第131話 過去:偽曲真相①
「え、結に子役オーディションを? どういうこと?」
帰宅した母に提案すると驚かれた。。
確かに、急に妹は子役の才能があるかもしれない、なんて言われても戸惑うかもしれない。
そう願うに至った経緯を説明しつつ、実際に結の特技を母にも見てもらった。
「驚いた……確かに上手ねぇ」
「下調べは全部してある。必要な費用は僕がバイトして稼ぐからさ」
母が仕事で忙しいのは重々承知、だから負担にならないよう行動したかった。
しかし自分もまだ未成年、保護者の同意はどうしたって必要だ。
対する母の反応は……。
「……解斗の言いたいことはわかったわ」
「それじゃあ!」
「でもやるのは解斗じゃないでしょう? それは本当に結がやりたいこと?」
「あ……」
鋭い指摘に言葉を失う。
一人で画策するばかりで妹に気を配れないなんて……自分は兄失格だ。
「ごめん結……兄ちゃん先走っちゃって……。嫌だったら正直に言っていいからな?」
「え? いやじゃない、よ?」
妹は気遣う素振りを見せず、ただ純粋に目を輝かせて答えてくれた。
「やってみたい。みんなすごいって、ゆってくれるから」
「! 母さん!」
「そうね。いつも家に居られなくて我慢させちゃってるし……お母さんも応援したいから。1回だけ、ダメだったら終わりね?」
「ありがとう母さん! 結、オーディションまでに一緒に練習しような!」
「うん。がんばる」
そうして妹の新たな挑戦が始まった。
◆
しばらくして、正式にオーディション参加が決まった。
「おかえりーっ!! せつめーかい?おねえちゃんごーかくだった!?」
「ただいま紬。説明会に合否はないよ。結果が出るのは次のオーディション」
「そーなの?」
子役オーディションの説明会。
台本などの資料を受け取って帰宅すると、紬が興味津々に聞いてきた。
姉のやろうとしてることが気になるみたいだ。
「にしても……思ったより大きいオーディション受けちゃったみたいだな。テレビで見たことある子も居たし」
説明会の参加者達を目の当たりにし、規模を実感した。
それは共に行動していた結も同じのようで、珍しくやる気に満ちた様子で声をかけてきた。
「おにいちゃん。練習したい」
「ん? ああもちろん。早速やろうか」
「つむぎもれんしゅうするー!!」
練習する必要のない紬も混ざり、練習を開始した。
「うーん……」
台本を読み合わせながら演技させてみる。
結は覚えが早く、セリフを言い淀むことは少なかった。
しかし安定しすぎているからこそ、改善も難しそうに思えた。
「紬の方が上手いくらいだな……もっとこう、感情豊かにできないか? 前に見せてくれた女優の真似みたいに」
「? お手本ないとむずかしい。つむぎのマネならできるよ?」
「つむぎうまい? オーディションでれるかなー?」
「あーいや、確かに上手いけど流石に経験者に敵うほどでは……」
「そっかー……」
「なんかごめん……かと言って兄ちゃんも自信ないし。それ真似させても逆効果だよなぁ」
人真似の精度を見て演技も上手いものと思い込んでいたが、自己表現力は人並み以下だった。
このまま素人が無策に挑んだって勝てるはずがない……結の特技を活かした、最適な練習方法を考えないと。
「……とりあえず、一旦台本は置いといてテレビの真似して演技に慣れようか」
「うん。マネならとくい」
「おねえちゃんがんばれー!!」
演技力の効率的な上達を目標に、練習方針を固める。
そうして練習再開する前に、ふと思い出したことを結に伝えた。
「あ、そうだ。オーディションの日なんだけど兄ちゃん学校があってさ。俺は休むつもりだったんだけど母さんが許してくれなかったんだ……だから母さんと二人で行ってきてくれるか?」
「ん。がんばってくる。おにいちゃんも、がっこうがんばって」
「結……! うちの妹良い子すぎる……!!」
「つむぎは? つむぎはー?」
「もちろん紬も良い子だ! 二人とも世界一可愛いぞ!!」
家族愛を爆発させて二人を抱き寄せる。
本当に愛おしい、大切な妹達だ。
◆
子役オーディション当日。
兄に言われた通り、母と二人で会場に来た。
「結、大丈夫? 緊張してない?」
「? うん。れんしゅう、たくさんしたから」
「我が娘ながらなんて図太い……なんならお母さんの方が緊張してるかも……」
ソワソワする母を見て逆に冷静になる。
何もしない母が緊張することなんてあるのだろうか?
「それではオーディションを始めさせていただきます。Aグループの方からお入りください」
待ち時間中、特にすることもなく周りの様子を眺めていた。
同じく待ち時間中に駄々を捏ね始める子。オーディション会場から聞こえる台本に無いはずの泣き声。
(いろんな子がいる……感情豊か?ってこういうことなのかな? ……よくわかんないや)
兄に言われた「もっと感情豊かに」というアドバイスはいまいち理解できなかった。
でも、マネしてるときは感情豊かにできているらしい。
確かに「間宵結」でいるときと違って、心がザワザワすることはある。
でもそれって普通のことじゃないの?
