第154話 アルマの協力者
「――――と、現状はそんな感じかな」
四条ルナはいつものメンバーを集め、シューコらの配信で確認した内容を話す。
「レプリカの説得がダメになったんナラ、考えてた作戦全部パーになったナ」
「また考え直さないとね。流石に今のツムりんの行動は読めないけど……でも、やっと本当のツムりんを引き出せた。それだけは収穫かな?」
「本当のツムリ?」
「あ、なんでもなーいこっちの話♪」
センカの言葉に頷き、自信なさそうに答えるルナ。
異迷ツムリは自我を保ったままレプリカの能力を引き出した。
彼女の独り言と照らし合わせても、今後レプリカの人格は表に出て来ないかもしれない。
「4期生の1周年ライブまで時間もない。ツムりんにアプローチする最大のチャンスだけど、最後のチャンスとも言えるかもね。ここで伝わらなければきっともう……」
1周年ライブ。
今まで参加することはあれど主催したことはない、4期生のための記念ライブ。
VTuberとしての魅力を最大限伝える絶好の機会。
それはきっと、レプリカの魅力を伝えようとしている異迷ツムリも同じように……。
「あら。アルマにしては弱気ですわね。疲れてますの?」
「いやいや。私にだって分からないことくらいあるからさ。そんな疲れなんて……」
ロカの指摘を否定しようとするアルマ。
その言葉を遮るように、突然着信の音が鳴り響いた。
音源はアルマの懐から。
「電話、出ませんの?」
「あー……正直出たくない電話だけど……じゃあちょっと失礼して」
画面を見て嫌そうな顔をしながらも、渋々電話に応答した。
「もしもーし。……わかってるって。これ終わったら休むからー。……えー? はーい……じゃあお迎えお願いします」
子供のように駄々をこね、不貞腐れたように了承して電話を切る。
それを聞いていたロカもため息を吐いた。
「やっぱり休んでませんのね。まったく、貴女は相変わらず……」
「ま、まあまあ。今ウチの優秀な助手さんにも怒られたばっかりだからさ。お説教は勘弁してもらえないかなー……?」
「はぁ……今回はそちらに任せるとしましょう」
ロカだけが全て理解しているように話す。
それにセンカが疑問を持った。
「迎え? 助手って誰のことダ?」
「ああ。それは……ちょうど来たみたいですわね」
ロカは答える前に扉の外の気配を感じ取り、訪問者を迎え入れた。
「お待たせアルマ。今日こそスケジュール守ってもらうわよ。こっちは休みの時間まで組み込んでるんだから」
「げ、マネさん……もうちょっとゆっくりでよかったのにー……」
四条ルナのスケジュールを管理しているような口ぶりの女性。
それはかつて導化師アルマのマネージャーを担当していた人物。
ルナは彼女に懇願し始めた。
「あとちょっとだけ! まだ引き継ぎも終わってないしさ?」
「不要ですの。最低限やるべきことは把握してますし、1日くらい貴女が居なくともなんとでもなりますわ。無月さん。さっさとそれ回収してくださいませ」
「だそうよ。ほら、おとなしく車乗りなさい」
「そんなー……」
ルナを休ませようとロカも援護射撃を送り、ようやく大人しく言うことを聞くようになる。
そうして連行されてゆくのを見て、センカが聞いた。
「アルちゃん先輩平気そうに見えたけど、そんなに疲れてたのカ?」
「4徹して頭も体も働かせっぱなしの人間が平気なわけないでしょう」
「アー……いつもの1人で抱え込む悪い癖デスね。人の相談は聞く癖に自分は誰にも相談シナイ……」
ロカと同じく長い付き合いのサイコも同調する。
「導化師を辞めるって言っても、結局根っこは変わりませんわね。導き手は弱音を吐かない。不安にさせない。自分の見せたい仮面だけを見せる。本当に……それを見破る我々の苦労も知って欲しいですわ」
ロカは呆れたように言いながらも少し嬉しそうだった。
導化師の一面がまだ残っていることに、導化師アルマ一番の理解者である彼女も少なからず思うところがあるのかもしれない。
それだけ慕われているアルマの存在を目の当たりにして、また一人の少女が触発される。
「……了解だヨ。とりあえずセンカの方で作戦練り直してみるから時間もらえるカ?」
「いいですわよ。随分やる気ですわね?」
「別に。元はと言えば同期の問題だシ。それこそ1周年ライブなんて自分ラで考えるべきダロ?」
尤もらしいことを言って自分の責務だとアピールする。
アルマが休んでいる間、自分が彼女の代わりを務めるのだと心の内で意気込みながら。
「センカ達だけでも余裕でやっていけるって見せつけて、導化師様に引導渡してやんヨ」
「へえ……良い気概ですわね。もちろん協力しますわ」
「いくらでもコキ使ってクダサイ!」
口先ばかりでいつまでも導化師を辞められないアルマ。
きっと自分達が不甲斐ないままでは安心できないのだろう。
それを自覚し、改めて3人は想いを示し合わせる。
◇
自宅に居た四条彰のもとに一本の連絡があった。
思いも寄らない、今後やり取りすることもないだろうと思っていた人物から。
呆気に取られながらも、メッセージには家まで来る旨が記載されていたため待機していた。
やがてインターホンが鳴り、その人を出迎える。
「お久しぶりですね……無月さん」
導化師アルマの元マネージャー、無月。
かつて異迷ツムリを共にマネジメントしていたが、あまり良い思い出とは言えない。
そんな感情が顔に出ていたのだろう。
「そんな身構えなくてもいいじゃない。今日は貴女の姉を届けに来ただけよ」
「姉さんを? って、人様の車でよくもスヤスヤと……」
