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165話

カクヨム版165話を改稿。

「『王城への召喚状が届いた』だと? 国王代理陛下から我ら二人宛にか?」


 テニューズ公爵は自家の執務室で、次期公爵となる嫡男と共に日常的な執務の処理に追われていた。

 そこへ飛び込んできた情報に驚いて、家宰に問い直したのが前述の発言である。


「はい。王宮からの使者を務めた者は、登城予定の情報を持ち帰るために、まだ応接室に待機しております。詳しい内容は、預かった書簡に記載されているものと思われます。こちらをどうぞ」


 家宰は、使者から預かって来た書簡をテニューズ家の当主に手渡した。

 受け取った公爵は、それを開封してさっと一読する。

 続いて、読み終えたそれを息子へと渡す。


 召喚状に書かれていた内容はたったの四行でしかなく、しかも単純であった。

 それが、以下になる。


 王太子が事故で亡くなった件が原因で、新たな王太子を定めねばならない。

 現時点で、誰に任せるのかは内定している。

 しかしながら、内定であって決定ではないので、なるべく早急に王宮でそれについての意見を直接聞きたい。

 可能であれば即時が望ましいが、もしそれが不可能であれば登城できる日時を派遣した文官に伝えて欲しい。


「父上。これは」


 書簡の内容を読み終えた嫡男は、当主である実父に声を掛けた。

 この段階で、父の公爵としての対応方針は、既に定まっているはずだった。

 故に、率直に答えを求めるのが、最も時間を無駄にせずに済むからである。


「今日の予定を調整するのに、どのくらいの時間を必要だと判断する?」


 テニューズ公爵は、息子の言葉の意図を正確に汲み取り、必要な質問を投げ掛けた。


「絶対に今日の決裁が必要な案件に三十分。残りは全て明日に回す段取りをするのに十五分。遅くとも一時間後には出られますので、王宮には九十分後でいかがでしょう?」


「そんなところだな。さて、聞いていたな? 使者へは九十分後に登城する旨を伝えよ」


 テニューズ家では、そのような状況で事態が進んだ。

 むろん、内容が内容なだけに、若干の時間差は存在するもののヤルホス家とカストル家にも同様の召喚状が届けられている。

 ちなみに、それら二つの公爵家でも、テニューズ家と似たような状況が発生していた。




「迅速な対応、嬉しいぞ。テニューズ公。それに、次期テニューズ公もな。卿らにはこの場での自由な発言を許す。宰相らも意見は自由に述べてくれ」


 テニューズ家での一件から、きっかり九十分が過ぎた時。

 テニューズ親子は、予定通りに登城できていた。


 そうして、国王代理、元宰相、新宰相の三人と共に、総勢五名で王宮の密談用の部屋に籠り、内々の話を詰めることになったのだった。

 尚、前述の発言は、国王代理のものとなる。


「いえ。臣下の務めでありますから。して、私どもを急ぎで呼び出された理由の件ですが。次の王太子を既に内定しているとか? 当家の孫のフォウルを立太子されるのですか?」


 国王代理の発言を受けて、テニューズ公単刀直入に疑問を投げ掛ける。

 緊急案件としての体で呼び出された以上、この場での腹の探り合いは無用の長物以外の何物でもないのだから。


「いや。そうではない。国王陛下は、国王代理陛下の実子であるフォウル様を『王位継承権二位に定めて、王太子にはしない』というおつもりだ。母子ともにゴーズ領を出るつもりがない、リムル様とフォウル様を王宮に戻すことについては、もう諦めている」


 テニューズ公の質問は、本来国王代理に向けられたものであった。

 けれど、元宰相はそれを承知で、国王代理に代わって答えてしまう。

 これは、老獪な元宰相があえて行ったことで、『テニューズ家の二人の怒りの対象を分散する』のを目的としていた。

 どう転んでも、すんなり済む話のはずはない。

 よって、このあたりは駆け引きとなるのだった。


 まぁ、テニューズ公側も、元宰相のそうした意図がわからないような愚者ではないので、話は進むのだけれど。


「ほう。では、我らを呼んだのは、テニューズ家に嫡男を王家に差し出せと?」


 テニューズ公の質問内容が実現した場合、テニューズ家は嫡男と嫡男の次代を継ぐ孫を同時に失う。

 魔力量の問題があるため、彼の実子であるラックにテニューズ公爵を継がせることは、基本的には不可能。


 そうなると、だ。


 テニューズ家を継ぐ後継者の候補は、クーガ、ライガ、フォウルの三名しかいない。

 けれども、年齢を加味して考慮すれば、選択肢はクーガ一択となる。

 まぁ、そのような単純な話で、この案件が片付くはずはないのだが。


 これは『血縁関係を考えるとそうなる』というだけの話で、『これまで、孫としての扱いを一切していない相手がそんなことを承諾するか?』は全く別の話になってくる。


 また、もし、実質的に縁を切ったはずの長男(ラック)に無理やり公爵家を継がせてしまうとどうなるか?


