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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第138話 異迷ツムリを推す男③

 間宵解斗との長い語らいを終えた。


 異迷ツムリ、彼女が彼女になる前の話を聞いた。

 そして異迷ツムリになってからの話をした。


 自分で話しながら思った。

 これが同一人物の話だなんて、未だに実感が湧かない。


 彼女の本物は間宵結。

 でも今まで接し続けてきた異迷ツムリは、偽物の間宵紬。

 僕は誰にどう声をかけるべきなのか。


 帰宅中もずっと考えていた。

 グルグルと思考する無限に思える時間を経て、家に着く。

 するとそこで、その思考を阻む者が現れた。


「お、アッキーおかえり~。良い話聞けた?」

「……ただいま」


 四条ルナ。姉であり、導化師を辞め「アルマ」として活動を続ける予定の人物。

 正直、姉と顔を合わせるのは気まずい。


「素っ気ないなぁ。私が連絡先教えてあげたんだしさ、ちょっとくらい教えてくれないかね?」

「敵に情報は送らない」

「えー酷い言い草だなぁ。敵だなんて」


 フランクに話しかけてくる姉を一蹴する。

 喧嘩ではない。こちらが一方的に反発してるだけ。

 それは彼女が裏切ったから。

 ツムリのことも、僕のことも。


「少なくともツムリはそう思ってる。導化師を終わらせたアンタのことはもう推せない。ってさ」


 『異迷ツムリをこれ以上苦しめないこと』を条件に協力した。

 それを破り、異迷ツムリは姉を敵視している。

 もはや家族だろうと味方する理由は一つもない。


「僕は異迷ツムリのマネージャーだ。あの子の敵は僕の敵でもある」

「なるほどねぇ。二人して拗らせちゃってるなー」

「……真面目に話す気ないなら部屋戻るから。明日のミーティングの準備もあるし」

「ミーティングって言ってもリモートでしょ? そんなに準備することある?」

「姉さんには関係ない」

「あ、ひょっとして怒らせちゃった? ごめんって〜言い過ぎたのは謝るから! 最後に1個だけ!」


 軽薄な絡み方にイライラしていると、一瞬で姉の雰囲気が変わるのを感じた。


「ツムりんのこと、私も助けたいからさ。困ったらいつでも頼ってね」


 声のトーンだけで本気で言っていると思わされる。

 その対人話術に何度騙されてきたことか。


「……余計なお世話だ」


 一瞬揺れ動いた心を律して拒絶する。

 これ以上一緒にいるとまた誘導される。

 そんな予感がしてすぐにその場を離れることにした。

 姉の声が届かないところ、自室に閉じこもる。


「……明日ミーティング、ね。情報提供感謝♪」


 姉の企みは、いつまで経っても予想できない。




◇




 四条彰との長い語らいを終えた。


 異迷ツムリ、彼女が彼女になる前の話をした。

 そして異迷ツムリになった後の話を聞いた。


 おかげで一晩整理して考えはまとまった。

 その数日後、職場で話しかけられた。 


「プロデューサーさん。今いいですか?」

「来週のスケジュール教えて〜」


 事務所のアイドルが2人、プロデューサーである自分と仕事の話をする。

 至って普通のことだ。

 だが先日昔話をしたこともあって、少々変な気分になる。


「定期ライブですね。この時期はイベントも少ないですから。時間が余ったら配信チャンネルの運用をお願いします」

「またー? テレビ出演のオファーとかないの?」

「無茶言わないでください。それより……最近また2人で行動していることが多いですね。綾女さん、沙織さん」


 間宵紬と『スターライト』という名のグループで活動していた2人。

 入れ替わり後の間宵紬から離れるためにソロデビューしてからも、それぞれアイドル活動を続けている


「んー。ソロデビューした手前あれだけど、なんか今さら1人で活動するのも物足りなくてねー」

「まあ……今は少しだけ気が楽ですね。あの子がいた頃に比べれば」

「……」


 触れづらい話題に返答することができなかった。

 2人は気づいているようだが、まだ自分の口から間宵紬の真実は語っていない。

 今も話す気がないことを察してくれたのか、沙織は話題を変えた。


「あ、そうだ配信チャンネルといえば。コラボしてくれそうな人見つけたんだった」

「? 珍しいですね。そっち方面に意欲的なのは」

「お声がけしてもらったんです。話を聞かせてくれれば広報活動に協力しても良いって」

「お相手はなんと超大手、ブイアクト4期生の向出センカちゃん〜」

「……ブイアクト?」


 耳を疑った。

 彼女らの口からその名前が出るとは思っていなかったから。


「マズかったですか?」

「いえ、マズイことは……ああ。確かにマズイかもしれません。今は炎上騒ぎの只中ですから。時期を見合わせた方が賢明かと」

「あーそういえば同期か。異迷ツムリちゃん、結構やらかしてるみたいだね」

「……そのようですね」


 不意にその名を聞いて、言い淀んでしまう。

 流石に2人も自分の反応で気づいたのだろう。

 目を細め、核心を突いてくる。


「……プロデューサーさん。異迷ツムリって子、ひょっとして……」

「! すみません。次の仕事があるので私はこれで」

「あっ逃げた。……やっぱり?」

「そういうこと……だよね」


 何も伝えないまま、気づきばかりを与えてしまう。

 本当なら当事者の2人にも話すべきなのかもしれない。

 申し訳ないとは思っている。

 でも、伝えたらどうなる?


 仮に真実を知った2人が、彼女を心配して会いに行ったら?

 思い出したくないことまで思い出させてしまうかもしれない。

 なら嫌われたまま、関わりたくないと思わせたままの方が安全だ。

 あくまで妹が最優先、自分の中でそれは変わらない。


「ん? 通知……次の配信予定か。これはまた燃えそうな……」


 ふと携帯端末の振動を感じ、通知内容を見る。

 推しの配信告知。異迷ツムリが次にやろうとしていることを知る。

 彼女がどのような選択をしても、自分は見守ることしかできない。


「当てつけ、か……憧れを汚した元推しへの」


 異迷ツムリが目の敵にしている存在、『アルマ』。

 知らない仲ではないが、ブイアクトのメンバーには関われない。


「そっちは頼みますよ。四条マネージャー」


 マネージャーであり、アルマの弟でもある男に託す。

 彼はあの事務所の中で唯一信用できる存在。

 直接のフォローは彼に任せる。


 なら自分にできることは何か。

 ファンとしての応援はもちろん、他の部分で支えられないか。

 例えば……余計な障害は取り除くとか。

 タレント以外の害為す存在。

 それこそ旧知の存在なら、接触の機会は作れる。 


「……少々、度が過ぎていたように思いますね。灰羽さん」


 彼の話を聞いて知った彼女の行動は、少しばかり目に余る。

 一度、腰を据えて話すべきなのかもしれない。


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