第135話 過去:偽曲真相⑤
間宵紬のアイドル活動が正式に開始した。
日野綾女・月島沙織との3人グループ『スターライト』として日々励んでいる。
学生グループということもあり活動頻度は少し控えめ。
週に2回程度の小規模ライブ出演と物販などの特典会。
SNSで日常の呟き、ダンス動画投稿などの広報活動。
ファンの増加は緩やかだが、代わりに一人ひとりの交流を大切にできる。
そんな活動を始めて2年が経過した。
その日もライブハウスの出演を終えて、3人が楽屋で話していた。
「今日も来てましたね……あのフードマスクの人」
「初日から皆勤賞? の割にチェキ会とかは来ないし。誰かの知り合い?」
「さ、さあ……熱心なファンの方ですよねぇ。あはは……」
「「あー……」」
「え? なんですかぁ?」
「いえ。なんでもありません」
「紬は可愛いな〜」
「え? え?」
紬の誤魔化すような物言いで全てを察した二人だったが、それ以上は何も追求しなかった。
そんな会話を聞いていたプロデューサー、間宵解斗は帰宅後にそのことを話す。
「だとさ、熱心なファンの人」
「うん。事実」
スターライトの3人が話していたフードマスクの人。
その正体である間宵結は堂々と答えた。
「身バレ対策か? 天陽結の」
「それは別にどうでもいい。3年前なんて、覚えてる人居ないと思うし」
「それはどうかわからんけど……じゃあ紬の家族ってバレないように?」
「うん」
双子ということもあって顔は酷似している。
確かに姉であることを隠したいのなら変装も必要なのだろうけど……。
「紬にも口止めしてるみたいだが……別にバレてもいいのでは?」
「ダメ。紬がアイドルのときは、ただのファンでいたい」
「そういうものか」
「うん。そういうもの」
彼女も何かしらのポリシーを持っているらしい。
熱量の強いファン。一体どんな気持ちで応援しているのか、何気なく聞いてみた。
「結もやってみるか? アイドル」
「ううん。私はいい。紬の応援のほうが大事」
「そっか」
アイドルに憧れているわけではなく、本当にファンとして楽しんでいるだけらしい。
すると何を察したのか、結から話してくれた。
「お兄ちゃん。私、今は紬のおかげで幸せ。だから……もう大丈夫、だよ」
「……そっか」
心配を見抜かれ、自分の言動に反省した。
それでも結の気持ちを聞けて安心できた。
そんな話をしていると噂の対象が帰ってきた。
「ただいまですぅー」
「おかえり。今日もライブ最高だった。やっぱり紬が一番」
顔を合わせるなり距離を詰めて感想を言う結。
紬は勢いに気圧されながら言葉を返す。
「あ、あはは……毎回そう言ってくれますけど綾女さんや沙織さん、それに他のグループの人の方が凄いと思いますけどねぇ」
「他は知らないけど、確かにスターライトみんな良い。でも私の一番は紬。世界一可愛い」
「う、ぅぅ……」
「……その辺にしてあげてください。そろそろ逃げ出しますよ」
「えー……まだ言い足りないけど、仕方ない」
妹を全力で推す姉、異様な関係性だが今となっては見慣れてしまった。
詰め寄る結を落ち着かせると、今度は紬が自分に聞いてきた。
「というかプロデューサーさぁん! なんで先に帰っちゃうんですかぁ!」
「え? 3人で話していたので私が居ると邪魔になるかと」
紬は家でも自分をプロデューサーと呼ぶ。
本人曰く、「外でもうっかりお兄ちゃんって呼んじゃいそうだからぁ……」とのこと。
確かに不器用な彼女ならあり得ると思い、自分も紬の前では常に敬語で話すようになった。
「足が帰っちゃったら困りますよぅ! 電車代かかっちゃったじゃないですかぁ!」
「……あ、はい」
「あと沙織さん達が映えスイーツ?の喫茶店行きたいって言ってたので今度連れてってくださぁい」
「え、プライベートはご自分達で……」
「駅から結構遠いんですよぉ。ちゃんとSNSにも上げますからぁ」
「お兄ちゃん。紬のお願い、聞いてあげて」
「……了解です」
何故だろう。最近自分の扱いだけ雑になってきた気がする。
確かにこの5年間レッスンやらで一緒に居る期間は長かったけど。
気を許してくれているのか? それとも、言えば何でもやってくれる便利な男とでも思っているのか?