 テニューズ公爵とゴーズ上級侯爵と兼任させた場合、重大な問題が発生してしまう。


 テニューズ公爵家には、王国から課せられた必須の義務に、魔石固定化技術の受け持ち工程の維持があるのだから。

 つまり、魔力を全く持たないラックを新たなテニューズ公に据えた場合、その瞬間からカストル公爵家の出のアスラかミゲラを正妻として扱わせねばならなくなるのだ。


 そんなことを、遥か昔に自家から追い出した経緯があるラックは認めるはずがない。

 それは、ラックの現在の正妻であるミシュラも同様であるだろう。

 そもそも、ゴーズ家の息子たちやリムルの息子のうちの誰かを、テニューズ家の籍に移すこと自体が、完全な無理筋の話なのだけれども。


 そこまでの内容の思考を、瞬時に脳内のみで纏めたテニューズ家の当主。

 その顔は、怒りの感情に染まる。

 怒気を隠そうとしなくなった公爵は、彼の質問に答えた元宰相から国王代理へと視線を移すのだった。


「テニューズ公、俺をそう睨むな。安心しろ。そうではないのだ」


「違うのですか。では、どうなるのです?」


「フォウルにしろ、次期テニューズ公にしろ、次期ヤルホス公にしろ、王太子が事故死する以前の王位継承権の順位を、そのまま利用するのが不可能なのは陛下も理解している。いや、勿論、テニューズ公が王太子に、嫡男を継承権順位に従って推す、あるいは、自らが立候補するのであれば現在の内定を覆して、再考に値するがな」


 国王代理が除外した候補者以外となると、その次の継承権の順位を持つのは各公爵家の現在の当主なのだ。

 しかしながら、実権を国王代理にほぼ譲り渡した国王と比較して、ほぼ同年代で少しばかり年下なだけでしかない彼らのうちの誰かが、王太子の座を経て王位に就くのは、基本的に無理があるだろう。

 その次が既に決まっていて、所謂、短期的な中継ぎなら検討の余地はあるかもしれないが、現実はそうなっていないのだから。


「(国王代理より年上、それも父と子でも違和感がないほどに歳が離れている人間を王太子に据える。そんな状況自体が、そもそもおかしい)」


 テニューズ家当主の脇に控えていたのは、ラックの弟。

 次期テニューズ公は、国王代理の発言からそうした点を黙って考えていた。

 そうして、ないであろうはずの可能性に思い至り、それを尋ねることになる。


「まさかとは思いますが。立太子されるのはゴーズ家のクーガですか?」


「察しが良いですね。その通りです。飛び抜けた魔力量を持つクーガなら、ヤルホス公を黙らせることができる。カストル公は反対するはずがないですしね」


 次期公爵の問いの発言には、新宰相があっさりと答えた。


「なるほど。そういうことか。当家の了承と、王家がヤルホス公との契約が履行できないことへの口添えが目的なわけだな? だが、王妃代理様は現在、妊娠中だったはず。男子が生まれたらどうなる?」


 テニューズ公は元宰相に視線を向けて、新たに湧き出た疑問を問うた。

 彼は原案を作り出した、あるいは現在の状況へ誘導したであろう張本人を相手にするのが、最も話が早いと踏んだのである。

 もっとも、それに回答するのは、元宰相とはならないけれど。


「シーラの身籠った子は、流れた。王妃がやらかしてくれてな。なので、その心配はするだけ無駄だ」


「それはまた、残念なお話ですな。となると、王妃様になにがしかの罰が与えられるのですか?」


「俺の母の処遇はまだ決定していない。が、今の段階で捕えて閉じ込めてある。陛下は、『一旦クーガを立太子したら、後日新たにシーラが妊娠して男子を出産したとしても、その子が彼の魔力量を上回る逸材でない限り、王太子の変更はしない』と、明言された。勿論、『クーガが存命中なら』という前提条件は付くがな」


