第150話 レプリカの使命
「さて、どうしたものでしょうか」
「うーん……どうしようね?」
首を傾けて見合わせる2人、ロカとアルマの声。
ただし本物ではなく、空想世界の中の住人。
「ツムリ。返事なさい。このワタクシの声が聞こえないとでも?」
「おーいツームりーん! ……うーん反応なし。完全に殻に籠もっちゃってるねー。カタツムリだけに?」
「言ってる場合じゃありませんわよ」
丸くなり、見えない膜に覆われた少女はどれだけ声をかけても反応しない。
そんな異迷ツムリを見て相談する2人。
「原因は……やっぱりあれですわよね?」
「だねぇ。ツムりんがこうなったのも……カチュたんが居なくなってから」
その一言で空気はさらに冷えた。
1人減っただけでも随分と静かになったような、それだけ存在感を放っていた人物。
カチュア/レプリカは、先日の配信で姿を消した。
「……やっぱり、消えることもあるんですのね」
「そうだね。怖くなった?」
「怖い……とは少し違いますわね」
レプリカの消滅。
それは自分にも起こり得ることで、ロカはゆっくりと己の感情を言語化する。
「カチュアさんは少なからず満足して去っていった。ワタクシも未練がなくなるまで消えることはないのでしょう。ワタクシはきっと……あの子が未練になって消えきれませんわ」
「優しいねぇ。でも……そうも言ってられないのかも」
「? どういう意味ですの?」
ロカの考えを肯定しつつも、不穏な物言いをするアルマ。
「アタシ達レプリカってさ、なんのために生まれたんだと思う?」
「なんのためと言われても……声真似という特技を披露するために偶発的に生まれた人格、と認識していますが。生まれた目的なんてありますの?」
「うん。あるよ」
レプリカ達の共通認識では出せない答えを、アルマは即答した。
自分達の生まれた目的、存在意義について。
「この身体がコピーできるのはね、好きになった人だけなの。アタシ達はツムりんが推してくれたから生まれた。そして……ツムりんもまた、この身体の主の推しなんだ」
「主……」
「うん。この身体の主はツムりんの……間宵紬の幸せを願って、彼女の推し活を再現した。おかげでツムりんは推し達に囲まれながら生活できたわけだね」
間宵紬のために生まれた存在。
けれど、それが今は仇となっている。
「けどアタシ達は増えすぎた。容量圧迫して頭はいつも処理落ち寸前オーバーヒート。それを解決するには……容量を減らすしかない」
ここ最近の異常なまでの睡眠時間。
それは身体の危険信号であり、防衛本能が彼女らを突き動かす。
「ああ道理で……違和感はありましたわ。カチュアさんの最期、あの人にしては少々物分かりが良すぎるように見えて」
「うん。本人は意識してなかっただろうけど、見えない意志が働いてたんだろうね」
レプリカは今や間宵紬を苦しめる存在に成り代わった。
となればこの身体の主が望むことはただ1つ。
導化師アルマはまるで他人事のように、自分達の今を語る。
「できる限り間宵紬を傷つけないように消えること……それが今レプリカに課されてる使命なのさ」
自分達は消えるべき存在なのだと。
そんな残酷な真実を告げた上で、アルマは続けた。
「だから……ロカちん。お願いできる?」
「……はぁ。随分酷なことを頼んできますわね」
「いつもならアタシの役目なんだけどね。……導化師アルマは表舞台に出ることを許されてないからさ。こういうのは同じ立場の人に言われないと響かないかなって」
アルマは寂しそうに語り、自分にできないことを頼む。
その気持ちを理解してしまったロカは渋々受け入れた。
「仕方ありませんわね。貸しイチですわよ」
「ありがと。いつも嫌な役回りでごめんね」
「別に構いませんわ。そういう性分と自覚していますので。早速話してきますわね」
そう言ってロカは重い腰を上げる。
偽物とは言え、それぞれが感情を持つ人格。
それらに今の自分と同じ想いをさせるという、気の重い役目を果たすために。
「せめて全員……後悔のない最期を選べるように」
◇
その夜、異迷ツムリchで告知もなしに配信が開始された。
リアルタイムで視聴できた人はごく僅か、たった数分のアーカイブは後に凄まじい視聴回数を記録する。
それだけ異迷ツムリは注目されているということ。
しかし……その配信で『異迷ツムリ』は一切出演していない。
「"ごきげんよう。ワタクシはロカ・セレブレイト/レプリカ。本日は異迷ツムリに代わって告知させていただきますわ"」
《急に配信通知鳴ったからめちゃビビった》
《ん? 異迷ツムリのチャンネルでロカ様の声?》
《なんだ偽物か。告知って?》
《あの……なんでツムリじゃないん?》
続々と増える視聴者、そのコメントは冷めた内容ばかり。
レプリカという存在に慣れ、偽物に用はないと言わんばかりの関心の無さ。
「"何故ツムリじゃないのか……ええ。気になる方も大勢居ることでしょう。前回カチュアさんがあんなことを言ったばかりに"」
《そうそれ》
《身体の独占とか言ってたよな……けどロカ様出てきたってことはもう大丈夫?》
「さて。ツムリが無事かどうか……それは次の企画提案者に聞いてみましょうか」
上手いこと視聴者の関心を引き付けたロカは次の者にマイクを渡した。
「――――"召喚に応じ馳せ参じた。今回の主役、幽姫ツララ/レプリカだ」
《うわ出たw》
《ほう? ツラたんってことは……》
《偽物でも企画傾向は変わらんよな?》
「"先日絵毘シューコくんからメッセージを貰ってね。内容は……平たく言えば果たし状だ。ゲームで本気の勝負を望んでいるらしい。もちろんこの誘い、銀世界の支配者たる僕が断るはずもない"」
《でしょうねw》
《ゲーム勝負か。ヤバい普通に楽しみかも》
《アルさんのフリしてたときも強かったし、どうなるんだろ?》
「"そしてもう一つ、余興を用意させてもらった。折角なら本気の勝負にしたいと思ってね"」
《お?》
《余興って?》
配信企画そのものに興味を示しかけていた視聴者達。
楽観的に話を聞いていたそれらは、間もなくその余裕を奪われる。
「"君達が気にしているであろうこのチャンネルの主、異迷ツムリは……現在、我々の手によって拘束している"」
《……ん? 拘束?》
《すっごく嫌な予感……》
「"ここは王道展開で行こうか! 囚われの姫を返して欲しくば剣を取れ! 僕が勝てば二度と異迷ツムリは日の目を見ることはない! そして、僕を打倒することができたのなら……"」
《あの、そういう少年漫画的なノリはフィクションだからアツいのであってですね?》
《もうええて……》
《すぐ不穏にするじゃん……それやめれる?》
ツララの用意した余興に辟易とする人々。
そんなことはお構い無しにツララは続ける。
己の生き死にを賭けた大勝負、逃げ道をなくすように宣言する。
「"この幽姫ツララ/レプリカ、二度と君達の前に姿を出さないと誓おう"」




