第129話 異迷ツムリを推す男①
「はぁいこんばんはぁ。ジメジメ七色ボイスこと異迷ツムリですぅ」
異迷ツムリ。
デビューしてもうすぐ1年となる新人VTuber。
デビュー前に導化師アルマの配信にゲスト出演したりと注目度は高かった。
「では早速始めて行きましょうかぁ。『NGなしましゅまろ100本ノック』打ち返して行きますぅ」
彼女の特徴といえばやはり声真似。
多彩な声で精度の高い模倣を魅せる。
『マジクラウォーの大会もゲームしながらアルさんのフリしてたの?』
「あー懐かしいですねぇ。あのとき私配信枠取ってなかったじゃないですかぁ。あれマネージャーさんが私の代わりにゲームやってたんですぅ。下手なフリくらい簡単だとか言うんですよぉ。酷くないですかぁ?」
そんな特技で彼女は注目を浴び続けた。
そして今、世界で最も注目されているVTuberと言っても過言ではない。
それはどちらかと言えば……悪い意味で。
『ブイアクトのメンバーは例の件知ってた?』
「んー私は心配させたくなくて教えなかったんですけどねぇ。結局バレちゃいましたぁ。ブイアクト小学校の後でしたっけぇ? ロカさんに追求されちゃったんですよぉ。どうやら最初から見抜かれてたみたいでぇ、ほんとロカアルてぇてぇですよねぇ。その後ジュビアさんに全体連絡でバラされちゃったんでぇ、たぶんロカさんから教えて貰ったんでしょうねぇ」
事の発端は導化師アルマによる突然の告白。
ここ半年近い期間、導化師アルマとして活動していた中の人物は異迷ツムリだったと言う。
『導化師アルマになったのは自分の意思? それとも逆らえず仕方なく?』
「あ、逆らえなかったとかはないですぅ。社長……元社長?から泣き落としみたいなことはされましたけどぉ。でも決めたのは自分の意思ですぅ」
本物のアルマは「悪いのは私達だ。異迷ツムリは悪くない」の一点張り。
その気持ちを汲んで異迷ツムリに同情する声も多かった。
しかし、異迷ツムリ自身がその声を否定するような動画を公開した。
「――――では残り2つ……ちょっと似たような内容なんですけどぉ、聞いて欲しいですぅ。私にとって一番大事なところなんでぇ」
ブイアクト全員の声真似による歌ってみた及び新曲のメドレー動画。
「私は自らの意思でなりすましていたのだ」と言わんばかりの内容だった。
『導化師アルマのことどう思ってる?』
「今も変わらず最推しですぅ。”導化師アルマ”さんは恩人ですからぁ」
怒り、悲しみ、不安、恐怖。
様々なファンの感情が入り乱れるSNS。
『アルマちゃんのことどう思ってる?』
「申し訳ないんですけどぉ……ちょっと解釈違いがありましてぇ。平たく言えば反転アンチですねぇ」
《なんでこんな普通に喋れるん? あれだけのことやらかしといて》
《平常運転すぎて怖い。メンタルどうなってんだ……》
《導化師の頃のアルさんは推してたけど今は推せないってこと? 裏でなんかあったのかな……?》
《あれだけ擁護されといて反転アンチってどういうこと? 恩知らず?》
《↑言うてアルさんも元凶ではあるから恩って言うのもな……》
「というわけで100本、これにて終了ですぅ。それでは最後に異迷ツムリの活動方針についてお話しようと思いますぅ。……色々あって戸惑ってる人も多いと思うのでぇ、これを聞いて『推せない』と思った方は無理についてこなくて良いですぅ。推し活で苦しむ必要なんてないですからぁ」
未だ迷い続けているファン達は答えを求めて、今日この配信を見に来ている。
「異迷ツムリの活動方針は推し活、ブイアクトの推し達を全力で推し続けること。それは今までと何も変わりませぇん。でも……少し強火にさせていだきますぅ」
……正直、私もファンの一人として少なからず迷いはある。
「私の全力を見せるために、私の特技を使いますぅ。マイ迷子の皆さんはご存じだと思いますけどぉ。私の声真似って好きな人ほど、好きになるほど上手くなるんですよねぇ」
彼女の身に何があったのか、それに対し彼女がどう考えているのか、可能なら全て知りたい。
しかし、その答えがなんだろうと揺るがないモノはある。
「だから私は愛を叫び続けますぅ。例えその人が辞めても一生……誰にも忘れられないくらいにぃ」
《結局一回もコメント触れなかったな。……触れられるわけないか》
《こんな苦しい配信初めてだわ……》
《今も推したいとは思ってるけど……賛同はできないかも……》
マイ迷子。
異迷ツムリのファンネームであり、推しが授けてくれた我々の総称。
この名を高らかに宣言する気持ちで、端末に文字を打ち込む。
《活動続けてくれるなら何も変わらない。一生推すって決めてるから》
この先何があろうと、彼女が彼女である限り……私は異迷ツムリを推し続ける。
◇
四条彰は今日、とある男と会う約束をしていた。
目的は担当タレントについて教えてもらうこと。
姉に聞いた連絡先でアプローチをかけて、最初は断られた。
『私は今やただのファン。マネージャーと関わりを持つなんてファンのすることではない』と。
どう説得したものかと迷っていた。
そんな折、彼に心変わりするきっかけがあった。
導化師アルマの騒動、そこで異迷ツムリの現状を知った彼は連絡してきた。
ファンとしての矜持よりも兄としての心配が勝ったのだろうか。
何にせよ、おかげで今日彼に話を聞ける。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「いえ。待ち合わせで……」
喫茶店に入り、店員と話していると客席で手を上げる者が居た。
その席に近寄り、確認する。
「お会いするのはこれで二度目ですね。間宵解斗さん」
「ええ。もう二度と会うこともないと思っていたんですがね……」
間宵解斗、それが男の名前。
彼女が異迷ツムリになる前、アイドル時代のプロデューサーであり、彼女の兄でもある男。
「今日はお互い有意義な時間にしましょう。四条マネージャー」
紳士的に差し出された手を握り返し、男同士の対談が始まった。




