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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第三章 二人の魔導士の弟子
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少女との出会いなんだが

 数日前の深夜。


 俺は一人で魔術をコントロールするための訓練をしていた。

 あのグラム戦で使った龍血装もそうだが、同等かそれ以上の魔術も。


「ふぅ……こんばんはひとまずこれくらいでいいか……」


 俺はそれにいったん区切りをつけると、地下室でシャワーを浴びる。


 汗をシャワーで流しながら、俺は考え事をしていた。


 ――最近少しずつ分かってきたことがある。


 俺の魔法――空間魔法のことだ。

 これを今まで俺は物質の操作、つまり念力のような力を持つ魔法だと思っていた。

 しかし、俺が思うにそれは少し違う。

 空間魔法は、空間にあるものを、支配する能力だ。その中に、物質を動かす能力があったに過ぎない。

 この前のグラムとの闘いの龍血装(ドラゴンヴェイル)

 あの魔術の場合は物質ではなく、魔術(・・)そのものを支配していた。自分のイメージ通りに。


 もちろん、ドラゴンというイメージしやすいモデルがあったとはいえ、ただの土魔法と火属性魔法だけではそれを正確に行使することはできないだろう。

 だが空間魔法をそれらに混じ合わせることでそれを可能にしたのだ。


 そして、先ほどの訓練はそれのさらに上。


 ――この世の法(・・・・・)則を支配する(・・・・・・)魔術(・・)

 ただの魔術の範囲を明らかに超えた、此の世の理を捻じ曲げるほどの、その魔術(チカラ)

 言うなれば神の所業。まさに空間の支配者(・・・)

 強い弱い、と言うレベル(・・・)ではない。

 それの一つ上の段階のもの。

 これに打ち勝つには、強さだけでは不可能だろう。


「……バケモノ、か」


 グラムの言葉を思い出す。

 ニンゲンを超えた、何か。

 それに俺は少しづつ近付いていっているのかもしれない……。



***



 地下のシャワー室から出た俺は静かな地下を歩く。

 向かう場所は、地価の一番奥の部屋。

 そこには、アリサやエリーには言っていないが、食料や飲み物をそこにある程度保管してある。

 簡単な休憩所だ。


 腹が減った俺は、軽く何か食べようかと思っていたのだ。


「たしか……ここに箱ごと置いておいたはずだ」


 俺の前には一番最奥の部屋のドア。

 それに手をかける。


 だが。


 ――ガッ!


「……開かない」


 その扉には鍵がかかっていた。


 ――前はそんなことはなかったんだがな。


(まあいい。……それならもう寝るか)――とドアに背を向けた時。


「だれ?だれかいるんですか……」


 静かな地下に、少女の声が響いたのだ。


「――!おいおい嘘だろ……」


 ガンガン、と俺の目の前の扉が叩かれる。


「あけて……おねがいだからあけてください……」


 その壁の向こう側にいるのは……女。


(――ど、どういうことだ?どうしてここにいるんだ?)


 俺は突然の状況に混乱していた。


(とにかく、ここを開いて話をきかなくては――)


 とそこまで考え、そこで俺は一瞬冷静になる。


(――いや、まずこいつは何者だ?なぜ、どんな理由でここに閉じ込められているんだ?)


 そして、最近忙しそうに地下へ潜るアリサとエリーを思い出し――納得する。 


(何かこいつにはあるのかもしれない――俺達を脅かす何かが。

 だから、ここに閉じ込められているのではないのか?アリサ達は閉じ込めたのではないのか?)


「……ぅっ……だして……おねがいします……おねがいしますからぁ……」

「……!」


(だからと言って、この少女を放っておくのか?)


 それは、否だ。 


「……すこし待っててくれ、今鍵をとってくる」

「ああ……ありがとう……ありがとうございます……」


 その少女のすすり泣く声を後に残し、鍵を探しに行く。


(――昔の俺なら、魔法で鍵を壊して、すぐにでも助けようとしただろうな)


 そう、チラッと頭の隅で思った。


 ***


 キーラックから目当てのカギを探し出した俺は、そのドアを慎重に開ける。


(――どんな相手かわからない。一応だ……)


 即座に無力化できるように、いくつかの魔術のイメージを脳内で待機させつつ、俺はドアノブを押し込んだ――。


「ぁ、ぁぁ……」


 だが、そんな心配は必要なかった。

 そこには部屋の隅で膝を抱えてすすり泣く、一人の少女がいた。


 その部屋は真っ暗だった。

 照明はつけられていない――いや、つけられないようにしてあるのか。


 その部屋に廊下からの光が射す。

 そしてその光の先にいる少女を、俺は見た。


「ぁ…ぇぁ……」


 その喉からは、驚きからか、安心からか。音にならない、かすれた声が漏れる。


「……ぁ……ぁぁ……!」


 少女はふらふらと夢遊病者のように俺に近付きしゃがみ込んで、しとしとと涙を流し始めた。


「う、うあぁぁぁぁぁぁぁ……」


 俺の足に腕を回し、それを抱く。


「えぁ……うグッ……」


 その少女は俺に縋りつくように、俺の足に顔を擦りつけるようにして泣きじゃくっていた。


 その様子にそれまでの俺の警戒が、解ける。


(――この子も、そうなのか?)