 クーガの未来が、語られた瞬間であった。

 こうなると、死にでもしない限り『王太子から王への確定コース』と言って過言ではない。


「当家としては、それならばクーガを立太子する件について異論はございません。ですが、ヤルホス公への口添えはできませんな」


「テニューズ公にもお立場がありますからな。お願いしたいのはやまやまですが、そこは仕方がない」


「ご理解いただけて、嬉しいですね」


 国王代理から飛び出た予想外の発言内容に、少々気不味いものを感じざるを得なかった公爵は、クーガの件を認めた。

 但し、ヤルホス家とは険悪な状況になりたくはない。

 そのため、積極的には関与しない方針を採用するのだった。


 宰相親子は、テニューズ公の素早い判断に『落としどころとしては無難な線だ』として、肯定する。

 それで、王家とテニューズ公との間の話は、纏まるはずであった。

 ところが、兄のラック、いや、ゴーズ家にわだかまりを勝手に持っている次期公爵は、黙っていられなかったのである。


「待ってください。クーガの実母はカストル家の三女のミシュラですし、既存の婚約者のうちのニコラ(アスラの娘)レイラ(ミゲラの娘)は前カストル公の孫です。それに加えて義理の母親にカストル家次女のアスラと長女のミゲラまでいます。それらの関係性から鑑みると、前カストル公の影響力が強すぎませんか?」


「血縁関係だけに着目するとそうなりますな」


「ならば、クーガの立太子。不味いのではありませんか?」


「それは違いますな。次期テニューズ公の(ラック)夫人たち(前カストル公の娘たち)が嫁いだ経緯を考えれば、前カストル公の影響力を心配する必要はないでしょう。むしろ、外部の人間から『影響力が最も強い』と見られるのは、テニューズ家なのですよ」


 新宰相は『面倒なことを言い出したな』と、内心では考えていたが、それを表情に出すことはなく事実の羅列で火消しに掛かった。

 そこらの事情を深堀りしても、誰も幸せな未来を掴み取れないのだから。


「だろうな。クーガの子であるエドガはリムルと婚約している。『もし、将来エドガが王位に就いた時点でリムルが存命であれば』と、そう考える人間はいるだろう。実態がどうであれ、な」


 テニューズ公は、チラリと息子に残念なものを見る視線を向けたあと、新宰相の発言に追随した。

 それを好機と察した国王代理が、即座に反応する。


「ヤルホス公に、この件を呑ませる口添えを得られぬのは残念だ。が、それはそれとして、次期テニューズ公の娘を王太子妃として嫁がせる件は、白紙撤回で良いな?」


 国王代理は、過去の清算へと話を振ったのだった。


「ヤルホス公がクーガの立太子を無条件で了承するならば、当家も引き下がりましょう」


 公爵は連れて来た息子に、兄への複雑な想いが存在しているのを知っている。

 それ故に、『むしろ、国王代理の言うその約定は有効のままだと、将来の火種になる』と考えていた。

 だが、『利があるから』と言って、黙って引き下がるのも面白くはない。

 そこで、テニューズ公はいかにも貴族的に、無難な条件を付けた上で了承したのである。


「それは重畳。ヤルホス公は娘である王妃代理様のお命を、『無償で』希少な薬を使って救ったゴーズ上級侯爵への借りがある。おそらく、条件は付けないでしょうな。『クーガへ側妃を出したい』といったあたりの要望は出すでしょうが」


「ゴーズ家のクーガは、三大公爵家のどこに対してもしがらみが少ない。その上、王家の娘『だった』ニコラと婚約している。もしそのニコラを正妻に据え、彼女が王太子妃を経て王妃になるのなら、側妃を押し込んでも口出しは難しいであろうよ。ま、そのケースの場合、目的はそこではなく、生まれて来る高魔力の子をヤルホス家が養子で引き取るか、自家の子との婚姻に目標が設定されるかもしれんがな。クーガには長男のエドガが既にいて、クーガ自身に婚約者が複数いるからこそ可能な話だ」


