第147話 ティア達とのスタジオコラボ③
偽歌判別対決。
1組目は初為ウラノとそのレプリカ。
両者が歌い終え撮影現場に戻る。
「はぁい戻りましたぁ。ちょうど投票終わったところですかねぇ?」
「ええ。2人とも良い歌でしたな」
《うん……どっちも上手いんだよね……》
《褒めたいのは山々だけど今は聞き分けできんくなるから勘弁して欲しい》
企画者のツムリに代わって進行役を務めるネプが反応する。
ツムリに返答した後、戻ってきたもう一人の顔色を伺った。
「どうかされましたかなウラノ氏? 浮かない顔をして」
「……ん、なんでも。投票結果見よか」
「?」
なんでもないと言う割に暗い表情。
ネプが気にしている間に、進行役を代わったツムリが結果発表に移った。
「さてさてぇ。本物予想が先手62%、後手38%と。結構割れましたねぇ。そして気になる答えはぁ……」
「え?」
予想の答え合わせをしようとすると遮られた。
疑問の声を上げたのは同期の少女。
「? どうかしましたかぁティアさん?」
「えっと。絶対後手だと、思ったから。ちょっと意外」
「ほうほう……自信満々ですねぇ。何か理由でもぉ?」
「うーん……なんとなく、かな? いつも聞いてる、から」
「なるほどぉ。ティアさん大正解ですぅ。本物のウラノさんは後手。62%の皆さんは残念でしたぁ」
《うっそマジか……多数派で安心してたわ……》
《ティアちゃん凄いな。ファンの鑑》
「ふむ。ネプは分かったか?」
「残念ながら。おそらく多数派の方々と同じで、本物らしくない不安定さに釣られましたな」
「それは、ちょっと思った。何かあった、の?」
《やっぱりそうよね》
《本物の方がいつもの調子で歌えてなかったか……》
《ウラノ氏大丈夫?》
多くの人に心配を寄せられ、一瞬顔を曇らせながらもフォローを入れるウラノ。
「あー……ごめんなぁ心配させて。いつもと違う緊張感で調子狂ったんかも。ハズレてしもた人も全然気にせんどいてな?」
《ならよかった》
《それはそれとして気づけなかったのはショックだけどね……》
「では次。ティアさんやってみますかぁ?」
「うん。頑張る。気づいてもらえるように」
次なる相手が決定し、再び別室へ向かう。
「ツムリ。今日はありがと。来てくれて」
「ティアさんはいつも通りですねぇ。皆みたいに反対したりしないんですかぁ? レプリカのことぉ」
道中何気なく聞く。
他の人なら返答に困るだろう質問。
しかしティアは迷いなく返す。
「え、だって。ツムリの友達、なんだよね?」
「友達……ともちょっと違いますがぁ。大切な人達ですねぇ」
「じゃあ。ティアにとってのツムリと、同じ。否定されたら、悲しい、よね?」
「そうですねぇ。ご理解いただけて嬉しい限りですぅ」
「うん」
お互い気持ちを理解し合える関係。
そのように見えたが……ツムリは顔つきと声を変化させた。
「"じゃあ、ティアとも。仲良くして、くれる?"」
突然自分と同じ声で問われ、一瞬戸惑う。
迷いつつも、いつもの調子で素直に答える。
「えと……難しい、かも? よくわかんないけど、ティアの声、聞くとモヤモヤする。なんでだろ?」
「"そっか……残念"」
ツムリとは仲良くしたいけど、ツムリの大切な存在とは仲良くできないと。
もちろんティアに悪意がないことはツムリも理解していた。
「うーん……うちのティアさん認めてもらえないならぁ、私も仲良くできないかもぉ?」
「え、やだ。えっと……頑張って、仲良くするから……?」
「……冗談ですぅ。お喋りはこのくらいにしときましょうかぁ。先に行ってきますねぇ」
ツムリはそう言って会話を終わらせた。
いつもの緩い口調で、どこか棘のある言い口で。
「ツムリ、機嫌悪そう? 嫌なこと、言っちゃったのかな……どうしよう」
一人残されて後悔するティア。
回答を間違えてしまったことに。
「でも。ティアより、レプリカの方が良い、ってこと? …………それは、嫌かも」
それでも、自分の気持ちに嘘をつけない性格。
己の分身に、彼女の隣を奪われるような危機感。
「でも、好きにならないと、嫌われちゃう……うぅ……ケホッ……」
ただ仲良くしたいだけなのに。
ままならない現状に息苦しさを覚える。
◇
魔霧ティアの偽歌判別。
レプリカの歌唱を終え、本物が歌い終わるまで通路で待機していた。
そこに1人の女性が駆け足で通りかかる。
「あっプルトさぁん。そんなに急いでどうされましたぁ?」
山文プルト。
元ブイアクトのタレントで今は魔霧ティアのマネージャー。
その表情はただ事では無さそうに見え、聞くと彼女は早口で答えた。
「ティアさんが……歌ってる途中で咳が止まらなくなってしまったみたいで。こちらの薬を」
「え!? それはぁ……さすがに企画どころじゃないですね。行きましょう」
さっきの今で気まずい気持ちも少なからずあったが、そんなこと気にしている場合ではない。
咳とやらは配信にも載ってしまっているだろうけど、それはネプらに任せて本人の下へ向かう。
「でもどうして急にぃ。話してるときは平気そうでしたけど、ホントは調子悪かったんですかねぇ?」
「そんな様子もありませんでしたが……急なストレスで発作が起きることもあるそうですから」
「ストレス……」
走りながら聞いて、胸が苦しくなった。
急な発作なのだとしたら、そのストレス原因は直前まで話していた自分なのだろうと予想できたから。
性格の悪いことを言ってしまった自覚もあったから。
