番外編20 対談コラボ:幽姫ツララ
「時は現代、舞台は凍える銀世界。そこには誰もが恐れる支配者が存在したという……」
《開幕から濃ゆいなぁwしかも他人の枠でw》
《まーた発作起こしてるよこの人》
《このモノローグは……あの企画の!!(迫真)》
「そんな世界に一人の少女が立ち上がった。果たして挑戦者『異迷ツムリ』は支配者を打ち倒すことができるのか……ここでオープニング!」
「え? あっ音源用意してませんでしたぁ」
「なに!? くっ……盛り上がりに欠けるが仕方ないか……」
「というわけでツララさんの持ち込み企画『銀世界への挑戦』始まりますぅ」
「我こそは銀世界の支配者――――今日は後輩に誘われてやってきたゲストの幽姫ツララだ」
《ツララさんいらっしゃいませぇー》
《オープニングは別にどっちでもw》
本日のゲスト、2期生幽姫ツララはロールプレイングに失敗しながらも臨機応変に切り替える。
「はぁいツララさんのチャンネルでは御馴染みの企画ですねぇ。挑戦者が選んだゲームでツララさんと戦うそうでぇ」
「その通り。アクションゲームでもパズルゲームでも、運に身を任せたって良い。それで? ツムリはどんなゲームを持ってきてくれたんだい? 君は僕にどう勝ちに来る?」
《ゲームに関してはマジで魔王の風格》
《うーむツムリが勝てるゲームなんてあるのか……全く思いつかんw》
「はぁい私が選んだゲームはこれですぅ。『声優ごっこ』〜。お題のセリフを読むとゲームが採点してくれるんですぅ」
「これは……なるほど。馴染みのない分野だが確かにゲームだね」
《ほう? これは良いチョイスかも》
《声の演技ならお手の物ってわけか》
「正直自信はないが……だからこそ面白い。相手の土俵で勝ってこその一流だ」
「やる気十分ですねぇ。では設定『萌えキャラ縛り』でやりますぅ」
「ん? ちょっと待て。それは聞いてない」
「でもゲームなら何でもやるんですよねぇ?」
「くっ……ここで翻す方がダサいか……良いだろう。僕は銀世界の支配者、乗り越えられない壁などない……!」
《あっそういう……ひょっとして真の目的そっち?》
《コイツ自分の有利な勝負持ちかけると見せかけて先輩に萌えボイス要求してるw》
《よくやったツムリ! 珍しく策士じゃないかツムリ!》
己の言葉に後悔を見せる先輩とご満悦な後輩。
そんな2人が早速ゲームを始める。
先攻はツムリ、ゲームから出されたお題を読み上げた。
「『"お兄ちゃんだーいすきっ!"』」
「え……声真似はちょっとズルくないか?」
「えーでもぉ、ニオさんに妹ボイス似合うと思いませんかぁ? それにこっちの方が気合入りますしぃ、ゲームに勝つための作戦ですよぉ?」
「それなら仕方ない……のか? ううむ」
《そんな反応になるのも分かるw》
《うん。声は可愛いよ? 可愛いんだけど……ね?》
『異迷ツムリの得点:83点』
「うーんこれ高いんですかねぇ?」
「僕も初見のゲームだからなんとも? だが要領は掴んだ。あとは100点を目指すだけさ」
《意気込みはカッケェなぁ》
《だがやっていることは萌えボイスであるw》
最初の挑戦、その得点を見てツララがあとに続く。
「『べ、別にあんたのことなんか何とも思ってないんだからね!』 ……くっ。思いの外ダメージがデカい……」
「く〜そかーわい〜ですぅ!!」
「喜びにくい賛辞だが一応ありがとう……」
《ツンデレツラたん……ありだな》
《これだよこれ! 俺たちが求めていたのは!》
《やはり恥じらいは大事》
『†銀世界の支配者†の得点:68点』
「は? バリ萌えでしたが? この採点機壊れてますよぉ??」
「落ち着きたまえ。あくまで演技力が採点されただけだろう。……別に自分のボイスを擁護するつもりは微塵もないけれど」
