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レプリカのアイドル~声真似系VTuberが天下をとる話~  作者: 独身ラルゴ
第五章 ハイ信者

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第130話 異迷ツムリを推す男②

 喫茶店の一席に座る二人の男。

 集まった理由が理由なだけに重たい雰囲気にもなるだろう。

 そう思っていた。


「――――と、この資料の通り異迷ツムリの初動は新人VTuberの中でも突出していることが分かります。では何が良かったのか。もちろん一番の武器である声真似に加え、それを活かせる場に出会えた巡り合わせもあります。しかし武器一つだけでは一発屋で終わってしまう。それで終わらなかったのは彼女の魅力と言う他ないでしょう。イジり甲斐のある、憎らしくも愛らしいキャラクター。欠点だらけのスペックはむしろ相乗効果を生み出し……」


 二言三言交わして早々、突然プレゼンが始まった。

 内容は異迷ツムリの推しポイント。

 論理的に説明してるように見えるが、その実態は親バカのような全肯定。


 その留まることを知らない喋りはどこかで聞いたような……これも血の繋がりというやつなのか。


「あの……ファンの声を聞けるのはマネージャーとしても嬉しいんですけど、そろそろ」

「あ、申し訳ありません。いざ会えたら感情が抑えきれず……」

「感情が? 僕に会えて?」

「ええ。四条マネージャー、貴方には本当に感謝しています。ファンとして、そして兄として……彼女を今まで支えてくれてありがとう」


 男は誠意を込めて感謝を伝えてくれる。

 しかし四条はその言葉を素直に受け入れられなかった。


「そんな僕なんて……支えることしかできなかった。彼女の意志を優先しすぎて、異迷ツムリの活動を疎かにさせた。そして1年足らずで……炎上させてしまった。間違った道を正せなかった僕は……マネージャー失格ですよ」


 マネージャーとして担当タレントを守れなかった。

 その自戒を贖罪の意味も込めて話す。


「――――間違った道と言うのなら、あの子は四条マネージャーに出会う前からずっと間違っていた」


 そんな自分の言葉を、彼は翻した。


「えぇと……どういう意味ですか?」

「何から話したものか……逆に聞かせて欲しい。四条マネージャーは何が聞きたくて今日誘ってくれたのか」


 それほど話すべきことがあるのか、話題の選択に迷った男は聞いてきた。

 彼を誘った目的、それは……。


「……一番聞きたいのは家族としての話です。でもその前に……ファンとしての意見を聞きたい」


 出会った直後に推しを語る彼を見て、聞きたくなった。

 彼にとって異迷ツムリは妹である前に『推し』なのだと思い知らされたから。


「ツムリやブイアクト関係者との連絡を絶ってまで、兄であることよりファンであることを優先してきた解斗さんは……今の異迷ツムリをどう思いますか?」


 今の異迷ツムリ。導化師アルマを偽っていたことが知れ渡り、ブイアクトに対し挑戦的なMVを出した彼女のことを。

 長い語りの中でも触れなかった事柄に対し、彼は何を思っているのか。

 男は手元のコーヒーを啜り、一呼吸置いて口を開いた。


「……『今まで騙してたのか』」


 迫力のある言葉と声に驚かされた。

 やはり彼でも良くない印象を受けているのか……そう思いかけたが、それは違った。


「『他のタレントとファン傷つけるのはちょっと……』『幻滅。根は優しい子だと思ってたのに』『頼む目を覚ましてくれ』――――これが一部のマイ迷子の声です。推しが過ちを犯した、だからもう推せない。……そう思いたくなる気持ちも分かります」


 彼がファンの視点から見てきた世間の声。

 それは四条自身が見てきたものと一致していた。


「けど私の意見は違う。我々の見えている部分だけで作り上げた異迷ツムリ像、それと違う行動を見せたからファンを辞める? そんなの単なる解釈違いだ。反転アンチの言い訳に過ぎない」