 公爵の了承発言を受けて、元宰相が畳み掛け、国王代理が話を纏めた。

 一連の話の流れで、実質的には、次期公爵となるラックの弟のみがこの場で遣り込められた形に終わる。

 けれども、彼は彼で、自分の娘を兄の息子のクーガやライガに嫁がせるのは『悪夢の領域』と言えてしまう。

 そのため、話がこう進んでしまうと、沈黙せざるを得ないのだった。


 そんなこんなのなんやかんやで、国王代理は最難関と想定されていたテニューズ公爵家との話し合いを、なんとか穏便に済ませた。

 そこから、立て続けにヤルホス公、前カストル公とも会って、クーガが立太子されるのを了承させることにも成功する。

 事前の予想通り、ヤルホス公爵は『クーガの立太子』への激しい難色を示した。

 しかしながら、ラックもミシュラも登城した日のドタバタの中で、彼の娘に治療薬として使った水筒のお茶への対価を求めるのを忘れてうやむやになった一件が、結果的には有効に作用したのである。


 ラックがミシュラと共に城から下がって、王都を離れた後の王宮側は、事態がそんな感じで推移したのであった。




「と、まぁそんな感じになってしまいまして、お孫さんがライガの元へ嫁ぐと、将来王妃か側妃になる可能性が出てきました。どうされます? 王家に嫁がせるつもりではなかったですよね?」


 ラックは北部辺境伯家のいつもの隠し部屋で、相談役と会っていた。

 急ぎの話ではないし、あくまで可能性の話でしかない。

 そのため、来訪を後回しにした結果、こうした状況が生み出されているのは些細なことであろう。


「ちょっと顔を見せなかった間に、そんな事態が発生したのか。だがまぁ、今の王都の役人連中は腐っている。軍部の人間も然りだ。クーガ君か婿殿が王位に就けば、それをそのままにしておくことはないのだろう? ファーミルス王国の未来を考えれば、悪くない気がする。孫娘の件は当面保留にしておいて構わない。ルウィンへのお灸の意味合いもあるし、ライガ君への弾除けくらいの役目は務まるだろうからな」


 ライガと婚約している現在のシス家当主の娘は、魔力量的には王妃にと望まれてもおかしくはない範囲に、一応入っている。

 但し、かなり下限に近い方ではあるけれども。

 だが、『同等以上の魔力量を持つ、同年代の女性がどれほどいるのか?』を考えると、その数は決して多くはないのが実情だ。

 条件面で劣る娘をゴリ押しする厚顔無恥な貴族は非常に少ない。

 故に、『弾除け』とは人聞きが悪いけれども、現状維持によってゴーズ家にそのような利益が発生するのは確かなのだった。

 もっとも、ライガもクーガと似たような魔力量を持っているため、ぶっちゃけてしまうと、『娶る女性側の魔力量を気にしても仕方がない』と言えるのだが。


 ラックの視点だと、息子たちが子を成す相手として気にしなければならないのは、『妊娠時に魔力中毒症を発病しないかどうか?』だけなのである。

 ラックの直系の息子たちに限定すれば、魔力量が二百より下の女性は危険であるかもしれない。


「平民の女性には、絶対に手を出すな!」


 ラックは父親として、息子たちに対してそう言い含めている。

 超能力者にとって些細なことではあるが、割と重要なことでもあるのだった。


「わかりました。でも、『婚約解消をした方が良い』と判断された時は、遠慮なく仰ってくださいね」


「うむ。その時は相談させてもらおう」


 この日の両者は、この後、北東大陸の案件で短い時間の雑談をして解散した。

 親子ほどに歳が離れていても、男同士で気軽に雑談ができる相手は貴重なのであり、こうした機会は、双方にとって有意義で必要な日常に組み込まれているのである。


 こうして、ラックのあずかり知らぬところで、王太子案件での王都側のファーミルス王国の重要人物たちへの根回しは無事に終了した。

 つまるところ、納得が行かず、『どうしてこうなった?』状態なのは、ゴーズ家の当主と、その正妻だけなのだった。


 三大公爵家の内諾が得られ、近日中にクーガを立太子する旨が王家からの使者によって知らされたゴーズ領の領主様。確定情報を受け取ってしまったことで、数年後に『国王』とされてしまう可能性が、極めて高くなってしまった超能力者。『まだだ! 予想外の事態で状況が一変とか、僕の人生にはこれまで何度もあった。まだ時間はあるんだ。僕が国王の座を回避する未来も、きっとあるはず!』と、誰に聞かせるでもなく自然に呟いていたラックなのであった。

次回は4月1日の投稿を予定していますが、1日遅れるかもしれません。

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