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166話

カクヨム版166話を改稿。

「『国王陛下が、崩御(ほうぎょ)された』ですって?」


 ミシュラは、一日の始まりとして軽い抱擁を交わしてから、ラックを通常業務へ送り出す。

 しかし、それから対して時間を置かず、トランザ村の執務室に飛び込んできた情報に驚いていた。

 勿論、発光信号による情報伝達で、彼女は何らかの重大ニュースが届けられること自体は知っていたのだ。

 けれど、いざ届けられた情報に触れてしまえば、その知らされた内容が、正しく『青天の霹靂』以外の何物でもなかったのである。


 しかも、話はそれで終わりとはなっていない。

 続いて、ゴーズ家の領主代行は更に最悪な情報を知るのだった。

 もっとも、それはこの時点だと『ミシュラ自身には、朗報に変化する可能性もある情報』とも言えたりするけれど。

 だが、ファーミルス王国のトップの死を喜ぶのは不謹慎でもあろう。

 また、そもそも朗報になると確定しているわけでもない。


 その『更に最悪な情報』とは何か?


 そうした問いへの答えは、以下のように単純ではあったのだった。


「立太子されることが決まっていたはずのクーガへの、国王陛下にしか許されない最終決定手続きが行われる前に崩御された」


 ミシュラは脳内で状況の整理を行う。


 王妃代理であるシーラの子が全員亡くなっているため、以前に定めていた国王の承認なしの特例を適用して王太子を変更することもできない。

 新たな王太子の決定や、王位継承権の順位を定め直すといった権限は、残念ながら国王から国王代理へと委譲されていない。

 よって、王太子が空位の状態で、国王が亡くなったために、以前の王位継承権順位が自動的に有効化してしまうのであった。


 つまり、この段階で『甥のフォウルの戴冠は決定した』と言えてしまう。

 しかも、国王の不在が許される状況ではない。

 今の状況は、『国王代理がいるからそれで良い』とはならないのだ。

 そのため、フォウルの年齢に関係なく、戴冠式自体は早急に敢行されることが既定路線であろう。


 要するに、だ。


 ミシュラがラックと共に王都に出向いて、『仮』とは言え纏めた話は、この時点で灰燼に帰し、徒労でしかなかったことになる。


 では、『朗報となる可能性』とは何か?


