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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第152話 シューコ達との格ゲーコラボ②

◆


 配信前夜。

 来たる戦いに向け、ゲーム練習通話をしていた本物達。


「分からないな。僕のレプリカは何故あんな宣言を?」


 幽姫ツララは理解に苦しんだ。

 自分のコピーが起こした行動に。


「己かツムリか、どちらかの存在を賭けた勝負。それになんの意味があるのだろうか?」

「うーん……冗談キツすぎてエンタメにもならない☆」

「同期のシューコなら?」

「いや知りませんよ。別人格の思考なんて常人に理解できるわけないですし」


 ツララに続きジュビア、サタニャ、シューコが考えを口にする。

 どれもしっくり来ず悩んでいると、その場のもう一人が発言する。


「たぶん……SOSなんじゃないかな?」

「アルマさん? SOSって?」


 今回の配信には参加しない四条ルナ。

 フォロー兼ゲームの練習相手としてこの通話に参加していた。


「あの子の身体、限界みたいなんだよね。聞いた話によると毎日12時間を超える過眠が続いてるって。前の配信遅刻してたのもそれが原因らしくて」

「過眠……わかる。どれだけ寝ても眠いよね」

「サタちゃんの怠惰とは違うと思うよ♡ ツムリちゃんコラボで寝坊するタイプじゃないし、自分でコントロールできなくなってるのかな?」


 彼女のマネージャーから聞いた断片的な情報から得た事実。

 それを踏まえて理論的に推測する。


「脳の自己防衛。10人格以上の同時思考なんてさ、一人の脳で処理できる気しないよね。それはツムりん自身理解してるはず」

「なるほど……となれば必然、身体を守るために人格は……」

「減らすしかない。それであっちのツラたんもあんな宣言しに来たんだろうね」

「この世から消滅する大義名分を得るために戦う、と」


 対戦相手の思惑を理解し始める。

 つまりルナが最初に言ったSOSと言うのは、負けて消えることを望んでいると。


「しかし、奴が幽姫ツララだと言うのなら手を抜くことは絶対にない。……ならばこちらも全力で奴を叩き潰す。お互いのためにもそれが一番か」

「うん。きっとそれを望んでの宣言だと思う。いずれにしても利害は一致してるからさ」


 結論が出てもやることは変わらない。

 戦いを挑み、全力で勝ちに行くこと。


「ツムりんを止めるために……まずはレプリカを一人ずつ止める」


 幽姫ツララ/レプリカの打倒は、その第一歩であると。




◆

◇




 格ゲー連戦配信。

 3戦目が終了し配信裏で会話するメンバー。


「なんか……ジュビアも勝てちゃった☆」

「うん。強かったけど、劣化ツララ先輩って感じ」


 2戦目のサタニャと3戦目のジュビア。

 勝利した2人は率直な感想を言う。


「やっぱり真似にも限界があるのかな?」

「でもアルさんのフリしてたときはツララ先輩とも接戦だったよね」

「あー確かに。じゃあ手抜かれてたってこと?」


 過去に導化師アルマを演じてた頃。

 他のゲームとは言え本物の幽姫ツララに迫るほどの実力だった。

 わざと負けるために実力を隠したのか。


「……『幽姫ツララ』だから、じゃないですかね」

「「?」」


 疑惑に対するシューコの回答に疑問符を浮かべる2人。


 一方、配信上は2人だけ。

 幽姫ツララ同士、試合直前に対話する。


「既に2敗。君の言い分だと1人でも君を打倒できたのなら君の敗北。異迷ツムリを解放し、君は二度と姿を見せないという話だったね」


《そういえばそんな話だったな》

《ぬるっと負けたからすっかり忘れてた》

《啖呵切った割にそんなに……?》


「"……その通り。僕の役目はこの配信が最後であることが確定した。君が望むなら今すぐに消えてみせるが、どうする?"」

「まさか。強者との戦いを望む僕がそれを願うと思うかい? ……もっとも、今の君を強者と呼べるかは疑問だが」

「"それは……勝ってから判断してくれたまえ。この世界では勝者の言うことが全て正しい"」


 覇気を感じないレプリカの言葉。

