第141話 異迷ツムリ対策会議
「はいはーい! 皆様お集まりいただきありがとうございます♪ それではツムりん対策会議の方始めましょうかね? 司会はこの私、アルマこと四条ルナが務めさせていただきますよ!」
会議の進行を始める女性。
導化師を名乗ることをやめた女性、四条ルナ。
「では早速今回の議題について。事前に話した通りなんだけど、4期生の中で綺麗に意見が割れちゃっててね。それに合わせて派閥を分けたいと思いまーす」
彼女が取り仕切るリモート会議の参加者はブイアクトメンバー総勢15名。
その内一人、司会者に最も近しい人間が質問する。
「質問よろしいですの?」
「お、早速だね。ロカちんどうぞ〜」
「何故派閥分けを? ツムリを説得するにしても我々が仲間割れしていては説得力に欠けるように思いますが。全員の意志を統一しなくては呆れられるのでは?」
会議の目的そのものに疑問を抱き、問う。
対してルナは意味深に唸った。
「意志統一ね。じゃあ試してみよう」
「?」
「今からツムりんに対してどう思ってるのか聞くよ。選択肢は心配・イライラ・どちらでもないの3択ね」
唐突に参加者全員への質問を投げる。
リモート会議アプリのアンケート機能を使って3択を迫る。
1分ほど待ち、投票を締め切る。
「心配5票、イライラ2票、どちらでもない8票と。バラバラだね。それで意志を統一するって、まず私達で喧嘩して少数派黙らせるってこと?」
「それは……論外ですわね。同じ過ちを繰り返すようなものですわ」
「でしょ? 特にツムりんは私達の真似できるくらい解像度高いからさ、本音で向き合わないと何言っても響かないよ」
ロカにだけではなく、参加者全員に納得させるつもりで丁寧に意図を伝える。
「それに派閥分けは可能性を広げることにも繋がる。どこかの派閥に共感して貰えればいいんだから」
「ええ、納得しました。話の腰を折りましたわね。続けてくださる?」
「りょーかい♪ 他にも気になることあったらいつでも言ってねー」
ロカの快い返事と共に質疑が完了する。
他の参加者の様子も伺いつつ、ようやく話を進められるようになった。
「ではでは本題の方へ。まずは意見が正反対に別れた二人の話から聞きたいな。シューコちゃん先にいい?」
「いいですよ」
ルナに促されて従うシューコ。
「シューコは……アイツの鼻をへし折ろうと思ってます」
開口一番、強気な言葉に静かになる面々。
シューコは構わず続ける。
「ブイアクト全員のバックアップだとか、よほど自分の特技に自信があるみたいなので。お前に完全再現されるほどウチらは安くねーよって。負かしてわからせて、元のダメっ子動物に戻してやります」
きっぱりと敵対の意志を示し、空気が引き締まる。
「強気だねぇ。さっすがシューコの姐さん」
「姐さんはやめてください。推しでもはっ倒しますよ」
「お、いいねー。いつでもウェルカムだよ?」
「…………」
「無言の圧助かる! ま、話が進まなくなるから茶番はこのくらいにして、次はダークくん。どうぞ?」
ルナの茶化しで少しばかり空気が緩んだところで、次の発表者にマイクを渡す。
「自分は……シューコさんほどどうしたいとかはっきりとは言えないっス。けど、ツムリさんだって悩んで出した答えだと思うんス。それを頭ごなしに否定したら……もっと壊れちゃうような気がして」
優しく、優柔不断な物言い。
それでもダークは胸を張り、自分の出した答えを発言する。
「自分は手を伸ばしてあげたいっス。ツムリさんが受け入れてくれなくても、何度も手を伸ばしてあげて。みんなが納得できる道を一緒に探してあげたいっス」
「優しいねぇ。正義のヒーローみたいだ」
「へへ……どもっス」
「さて二人の意見が聞けたところで、残りの二人はどうかな?」
意見が分かれた二人に続いて、残る4期生の意見を募る。
先に反応したのはセンカだった。
「センカは別にどうしたいとかないヨ。ツムリのしたいようにすれば良いと思うシ、その結果アイツがどうなろうと自己責任ダ」
「あら放任主義」
無関心に近い、ある意味一番冷たい意見。
そこでセンカは視点の異なる考えを述べる
「ケドナ、自分の活動に影響出るんなら話は別ダ。ツムリ炎上の熱が自然に冷めたとして、ブイアクトの落ちた信用は回復しないダロ。俯瞰して対策考えないとナ」
