第151話 シューコ達との格ゲーコラボ①
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「ワタクシ達の中から、消える人間を選びます」
導化師アルマ以外のレプリカ全員の前で、ロカはそう告げた。
「この身体が耐えられる人数まで1人ずつ……減らさなければなりません」
同じ身体に住まう者同士、その意図は理解できた。
それでも、素直に受け入れられる者ばかりでない。
「……ワガママかもだけど、ジュビアはまだ消えれないかな。生まれてから何も残してない……まだ、誰の心にも残れてないから」
ある者は成し遂げるまで消えられないと。
「何をどうやって残すの? ソフトの使い方も、音楽知識も足りてない。フレーズ1つ思いつかない……何も生み出せないクリエイターに価値なんてない」
またある者は最初から希望を捨てて。
いつもぶつかり合っている二人が正反対の意見になれば当然……。
「それは……これから覚えればいいでしょ? 最初からできる人間なんていないんだから。でもこの身体は物覚えが早い。絵でも曲でも動画でも、きっとすぐに作れるようになるって!」
「努力できる人はいいよね。ボクはそこまで頑張れないから」
「サタちゃんさぁ……いつもそうやって……!」
口論が始まり、徐々に声音も荒くなってくる。
このままヒートアップすればその熱は周りにも波及しかねない。
そう思われたそのとき。
「静粛に、願えますか?」
張らずともよく通る、芯のある声に一同が静まる。
「貴女達が激情すれば脳の負担になる。どれだけ残りたいと思っていても、削るべきリソースと無意識に判断されるかもしれない……。もっと冷静に、理知的に話し合いをしましょう」
激しい口論が身を滅ぼす可能性もあると。
あくまで正しい意見で皆を導く。
そんなロカだからこそ、皆は彼女に耳を傾ける。
彼女の理不尽な提案にも、悪感情を剥き出しにはしない。
「敢えて聞きましょうか。他者を押し退けてでも生きたい。そんな強い意志を持つ人は?」
その質問に対し、誰もが戸惑った。
偽物同士でも良好な関係。
それを壊してでも残りたいのか。
それほど生存意欲の強い者がいるのか、と。
そんなロカの意地の悪い問いに対し、1人が覚悟を決めたように手を挙げる。
「ムルは……怖いのです。消えるなんてとても……」
紅月ムルシェ。
導化師アルマの騒動で選択を迫られ、自ら休止の道を選んだ人物のレプリカ。
しかし、それまでの配信を見る限り彼女は……居場所を失うことを恐れる、繊細な女性だった。
「……怖いのは皆同じですよ。ムルシェさん」
「そう……ですよね。でも……本物がどうして消えても良いって思えたのか、今でも分からないのです。分からないから……」
弱々しい声、しかし考えは変えない。
今は表に出ることもできないムルシェだが、彼女なりに納得いく答えが見つかるまでは消えられないのだろう。
そんな同期の姿を見て、また1人手を挙げる。
「僕が行こう」
紅月ムルシェとは反対に、最初の1人として名乗りを上げる幽姫ツララ。
「もちろんタダで終わるつもりはない。ボクの存在価値を示せれば、むしろこの身体がボクを手放してくれなるかもしれないね」
彼女らしい強気な姿勢を。
自分達はただ消えゆく存在、そんな暗い空気を変えるために。
「幽姫ツララ/レプリカの存在をかけた、一世一代の大勝負に挑むとしよう」
◆
◇
「――――"ようこそ我が銀世界へ。歓迎するよ勇者御一行"」
配信開始、異迷ツムリのチャンネルで第一声を上げたのは幽姫ツララの声。
もちろん本人ではなく、レプリカと名乗る別人格。
そのコラボ配信枠で、最初に誘いをかけた者が当たりの強い返答をする。
「誰が勇者か。勝手に人のこと見下してんじゃないわよ二重ロープレ魔王が」
「"お気に召さなかったかい? しかし囚われの姫を救うとなれば勇者か赤帽子の配管工くらいしか思いつかないが"」
「いや知らんけど。こっちはその姫、異迷ツムリをぶん殴りに来てんのよ。事前に言っといたでしょ?」
《シューコさんのっけから荒れてるなw》
《ぶん殴るとは物騒なw ……え、ゲームの話ですよね?》
《当のツムリは喋らない、と》
《囚われの姫って結局配信盛り上げるためのネタなのか? それとも……気になりすぎる》
「"そうだったね。しかしこちらの答えも変わらないよ。彼女に会いたければ僕を倒してからにすると良い。この……銀世界の支配者を"」