 クーガが王太子を経て王位に就けば、その後にはラックへの王位禅譲が起こる。

 ミシュラは自身が『王妃になりたい』とは微塵も考えていない。

 クーガが王位に就かなければ、『ミシュラの視点では』ラックがファーミルス王国の頂点に立つことはないはずなのである。

 その部分が『朗報』と言えなくもないのだった。


 ゴーズ家の女主人は、暫し思考の海へ沈んでいた。

 考えを纏め終えてから、夫の妹と甥(リムルとフォウル)の二人を、執務室に呼び出すことを決めたのであった。


 ちなみに、ファーミルス王国の国王の死因は、彼の長男と同じで、これまた外聞が非常によろしくない腹上死だったりする。

 けれど、この時のミシュラはそれを知る立場にはない。

 何故なら、彼女が知らされた情報には、『他殺を疑う余地のない病死』としかなかったからだ。


 国王のそっち方面を、ある意味でガッチリ押さえつけていた王妃がやらかして軟禁状態になり、開放的な気分で老齢の国王が自身の歳や体力を考えずに、起こした愚かな行動。

 それは、はっちゃけて、身近な若い女官に手を出すという行為だったりする。


「この重要な時に、なにしてくれとんねん! このどあほうが!」


 死亡原因の詳細を知れば、そんな感じに心の中で罵る人間が多数派であろうことは想像に難くない。

 速報にそれがなかったのは、ミシュラの精神衛生上、とても良いことであった。

 ゴーズ家に届ける書簡の文面を監修し、息子がゴーズ領へ遣わした文官にもその部分の情報を与えなかった元宰相に、ミシュラは感謝するべき案件だったりするのかもしれない。


 とにもかくにも、事態のそんな流れから、状況は動くのだった。




「お義姉様。わたくしだけではなくフォウルも一緒に呼び出すなんて、何事か大変なことでもありましたの?」


 リムルは型通りの挨拶を交わしてから、単刀直入にミシュラに尋ねた。


「ええ。クーガを立太子するための正式な手続きが開始される前に、国王陛下が崩御されました」


「何ですって! それでは王位は」


 ミシュラが告げた情報に、リムルは自身と息子を取り巻く環境が激変する兆しを感じ取る。

 ラックの妹が驚嘆の声を上げるのは、実に自然なことであった。


「貴女の息子さんに確定ですね。戴冠式も近々の日時で設定されるでしょう」


 ミシュラは『気の毒な人を見る視線』を義妹に向けた。


 その一方で、当事者のフォウルの表情には何故か余裕のようなモノがある。


「伯母様。僕には国王なんて務まりませんよ。あまりはっきり言いたくはありませんが、『父も王の器ではない』と思います」


 ミシュラがリムル母子に突き付けた、残酷な現実。

 だが、そこに、フォウルは『全く遠慮のない発言』をぶつけた。

 ちなみに、この発言だけで『国王代理である実父に対して、どのような感情を持っているのか?』は、容易に察せられるレベルである。


「うーん。フォウル君。そうは言ってもね。どうにもならないわよ?」


「そうでしょうか? 僕は、この国の王の適任者を一人知っています。『ラック・ジョ・ゴーズ』ってお名前の、僕の伯父様なんですけれどね」


「いえ、だからそれは――」


「なので、僕の戴冠が避けられないのなら、すぐに王命で王権を伯父様に押しつけます。ついでに、王家の炉の稼働方法と、魔石固定化技術の知識だけは学びましょう。けれど、当面はその部分だけの実務を父に王命でやらせます。勿論、国王代理の権限は消失させますし、僕の父としての立場での横槍は入れさせません。だからお願いです。ミリザさんとの婚約の解消はしないで欲しい」


 フォウルはミシュラの言葉を遮って、自身の考えを語った。

 少年にとって最重要なのは、ミシュラに縋るように言った最後の部分。

 フォウル視点だと、これまでのゴーズ家での生活は、ミリザとリリザの双子姉妹に完全に尻に敷かれた状態となっていた。

 だが、本人はそれを『心地良いもの』と受け入れていたのである。


 ちなみに、フォウルと婚約登録が成されているのはミリザだけ。

 そのはずなのだが、『リリザも妻として受け入れる』のが三者間での合意だ。

 いまだ、ラックもミシュラもそれを知ることはなかったりする。

 けれども、その合意は『娘を外に出したくないゴーズ家の方針』と利害が一致しているのであった。


 但し、双子の暗躍はそこに留まっていない。

 何気に、ルイザやスミンも巻き込もうとしている。

 もっとも、リムルもフォウルも、その状態を知るところではなかったりするのだけれど。


 話が横道に逸れたが、要するに、フォウルにとってはファーミルス王国の王となって王城に住む生活よりも、ゴーズ家の双子姉妹と共にこの地で生きて行くことのほうが魅力的だっただけの話である。

 彼にとって、大切な母を切り捨てた父の存在はどうでも良く、自身で選び取った選択は『この地での母親の立場を確保する』という目的も達成できる。


 そのような考えを持つ以上、フォウルには王位など不要の極みでしかなかった。


「あら。フォウル。それはとても良い考えね」


 リムルは、息子を褒める。


 それと同時に、だ。


 リムルは、ミシュラを眺めていた。

 自身の息子の発言が原因で、驚愕の表情へと変化し、絶句している義姉を。


 フォウルの実の父であった元夫。

 彼の暴走を抑えるためには最も有効であったはずの、『国王』という枷が外れてしまった現状。


「今の元夫が、今後どのような状態になりそうなのか?」


 その問いに対する答えを、他の誰よりも深く理解しているのはリムルであろう。


「(元宰相と新宰相、あるいはそこに、妃であるシーラや母親の王妃も加えて考えても良いかもしれないが、彼ら、彼女らにあの男の手綱が握れるだろうか? 不可能としか思えないけれど)」


