第153話 シューコ達との格ゲーコラボ③
(紬、閉じ籠っちゃった……。誰が紬を傷つけた?)
(カチュア/レプリカが消えた。本物に追いつけないと自覚させてしまったから。私にもっと能力があれば……)
(それだけじゃない。法魔エルに何も言い返せなかった。経験不足? ううん、私にもっと知識と想像力があれば……)
(全部私の実力不足。私が完璧にコピーできれば紬が傷つくこともなかった。今の私に……紬のために何ができる?)
(コピーするには相手の理解が必要。共感するために人格を作って成長させて……再現に必要な経験値は十分得た)
(生成AIみたいって言われたっけ……うん。その通りかも。だって、それが一番効率良い。既にキャパオーバーだって言うなら……もうそれでいいや)
(魅力を再現するだけでいいなら――――コピーに自我なんて必要ないよね?)
◆
延長戦後、選手を交代してのさらなる延長戦。
幽姫ツララの対戦相手は異迷ツムリ。
[Install : "幽姫ツララ"]
[|Set Ability《追加能力》 : "導化師アルマ","麻豆ジュビア","鳴主サタニャ"]
その勝負は……ワンサイドゲームで決着がついた。
「――――"僕の勝ちだ"」
「……見事、と言う他ないな」
プレイスタイルは先程と大きく変わらない。
幽姫ツララをベースに、実力不足を導化師アルマの人読みで補う形。
異なる点で言えば2点。
1つは反応速度の速さ。
幽姫ツララと導化師アルマで思考を分離していたときと違い、ゲーム操作と人読みを1人の思考内で完全に同期させた。
そしてもう1つ。
「数回、ジュビアとサタニャのプレイを織り交ぜていたね。それも的確なタイミングで……完全にこちらの読みが狂わされたよ」
複数人格のプレイスタイル。
読み合いが重要になる格闘ゲームにおいては特に効果があった。
そんな幽姫ツララの賞賛に対し少女は……。
[Reset]
「……うん。良い感じ。これなら私でも再現できそう……」
「はは……この幽姫ツララすら眼中にないか。少し傷つくね……」
話しかけられたことにも気づかず1人の世界に浸る異迷ツムリ。
……いや、最早異迷ツムリと呼べるのだろうか。
声だけ模して、口調は不安定、推しが目に入らないほど真剣に考え込む。
その変わりように誰もが話しかけづらそうにしていた。
ただし、1人を除いて。
「次、やるわよ。異迷ツムリ」
彼女の同期、絵毘シューコはいつもと変わらない厳しさを感じる口調で誘った。
[Install : "異迷ツムリ"]
「……珍しいですねぇ。シューコさんからお誘いいただけるなんてぇ」
「言ったでしょ? シューコはアンタをぶん殴りに来たのよ」
「なるほどぉ。もちろん受けて立ちますよぉ。殴れるものなら、ですけどぉ」
お互い好戦的に挑発しあい、早速対戦の準備に移った。
そんな2人を傍観しながら、置き去りになった者をジュビアがフォローした。
「ツララちゃん……大丈夫?」
「ああ。情けない姿を見せたね。まさか僕がゲームで手も足も出ないとは……」
「あそこまで一方的だとね。……シューコ、勝てると思う?」
「どうだろうか。彼女が幽姫ツララだけを研究し尽くしてきたというのなら話は別だが……」
サタニャの質問に迷いながら返答する。
先程の試合を振り返り、ツムリの実力を考察して。
「僕の感じたままを言うなら……あの人読みに加え手数の多さ、僕にとってはアルマ先輩以上の強敵だ」
一方、ツムリとシューコの試合が開始した。
[Set Ability : "幽姫ツララ","導化師アルマ"]
相手の動きを伺いながら落ち着いた動きを見せるツムリ。
それとは対象的に、シューコは初手から全開で詰め寄った。
「やっぱりシューコさん、配信で見せてないだけで相当やり込んでますよねぇ。さっきより強くないですかぁ?」
「当然でしょ。アンタに手のうち晒したくなかったから、ね!」
「なるほどぉ。私の対策も随分頑張った感じですかねぇ? 導化師アルマの頃に格ゲー配信もやってましたからぁ。あ、でもアーカイブはあの人に消されちゃいましたねぇ。参考資料なくて大変だったのではぁ?」
シューコの猛攻をいなしつつ、煽るように長々と質問するツムリ。
「あのさぁ……シューコが導化師アルマchの配信見てないわけないでしょ? アンタが騙ってた頃の配信も全部履修済みに決まってるわ」
