番外編19 対談コラボ:狡噛リリ
「お邪魔しますなのじゃ。今日は久々にお客様気分を堪能させてもらおうかのう」
「はぁいリリさんいらっしゃいですぅ」
狡噛リリ主催の5人コラボから数日、今度こそ自分の企画に誘ってタイマンコラボが実現した。
「前はゲームコラボじゃったからな。今日こそ『ワシらしく』料理企画を提案するのじゃ」
「え……ひょっとしてキャラモチーフ忘れられてたの根に持ってますかぁ?」
「いやいや怒ってはおらぬよ。ただ少々悲しかっただけで……今後はもっと人狼アピールした方が良いかもしれんのう」
「あっえと……アピール協力しますぅ! リリさんは毛並み麗しいワンちゃんなんです!」
「ツムリ殿。狼。犬じゃなくて狼じゃよ」
《人狼って言ってるでしょうにw》
《見た目に勝る料理のイメージが凄すぎるのよ》
「それではリリさん。企画発表をお願いしますぅ」
「任されたのじゃ。今日はワシも初の試みじゃが、前からやってみたいことがあったのじゃ。題して『指示厨オムライス』」
《企画名のインパクト凄いなw分かりやすいけどw》
《なに!? 今日は指示厨していいのか!》
《異迷ツムリchで指示厨湧くのはいつものことでは? プレイ酷すぎて黙って見てられないだけなんだけど》
「やることは単純、ワシが通話越しに指示してツムリ殿にオムライスを作ってもらうのじゃ。でも目の前で手解きしてはただのお料理教室になってしまうからのう。じゃから視聴者のみんなと同じで映像はなし。ワシは音と途中経過の写真だけで指示するのじゃ」
「はぁい。もちろんオムライス作りは初挑戦ですぅ」
《見ずに指示? 結構難易度高くない?》
《レシピ見るだけと言えばそうなんだけど作り手が……その……》
《うーん不安!》
「それでは始めてもらおうかのう。まずはチキンライスの下ごしらえから。材料は冷凍ミックスベジタブル、タマネギ、ベーコンじゃな」
「冷凍のお野菜使って良いんですねぇ」
「料理で楽するな、なんて昭和じみたこと言わんよ。近年は冷凍野菜も質が良いからのう」
《1人前だと野菜丸々買っても余るしね。その点冷凍は使いやすくて良い》
《チキンライス(チキンなし)》
《鶏肉は下処理面倒だし初心者だと生焼けの心配もあるしね……ベーコンなら安心》
「早速具材を切って……あ、先に言っておくとタマネギにピーラーは要らないのじゃ」
「要らないんですかぁ? というか使おうとしてるのよく分かりましたねぇ」
「マネージャー殿に事前にリークいただいたのじゃ。何やら料理も中々のモノじゃと。今日は野菜の切り方まで細かく指示させていただく所存じゃよ」
「ぐぬ……お恥ずかしい限りですけど助かりますぅ……」
《そのレベルなのか……》
《ホントに1人で大丈夫? 火だけはマジで気をつけようね?》
「さて、切り終えたら次はチキンライスじゃな」
「あ、炒めるだけなら任せてくださぁい。調味料もレシピ通りに用意しましたからぁ」
「ほう? 自信がありそうじゃな?」
「もちろんですぅ。節約で具無しチャーハンはよく作ってましたからぁ」
「理由が切なすぎるのじゃ……」
《そういや前にもやし炒めはレギュラーとか言ってたな》
《野菜の切り方知らないのは金欠で買えなかっただけと……》
「こちらチキンライスの完成写真ですぅ」
「ふむ。少々水っぽそうじゃがほとんど問題ないのう。では最後の工程、卵を焼いていくのじゃ」
「はぁい。焼かせていただきますぅ」
「……ツムリ殿。フライパン洗わずにやろうとしておらんかのう?」
「あ……」
「調子に乗ると勢いで失敗するタイプじゃな。料理は手順を一つ一つ丁寧にやるのが肝心じゃ」
「はぁい……」
《一旦食べれそうなモノ出来て安心……って油断するとコレだw》
《もちろんやらかしも怠りませんよとw》
「やっぱりオムライスって卵が一番難しそうですよねぇ。コツとかあるんですかぁ?」
「コツ……強いて言えば焦らないことかのう。ちなみにツムリ殿。それたぶん弱火じゃなくて中火なのじゃ」
「え? 見てないのにわかるんですかぁ」
「料理人なら音で分かるじゃろ?」
「はぇー。そういうものなんですねぇ」
《料理人ってすっげー》
《通話越しで聞き分けれるのは最早ガスコンロのプロなんよw》
《IHコンロじゃなくてよかったなw》
「完成しましたぁ。……チキンライスon炒り卵がぁ……」
「始めはそんなものじゃよ。焦がしてもおらんし、上出来じゃ」
「ありがとうございますぅ……あ、味はちゃんとオムライスですぅ」
《うん。できるとは思ってなかったw》
《なり損なったけど普通に食べれそうだからよし!》
「見たところ手際は悪くないんじゃが知識が足りとらんのう。益々教え甲斐があるのじゃ」
「そうですよねぇ……ん? ひょっとして今後も教えてもらえるんですかぁ?」
「もちろん。配信でもオフでも、いつでも大歓迎なのじゃ」
「ありがとうございますぅ!」