「リアリストだねぇ。ホントに最年少?」
先まで見据えた意見に驚かされつつ、もう一人に話を振る。
「では最後にティアちゃん。どう思ってるかな?」
「ティアは……今のままでも、いい」
「おや? その心は?」
「最近また、連絡取れるようになって、仲良くできてる、から」
そんなカミングアウトに一同が面食らう。
近づきがたい危うい存在、そんな認識の人物と以前と同じように交流していると言うのだから。
「んーそれは初耳かも。ちなみに説得とかできそうな感じ?」
「えっと、たぶん無理。余計なこと言って、嫌われたくない」
「だよねぇ」
現状維持を望む非協力的な少女。
それでも現時点でツムリを説得できる可能性が一番高い。
どう扱うべきか、迷っていると逆に彼女から聞かれた。
「でも、友達が悪く言われてるのは……ちょっと辛い。どうしたら、やめてもらえる、かな?」
「おっと、ファンを説得する方は流石に考えてなかったなぁ。ごめんね?」
「うーん……カチュア師匠、助けて?」
「うお!? 都合の良いときだけ甘えてくるな貴殿は……」
急に話を振られたカチュアは驚きながらも、面倒見良く返答する。
「まあ良かろう。この件に関してはカチュアも答えを出しかねている。なら弟子の願いを聞き入れてやるのも一興」
「ありがと。チョロ師匠」
「なぜ毎回余計な一言をつけたがる?」
快諾を茶化され項垂れるカチュア。
そのまま会話のペースを奪ったまま続ける。
「派閥分けだったな? ならウラノもこちらにつけ」
「え? ウチは普通に止めたい派なんやけど……」
「ダメだ。貴殿のその感情はシューコとは似て非なるもの、悪意に近い」
「っ……分かったようなこと言うんやね」
「分かるとも。プルトの件で内心穏やかではないのだろう?」
同じ歌唱ユニットを組み、付き合いの長いウラノの心情を指摘する。
山文プルト。既に引退したタレントに特別な想いを抱いているウラノ。
対してツムリは偽の山文プルトを生み出してしまった。
「貴殿が感情的に否定しても奴からすればただの理不尽、反発されて終わるだけだ。少しはティアを見習って奴と仲良くする方法を学べ」
「……あかん。珍しくなんも言い返せんわ」
「珍しくは余計だ」
ウラノは己の悪感情を言い当てられ、イジケるように静かになる。
するともう一人、派閥に興味を示す者が手を挙げる。
「その話、真繰も加えて貰えますかな?」
「ネプ……あんたはダークくん派やろ? ウチの心配なら今は必要ないて」
「はっはっは。こう見えて真繰も結構メンタルに来ておりましてな。今は同じ気持ちを共有できる人と一緒に居たいのですが……ダメですかな?」
「胡散臭いこと言うなぁ……好きにしたらええんやない?」
それぞれが複雑な想いを抱えながら1つの派閥がまとまった。
ティア率いる派閥はカチュア、ウラノ、ネプの計4人。
「いつの間にか派閥分け始まっちゃってるみたい? じゃあこの調子で進めちゃおっか。他のみんなはどうしたい?」
本題に話が進み、進行役も声かけする。
すると4期生の1人が手を挙げた。
「あの、シューコから指名するのってありですか?」
「いいんじゃないかな? 相手に賛成してもらえるならね」
「じゃあ……ジュビアさん。サタニャさん。ツララさん。一緒にアイツ叩きのめしませんか?」
「お、このメンツってことはゲームでもする気かな? いいねー楽しそう☆」
「お目が高い。ふふん」
シューコが指名した3名のうち2名、ジュビアとサタニャは快く承諾する。
しかしもう一人、ツララは不安そうに聞いてきた。
「確かにツムリくんとの本気の勝負は心惹かれるが……いいのかい?」
「何がですか?」
「彼女は強敵だ。アルマ先輩なら分かるだろうけど……僕は強者を肯定してしまう。また一緒に遊びたいと、私欲が出てしまうかもしれない。そうなれば僕は彼女の味方をするだろう」
「あーそういうとこあるかもね」
自分の性格を理解しつつ、今回の目的である異迷ツムリの説得に自分は適しているのかと。
珍しく不安そうなツララを見て、シューコは問う。
「ツララさん。ひょっとして日和ってます? 負けるかもしれないって」
「……なんだと?」