それでも戦闘の主導権を握っているのはシューコだった。
「今思い出しても気づけなかった自分に腹が立つ……あんな二番煎じのおもんない配信、アルマさんがするわけないじゃない」
「……あのぅ。私の推しの悪口、やめてもらえませんかねぇ?」
「知らん。アンタも私の推し汚してんだからお互い様でしょ」
声に苛立ちを込めながらも、冷静にプレイする。
「アンタの配信嫌々思い出しながらだったけど、本物のアルマさんに長時間練習付き合ってもらえて最高の時間だったわ」
本物を引き合いに出され、動揺がプレイに出てしまう。
その隙を見逃さずコンボを撃ち込むシューコ。
「アルマさんは初見でもシューコの動きに対応してきたわ。でもアンタはシューコを読めない。誰にも対策させないように一切配信してこなかったから……」
対戦も対話も一気に攻め、体力は残り僅か。
最後まで油断せず事前の対策通りに動き、トドメの一撃を入れる。
……はずだった。
[Override : "絵毘シューコ"]
「……"いや見たことあるけど? 絵毘シューコのプレイ"」
「……は?」
シューコの動きを読んでいたと言わんばかりのパリィ。
ツムリは続けて言葉の真意について語る。
「"昔アルマさんが視聴者参加型の配信してたとき、数回出てたでしょ?"」
「!? アンタ……視聴者のプレイまで覚えてんの……?」
「"別に、配信見てたら常連の名前は嫌でも目につくから。たまたま見覚えのある動きと一致しただけよ"」
[Override : "異迷ツムリ"]
「……やっぱりぃ。あの頃と見違えるほど成長してるみたいですけどぉ。癖って中々抜けませんよねぇ」
ツムリもまた、シューコと同じように導化師アルマの配信を見ている。
「この程度ならウチのシューコさんにもできそうですけどぉ、達者なのは悪口だけですかぁ? ……私、人の推し活否定する人苦手なんで。余計なことしか言えない本物さんは黙ってて貰えませんかねぇ?」
過去のアーカイブを全て遡り、擦り切れるほどに繰り返した。
導化師アルマを演じる上で、常連のファンの名前まで覚えることも必要だった。
「これ以上……紬の推しを汚さないでもらえますかぁ?」
その後はシューコの行動すべてを完全に読み切り、ツムリが反撃を許すことはなかった。
「っ……クソっ……!!」
「――――対戦、ありがとうございましたぁ」
◇
「という次第です。お役に立てずごめんなさい……」
「ううん全然! 私も想定外だったしさ。ツムりんがあんな強行してくるなんて……」
異迷ツムリと別れた後、すぐに結果報告の通話をしていた。
「何はともあれお疲れ様♪ 次の手考えてみるからさ、それまで待っててもらえる?」
「了解です!」
いつもの無愛想も最推しの前では封じて平身低頭になるシューコ。
そうして報告相手、四条ルナとの通話が切れたのを確認し、思い切り項垂れた。
「また余計な負担をかけてしまった……申し訳なさすぎて死にたい……」
「相変わらずの信仰心だな……けど今回は仕方ないのでは? ツララ/レプリカとの対話は順調だった」
「だね。アルさんも予想できなかったみたいだし」
落ち込む後輩をフォローしつつ、話題に上がった人物について掘り下げる。
「けどアルマちゃんの負担は確かに心配だね。また懸念材料が増えて」
「あの人いつ休んでるんだろ?」
「少なくともここ3日間、夜通しゲーム特訓付き合ってくれてましたよね」
「ツムリとの対戦も、配信外含め通話越しにずっと聞いていたはず」
「昼間も色々駆け回ってるみたいですね。メンバーのフォローとか各方面の連絡とか」
「……ホントにいつ寝てるの?」
「それでケロっとしてるんだから超人だよね……」
同じ人間とは思えない活動量。
先程の通話もいつもと変わらない快活な声音だったことを思い出し、恐怖すら覚えた。
「さてと。ジュビア達もそろそろ解散しますか」
「うん。眠い」
夜早い時間に配信開始したはずが既に深夜。
各々眠そうにしているところ、シューコが小さく手を挙げた。
「あの……申し訳ないんですけど、今日泊めて貰えませんか?」
「ん? 全然いいけど、シューコちゃんそんなに家遠くないよね?」
「あーいや……ちょっと喧嘩中で家帰りづらいというか……」
「喧嘩? ダークと?」
口を濁しながら家に帰れないと言うシューコ。
その様子を見てジュビアが察した。
