↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
164/205

第142話 ダーク達との食事会

 四条ルナの宣戦布告を受けた翌日、早くも1件の連絡があった。

 差出人は狡噛リリ。

 見慣れた文面、いつもの食事会の誘いだった。


「手際が良いのう。ツムリのときとは別人のようじゃな」

「"別人だと思ってくれて構わないのじゃ。実際、最近はワシがあの子に食わせてやってるからのぅ"」

「それは頼もしい限りじゃな」


 招待主の狡噛リリと共に食事の準備。

 何度も見てきた彼女の手さばきを真似て調理を手伝う。


「あ、気になってたんだけどさっ。偽物さんはニオとおんなじショート作れるの?」

「"偽物じゃなくてレプリカって呼んで欲しいなっ! 一応動画も作れるけど、同じクオリティ目指すならツールの使い方覚えないとかなー"」

「あーやっぱり勉強はしなきゃダメかー。今度教えてあげよっか?」

「"いいの? それすっごく助かるかもっ!"」


 フレンドリーなニオからの質問。

 レプリカの存在に興味を持った様子で接してくれる。


「ダークくんは相変わらずよく食べますねー」

「作り甲斐があるのじゃ」

「あっならそっちのダークくんと大食い対決してみない?」

「"あの、無茶言わないで欲しいっス……入れ替わっても腹の大きさ変わんないんスよ? こんな大食いモンスターの相手は勘弁っス"」

「随分な言いようっスね!? え、ツムリさんにそう思われてるってことっスか……?」

「えー? 大体こんな感じじゃないですかねー?」

「たまにデリカシーゼロになるからのうダーク殿は」

「そうなんスか……ちょっと反省するっス……」


 エルとダークも交えて食卓を囲む。

 異迷ツムリを表に出さなくても輪に入れてくれようとする。


 自然に振る舞おうとしてくれるのだろう。

 それでも……どうしても顔色から察してしまう。


「あのぅ。話し合わせてくれるのは嬉しいんですけどぉ。無理してませんかぁ?」

「あ、はいー。無理してますよー」

「エル姉ぶっちゃけるなぁ。でもそだねー。慣れるのにちょっと時間かかるかも?」

「ですよねぇ。どうして合わせようとしてくれるんですかぁ?」


 踏み込んだ質問をしてみると、彼女らは包み隠さず答えてくれた。


「正直な話、ツムリ殿の目指す道が正しいとは思っておらんよ。しかし何事も食わず嫌いは悪じゃ。まずは理解するために歩み寄ってみようかと思ってのう」

「もしかしたら一緒に別の道探せるかもしれないからねっ」


 歩み寄り、同じ視点で一緒に考えてくれる。

 素敵な仲間を持ったと思う。


「ツムリさんが納得できる方法で、みんなが幸せになれる道。探してみないっスか?」

「別の道、ですかぁ……」


 それでも、異迷ツムリはそれを望んでいない。

 既に彼女の中で結論は出ている。

 相談を重ねて出した答え、今更数人に説得されても揺らぐことはない。


「お気持ちは嬉しいですぅ。でも……みんなって、誰のこと言ってますかぁ?」

「もちろんブイアクトもファンも、世界中のみんなっスよ」

「それは……"自分達『レプリカ』も含めてっスか?"」

「っ……」


 ダークの声で返すと彼女は怯んだ。

 それは同じ声に驚いたのか、それとも問いの答えに迷ったのか。


「それって一人の人間としてってこと?」

「"だねっ。そっちはツムリちゃんに納得してもらおうとしてるけど、それじゃ足りないよ? レプリカ全員が納得できないとツムリちゃんも納得できないってさ"」


 まるで自問自答のように同じ声で返す。


「"『レプリカ』は自分と同格の存在。異迷ツムリの中の別人格ではなくてー、異迷ツムリも1つの人格に過ぎないって。あの子は思ってるみたいですねー"」

「それは……みんなに理解してもらうのは難しそうですねー」

「ファンからすればツムリ殿は唯一無二じゃが……」

「"ワシらは世間からしたら偽物。それらを同列に見ろと言うのが無理難題なのは重々承知の上じゃ"」


 レプリカ達がツムリの意見を代弁するように答えた。

 そんな回答に違和感を覚えたニオが質問する。


「ね、ね。ニオのレプリカさん。聞いてもいいかなっ?」

「"ん? なーに?"」

「ツムリちゃんが納得してないって言ってたけど、レプリカさん達はどうなの? ホントに皆に認めてもらいたいって思ってる?」

「"あー……やらしい質問するねー。さっすがニオのオリジナル"」


 この場に集まった4人はツムリに寄り添おうとしてくれている。

 それ故に、彼女らのレプリカも似た意見を持ち合わせていた。


「確かに、ワシ自身が偽物だったらと考えると……1歩身を引いてしまうかもしれんのう」

「"同意見じゃよ。ワシだけならこのまま隠居しても構わん。……まあ、そう考えておらんレプリカも居るがのう"」


 偽物の自覚があり、無理に認めてもらいたいとは思っていない。

 では何故、彼女らは世間に反発するような行動をするのか。


「えっ? じゃあなんでこんなこと続けてるんスか?」

「"それはもちろん――――ツムリさんのためっスよ"」


 その理由も当然、オリジナル達と同じ。


「"オリジナルの自分がツムリさんを助けたいって思ってるように、自分も助けたいんス。ツムリさんは……『推しが居なくなるのはもう耐えられない』って、自分達を頼ってくれたんス"」

