない。
けれど表情を見て、ダークの覚悟は十分に伝わってきた。
「ダーク……あんた……」
「……この場を借りて謝らせて欲しいっス。バンドフェスのときのこと」
シューコの声を遮りダークは言う。
今まで話せなかった、自分史上最大の隠し事。
「自分の出番は朝の部のドラム担当と、昼の部の新曲ソロお披露目がある予定だったんス。けど……自分はあの日、急用で昼の部に出られなくなりました」
《出られなかった? でも出てたよね?》
《おいおいおい……このパターン見覚えしかないぞ》
《またですか……?》
「急に自分が居なくなったせいで時間ギリギリの対応になってしまって、その代わりは……ツムリさんが務めてくれたっス」
ようやく真実を告げることができたダークは、少し胸を撫で下ろす。
しかし視聴者らにとっては心中穏やかではなく、その気配を感じ取ったダークは言い訳するように謝罪する。
「本当に申し訳ないっス。自分のせいであんな事態になって……でも、自分にとって本当に大事な用で……。ツムリさんはそれをフォローしてくれただけで……」
《そう……かぁ……》
《ならしょうがないね……とは言えないよ……さすがに》
《……ごめん。感動返して欲しい》
流れ続ける不満のコメント。
謝罪するしかないダークは言葉に悩み、一瞬黙る。
すると、メンバーの一人が異なる考えを唱え始める。
「半端なフォローするくらいなら、誠心誠意謝って中止するべきだったのよ。……なんて、その場に居なかったシューコ達が言えた義理じゃないけど。でも……こんな形で騙されて嬉しい人なんて居ないから」
謝るだけだったダークに対し、視聴者に寄り添った意見のシューコ。
おかげでコメントの勢いも少しずつ収まってゆく。
「アンタもなんでバカ正直に言っちゃうかな。知らない方が幸せなことだってあるのに」
「それ言ったら黙ってるのも不誠実じゃないっスか。ツムリさんのこと言えなくなるっスよ」
「む、それもそうか……この際だから言うけど。ダークはあの日私を助けに来てくれたの。実際私もメンタルギリだったし……正直救われた。あれがなかったら今も病んでたかもね。だからこの件は私も同罪よ。……ごめんなさい」
「シューコさん……」
《……確かに。バンドフェスあたりのシューコさん見ててしんどかったし》
《うーん……てぇてぇけど状況が状況なだけにうーん……》
《結局のところアルさんのハイエンドピエロ入れ替わりと一緒か……出演者が起こしたトラブルのフォローして、ツムリも善意なんだろうけどなぁ……》
「許して欲しいなんて言えない。……けどその分、1周年ライブで最高のパフォーマンスするから。ダークも、私も」
「! 自分も、今自分にできる全身全霊をお見せするっス! だからどうか、見に来てくれると嬉しいっス……!!」
過去は変えられない。
今できるのは失敗を誠心誠意謝罪すること。
そして、それを埋め合わせできるように全力を尽くすこと。
きっとそれで全員が納得できるわけじゃない。
それでも、ファンで居続けくれる人もいる。
《まあ、見ない選択肢なんて最初からないけどね》
《もう嘘は嫌だよ?》
《素直には楽しめないかもしれないけど……どんなライブでも見届ける》
「皆さん……! ありがとう……ホントにありがとうございます!!」
「ごめん、なさい。こんな形で、1周年、迎えちゃって」
「……ありがと。こんな私達についてきてくれて」
精一杯の謝意を伝え、ファンの気持ちに報いる。
今は言葉でしか返せないけど、この先魅せる機会はいくらでもある。
その第一歩が……もうすぐ始まる。
「――――1週間後、楽しみにしててクレ。そこで全部決着つけるカラ」
◇
「……デビューしてまだ1年だってのに、騒がせすぎね」
「ナ。たぶん過去最低の1周年になるヨ」
配信終了後、4人は疲弊した様子で振り返った。