その子とおんなじ気持ちにならないと、マネなんてできるわけないのに。
「次はCグループ、お入りください」
「あらもう順番……結、行ける?」
「ん。だいじょうぶ」
出番になり、審査員達の前に5人のオーディション参加者が並ぶ。
真剣な顔、不安そうな顔、それを見てもいつも通りの自分。
むしろ安心した。自分の出番は5人中5番目、つまり最後であることに。
(一番上手い子と同じことすれば、合格できるよね?)
「では1番の方から最初の演技を」
1人1人名前を告げていく。
そのうち1人だけ名前に聞き覚えがあった。
その声はテレビでも聞いたことがある。
(よし。あの子にしよ)
注目したのは3番目の子。
突出した演技力を披露し、審査員達も唸る。
4番目の子は圧倒されたのか失敗してしまった。
そして今度は自分の番。
「では次、5番の方どうぞ」
「スゥ……――――」
一言目を発し、審査員達は不思議そうな顔をした。
演技を続ける内にその場の全員の顔が驚愕へと塗り替わっていく。
同じ声に、同じ演技力。
最も優秀と思われていた3番目の子と全く同じだったのだから。
演技を終えて黙ると、少し遅れて審査員が口を開く。
「……あ、はい。結構です。では次のセリフを……」
そのままオーディションを続けても、3番と5番の二人は同じ演技を繰り返した。
そうしている内に……。
「――――あっ」
声を漏らし、悔しそうな顔をして次の演技に進む3番。
審査員達も険しい顔になった。
(あ。あの子、失敗した。……わかるよ。ホントはこうしたかったんだよね?)
続く自分の演技はもちろん、失敗をカバーした状態の3番の演技を完璧に熟した。
ときには5番から演技をさせられることもあったが、一度覚えた声と演技力でアドリブも熟した。
審査員達は終始難しそうな顔をしていたが、結果は火を見るより明らかだった。
………………。
「マネなんてズルい!」
オーディションのあと、3番の子に詰め寄られた。
怒鳴ったところで結果はもう出ている。
あの子は不合格で、合格した自分は次のオーディションに進めるということ。
「? どういうこと?」
「だからズルなんだってば! あなたのせいで失敗しちゃったの! 自分の演技で勝負してよ!!」
感情的に言葉をぶつけてくる。
散々マネしたけど、今の彼女の気持ちは全然わからない。
「……? 演技とマネって、どうちがうの? あなたはお手本見たことない?」
「え? そんなの……見るけど……」
「わたしも、あなたが上手だったからマネしようと思った。でもあなたは失敗しちゃった。わたしは失敗しなかったから合格した」
今は誰のマネをする必要もない。
ただ無感情に、事実を言うだけ。
「次は、失敗しないように練習した方が良いと思う、よ?」
「う、うぅ……わぁーん!!」
その場で泣き崩れる少女。
騒然とする空気に母が駆けつけてくれた。
「え?結!? あの子どうしたの!?」
「わかんない。でも、泣く演技も上手。勉強になる」
「結……?」
その後、母はあの子の保護者にたくさん謝ってた。
わたしも謝らされたけど、結局あの子は辞めちゃった。
大人の世界って大変だ。
それにあの子が辞めるって聞いてから、マネしてるときモヤモヤするようになっちゃった。
このままじゃ辞めたくなっちゃうかもしれないから、撮影が終わったらバイバイしなきゃ。
「……おかあさん。マネってダメなことなの?」
「うーん……普通に考えればダメじゃないんだけどね。最初は真似して成長するものだし。でも真似されたくない子の気持ちもちょっとわかる……かな」
「そっか。よくわかんないけど、大人なら大丈夫かな?」
「それならまあ……でも大人っぽくなりすぎると子役オーディションは難しいかも?」
母の言葉をヒントに、次のお手本を考える。
ちょうど思い出したのは、紬と一緒にテレビを見てたときのこと。
「大人っぽくない、可愛い大人……アイドル?」
◆
『みんなを照らす太陽スマイル☆ 天陽結ですぅ♡』
『元気だねぇ結ちゃん。アイドルが好きなんだって?』
『そうなんですよぉー。だってアイドルって歌って踊って可愛くってぇ、サイキョーじゃないですかぁ。妹と毎日一緒に見るくらい大好きでぇ♡』
『うおwめっちゃ喋るじゃんこの子w』
「おねえちゃんかわいい!!」
「まさかドラマに続いてバラエティまで……薦めといてなんだけど、トントン拍子すぎてちょっと怖いな……」
解斗は紬と共に、テレビ越しに結の姿を見ていた。
あっという間に遠いところへ行ってしまった姉を見て、紬は呟く。
「……いいなぁ。わたしもできるかな? んんっ……間宵紬ですぅ♡ なんちゃってぇ……」
それは姉への羨望か、それともアイドルへの憧憬か。
離れ離れになった双子を見て、解斗は少し申し訳なく思った。