「いいのよ。私が寝ろって言ったんだから。それより部屋まで運ぶの手伝って貰える?」
状況から見て姉が迷惑をかけているのだろうと、申し訳なさが勝ち彼女の指示に従うことにした。
姉を背負って部屋に向かう。
配信部屋とは異なる寝室。
滅多に入ることはないが、本人の了承は確認できないので仕方なく無断で入る。
「うわ……なんだこの部屋。エナドリのゴミの山と……壁一面に手書きメモ?」
「ここまでの惨状は久々ね。人心分析と行動予測。今回は異迷ツムリ1人とはいえ、20人近い人格にもなると仕方ないのかしら」
お世辞にも綺麗とは呼べない、姉の苦悩が伺える部屋。
彼女の隠していた裏の顔を垣間見ているようで、少し申し訳なくなる。
ひとまず姉をベッドに寝かせ、改めて無月に聞いた。
「どうして無月さんが姉のサポートを?」
「そんなの、アルマから頼まれたからに決まってるじゃない。『導化師アルマの過密スケジュールを管理できるくらい優秀で、馬車馬のように雑に扱っても心が痛まない助手を探してる』って。とんでもない口説き文句よね」
「それはまたクリティカルな人材募集で……よく応じましたね」
「それは……私も物足りなかったのかもね。あの子のマネージャーやってた頃は息つく暇もないくらい忙しくて……毎日充実していたから」
どうやら姉の方から誘って今に至るらしい。
過去の遺恨などはないのか、少し気になったが両者が納得しているのなら口を挟むべきではないだろう。
「なら今は? 満足できてますか?」
「それはもう昔の比じゃないくらいに。限界ギリギリまでタスク抱える癖は相変わらずだし、使える人材フル活用してるのがなおタチの悪いこと。これ以上頼れるところなんてないって言ってるようなものなんだから。しかも仕事振る相手を選定するタスクまで重すぎるのよ。その人の能力、適性、相性、トラブルの可能性も加味しつつアフターフォローまで完璧にこなそうとして……」
「おお……」
姉に振り回され続け、鬱憤も溜まっているらしい。
饒舌に愚痴を溢し、けれどその顔はどこか嬉しそうに見える。
「あの子の限界なんて私が一番把握してるわ。4日間寝ずの活動……ここで休まないと間違いなく潰れる」
「……それが分かっててなんで10周年ライブで潰れるまで働かせたんだこの人……?」
「それはあの子が!! ……いえ、今は反省してる。あの頃は膨大なタスクを熟すことだけ考えていたけれど、私が寄り添えていれば未然に防げたことだって」
我慢できず漏れ出てしまった指摘。
無月は反論しかけたが、すぐに取り下げた。
「まだ恨んでる? ライブの導化師アルマとの入れ替わりさえなければ、こんなことにならなかったんじゃないかって」
「っ……」
「まあ。そう思うのも無理ないわね」
過去のことを言っても問題が解決するわけではない。
しかし、問われてしまうと否定しきれない。
それに対し無月は続けた。
「私が言えたことじゃないかもしれないけれど、あれはきっかけに過ぎないと思うわ。アルマは……異迷ツムリがデビューした日からずっと、こうなることを予見していた」
「!? 最初から……ですか」
姉が導化師を退こうとしたのはライブでの入れ替わり後、手紙で伝えられたことだった。
しかし突発的な行動ではなく、ずっと問題視していたことだと無月は言う。
「コピーが完璧になるほどオリジナルの立場を奪う存在。出番を奪ってメンバーを傷つけて、散々不和をもたらした挙句最後は多重の人格に紛れて己を見失い『異迷ツムリ』の終わりを迎える。それがアルマの想定した最悪のバッドエンド。だから……全ての人格が定着する前に行動した」
あまりにも先を見据えすぎていて理解の範疇を超える。
妄想逞しい、と言ってしまえばそれまでだ。
しかしそれが導化師アルマの予見ともなるとバカにできなくなる。
「あの子は全部を救い導こうとしてしまった。灰羽メイも、異迷ツムリも、痛み無くして救えない者まで全部。……案外異迷ツムリと似てるのかもね。好きな人全員を諦められない、浮気性のオタク同士」
「ああ……それは確かに」
ブイアクトの導き手として10年、多くのタレントを導く姿を見てきた。
その際アルマもまた、彼女らのファンとして魅力に気づかせ、自信を与えてきた。
全員推しだから永遠にしたいと願うツムリに重なるモノを感じてしまう。
「……余談だけど。今これを話してるのもアルマの策略の一つよ」
「……ん? それはどういう……」
無月の説明に納得しかけていると、彼女は理解しがたい、しかし聞き捨てならない発言をした。
「『アッキーの同情引いて協力してもらいたくて♪ あ、全部本心だから誤解しないでね!』って」
「台無しだよ……なんでそれ伝えちゃうんだよ……」
「貴方は姉にだけ疑り深いから打算も全部伝えた方が話は早いはず。とも言っていたわ」
「そういうとこだよ……疑いたくもなるだろそんなこと言う奴……」
「貴方も苦労してるのね」
姉と敵対すると決断したのに、姉の考えを聞き揺らいでしまった。
余計なことまで伝えられ混乱しないわけがない。
「それで、協力してくれるの?」
きっと時間をかければ自分の説得なんて姉には容易いことなのだろう。
それでも、自分が反発する可能性がある博打をしてでも『話を早く』する必要があった。
それだけ切羽詰まった状況ということなのか。
「……どうでしょうね」
頭で理解っていても、感情が邪魔をする。
姉を信じきれない。そちら側につけば彼女を裏切ることになる。
けれど、異迷ツムリがこのままで良いとも思えない。
自分がどう行動すべきか。
それを姉のように即断できるほど、自分は優秀な人間じゃない。