そんな息苦しさを抱えながら歌の配信現場へ行き、無事ティアに薬を渡すことができた。
「うん。もう、大丈夫」
「ホントですかぁ?」
「もう一回、やる? 失敗しちゃったから……」
「ダメです。配信に出るのは許可しますが歌は控えてください」
「だそうですぅ。安静にしてくださいねぇ」
「むぅ……わかった」
幸い症状も軽度らしく、水と薬ですぐに落ち着いてくれたらしい。
「ごめん、なさい。配信、台無しにしちゃって」
「お気になさらずぅ。健康第一ですかぁ」
ティアの謝罪に優しく返す。
これ以上彼女にストレスを与えるべきじゃないと思って。
しかし、ティアはまだ思い詰めた表情をしていた。
「でも……レプリカなら、失敗しない。喉、弱くない、から……」
偽物との優劣。
失敗したことで自分は見捨てられてしまうのではないかという恐怖。
そんな心境で恐る恐るツムリの顔色を伺う。
対してツムリは、どこか余裕のなさそうな作り笑いを浮かべていた。
「そう……かもですねぇ」
「?」
ティアが言及したレプリカとの身体的差異。
それにより思い起こされるのはエルの指摘。
本物より優れていることは、偽物として優れていると言えるのか。
そんなことを気にしながら、ネプらの居るメインスタジオへと戻った。
「戻りましたぁ。今どんな感じですかぁ?」
「一応投票はしてもらいましたが……流石に無効試合ですかな?」
「あー……やっぱりそうなりますよねぇ」
《戻ってきた!》
《ティアちゃん大丈夫?》
《あの咳、流石に偽物の演技じゃない……よね?》
《そんな小細工してたら流石に許せんかも》
ティアの持病は周知の事実。
心配の声が上がる中でツムリが進行しつつフォローする。
「投票結果は後手97%、もちろん大正解ですぅ。ちなみにティアさんはもう大丈夫みたいなのでご安心をぉ」
「心配させちゃって、ごめんね?」
《気にしないでいいよー》
《色んな意味でホッとした……》
「皆さんお優しいですねぇ。ではそろそろ次にぃ……」
コメントを見ながら企画を進めようとしたところだった。
ツムリが不意に黙ってしまったのは。
「…………ぇ」
「……ツムリ氏? どうかされましたかな?」
「ネプ……コメント」
「ん? これは……」
ウラノの指摘で全員がコメントに注目する。
そこに書かれていたのは……。
《元スターライト所属間宵紬は天才子役天陽結の妹》
《元スターライト所属間宵紬は天才子役天陽結の妹》
《元スターライト所属間宵紬は天才子役天陽結の妹》
《うおwなになに?w》
《元スターライト所属間宵紬は天才子役天陽結の妹》
《元スターライト所属間宵紬は天才子役天陽結の妹》
《荒らし帰ってくれ〜》
《元スターライト所属間宵紬は天才子役天陽結の妹》
《元スターライト所属間宵紬は天才子役天陽結の妹》
…………。
視聴者からすれば一見意味の分からない連投コメント。
程なくしてそれは削除され、同じコメントが現れることもなくなった。
一瞬の静寂、それを破ったのはカチュアだった。
「ふむ。荒らしコメントとは久々に見かけたな」
「……! そうですなぁ。しかしモデレーターさんがブロックしてくれたようなのでご安心を。配信を再開しましょうか!」
「せやなー。迷惑客なんて無視や無視」
三人はなんとか動揺を隠し、話を進めようとする。
ただの連投ならまだしも、全員が聞き覚えのある名前。
何かしらの作為を感じずにはいられなかった。
《モデレーターさんありがとー!》
《なんだったんだあれ? 天陽結は流石に知ってるけど》
《ああいうのは気にしたら負けよ》
《次行きましょ次》
コメントでもその名を気にする者が少数現れる。
このままでは不味いと思いながらも、企画主が進行しないことには次に進むこともできない。
そして、当の企画主はというと……。
「ツムリ? 大丈夫?」
「……」
ティアが小声で話しかけても反応しない。
画面を見たまま虚ろな目をしていた。
…………。
(どう……して……)
不意を突かれ、まともにモノを考えられない。
視聴者が知らないはずの名前、捨てたはずの過去の名前、何故それがコメントに流れる? 何の意味があって?
終わらない混乱、そんな異迷ツムリに一人のレプリカが声を掛ける。
(観客の前でマイクを放棄するとは、エンターテイナー失格だな?)
(あ……えと……)
発破をかけられてもまともに返事できない。
見兼ねたレプリカは、吐き捨てるように告げる。
(ふん。軟弱者め。貴殿がその気なら……こちらも好きにやらせてもらうぞ)
呆然自失の少女の代わりに舞台に立ったのは……。
「――――"待たせたな諸君。ここからはカチュア/レプリカのターンだ"」
《お、おう。急に来たなw》
《まあ順番的にはそうなるよな》
《しばらく黙ってたから何があったのかと》
「"ああ、少し内側で揉めてな。少々強引に体の支配権を奪わせてもらったのだよ"」
《自分同士で喧嘩とかあるの?》
《確かに別人格みたいなこと言ってたけど、あれ本気なの?》
「え……ツムリは、大丈夫?」
「"……さあ? このままカチュアがこの身体を独占する、というのも悪くないかもな?"」
「!?」
《なるほどそういう演出ね。……演出だよね?》
《本気で乗っ取られたとか笑えないぞ……》
《え……マジでツムリどうなったん……?》
全てを敵に回すような発言に空気が一変する。
まるで荒らしコメントのトラブルなどなかったかのように。
全ての注目を掻っ攫う。
「"気にする必要はない。全て些事だ。カチュアの歌の前では全て……な"」