「ははーん完全に理解した☆ どうせ余計な啖呵切って出てきたんでしょ? 異迷ツムリぶん殴って目覚まさせて、自分の方が正しかったって証明してやるー! とかとか?」
「う゛っ……」
「おや図星。やるねジュビア」
「そりゃわかるよー。ツムリちゃんに怒ってるのもダークちゃんのためなのに、本人に否定されたら寂しいもん」
「あの、ジュビアさん? 勝手に人の気持ち決めつけないでくれます? シューコはただ異迷ツムリにムカついてやってるだけですから……」
「別に隠さなくていいよー。もうバレてるんだからさ♡」
「わーめんどくさ……」
ジュビアの予想が大方的を射ていることもあって否定しきれないシューコ。
事情を把握しきれていないサタニャが聞いた。
「ダークのためって?」
「うん。ダークちゃんさ、たまに配信でバンドフェスの時のこと褒められるんだけど、今でもわかりやすく愛想笑いするんだよね。ほら、ツムリちゃんが入れ替わって……」
「ああ確かに……あの誠実な性格だ。ファンに嘘をつくのは苦手だろうね。しかし正直に言えばツムリの状況が悪化するから……」
過去に起きたトラブル、それを客観的に見てダークの心情を推察する。
対してシューコは隣人としての意見を言う。
「……それもですけど。アイツ、この件だけは一切相談してこないんですよ。悪いのはすっぽかした自分だって負い目があって……でもそのこと後悔してるって言えば、シューコを助けに行った判断を否定することになるから」
自分に向けられた気遣いに気付けないほど鈍感じゃない。
久茂ダークの優しさをずっと側で見てきたから、彼女の考えそうなことくらい分かってる。
「ダークだけが悪いわけじゃない。それ以上に、頼んでもない代役勝手に引き受けた異迷ツムリと……ダークに不甲斐ない姿見せて助けに来させた私の方がよっぽど……」
シューコは自認している。
あのトラブルは2人だけの問題ではなく、自分も当事者なのだと。
「……要はお人好しなんですよ。大迷惑かけられてる二人のこと未だに気にかけて。なのに異迷ツムリは真似られる側の気持ちも考えずに……だから私が代わりに殴りに行くんです。反省するまで殴りあって……一緒に謝りに行くんですよ」
優しすぎる友人を想い、汚れ役を買って出る。
それが自分にできる償いと信じて。
そんなシューコの想いを聞いて、ジュビアは素朴な疑問をぶつける。
「なんで喧嘩してるの? それ直接言えばいいのに」
「は? 絶対嫌ですよ。言ったらダークのこと心配しまくってる杞憂民みたいじゃないですか。そういうキャラでやってないんで」
「別に気にしなくていいと思うけどなぁ。ジュビア達も喧嘩ップルとか言われて否定してるけどさ。長く一緒にいるんだから心配なときは心配だよ」
「ふーん。ジューさん心配してくれてるんだ。ふーん」
「こういうとこはガチでウザいけどね☆」
心配を隠す必要はないと伝えるつもりで自分の立場に置き換えて話すジュビア。
シューコ自身彼女と考え方が似ている自覚もあり、彼女の言葉は響きやすい。
「……お気遣いありがとうございます。まあ、お二人みたいな仲良しカップルじゃないんで参考までに」
「わお。アドバイスしたら煽ってきやがったよこのツンデレちゃん☆」
「照れ隠しじゃない? 素直じゃないね。どっかの誰かさんみたいに」
「それ自己紹介?」
「ん? また喧嘩したいの?」
「あの、人のことダシにしてイチャつかないでもらえます?」
「「イチャついてない」」
感謝しつつ、散々からかってくれた先輩に仕返しもする。
そんな温かい空気の中で、ふと思い出したようにジュビアが聞いた。
「あ、泊まるのはいいけどさ。やっぱり早めに仲直りしといた方がいいんじゃない? 4期生はもうすぐアレがあるでしょ?」
その指摘に、シューコはまた複雑そうな顔で呟いた。
「そうですね……アレ、あるんですよね。こんな状況でも」
「ね。素直に祝福しにくい。そもそもできるの?」
「一応やるみたいですよ。それに向けてレッスンも続けてますし」
新たな懸念事項を思い出し、心配する面々。
それは4期生主催のイベントで、異迷ツムリの現状を鑑みると開催すら危ぶまれる。
「こんな空気で迎えるなんて、1年前は思いもしませんでしたね…………1周年ライブ」
異迷ツムリ含む4期生がデビューして1年経過するまで、残り1週間。