いつものクセ強い語りで幽姫ツララを主張する。
すると、それを見た本人が噛みついた。
「聞き捨てならないな。銀世界の支配者は1人で十分。その座を譲った覚えはないぞ?」
「"ほう? ではどちらが真の支配者に相応しいか、ここで決着をつけようじゃないか"」
「面白い。いいだろう」
「"勝負は君達の希望通り……格闘ゲームで決めようか"」
煽り合いながらも同調し、勝負する流れを作る。
元々シューコから挑まれていた格闘ゲーム対決。
それに対応する形でツララ/レプリカが出ることにも繋がった。
「今日はツララちゃんだけ? ジュビア達のレプリカちゃんは出てこないのかな?」
「"その予定だよ。本気の勝負を求めているのなら僕が出るべきかと思ってね"」
「ふーん。つまりジュビアの真似じゃ勝てないって言いたいんだ? ムカつくなぁ☆」
「"おや? そんなつもりはなかったが失礼。訂正するためにも、君達の実力を証明してみせてくれ"」
「舐め腐ってるね。絶対わからせる」
残る2人も反応し、全員がやる気を見せる。
今回の配信企画、シンプルなタイマン4連戦に。
「"意気込みは十分のようだね。それで、最初の挑戦者は誰が来る?"」
《遂に始まるか》
《めっちゃ王者の風格出してるけどツムリのガワで言われるとちょっと不安でオモロイ》
《でもゲーム上手いのは導化師のときに見てるからなぁ》
レプリカの腕前に興味を示すを視聴者。
そんな期待の中で挑戦者を待つと、1人が無言で前に出た。
「"シューコか。君は格ゲー配信を一度もやっていなかったように思うが、経験は?"」
「そこそこ」
「"ふむ。まあいいだろう。それでは……対戦、よろしくお願いします"」
「ん、対よろ」
言葉数少なめに返すシューコ。
そんな静かな空気から初戦は開始した。
「"何がそこそこだ……随分やり込んでいるじゃないか!"」
「まあ。基礎くらいはね」
「"謙遜を……いや、君の場合は秘密主義というべきか"」
《絶対初心者じゃなくて草》
《シューコさんはそういうとこある》
《コソ練してないで配信してもろてw》
互いに引けを取らない攻防。
勝負に熱を上げるツララ/レプリカ。
しかし、最初の敵意むき出しの様子とは真逆の冷めた声でそっけなく返答するシューコ。
この短時間でどんな心境の変化か、そう考えていると……。
「ねえ。聞きたいんだけど」
「"お喋りとは随分余裕だね。なにかな?"」
「結局アンタ誰なの? 異迷ツムリか、それとも幽姫ツララなのか」
突然の質問に一瞬プレイが乱れる。
だがその類の質問は最早慣れてしまった。
「"僕は幽姫ツララだ。……と言いたいところだが、正確にはどちらでもないのだろう。異迷ツムリの身体で幽姫ツララを模した、全く別の何かだ"」
「ふーん……」
やはりどこか興味なさそうな反応。
そのまま大きな変化もなく勝負は決着した。
「"なるほど……筋は悪くないがあと一歩、といったところか。一皮剥ければ化けそうだね。今後の成長が楽しみだ"」
「勝手に言ってなさい。アンタに言われても何も響かないから」
「"これは手厳しい……。それで次は?"」
「ん。じゃあボクが行くよ」
シューコに突き放され、声のトーンを落としながらも次の対戦相手、サタニャに向き合う。
そのタイマン勝負の裏、挑戦者組は配信に乗らないように会話していた。
「シューコ。どうだった? 僕の偽物は」
「……強かったと思います。異迷ツムリが操作してるとは思えないほどに」
本物の質問に素直に答える。
しかし、自分を倒した相手に対し負け惜しみを言うでもなく、かと言って手放しに褒める様子もない。
「ではこの幽姫ツララと比較してどうだった?」
「……一応、結構な精度で比較できたと思いますよ。この数日間で嫌と言うほどボコボコにされたんで」
「うむ。何度殴ってもめげずに挑んでくれる君は殴り甲斐があったよ」
「コイツ……」
嫌味が通じない先輩に歯を食いしばるシューコ。
それでも、彼女の実力だけは認めているようで……。
「けどまあ。はっきり言って――――ツララさんの足元にも及びません」
シューコが確信めいた発言をする。
それと同時に、配信側から決着のゴングが鳴った。
「うん。ボクの勝ち。対あり」
「ああ……対戦、ありがとうございました」
VS幽姫ツララ/レプリカ第2戦。
彼女を負かせば異迷ツムリを救い出し、幽姫ツララ/レプリカの活動を辞めさせられる。
その戦いの勝者は……鳴主サタニャだった。