《リアルに生活心配だから自炊覚えてくれるの嬉しすぎる》
《リリさんウチの子をどうかお願いします……!》
「では次の者にバトンを託すとするかのう。ワシが紹介するのは同じく2期生、ツララ殿なのじゃ」
「ツララさんですかぁ。何のゲームやらされるんですかねぇ?」
「何じゃろうなぁ。まあゲームなのは間違いないんじゃろうけど」
「ではでは今日はこれでぇ、対談ありがとうございましたぁ」
《ゲーム以外のイメージがないww》
《対あり〜》
次回のゲストも紹介してもらって無事配信は終了。
すると通話を繋げたままのリリに声をかけられる。
「ツムリ殿、今日共演してくれて感謝するのじゃ」
「こちらこそぉ。2回もご一緒してくれてありがとうございますぅ」
「うむ。前回の分までたくさん話せて良かったのじゃ。余計なお世話かもしれんが、大人数でも遠慮する必要はないからのう」
「あー……」
含みのある言い方に怯む。
確かに前回口数が少なかった自覚はあった。
「カチュア殿が気にしておったよ。自分が言い過ぎたせいで大人しかったんじゃないかと」
「いやーカチュアさんのせいとかじゃなくてぇ……同期なら慣れてきたんですけどねぇ。先輩の前だとどうしてもぉ……」
「申し訳ない? それとも緊張して?」
「いえ感極まっちゃってぇ。推しに囲まれるとか一般オタクならその場で卒倒しますよぉ」
「楽しんでおったか……ある意味たくましいのう」
ツムリはいつもの調子で本音を話し始める。
「私は皆が仲良くしてるところ見れたらそれで良いんですけどねぇ。それこそ私が長々語ったり失言したら皆の仲良しの時間奪っちゃうじゃないですかぁ。そんなの誰も楽しくないですよぉ」
あくまで自分はしたいようにしてる。
だから気を遣う必要はないと伝えたかった。
「ふむ……『楽しませる』は誰でも難しいのじゃ。じゃが幸いにも見てくれる人達は楽しんでいるワシらを見て楽しみたいと言っておる。その視聴者の気持ちはツムリ殿が一番よくわかっていそうじゃな?」
「あっ狂おしいほどに同意しますぅ」
「ならワシらは楽しむだけで良いんじゃよ。それこそ卒倒でも発狂でもなんでもしとくれ?」
「えぇ? それは流石に迷惑ではぁ……」
「迷惑? 大いに結構。若者に頼られると嬉しくなるのが年寄りなんじゃよ」
それでもリリは一緒に楽しみたいと、頼って欲しいと願ってくれる。
そう言われて断れるほど心は強くない。
「人は辛苦を噛み締め成長するもの。フォローはするからいくらでも失敗しなされ。ワシは若者の成長を見るのが何よりの好物なのじゃ」
「……リリさんも結構良い性格してますよねぇ」
「お褒めに預かり光栄なのじゃ」
いつも優しい大人のちょっと意地悪な言い草。
この人からすれば自分はいつまでも子供なんだろう。
「そういえば前回誘われたのってぇ、やっぱりカチュアさんとのことでぇ?」
「きっかけの一つではあるのう。たまたまエル殿サイコ殿と外食する機会があってのう。その場で話題に上がったので面白半分で誘ってみようと」
「え、面白半分だったんですかぁ?」
「配信のネタにちょうど良かったからのう。コラボなんて結局友達を遊びに誘うのと大して変わらんよ」
「ぐぬぅ……確かに端から見たら面白そう……」
大人だの子供だのと歳の差を気にすることはあれど、友達であることには変わりない。
同じ事務所で楽しいを共有する関係。
「すまんのう。詫びに今度飯でも奢らせてくれんか」
「そんなの断るわけないじゃないですかぁ。いつでも誘ってくださいよぅ」
「ありがとう。やはり仲を深めるなら同じ釜の飯を食うに限るのう」
最後は食に繋げる辺りもこの人らしい。
彼女はいつまでも変わらず居場所を用意してくれる、そんな気がした。
◇
その夜、毎週の定期ミーティングの時間。
いつもならマネージャーが訪問してくる頃だが、代わりに着信があった。
『ツムリ。すまんが今日はそっち行けなさそうだからリモートでミーティングだ』
リモートでのミーティング、それ自体は別に話す内容が代わるわけでもないので構わない。
しかし彼がミーティングの度に家まで来るのは別の目的もあったはず。
「え? ご飯はぁ……」
『ん? さっき配信で食べてたよな?』
「えー時間空きましたしぃ。マネージャーさん来ると思って量もセーブしましたよぉ」
作りに来てもらうのが当たり前になってしまったせいか、少しばかり失礼な物言いだったかもしれない。
けどマネージャーが今更そんなことで怒ると思えなかったから気にも止めなかった。
『……足りなければ自分でなんとかしてくれ。できるだろ? 子供じゃあるまいし』
「あ……そう、ですよねぇ」
『じゃあ早速ミーティング始めるぞ』
いつも辛辣な言葉は使ってくるが、なんだか違う雰囲気を感じた。
どこか冷めた口調で、「やれやれ仕方ない」と今日は言ってくれない気がして。
何かあったのだろうか?
気になったけど、その日は聞くことができなかった。