 気持ちは分かると言いながらも、やはり良い印象ではない様子。


「例え道を間違えても、彼女が彼女である限り……私は最後まで推しと共に歩みたい」


 彼はまだ異迷ツムリのファンだった。

 いや、これほどの固い決意となればこの先もずっと変わらないように思える。


「なるほど……」

「これがファンとしての私の意見です。そしてここからは……四条マネージャーが求めているであろう兄としての意見」

「!」


 自分が聞くよりも先に彼は答えてくれた。

 兄として、つまり異迷ツムリに対してでなく、間宵紬に対して抱えている想いを。


「心配だ。そして……許せない。妹達を傷つけるファンも、そのきっかけを作った大人達の身勝手も」


 静かに怒りを顕にする一人の兄。

 その大人達の中には当然自分も含まれているだろうと思い、胸が苦しくなる。

 けどそれよりも、彼が発した一つの言葉に引っかかった。


「……ん? 妹"達"?」

「その様子だとまだ聞いてませんか。……いえ、本人が話すわけもありませんね」


 そう一人で納得しながら、男は四条の知らない真実を口にした。


「貴方の担当タレント異迷ツムリ。彼女の本当の名前は――――間宵結(ゆい)。彼女が名乗っている間宵紬の、実の姉です」

「?!」


 あまりの衝撃に言葉を失う。

 しかし平静な男を見て、すぐに乱れた心を落ち着かせる。

 深く息を吐き、ゆっくりと質問を投げかける。


「名前を偽っていた……? 何のために?」

「偽っていたのは本当に名前だけだと思いますか?」

「……人格も、ですか」

「そうですね……もっとも偽っていると言えるのかもわかりませんが。あの子は間宵結を押し殺して、間宵紬として生きることを決めてしまった……自分自身に嘘をついているのです」


 端から聞けば余りに荒唐無稽な話。

 しかしこの1年ずっと彼女を見てきた四条は納得するしかなかった。


「どうしてそんなことに……って、聞いても大丈夫でしたか?」

「もちろん。私も四条マネージャーには聞きたいことが山ほどあるので何でもお答えします。だからまずは……少し長くなりますが、昔話をさせていただきたい」


 男が己の意見を語り尽くしたところで、ようやく本題に入る。

 異迷ツムリの根源、間宵紬と間宵結という二人の少女の話。


「間宵結が、間宵紬に成るまでの話を――――」


 間宵解斗は兄として、妹と共に生きた過去を語り始めた。




◇

◆




 父が夜逃げした。

 原因は母が双子を身籠ったから。

 一人の子供を育てた経験から育児の苦労を知り、もう一人生むことにも散々渋ったらしい。

 それでも母が頼み込み、ようやく合意を得て授かった子供。

 それが双子だった。そんな想定外の結果に父は何も言わず去ったらしい。


 その頃私は10歳。幼いながらも父を反面教師にするようになった。

 あんな情けない男のようには絶対になりたくない。

 母を助ける。私が妹達の父親代わりになるのだ、と。


 妹達を保育に預けられるようになってからは母も仕事を始め、忙しい日々は終わらなかった。

 私も育児協力のため、友達と遊ぶ時間すら取れなかった。

 年頃の男子学生にとって不自由な4人家族。


「ごめんね解斗……いつも迷惑かけて」

「謝らないでよ母さん。俺が好きでやってるんだから」


 それでも不幸だとは思わなかった。

 母には何度も謝られたけど、自分が母の助けになりたかっただけ。

 自分に愛らしい笑顔を向けてくれる妹達に、父親の居ない辛苦を感じさせたくなかっただけ。

 家族のために生き、家族と共に過ごす時間が幸せだった。

 

 そんな慎ましくも温かい家族。

 それを狂わせたのは……一人の少女の特技がきっかけだった。




 高校に上がった頃。

 妹達は5歳。まだまだ目が離せない年齢で、一緒に居ることが多かった。

 姉の結は物静かな子、妹の紬は対照的に明るく無邪気な子。

 二人はほとんど喧嘩することなく、仲良くしてくれていた。


 母が仕事の間、勉強しながら二人が遊んでいる姿を横目に見る。


「すごいすごい! おにいちゃんみてみて!!」

「ん?」


 呼びかけてきたのは紬。

 テレビの前で姉の側ではしゃいでいた。


「おねえちゃんすごいの! てれびとおんなじ!」

「結? 凄いって何のことなんだ?」

「えっと。おんなのひとのマネ。つむぎがほめてくれた」


 少女の指差す方を見ると、テレビのCMで女性の姿が映されていた。

 その真似をしたら妹が大喜びしたということらしい。


「そうなんだ。兄ちゃんにも見せてくれるか?」

「うん。いいよ」


 控えめながらも、どこか得意げな表情で頷く。

 微笑ましい女児たちの遊びに兄として付き合ってあげよう。

 そんな軽い気持ちでお願いしたことだった。


「――――」


 普段と違う少女の声を耳にして、思わず固まった。

 予想以上のクオリティに鳥肌が立った。


「ね! すごいでしょ!!」

「あ……ああ。びっくりしたよ……凄すぎて」

「ほんと?」


 子供らしく嬉しそうに笑う二人。

 しかし内心では凄いなんて言葉で片付けられないほどの衝撃を受けていた。

 完全再現とまではいかないものの限りなく声を近づける技量。

 加えて演技力。まるで誰かが乗り移ったのような、子供とは思えない流暢な語り。


「……結。できればでいいんだけど、他にもみせてくれないか?」

「え? いいけど……」


 興味を持ってしまった。妹の才能に。

 そして見出してしまった。

 母の助けになれるかもしれない可能性を。


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