《やれやれこの良さが分からんとは。所詮は機械風情か》
《君達の採点基準に収まらない、それが人間の飽くなき探求というものなのだよ》
《なんかコメントの語彙がツラたんに侵食されてるような……》
「『"おかえりなさいなのです! ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……ワタシ、ですか?"』」
「今度はムルシェか。お題に対して幼めの声だね」
「確かに大人っぽい感じも良いですよねぇ。でもこのセリフなら新妻感あった方が良いかと思ってぇ。ムルシェさん基本賢いので家事もできそうですけどぉ、うっかりで色々やらかしてくれそうですよねぇ……ふへへ捗りますぅ」
「うん。聞いてないけど幸せそうで何よりだ」
《意外と解像度高めに人選してて草》
《ちょっとわかる。けどちょっとキモいw》
『異迷ツムリの得点:75点』
「くっ……これはムルシェさんのせいじゃないですぅ。私が不甲斐ないばっかりにぃ……」
「真似に引っ張られてセリフにアレンジを加えていた。そこも減点対象だったのかもしれないな」
交互にお題を読み上げながら点数を競う。
そんな流れの中で時折雑談も挟まれた。
「家事と言えば、前回リリに料理を教わっていたようで。完成品を見たけど随分良い出来だったな」
「えぇ? 見た目全然オムライスじゃありませんでしたけどぉ」
「僕よりずっとマシさ。リリには二度と料理しないように言われ、一人暮らししようとすると親からも止められるくらいだ」
「そんなにダメなんですかぁ。でも私も家事は教えてもらわなきゃ全然ですよぅ」
「そういえば噂で聞いたな。なんでも保護者のようなマネージャーが居ると」
「え。それ皆に言われるんですけどぉ……どこまで広まってるんですかぁ?」
《家事ダメ系VTuber同士のコラボでもあったのか今日w》
《他配信者の枠でも話題になる不憫マネージャー》
「でもマネージャーさん最近ちょっと冷たいんですよねぇ」
「何かあったのかい?」
「原因はわかんないんですけどなんとなくぅ。ここ2週間はウチにご飯作りに来てくれませんでしたしぃ」
「ん? その口ぶりだと定期的に作りに来てもらってるみたいな……マネージャーにそんなことさせてたのかい……?」
「なんか若干引いてません? これまだバレてないヤツでしたぁ?」
《それは初耳だww》
《ホンマお前……wマネさんマジでいつもありがとう……!!》
話がそこそこ盛り上がってきたところでツララは元の企画の流れへ戻す。
「さて、そろそろ次のお題に行こうか。今までの感じで採点の傾向は大方理解した。おかげで少し試してみたいこともできたよ」
「試したいことですかぁ?」
「――――『イツモシゴトシゴトッテ。シゴトトワタシドッチガダイジナノ?』」
「え? なんですかそのロボットみたいな喋り」
『†銀世界の支配者†の得点:91点』
「ええ!? なんでぇ?!」
《なにィ!?!?》
《萌えから逃げたくてネタに走った?と思ったらちゃんとガチだったww》
「ツムリ。これかなり古いゲームだろう?」
「そうなんですかぁ? 確かに安売りされてましたけどぉ」
「おそらくAIも搭載されてない時代のモノだろう。となれば大切なのは分かりやすい発音と声量の安定感。臨場感を出すための吐息なんかはむしろ減点対象のようだ。だが他にも採点要素が隠されていそうだな……」
「うわぁ……ゲーム攻略モード入っちゃってますねぇ」
《今調べたら発売日10年以上前だったわ》
《どおりでセリフのチョイス古いと思ったw》
得意のテクニックが活かせないかと思われたゲームでも活路を見出すツララ。