 そうなると、フォウルが語った内容を実現する方が良い。


 自分自身や愛息に危害を加える可能性が高い人物に、権力を握らせておくのは危険以外の何物でもないのである。


 幸いなことに、今のゴーズ家には魔力量の面での人材は豊富。

 つまるところ、王家の魔道具を動かすことが可能な魔力量の持ち主には事欠かないのだ。


 稼働方法の知識をゴーズ家の身内が得たあとなら、元夫にサボタージュをされても問題は少ないことが予想できてしまう。

 そうなった場合、あまり気は進まないが、叔母のドミニクにでも話を振れば、嬉々としてソレを引き受けるのは間違いない。


「まぁ、ドミニクならガッツリ機器や仕組みを調べ倒してから、きっちりと自力で後任を探して、その役目を押し付けるだろうけれど)」


 ラックの妹は、そんな考えを瞬時に纏めていた。


 それとは関係なく、話は進むけれど。


「フォウル君? わたくし、王妃なんて面倒な仕事をしたくないのですけれど?」


 なんとか再起動したミシュラは、甥っ子を諭すように話しかけた。


「伯母様。大丈夫ですよ。王妃の実務は、昨日までそれをしていた二人に丸投げしてしまいましょう。何か実害が出るような手抜きや、悪意のある行動を伯父様たち相手に取り続けることは困難を通り越して不可能ですよね?」


 発言者のフォウルもまた、漠然とではあるものの、ラックの接触テレパスの効用を理解していた。


 厳密に言えば、『フォウルは接触テレパスで伯父が相手の思考を読めるのを理解しているわけではなく、『ゴーズ家の長がそのような能力の保持者である』とかは考えていない』のだけれど。


「(ゴーズ家には独自の調査方法があり、その精度に狂いはない)」


 ただ、そう信じているだけである。

 だが、このケースだと『できる』という事実のみが重要であって、その他のことは無視しても良いレベルの些事でしかない。

 それが現実であった。


「そうね。二人で仲良く、王宮に閉じこもって、王妃の執務と次代への教育役をお任せしましょう」


 絶対に仲良くできるはずもない二人の話。

 それを、リムルは笑顔で言い切った。

 リムルやフォウルは、その二人からこれまでにしっかりと不利益を受けている。

 つまるところ、遠慮や配慮をしなくてはならない相手ではないのだ。


 但し、シーラだけは、実家の力でそれを逃れようとする可能性があろう。

 けれども、リムルの元夫との離縁も含めて、もし、シーラが実家に頼れば、だ。

 それ以降に待ち受けている運命は、ヤルホス公の駒に成り下がることである。

 

 どちらがよりマシであるのか?


 最悪の事態だと塔に送られる可能性すら存在する方法。

 そんな手段を、リムルなら選ばない。


 どちらを選ぶのか?


 シーラ本人の、選択の問題でしかないけれど。


「そうですよね。母上。僕、良いことを思いつきました。伯父様なら、あの城にいる必要がありませんよね?」


「フォウル君? それはどういうことかしら?」


 言葉を向けられたはずのリムルではなく、ミシュラが疑問を口にした。


「『必要なことは全部報告書に纏めて提出しろ!』って命じておけば、ここにいてそれを取りに行けば済みます。指示も基本的には文書ですれば良いと思うのです」


 フォウルは、接触テレパスだけではなく、ゴーズ家の長である伯父が行使するテレポートのことも何ら理解はしていない。

 だが、彼は『ラックやミシュラが、あり得ない速度でトランザ村と王都の間を行き来している』という事実だけは理解していた。


「わたくしたちのお父様は凄いのです!」


 そうした理解の全ては、『ゴーズ家の双子姉妹からの薫陶(くんとう)から来ている』という現実を、誰も知らない、気づかない方が平和であるのだろう。

 それが、ゴーズ家の日常なのだった。


「そう言われれば、できますわね。宰相役は、わたくしたちで補えるでしょう。単純に仕事量の増大。この部分が洒落にならないレベルで問題になりますけれど。そうなれば、フォウル君のお母様にも日常的に執務を手伝ってもらうことになりますよ? それで、よろしくて?」


 ミシュラはフォウルに向けて、了承を得るべく言葉を発した。

 まぁ、それについては、仕事を振られる張本人が先行して了承の返事をしてしまうのだけれど。


「わたくしは構いませんよ。ゴーズ領と傘下にある支配地域のどちらも、そろそろお義姉様たちだけに差配をお任せし続けるのは、先々のことを考えれると、少しばかり問題に思えますし」