 視聴者からの期待も薄い。

 そんな既に勝敗は決しているような空気で4戦目が開始する。


《なんか、思った以上に一方的だな》

《お互いプレイスタイル同じだし、実力差はっきり出るなぁ》


「"っ……"」

「…………はぁ」


 苦しげにプレイするレプリカに対し、持て余した様子でため息をつくツララ。


「なぜ使わない? 導化師アルマの人読みスキルを」


 今まで何度も対峙したからこそ、ツララには分かった。

 以前と比べて彼女に何が足りていないのか。


「"……それを使えるのは導化師アルマだからだ。幽姫ツララの戦い方ではない"」

「理解に苦しむな。僕がそのスキルを持っていたら迷いなく使うだろう」

「"だが実際は持っていない。それが幽姫ツララだ。僕は……最後まで幽姫ツララとして生きる"」


 あくまで本物を再現することに固執する。

 例え力量不足でも、完成品に少しでも近づけるように。

 解釈違いを恐れてお手本を真似ることしかできない。

  

「興醒めだ。そんなものが君のなりたかった僕なのか? だとしたら君は、幽姫ツララを何一つわかっちゃいない」


 そんなレプリカの在り方を正面から否定する。


「"……では教えてくれ。君の考える幽姫ツララとはなんだ?"」

「いいだろう。僕は……最強のゲーマーを実現したいんだ」


 レプリカは本物に近づくために問う。

 そしてツララは……夢を語った。


「最強とは人々の理想だ。ある人にとっては自己を投影し優越感に浸るための無双主人公。またある人にとっては打倒すべき目標であり、天上の景色を阻む天井。――――夢を見せる存在なんだ」


 自分の求める理想の自分。

 人々の理想になりたいのだと。


「"君が最強を目指していることは知っている。だがどんな実力者も格下に負けることはある。仕方のないことだ。運の絡む番狂わせもゲームの醍醐味だからな"」

「ああ同意見だ。最強の決まっているゲームはすぐに飽きられ、バランス調整にナーフされるのが常だ」


 お互いに同じ夢を持ち、しかし到達し得ないことも理解している。

 そんな無謀を冒す本物を追い続けるしかないレプリカ。


「きっと刹那に呼ばれることはあっても、恒久的な最強は誰にも掴めない。そんな泡沫の夢を……誰かが叶える瞬間を、僕も1観客として見届けたい。だから僕は強者との高め合いを求め続ける。……もちろん、僕自身で叶えるのが一番だけれどね」


 本物はいつでも最強を追い求める。

 誰にも手の届かない夢だからこそ……。


「だからどうか、最強の自分を偽らないで欲しい。君の幽姫ツララを……僕に新たな夢を見せてくれないか?」


 自分に似せることではなく、理想の幽姫ツララを自分に見せてほしいと。

 

(……力を貸して貰えるだろうか?)

(いいの? それだと幽姫ツララの力で勝ったって言えなくなるんじゃなかった?)


 心の内に語りかけ、協力を要請する。

 本物の願いを叶えるために。


(いいや。導化師アルマの力を借りられるのも僕の強みだ。使えるものは何でも使って最強を実現する……それが幽姫ツララだ)


 幽姫ツララが本心から願っているのなら、それは自分の願いでもあるのだから。


「む。動きが変わったな」

「"待たせたな。お望み通り……僕の最強をお見せしよう"」

「! 本当に……待ちくたびれたよ!!」


 嬉しそうな声と共に、彼女の動きも変わる。

 ここからが互いに本気の勝負。


(合図出すからタイミング合わせてね。……今)


 心の声に反応しボタンを弾く。

 それと同時に繰り出された攻撃と、こちらの防御がぶつかり合う。


「ほう! 今のを防ぐか!」

「"その余裕、今すぐに崩してくれる"」


《おっ今のは上手い》

《まぐれじゃない?》

《今の読んで動いたなら勝敗分からなくなってきたな》


 内側の導化師アルマの声に合わせてコントローラーを操作する。


「"……今!"」


 幽姫ツララの思考を推測し、隙を突くタイミング。

 攻撃を弾き、攻めへと転じる……はずだった。


「と、導化師アルマなら読むだろうね。すまないが……僕も強敵の対策くらいはする」


(あー……ごめん。釣りだったみたい。ツラたん駆け引き上手くなったなぁ)