そうして互いにお題をこなし続け……。
「というわけでぇ……後半戦はボロボロのボロ負けでしたぁ」
「早めにコツを掴めて助かった。ある意味面白いゲームだ」
「これは挑戦失敗ということですかねぇ?」
「そういうことになるね。けど今回は僕も新しい発見があった。ゲームのチョイスといい、形はどうあれ強敵だったと言わざるを得ないな」
「お褒めに預かり光栄ですぅ」
《形はどうあれねww》
《思いのほか善戦だった! GG!》
「では最後に次回のゲスト紹介をお願いしても良いでしょうかぁ?」
「ああ。紹介するのは僕が直々に育てた弟子……と言うと本人に「可愛くない☆」と怒られそうだな。数少ない格闘ゲームの強敵、麻豆ジュビアくんだ」
「あー言いそうですねぇジュビアさんならぁ」
「では今日の配信はこの辺りで……今宵も銀世界の支配者は健在。だがこの幽姫ツララ、いつ誰からの挑戦も拒まない! 次に玉座を奪いに来るのは誰か……楽しみに待っているよ。はーっはっはっは!!」
「はぁいお約束の口上でしたぁ。対談ありがとうございましたぁ」
《今日もツララ様が楽しそうで何よりですw》
《ツラたんゲストありがとー対ありー》
配信終了。コメントの流れも途切れ、部屋に静寂が訪れる。
一視聴者として見守っていた一人の男は思い返すように呟く。
「今日の配信も何事もなく終了。……まあコラボなら心配することはほとんどないか」
異迷ツムリのマネージャー、四条彰。
配信内で自分の話題が出たことを気にする。
「冷たい、か……むしろ今まで心配しすぎたのかもな。言われた通り……」
今回の配信でもツララと視聴者は驚いていた。
普通でないことは理解しているが、少し前も直接言及された。
当時の会話を思い返す。
◇
◆
狡噛リリとの対面コラボ前のこと。
「アキラくん! お久しぶりデス!」
「いつも姉さんがお世話になってます科楽さん。それで今日は?」
「科楽もリリに頼まれたんデスよ。聞きたいことがあるから会わせて欲しいッテ」
「聞きたいこと? 僕に?」
姉の関係で科楽サイコとは昔から面識がある。
そんなサイコに頼んだというリリの方を見る。
「ツムリ殿の生活力を教えて欲しいんじゃよ」
「生活力?」
「実は次回のコラボで料理の手ほどきをしようと思っておってのう。風の噂でマネージャー殿が生活面もサポートしておると聞いてな」
「なるほど。ちなみにどんな企画にする予定で?」
仕事の話だと判断して真面目にリリの話を聞く。
配信内容から自分のすべきことを検討する。
「カメラなしの遠隔指示で……じゃあ配信日は現地待機しとくか……」
「? 何故じゃ?」
「え? いや一人で料理とか何やらかすか怖いんで」
答えた後で二人から奇異の目を向けられていることに気づく。
「ふむ? ツムリは一人暮らしと聞いておったが……」
「ウーン……ちょっと過保護過ぎじゃないデスか?」
「うっ……やっぱりそうですか……」
薄々自分でも思っていた。
本当にこのままで良いのかって。
「そうじゃのう。人間は失敗して学ぶもの。取り返しのつかない失敗でなければさせた方が本人のためかもしれんのう」
「完璧を求めるのは身近にそういう人間を見てきたからデスかね?」
「あー……」
大人からの指摘は本当に鋭く、言い返す余地もない。
「フォローできるのはお主だけではない。同じブイアクトの仲間、ワシらにも遠慮なく迷惑かけてくれて構わんよ」
「……はい。お気遣いありがとうございます」
◆
◇
あのときの会話を思い出す度、自分の行動を振り返ってしまう。
「このまま独り立ちしてくれた方が本人のためになる……しばらく手出しせず様子見、だな」
迷いながらも周りの声に耳を傾け、担当タレントの成長を願うことに決める。