 要するに、リムルは暗に、『自分だけではなく、信用できて使える人材(フランたち)を引っこ抜け。ついでに後任育成もしましょう』と、言っている。

 それが、ちゃんとミシュラに伝わったのだった。


 そんなこんなのなんやかんやで、王都発の不幸なニュースは、『誰もが予測不可能だった』と言い切れる事態を引き起こしてしまう。

 それは、近い未来のゴーズ家とファーミルス王国の王家の、いや、国政の在り方そのものまでも巻き込む計画の立案。

 国王ラックの治世時限定で、それらを変質させる方向。

 三者の密談が繰り広げられたことで、事態は動いて行く。

 まだ国王になってもいない本人不在で、聡い子供の思い付きから、そんな重大な話が勝手に進んでいたのである。




「ただいま。王都から何か連絡が来てたっぽいけどさ。何だったの?」


 北東大陸のアレコレと、ゴーズ領の北に広がっている魔獣の領域への対応に、今日も今日とて忙しい一日を過ごしたラック。

 超能力者は、帰宅して早々に『千里眼でチラ視はしたが、緊急対応は必要ない』と判断した出来事について、ミシュラへと尋ねた。

 それは、夕食会が始まるまでの、ちょっとした空き時間の有効活用でしかない。

 また、最も強い絆を持つ二人の間の、日常風景でもあった。


「国王陛下が崩御されただけですよ」


「えっ?」


 ラックは、驚愕の情報があっさり語られたことで絶句状態になった。

 だが、ミシュラはさっさと必要なことを伝えるのを優先する。


「ですから、国王陛下が他殺の疑いのない状態で病死されたのです。クーガの立太子手続きには陛下の最終決済が必要なのに、それが行なわれる前にです」


「そうか! なら、クーガは王にならないし、『僕への禅譲』っていう暴挙もなくなったんだね! うんうん。僕は信じていたよ。『何かが起こる』ってさ」


「貴方が何を仰ってるのか、特に最後の方が謎ですけれど。まあ、貴方が国王になるのは変わりませんから些細なことはどうでも良いですわね」


 そう言いながら、ミシュラは愛する夫の手に触れる。

 誤解される余地が微塵もない、正確極まりない情報の伝達。

 そこに接触テレパスを介在させる以上に、効率的な方法など彼女は知らないから。


「えっと、代理陛下の扱いが酷くない? 『あの人には王家の炉と魔石の固定化工程の専属職人として、余生を生きてもらいましょう』って。いや、リムルがミシュラにそう言ったのは事実なんだろうけどさ。『シーラ様にはちょっと気の毒かもしれないけれど、あの方が本気で『嫌』となれば、ヤルホス家の力を使って離縁なさるでしょうし』ってのもさぁ。結構アレな感じじゃないの?」


 配偶者ガチャの大ハズレを引いてしまい、結果的に離婚したことで、カストル家の駒化したミゲラとアスラの二人を娶り、閨で接触テレパスを延々と行使した経験を持つラック。

 超能力者は、『出戻った女性が『実家の当主に、最悪だとどう扱われる?』と考えた時に、思い浮かべる状況とはどんなものか?』を、知り過ぎるほどに知っていた。


 それは、実例を挙げると悲しくなる、過去の事柄を思い出すきっかけでもあった。


「(絶対結婚したくない貴族男子ナンバーワンの名をほしきままにした欠陥品だけど、そこへ嫁ぐ方がマシ)」


 筆頭公爵家の長男であったのに、魔力を全く持っていないために、ミゲラとアスラがそう考えるような話なのだ。

 いや、そんな不名誉な二つ名を欲しがった覚えは、若かりし頃のラックにはない。

 けれど、事実は事実である。


 こうして、ラックは『フォウルが非凡な才能を持つ少年であること』を知り、王都に再度出向く必要が生じたことを理解した。

 一瞬の『国王にならずに済む!』という歓喜の気持ちは、ミシュラから詳細情報を読み取ったことでぬか喜びとなって終わった。

 但し、そんなことは、本人以外にとって歯牙にもかけない些細なことなのである。


 急転直下の事案発生でも、何故か『国王になる』という予定だけは変化しなかったゴーズ領の領主様。『王都の状況はどうなっているんだ?』と口にしながら千里眼を行使して、情報収集に努める超能力者。その結果として『親子揃って、腹上死とかあり得ないんだけど!』と、ミシュラの前で無意識に叫んでしまったラックなのであった。

次回は4月8日の投稿を予定しています。


以下は作者の独り言。


カクヨム版だと、本作と【最強になった勇者の後日譚】は同じくらいの読者様からの支持があるのだけれど、なろう版の【最強になった勇者の後日譚】が伸びないのはなんでだろう?


どなたか、原因を教えてくださると嬉しいです。

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