第146話 ティア達とのスタジオコラボ②
《888888》
《良い……やっぱアメツチって最高でね》
《このまま4人で歌枠してくれたって良い》
カチュアとウラノによる歌の披露。
視聴者も喜び、配信としては盛り上がっている。
しかしこの配信の本来の趣旨は……。
「声援感謝する。カチュアとしてもこのまま歌い続けるのは望むところだが……」
「ん、到着したみたいやね」
歌の途中で入室し、既に準備万端の遅刻者が声を入れる。
「はぁい。遅れてしまい大変申し訳ありません……4期生異迷ツムリと申しますぅ」
「ツムリ。トラブル、大丈夫だった?」
「え? あ……お気遣いありがとうございますぅ。そこまでの問題じゃないのでぇ」
「そう? なら、よかった」
遅刻の理由を言えず口を濁す。
寝坊と言えば外聞が悪い。かと言って正直に睡眠時間を言えばマネージャーのように心配する人間が多数現れるだろう。
そのためマネージャーからも口止めされていた。
《おっ重役出勤お疲れ様です!》
《もうちょいゆっくりでも良かったのに》
《臨時歌枠終わりかぁ》
「なんだか歓迎ムードじゃないですねぇ。確かにアメツチ最高だったので気持ちは分かりますけどぉ。でもこのあとも歌の企画なんでご安心くださぁい」
《ちゃっかり聞いてて草》
《普通に歌うだけでいいのよ? ホントにあの企画やるん?》
事前告知済みの配信、 企画内容も概要欄に書いてある。
詳しいことは書いていない端的な説明だが、それでも視聴者の不安を煽るのに十分な文章。
「そんなわけで始めましょう――――『推しの声なら分かるはず? 異迷ツムリと偽歌判別対決!!』始まりますぅ」
異迷ツムリが提案した、彼女にしか出来ない企画が始まる。
「ここからは真繰が説明させていただきましょう。この配信ではブイアクトが誇る音楽ユニット『天泣地踏』とツムリ氏のレプリカに歌っていただき、どちらが本物か視聴者の皆様に判定してもらいますぞ」
《本物と聞き分けられるか不安に思ったことあるけどさ……マジで企画にすることある?》
《生歌でどれだけのクオリティ出せるんだろ?》
「流れとしては、ツムリ氏と本物の1人には順番に別室で歌ってもらいます。その間不正防止のためお互いの歌は聞こえないようにしますぞ。そして両者が歌い終わったら投票タイム、見事的中してもらえれば本物の勝利というわけですな」
《うーん俺ら責任重大過ぎないか?w》
《不正ね。確かに偽物なら真似しやすくなるし本物ならわざと外すこともできるか》
《ネプ氏は歌わない?》
「真繰は今回司会のフォローに回らせていただきますぞ。メイン司会はツムリ氏ですが、歌ってもらう間の進行役は必要ですからな。それに……ちょっとした例題を用意しておりましてな」
《?》
《例題って?》
「はぁい。突然ですが問題ですぅ。ここまでの説明で既に一度ネプさんが入れ替わってますぅ」
《!?!?》
《は? マジ?》
《いや全く違和感なかったけど、流石に冗談?》
「残念ながら本当なんですよねぇ。というわけで、前半と後半どちらが本物だったか予想をご投票くださぁい」
視聴者は困惑しながらも表示された投票フォームに入力する。
「投票結果は前半44%、後半56%とぉ……残念でしたぁ。本物は前半ですぅ」
「いやー真繰も驚きましたなぁ。本当に自分が目の前で話しているようで。流石ですなツムリ氏」
《意識しないとわからんてw不意打ちやめれる?w》
《いや事前に言われてたとしても怪しくない……?》
《お、俺は当たったぞ!(山勘)》
「要領は掴めましたかねぇ? それでは早速本番やっていきたいと思いますぅ」
投票結果はほぼイーブン、誰もが勘に頼らなくてはならないような難問。
外したファンの嘆きを見つつ、ネプはできる限り明るく振る舞う。
撮影現場は依然として不穏な空気が流れていた。