 反撃の一手を躱され、さらに手痛い一撃を受けてしまう。

 それまでの劣勢もあり、そのまま体力を削りきられ試合は終了した。


「折角本気になってくれたところ水を差してすまない……短い時間だったが、ヒリつく勝負だったよ」


《……ナイスファイト》

《最後にいい勝負が見れた》


 4戦目、配信で予定していた全ての試合が終了した。

 勝負に負けた幽姫ツララ/レプリカの出番は今後一切ない。

 不完全燃焼のやりきれない空気の中で、彼女はポツリと呟いた。


「"……もう一度だ"」

「ほう?」


 約束とか、今後のこととか、そんなこと今はどうでもいい。

 ただ、目の前の相手に負けたままでは悔しい。

 最強の自分を魅せきれないまま終わってたまるか、と。


「"君の目的は強者と戦うことだろう? 戦ってみたくないか? 最初から全力の僕と"」

「よくぞ言ってくれた! 心ゆくまで高め合おうじゃないか!!」


《そうこなくっちゃなぁ!!》

《いいぞ! 存分にやり合え!!》


「ねージュビア達のこと忘れてない? ツララちゃんばっかりズルいよね☆」

「レプリカさん。ボクに負けっぱなしでいいのかな?」

「"おっと、それはよくないな。先程は不甲斐ない姿を見せた。今度こそ、本気の僕をお見舞いしよう"」


 対戦相手も、観客も、誰もがそれを求めた。

 ただ勝ちたいという欲を満たすためだけの、何の意味もない延長戦。

 それでもこの時間だけは、本気でゲームに没頭できた。

 生まれた使命なんかも全て忘れて、ただ純粋に。


 ………………。


「"ああ――――楽しかった"」


 あれから何時間経過したのか。

 あまりにも終わりが見えず、配信を終了した後も続けていた。

 疲れでプレイがボロボロになるまで、その実力を示し続けた。


「こちらこそ、楽しい時間だったよ。勝敗の数だけ見れば僕と互角。君の最強は間違いなく、この幽姫ツララに匹敵すると言えるだろう」


 認められ、嬉しさが込み上げる。

 幽姫ツララの模倣こそ失敗に終わったが、幽姫ツララと同じ夢を追うことができた。


「"僕は……君の夢の一助になれただろうか?"」

「ああ。強者との交わりを糧に、僕はまた最強に近づけた。感謝する」


 しかし、どれだけ夢に近づいても、幽姫ツララの道がここで途絶えることには変わりない。


「……やはり消えるのか?」

「"約束は守らないとな。最後に良い夢を見れたよ"」

「こちらこそ。ああそれと……名付けのセンスも僕好みだよ。幽姫ツララ/レプリカ」

「"! 最後の最後で嬉しいことを言ってくれる……去り辛くじゃないか"」


 全力でぶつかり合った後、対立する理由もなければ同じ思考の波長が合う存在。

 互いにリスペクトしながら最後に語らう。


「"これでもう、思い残すことは何も……"」


 別れを告げようとした。

 ……その瞬間だった。


(ツララさんも……消える?)


「!?」

「……? どうした?」


 驚きが表情に出る。

 一度落ち着きを取り戻し、内側から聞こえた声に言葉を返す。


(ツムリ……分かっているだろう? 自分の体が限界なことくらい。それに……ここで潔く去らない方が幽姫ツララらしくない。そう思わないかい?)


 諭すように丁寧に伝える。

 しかし、彼女は聞く耳を持たなかった。


(……絶対に……せない)

(む?)


 少女はうわ言のように同じ言葉を繰り返す。

 それを発する度に何かが湧き上がる。

 暗いモヤが広がり、波打ち、ツララを包囲する。


(……させない。消させない。もう、誰も消させない。――――紬(・)の(・)た(・)め(・)に(・)、残って)

(君は……! ……っ!)


 そして1人の少女を中心に、世界の全てを飲み込む。


 …………。


「ツララ/レプリカ? 急に黙って何を……」


 しばらく何も言わなくなり、心配になって声をかける。

 それに返答したのは……。


「……違います」

「! ツムリ……ということは彼女は……」

「消えてません。……消させません。絶対に」


 言い切る前に遮られる。

 それは異迷ツムリに酷似した声、しかしいつものゆるい口調とは違う。

 どこか張り詰めた、真剣な様子。


「余計なことは考えなくていい。声と力だけ貸してくれれば……証明するから。私が全員輝かせられるって。そのためにも……」

「ツムリ……?」


 誰かに言い聞かせるような独り言。

 それは自分自身か、それとも心の内の存在か。

 ずっと輝いていて欲しい。

 そんな他者の応援に見せかけた、独善的な願い。

 

「スゥ……――――ツララさん。私とも……対戦よろしくお願いしますぅ」

「……良いだろう。僕は誰の挑戦も拒まない」


 偽物も本物も関係ない。

 ただ、好きな人を失いたくないだけ。

 そのためなら……なんだって利用する。


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