自分達のファンには多くの心労を与えているだろうと。
反省しながら今後について話し合う。
「でもセンカさん。全部決着つけるって……ツムリさんのこと含めてっスか?」
「それナー。勢いで言っちまったケドまだ考えまとまってないヨ」
アルマが言っていた通り、次のライブが最大のチャンスで、最後のチャンスかもしれない。
それを意図しての発言だったが、現状を整理しても良いアプローチは中々思いつかなかった。
「お前ら3人の作戦一通り終わったケド、結果ハ?」
「うーん……1歩進んで、2歩下がった?」
「同意見だヨ。少しだけツムリの考えは理解できたケド、あのときより関係拗らせちまったナ」
3人それぞれにアプローチして、結果その目的果たせなかった。
「ダークとシューコは喧嘩してたみたいダガ、そっちは解決したのカ?」
「…………」
「シューコ、目反らした。ダメそう?」
「自分は全然気にしてないっスよ? シューコさんに避けられてるだけっス」
「ダローと思ったヨ。相変わらず女々しいナ」
「っさいわね……パなすわよ」
「暴言にキレがねーゾ格ゲー脳」
しおらしくしていたシューコだったが、散々な言われように我慢の限界を迎えた。
「あーはいはい。ダークにデカい口叩いたクセに負けて帰ってきましたけど? 散々異迷ツムリにボロクソ言っといて何一つ勝てないクソ雑魚女ですけど? それが何か!?」
「わかりやすくヘラってるっスねぇ」
「何よダーク……さっきの告白といい、やけに吹っ切れてるじゃない。余裕あるなら少しくらい慰めなさいよ……」
「えーどうせ意味ないっスよ」
「あん? どういう意味よこら」
珍しく塩対応なダーク。
余裕のないシューコは柄悪く絡んだ。
「だってシューコさん、本当に悩んでるときにアレコレ言われるの嫌いじゃないっスか。『他人事だと思って』、『アンタにシューコの何がわかんのよ?』って」
「む……」
「でも最終的には自己解決しちゃう。自分の知ってる絵毘シューコはそういう面倒くさくてカッコいい人っスよ。ね? 自称最底辺VTuberさん?」
そのダークの指摘に納得してしまい、反応に戸惑ってしまった。
「……アンタ、そういう煽りできんのね。ムカッ腹より先に感心が来たわ」
「毎日シューコさんから学ばせて貰ってるっスよ」
「ほんと図太くなって……」
「ナイスメンケアだヨ。さすが同居人」
「そんなことないっスよ。ちょっと前まで潰すとか物騒な発言に困ってたんスけど……やっぱりシューコさんは変わらず優しいままだって教えてもらえたんで」
本当に自分のことをよく理解している、そう感じていたところで2人の会話を聞いて、気になる点があった。
「なーんか人伝に聞いたような言い方……アンタ、ひょっとしてジュビアさんからなんか吹き込まれた?」
「うぇっ!? い、いやーなにも? 口止めとかされてないっスよ?」
「あんのブリっ子スピーカー女……今度ジュビサタリーク配信してやる……」
珍しく聡い発言をしていたダーク、その原因を察し恨むシューコ。
そんなやりとりで心を落ち着けながら、状況整理に戻る。
「結局、最初から本音で話し合えば解決できた問題だったわけダナ」
「はいはい。シューコが全部悪うございましたー」
「ウン……やっぱ腹割って話し合うしかないよナ」
「? センカ、何か思いついた?」
シューコとダークはただのすれ違いだった。
話し合いで解決できることもあるというのに、自分達4期生は未だに話し合いの席すら設けていないと。
「ウシ。今から行こーゼ」
「行くって、どこに?」
唐突に立ち上がり、3人に提案する。
今話し合ってるのも1周年ライブと、ここに居ない同期のため。
「決まってんダロ? 今日は告知配信と、ライブのすり合わせで集まってんだカラ。――――もう一人の参加メンバー、今から迎えに行くゾ」
連絡がつかないのなら、直接会いに行ってしまえばいい。