「トップバッターは誰から行きますかぁ?」
候補の3人がそれぞれの顔を見合う。
カチュアは一切動く気配を見せず、ティアは顔色を伺って迷っている様子。
その空気を察したウラノが手を挙げた。
「ほなウチから行こかな」
「はぁい。ではウラノさん一緒に別室へ行きましょうかぁ」
《いきなりウラノちゃんか……》
《絶対に当てる!》
意気込む視聴者コメントを横目にツムリの後ろを追う。
別室への移動中、配信に音が入らないようマイクを切って会話する。
「ツムリちゃんさ。いつまでこんなことするつもりなん?」
「……いつまでと言うとぉ?」
「自分でも分かっとるんやろ? さっきの空気、皆不安がっとる。長くは続かんよこないなこと」
2人きりになって、結局小言のように棘のある聞き方をしてしまう。
それでもツムリは頑なに意見を変えようとしない。
「長く続けなきゃ意味ないですからぁ。皆さんを終わらせないのが今の私の活動目的ですぅ」
「っ……誰も求めとらんって言っとるんよ! プルトのコピーだって……ファンも本人も望んどらんやろ」
「……あのぅ。それ、プルトさんに直接聞きましたぁ?」
「? 直接は聞いとらんけど……」
逆に質問され戸惑うウラノ。
そして次のカミングアウトに言葉を失う。
「なんで勝手にやってるって前提で話すんですかぁ? 私、プルトさんに許可取りましたけどぉ」
「は……?」
「"『ご自由に、私はもうプルトになれませんから』と。もちろん私ではなく、本人の言葉です"」
「なんやそれ……ウチ聞いとらんけど……」
「"……これは私の感想ですが、言い辛いでしょうね。ウラノさんがそれだけ怒っていたら"」
「…………ごめん。その声やめて。手出そうになる」
「――――それで。ウラノさんはなんで反対なんでしたっけぇ?」
プルトの声に拒絶の意志を示すウラノ。
ツムリは素直に要望に応じた。
「ウラノさんが好きなのってぇ、山文プルトだからですかぁ? プルトさんじゃないあの人に興味はないとぉ……」
「んなわけないやろ! 今だって!! …………なんでもない」
「今もお付き合いしてる、ですかぁ? じゃあウラノさんはそれでいいじゃないですかぁ」
一瞬声を荒げ、すぐに冷静になる。
そんなウラノに畳み掛けるように告げる。
「ウラノさんは今も好きな人に会える。でもプルトさんのファンはもう会えないんですぅ」
「そんなん……本人に会えなきゃ意味ないやん」
「もちろん本人には敵いませんけどぉ、思い出を振り返ることはできますぅ。話題になればまた仲間と語り合えるじゃないですかぁ。コンテンツに更新がないとオタクは語ることすらできないんですからぁ」
止まらない語り。
その勢いに圧倒され、反論も出せなくなる。
「だから私が残すんですぅ。プルトさんが一生忘れられないように……ファンに語り継いで貰えるようにぃ」
それは間違っている、そう思っても言葉が出ない。
ツムリの強固な意志を説き伏せるだけの論を持ち合わせていなかったから。
「では先に行きますけどぉ。折角なので待ってる間にこれ聞いてもらえますかぁ?」
そう言ってツムリは端末を操作し、一瞬遅れて自分にメッセージが届く。
防音室に入る彼女を見送り、それを開封する。
メッセージにはファイルダウンロードのリンク、2曲の音楽ファイルが入っていた。
ナンバリングを施された同じ名前のファイル、歌い手は山文プルト。つまり両方とも同じ曲で同じ声。
これが挑戦状であることはすぐに察した。
今回の配信と同じ、本物を当ててみせろと言いたいのだろう。
「はは……ほんま性格まで歪んできとらん? こんなやらしいことするようになるなんてな……」
心が沈むのを感じた。自分に嫌気が差して。
その音声の聞き分けに確信を得られなかった自分に。
後輩に悪感情を抱いてしまう自分に。