嫌われるより良いことだが……複雑な気分だ。
「あ、そう言えばあれって話して良いんでしたっけぇ? ライブのぉ」
「あれ……ああ。ウチの事務所が出ることは告知してますし、身内になら良いと思いますよ」
「?」
結だけが知らない事務所の話、それを紬が話そうとする。
「実はですねぇ。今度スターライトが500人規模のライブ会場で歌わせてもらえることになったんですぅ。1曲だけですけどぉ」
「え、すごい。おめでとう」
朗報を当事者の口から聞けて嬉しそうに喜ぶ結。
しかしすぐに不安そうな表情に変わった。
「そんな大きなライブ、倍率すごそう。チケット取れるかな……?」
「あ、招待用のチケットもらってるのでぜひ来てくださぁい」
「え、いいの?」
「大事な人にって言われたんですけどぉ、渡したい人お姉ちゃんしかいないですからぁ」
「紬……大好き。もう紬なしじゃ生きてけない」
「大げさですよぅ」
ライブに参加できることも確定し、妹であり推しでもある少女の優しさに感極まっているようだった。
そこに水を差すようで申し訳なかったが、一応確認する。
「ちなみに二人とも、一応その日学校だが……」
「? 休むに決まってる。ダメなら学校辞める。ライブ行けないとか生きてる意味ない」
「だよなぁ……まあ最近は頑張ってるし、特別にな」
「はぁい。おやすみする分、精いっぱい頑張りますぅ」
アイドルとしてステップアップするためのチャンス。
……それが最後の舞台になるなんて、誰も予想しない。
◆
ライブ当日。
いつもより大物な共演者達。
観客席からの視線の数に圧倒されるアイドル達。
「いやーさすがお客さん多いねー」
「緊張しますね……けど折角の大きなチャンス、モノにしましょう」
「綾女ガチすぎー。もっと肩の力抜きなよー」
「沙織ちゃんが緩すぎるの!」
余裕のない二人はいつもの如く言い合ってみるが、やはりソワソワしてしまう。
落ち着かない時は何故か周囲が気になってしまうもので、辺りを見回して気づく。
「あれ? 紬どこ?」
「あ、あっちの隅っこに」
もう一人のメンバーが離れた場所で蹲り、何やら呟いていた。
「羊が一匹、羊が二匹、羊が……」
「え? 寝ようとしてる?」
「ふぇ……? えと、吐きそうなので、緊張をほぐそうと……うぷ」
「え!? ちょ、ここで吐くと迷惑だから! トイレまで我慢して!」
「ガチガチじゃん。ウケる」
「ウケてないで手伝って! でも……自分より緊張してる人見ると逆に落ち着くって本当なんだね……」
自分より緊張しているメンバーの介抱で慌ただしくして、気を紛らす。
そうこうしている内に出番の時間が近づいてきたのだが……。
「え? ライブ中断?」
「私達の出番そろそろのはずだよね?」
イベント運営のスタッフから伝えられた。
その理由は、外の様子を見てすぐにわかった。
「……雨、ですかぁ」
天候トラブル。野外ステージのライブゆえに影響は大きい。
幸いにも雨はすぐに止み、退避していた観客達も続々と戻ってくる。
するとイベントの進行を聞いてきたらしいプロデューサーが3人のもとに駆け寄った。
「通り雨だったようです。ただステージも濡れてしまったみたいで。整備が終わったら一番手、すぐに出られるよう準備して欲しいと」
「えっいきなり出番!?」
「そうですね……時間も押してますし、私達がモタついてお客さんを待たせちゃダメですね」
焦ってはいるものの比較的冷静な二人。
そして、顔色が良いとは言えないもう一人。
「行けますか? 紬さん」
「は、はい! えと……がんばりますぅ」
「……はい。頑張ってください」
引き攣った作り笑い、返って気を遣わせてしまった。
結局気の利いた言葉も思いつかず、応援することしかできない。