「それか敢えて自分は弱くなろうとか? 本気で戦える相手残すために」
「冗談でもやめたまえ。この幽姫ツララがゲームで手を抜くなど、億が一にもありえない」
わざとらしく煽るシューコ。
ツララなら必ずノッてくるだろうと、器用に誘導する。
「なら示してください。真似られる程度の腕ではない。幽姫ツララは最強だって」
「そこまで言われては仕方ない。君達の出番がなくなっても知らないぞ?」
「やれるものなら。逆に舐めたプレイしてたらついでに轢いていくんで」
「中々言うじゃないか。楽しみにしておこう」
ツララも乗せられていると理解しながら、後輩に強者の余裕を見せる。
そんな様子を見ていた彼女の同期生が声をかける。
「おや。ツララはそっちにつくんじゃな?」
「悪いねリリ。ご指名いただいたもので」
「構わんよ。後悔のない選択をしなされ。ではワシらは予定通り……ダーク殿につくとしようかのう」
「え? リリさん、予定通りって……?」
ダークは突然現れた賛同者に困惑し、言葉の意味を問う。
「アルマちゃんに前情報貰ってから2期生でも話し合ったんだー。結論はダークちゃんとほぼ一緒っ」
「ムルちゃが言ってたんですー。ツムリちゃん一人で助けに来てくれたってー。それなら今度はエル達が助ける番ですよねー」
「ニオさん、エルさんも……ありがとっス!!」
大声量の感謝が響き渡り、2つの派閥メンバーが決定する。
シューコ率いる派閥はツララ、ジュビア、サタニャ。
ダーク率いる派閥はリリ、ニオ、エルの計4人ずつ。
「意外とみんな迷いがないねー」
「他人事みたいな反応ですが、貴女は誰に付きますの?」
「ああ、私は……」
進行役のアルマはどの派閥に与するのか。
ロカに問われ答えようとすると、残る4期生に割り込まれる。
「オイオイ。アルちゃん先輩は逃さねーゾ?」
「やっぱり来たね」
「どうせまた隠れてコソコソ根回しすんダロ? ロカちゃん先輩も連れて」
「金魚のフンみたいに言わないでくださいます?」
年長者相手にも遠慮なく絡みに行く最年少の少女。
己の求める人材に対し、偉そうに勧誘する。
「二人ともセンカの手伝いしてくれヨ。たまには使われる側になってみないカ?」
「面白い誘い方するねー。もちろん私はオッケー♪ ロカちんもいいよね?」
「最近振り回されてばかりですわね……まったく。けど目を離すと予想もつかないことをしでかしそうですから、仕方ありませんわね」
センカの誘いを快諾するルナと渋々受け入れるロカ。
続けてルナは残りのメンバーについて触れる。
「ちなみにセンカちゃん。あと一人余っちゃってるんだけどどうかなー?」
「エー……まあ人手余らせるのも勿体ないカ……。オバサン、暇なら手伝えヨ」
「待ってマシタ! もちろんお供しマスよ!」
そうしてメンバー全員の派閥振り分けが完了する。
最後はセンカ率いる派閥、四条ルナ、ロカ、サイコの計4人。
「さてと! 振り分けも終わったことだし、後は各派閥に別れて作戦会議かな? 全体で確認しときたいことある人はいるー?」
全体会議を終わろうとすると、疑問はまだ多いらしく最後の質疑応答に移る。
「ツムリ氏にアプローチをかける場合の注意事項などはありますかな? ティア氏の話だと普通に連絡は取れるようですが」
「そうだねぇ。気遣いすぎも良くないから基本は今まで通りかな。でもいきなり喧嘩腰で刺激したくはないよね。最初はフレンドリーに行きたいかも?」
「ならシューコはしばらく待ちですね。バチバチにケンカ売りに行くんで」
ルナの回答を参考に各々が接し方を検討する。
「そういうことなら任せるのじゃ。普段通りの食事会なら少しは気も休まろう。その腹、満たしながら探ってやるとするかのう」
「こういうときのリリ婆様ホント頼りになるなぁ」
派閥ごとに接触するタイミング、それぞれのコミュニケーション方法で提案してもらう。
「はいはーいっ! 次ニオ質問したーいっ!」
「ニオち元気だねー。はいどうぞ♪」
快活なテンションでニオは核心を突きにくる。
「結局ツムリちゃんて何者なの? 声真似得意なだけでなんにもできない子だと思ってたんだけど、なんか歌もゲームも上手いし?」
「確かに。実力があるなら何故ツムリ氏はそれを隠すような真似を?」
