俺達の生活の始まりなんだが
そして、時は今に戻る。
朝食を持って、俺はセルティのいる部屋へと来ていた。
「エドガーさん、おはようございます」
セルティはそう冷たく言い放つ。
「……二日ぶりだな、セルティ。元気にしてたか?」
俺はセルティのその様子に、思わず自分の表情が硬くなるのを感じる。
昨日はアリサの相手をしていたので、セルティの下に来ることはできなかったのだ。
セルティの機嫌が悪いのは当たり前だ。
……例えいつものように夜ではなく、今日のように朝に来れたとしても。
「……ええ、それはもちろん」
無表情のまま、セルティはゆっくりとそのベットから腰を上げる。
そしてゆっくり、ゆっくりと足を進め、一歩一歩俺へと近付いてきた。
「……それでは」
ツインテールの少女は俺へと腕を伸ばし、そのまま俺の腰に腕を回す。華奢なそれが、強く、強く。俺を逃がすまいと拘束する。
「……まだだめだ、セルティ。まずはご飯を食べてくれ」
セルティは俺の言葉に、ますます腕に力を籠める。
「……昨晩、寂しかったのですよ?」
俺の胸の辺りに頭をぐりぐりと押し付けながら、セルティは俺を咎めるように言った。
「……話すよりご飯が先だ」
俺は朝食をのせた盆を落とさないよう、テーブルに置き、セルティを引きはがそうする。
だが、そこでセルティは様子を変えた。それまでの冷たい雰囲気から一転。熱のこもった眼差しでセルティは抱き着いたまま俺を見上げ、舌を俺に見せつけるように突き出す。
俺を誘うように妖しく蠢く、セルティの真っ赤で長い舌。
「……ァ……」
そして舌を突き出したまま、セルティはその歯をゆっくりと閉じていく。
――そう、舌を噛もうとしているのだ。
「……なッ!」
それに気付いた俺は、とっさに右の親指をセルティの口に突っ込む。
「ング……ァ……」
突然に喉の奥まで指を突っ込まれたセルティが呻き声を上げるが、気にしない。気にしている場合ではない。
「……クッ!」
俺の親指に歯で噛まれた鋭い痛み。チロチロと口の中に入れた指の先を、ぬめぬめとしたモノが這い回っている。
――だが俺の指で、止めさせることが出来たか。
俺は指を口内をこれ以上傷つけないようにゆっくりと抜くと、俺は諭すように言った。
「……セルティ、こんなことは二度とするな」
「ケホッ……ケホッ……ぅぁ……ハぁ……!」
喉を抑え、せき込むセルティ。若干目には涙が浮かんでいる。だがその表情はとても嬉しそうだった。悦楽に溺れてしまった者だけが、浮かべられるような笑み。俺に助けられたのが嬉しかったのか、それとも別の理由か。
セルティは自分の体を抱き締め、俺にすら隠せないほど激しい体の震えに堪えながらも、うつむきがちで俺に聞いた。
「……ごめんなさい。貴方の指を傷つけてしまいました」
「……そんなことは気にしていない。だからセルティも気にするな」
「そういうわけにはいきません。はやく見せてください」
そして俺の了承を得ないまま、セルティは俺の右手を優しく掴んだ。
「それではこれの償いを……しますね……」
「……」
セルティの柔らかい唇がやさしく俺の親指の先に触れる。
「……ん……ちゅ……」
チロチロと少しの間舌の先で舐めた後、ぱくりとその口に俺の指を咥えた。
「……ふむ……あむ……」
暖かく柔らかい口内で、唾液で、舌で俺の指が優しく丁寧にほぐされていく。
「……ちゅぅ……じゅる……」
セルティはその形の整った眉を寄せるように曲げ、そして次第に口をすぼめるようにして俺の指を柔らかい肉の中に埋められるようにし、そのまま愛撫を続ける。
「……じゅる……じゅぞ……」
静かな地下室の中、セルティが俺の指を咥える音だけが響く。
――だがその静寂すらも、セルティにとってはスパイスでしかないのだろうか。
一分、二分と時間が経過した。
セルティはところどころ舐める角度を変えたり、口内へいれる角度を調整しながら俺の指を丁寧に舐め上げ、自分の唾液で俺の指を蕩かしていく。
「……ん……ちゅ……ェロ……」
そしてセルティは俺の右手を両手で包み込むように持ち、その指を口から引っ張り出して、爪に優しくキスをする。
「……ちゃんとここも、やらなくてはいけませんよね」
次に、指についてしまった自分の歯形を、たっぷりと唾液を滴らせた舌で、そこを舐め始めた。
「く……」
ざらざらと、ぬるぬるとした生暖かい舌が、ゆっくりと俺の指の傷跡をなぞる。
ゆっくり、隙間なく。
俺の指に唾液をまぶしていく。
そのまま俺の親指がふやけそうになるほど唾液でべとべとにした後。
ようやくセルティはそれを解放した。
「……ごちそうさまでした」
ぺろりと自分の唇をなめ、そう一言いうと、セルティは俺をいつもより優しく、ふわりと抱きしめた。
いつものように暴力的に力任せではなく、優しく。心底愛おしいというように。
「……なぁ、セルティ。ご飯を食べてくれ。頼む」
俺がここに来てからもうどれほど経ってしまっただろうか。今更だが、俺はセルティにご飯を食べるよう促す。
だが、溶けてしまいそうなほど熱のこもった視線でセルティはそう懇願する俺を見上げて、クスリと笑って答えた。
「……昨日の分を取り戻すまではだめですよ」
そういって、セルティは全身を俺に押し付ける。俺の胸に顔を押し付けた彼女からは、すうー、とゆっくりと息を吸う音が聞こえてきた。
「聞いてくれ、セルティ。もう今までとは違う。俺が君の世話係になった」
「……それで?」
顔を埋めたまま、俺の話を促すセルティ。俺の首元までセルティの熱い息がかかった。
「つまりこれからは夜じゃなくて、昼もセルティと一緒にいられるわけだ」
セルティの耳元で、できるだけ優しく、俺は言う。
その言葉に、ゆっくりとセルティは顔を上げた。
「ほんとう……ですか?」
「ああ。流石に二十四時間一緒にいるわけにはいかないが、前よりはずっと長い時間、君といられるだろうな。いや、できるだけ一緒にいよう、セルティ」
この俺の一言に、セルティはきょとんとした表情を浮かべる。
「え?ずっと……ですか?」
「ああ、ずっとだ。君を寂しがらせたりしない」
「ずっとずっとずっと……そう……ですか。ずっと……ですか」
その言葉を反芻するように、噛みしめるように何度も口で言うと。
セルティは俺から表情を隠すように、両手で顔を覆い、そして――嗤い始めた。
「うふふふ……あははははッ!ああ…あぁ…!アハハハハハ……!」
壊れたように笑い声を上げるセルティが落ち着くまで、俺は優しくその少女を抱き締め続けた。