「そう……なんスね……」


 余りにも真っ直ぐな答えに本物のダークも気圧される。  


「……あの、こっちのダークさんちょっと喋りすぎですねぇ。流石に恥ずかしくなってきたのでしばらく黙っててもらいますぅ」


 気恥ずかしそうにしながら姿を現す異迷ツムリ。

 そんな彼女にエルが聞いた。

 

「じゃあツムリちゃんはー、エル達が急に居なくなるのが怖くてー、レプリカさん達にお願いしてるってことですかー?」

「そうなりますねぇ」

「なるほどー……確かに怪我や病気で引退しちゃう子も居ますからー。かくいうエルも怪我の後遺症でダンスはできませんしねー」

「靭帯の怪我でしたっけぇ……でもその通りですぅ。私の体なら歌って踊れるエルさんを見てもらえますからぁ」


 どうすることもできない身体事情。

 ツムリも一瞬心苦しそうな顔をして、レプリカの存在価値に話を繋げる。


「でもー。それってホントにエルなんですかねー?」


 その一言で空気が静まった。

 まるで否定するかのように、エルが質問を続ける。


「怪我してから5年くらいですかねー。もう二度と踊れないって覚悟した上で今のエルが居るんですけどー。そのエルのコピーが踊れるのって、なんかチグハグじゃないですかねー?」

「え、えと……」

「エルは歩けた頃もあるので皆の気持ちわかりますー。でも歩けなくなったのはエルだけ……。ツムリちゃんの身体で、本当にエルの気持ち分かるんですかねー?」

「"……正直、さっぱりですねー。エルはこの身体しか体験したことないのでー……"」


 口調は変わらないのに怒気を感じさせる圧。

 答えに詰まったツムリの代わりに答えるエル/レプリカ。


「嫌な聞き方してごめんなさいー。もちろんエルもツムリちゃんの気持ちが全部分かるわけじゃないですからー、否定するつもりはないんですけどー。でも、最早エルの完璧なコピーとは程遠い気がしてー……。例えるなら、上辺だけ読み取って出力する画像生成AIみたいなー?」


 助けたいと、寄り添いたいと思っても、違う人間である以上食い違う部分もある。

 触れてはならないデリケートな問題もある。

 エルも今言うべきじゃないと理解していながら、言葉を止められなかった。


「ツムリちゃんがホントに好きなのってー。思い通りにならない本物と、都合よく脚色した偽物。どっちなんですかねー? ……なんちゃって」


 異迷ツムリとの仲を深めるための食事会は、最悪の雰囲気で終了した。


 


◇




 夜中、担当アイドルを車で迎えに行った。

 他メンバーとの食事会を終え、車に乗り込んだ彼女は無言で、表情も暗く見える。


「何かあったのか? 食事会」

「……いえ何もぉ。お友達と楽しくお食事してきただけですからぁ」

「ならいいんだが……」


 本人が言わなければそれ以上追求することもできず、再び車内が静かになる。

 それ故に、彼女の小さなつぶやきも耳に届いてしまった。


「靭帯って……どうやったら傷つけられるんですかねぇ?」

「……は? おま、なにバカなこと考えてんだ!」

「っ!? す、すみませぇん……」

「あ、いや。こっちこそ大きな声出してすまない……」


 動揺させられ、運転と語気を乱してしまう。

 深呼吸をして一度心を落ち着ける。

 靭帯、ということは2期生の法魔エルと何かあったのかもしれない。

 それを踏まえ、彼女が納得できるよう言葉を選んで伝える。


「冗談でもそういうことは言わないでくれ……それに、足失って困るレプリカも居るんだろ?」

「あはは……ですよねぇ。変なこと聞いてごめんなさぁい」


 いつもの調子で謝罪だけして、それ以上は何も言わない。

 彼女の精神状態も読めず、どうしても不安に駆られる。


「その……なんだ。最近どうだ? 体調とか」

「会話に困った父親みたいなこと聞きますねぇ」

「くっ……すまん」

「別にいいですけどぉ。最近は健康そのものですよぉ? ちゃんとご飯食べてますしぃ、1日12時間以上寝てますしぃ」

「それならよかっ……ん? さすがに寝過ぎじゃないか?」


 何気なく聞いた質問で聞き捨てならない答えが返ってきた。

 ありえない睡眠時間ではないとはいえ、元々の倍近い時間となると流石に気にしてしまう。


「ずっと起きてると頭がボーっとしてくるんですよねぇ。なのでお昼寝2回くらいしてますぅ」


 最近変化があったとすれば、やはりレプリカの存在。

 表面上はたまに表に出てくるだけの別人格。

 しかしツムリの話を聞く限り、彼女の頭の中では常に活動している模様。


「あ、でもぉ。寝るって言ってもレプリカの皆さんとお話できますからぁ。楽しい時間過ごさせてもらってますぅ」


 一つの体に共存する十数人の人格、負荷があってもおかしくない。

 しかし彼女にとっては自分を助ける存在……。

 それが害となっているんじゃないかなんて、聞けるはずもない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。