ルナは一瞬思考し、回答を一部委ねることにした。
彼女の正体について知っているのは……。
「ああそれね。多分あの子は異迷ツムリって雑魚キャラを演じてるんだよ。もっと言えば異迷ツムリの中の人をね。そうでしょ? センカちゃん」
「ん? アー……そうらしいナ。聞いた話だとアイツが裏で名乗ってる本名、間宵紬は既に死んでるってサ」
「それは……なんとも闇深そうな話ですな」
4期生が手に入れた情報を共有させる。
自分の推測が正しかったことを、正確な情報で裏付けるためにも。
「元々なんでもできるくらい高スペックなんだろうね。それでもできないフリするのは、その間宵紬って子を完全再現するため」
ルナは異迷ツムリの思考パターンを予測する。
自分の予測できない部分が彼女の歪み。
間宵紬という外殻で隠しきれなかった、本当の彼女。
「できると思えばできる。できないと思えばできない。その人だと思いこめばその人になれる。その人ができないことは当然できない」
本物の変化に合わせてアップデートされる不安定な人格達。
その根幹にあるのは……。
「自分が何者でもないと思っているから何者にも成れる……究極の自己暗示だね」
◇
「以上、今日の会議おしまい! ――――何か得られるものはあったかな? アッキー」
リモート会議を終了し、ルナは話しかけた。
ずっと同じ部屋で静かに見学していた弟に。
「いいのか? こんな敵に塩贈るような真似して」
「だから敵のつもりないってー。ツムりんを助けたいって気持ちは同じでしょ?」
「……本当に同じなら良いんだけどな」
肩を組みにくる姉から距離を取る。
自分には味方アピールをしてくるが、ツムリにはわざと敵役を演じているようにも見えた。
「間宵紬の件、知ってたのか?」
「ううん? 全然知らない」
「は? でもさっき……」
「ああアレ? 4期生の子達なんか知ってそうだったからカマかけてみただけー」
どこまで知ってるのか、何を企んでいるのか、底が知れず信用しきれない。
それでも、先ほどの会議からしてもツムリを助けたいというのは本心なのか……?
「……間宵結。間宵紬の双子の姉で、あの子の本名だ」
「ほほう? 敵に塩贈るような真似していいのかな?」
「聞くなよ……情報貰うばかりじゃフェアじゃないと思っただけだ」
まだ信用したわけじゃない。
どのみち推測されるなら隠しても無駄だと思っただけ。
そう自分に言い訳して、間宵解斗から聞いた話の一部を伝えた。
「天陽結……そっか、あの子が……」
「ん? ああ。そう言えば姉さん昔テレビでよく見てたな」
「お、よく覚えてるね。けど今は私のことより……うん。教えてくれてありがと。おかげで大分読みやすくなったよ」
懐かしむような表情をすぐに切り替え、いつもの明るい姉に戻る。
読みやすくなった、などと言われると本当に教えて良かったものかと今更悩む。
「……流石に話しすぎたな。フェアじゃないからそっちも情報くれ」
「あらま図々しい」
「誰に似たんだと思う?」
「言うねー。でも大して知ってることないからなぁ……考察くらいなら?」
「それでいい。聞かせてくれ」
姉のことは信用していないが、人読みスキルだけは信頼できる。
その姉の考察なら聞いて損はない。
「さっきさ。あの子は何者でもないって言ったじゃん? 今の話聞いたら余計にそう思ったよね」
「ああ……確かに」
その意見には同意するしかなかった。
間宵紬の居ない世界で生きられないからと、間宵結を捨てた少女。
今となっては間宵紬だけでなく、10を超える人格と体を共有している。
あの子の本物は一体どれなのか。
「私はそこに鍵があると思うんだ。あの子を何者かにしてあげれば、少なくとも今よりずっと良くなるはず」
何者かになる、つまり主人格を決めるということか。
とはいえ世間から偽物と見なされるのでは今と何も変わらない。
選択肢は実質2つ。
「アッキーはどっちが良いと思う? 紬ちゃんか結ちゃん、どっちとして生きるのか」
本来の人格、間宵結として生きるべきか。
それとも偽物の間宵紬……異迷ツムリとして生きるべきか。
「どっち……なんだろうな」
所詮彼女にとっては自分も他人。
答えなんて、出せるわけがなかった。