 俺の心の中にまた一つ、ぽっかりと穴が空いたように感じた。


 ぽんっとその少女の頭に手を置く。


「安心しろ、俺は君の敵じゃない」


 俺のズボンがびしょびしょになる程に泣き狂っている少女を、しばらくそのままにさせておいた。


 ***


 暗闇の部屋の中、俺に縋りついて泣いている少女。

 俺はそのまま少女の頭を優しく撫でていると、しばらくしてその少女は泣き止んだ。

 今度は俺のズボンに顔を押し付けるように黙り込んでしまった少女に。俺は声を掛ける。


「その、もう離れてもいいか?」

「……だめです」


 ぎゅっとズボンを握りしめ、その少女は俺から離れようとはしなかった。


「その……あれだ。少し俺と話をしないか?まだ君の名前も聞いていないしな」

「セルティです」


 少しの時間すら惜しいというように、少女――いやセルティは短くそう答える。


「……趣味は?」

「修行」

「……それは趣味とは言わない」

「ならありません」

「好きな食べ物は」

「特にないです」

「……他に何でもいいから好きなものとかないのか…………ッ!」


 質問の最後、俺は思わず驚きの声を上げてしまった。

 俺がその質問をしたとき、セルティはそれまで俯いていた顔を上げ、こちらを睨み、こう叫んだのだ。


「……別にありませんッ!どうでもいいじゃないですか!私のことなんてッ!」

「……ど、どうでもよくなんかな……」

「うるさいッ!」


 どうでもよくなんかない。そう言おうとした瞬間に、俺に噛み付くように、その少女は俺の目の前でその表情を大きく怒りにゆがめる。


 その突然の剣幕に気圧されてしまう俺。


「あなたは黙って!ここで、私の側で!じっとしていればいいんです!」


 息を荒らげ、取り乱すように俺に罵声を浴びせ続ける少女――セルティ。その金髪のツインテールが、暗闇で首の動きに合わせて揺れる。


「あなたは、私の事なんて知らなくていいんです!私達はそんな関係になりたくない!どうでもいいんです!そんなことなんて!」


 そしてその少女は強引に俺の肩を掴むと、勢いよく顔を俺に寄せキス(・・)をした。


 ガツリ、と俺の歯に、少女の歯がぶつかる音。


「むぐッ……ふむぅ……ッ!」


 少女は何かに飢えたように、何かを得ようとするように、その行為を行う。それともただ、自身の状況の所為で、自暴自棄になってしまっただけか。


 そのまま少女は俺の唇をむさぼるようにキスをする。


 俺は突然の柔らかい唇の感触に驚き、体が固まってしまっていた。


「……んぅッ……」


 その少女は暴力的に俺の唇を奪い、そのまま離そうとはしない。


 少女はキスをしながらも俺をエメラルドのような美しい瞳で見つめて来る。視線を決して俺の目から離そうとはしない。


 それは俺に何かを問いかけているようだった。


「……じゅる……じゅぷ……」


 次にセルティは俺の顔を舐め始める。ぬるぬるとして、生暖かい舌の感触が俺の頬を伝う。

 セルティは頬を赤く染め、目を細めるように、その行為に没頭する。


 俺は少女になされるがままでいた。

 動けなかった。

 脳がマヒしていたのだ、その少女の突然の豹変ぶりに。


(――俺が何か間違いを犯してしまったのか?)


 わからない。


(――この少女セルティは俺に何を求めているんだ?)


 わからない。


(――この少女セルティは何に苦しんでいるんだ?)


 わからない。


「んくッ……ん……」


 鼻の先まで舐めてしまうと、すっとセルティは俺から離れる。

 そしていつの間にか座り込んでぼうっとしていた俺を、セルティは見下ろし、その目を興奮に輝かせて、こう宣言したのだ。


「これであなたはもう、私の物ですから……!」


 ***


 その後数分。


「ふぅ……!」


 セルティは、その温もりに満足げな声を上げる。

 セルティの愛撫のせいかぼうっとした俺を、セルティは前から向かい合うように俺を強く強く抱きしめた。


(――暖かい)


 セルティもそう思っているだろう。

 その時、全く寒くはないと言うのに、俺達は何かから怯えるように、お互いの温もりを分け合っていた。


 丁度俺の顎の下辺りにセルティの頭がある。

 それに俺は顎を載せ、頭の重さを預ける。

 セルティもそれに応えるように、俺の顔にその頭をすりすりとこすりつけた。

 ツインテールが俺の目下で左右に揺れる。


「……何で俺と会った時に泣いたんだ?」 

「……わからないです」


 抱き締め合った俺とセルティ。


 お互いの耳元で、言葉を交換する。


「強いて言うなら……あなただからじゃないですか?」

「俺だから?」

「はい、そうです」


そしてすっと頭を俺から離し、しっかりと俺と目を合わせる。


「ずっと私といてください……もう寂しいのは嫌なんです、一人は嫌なんです、暗いのは怖いんです」


 そして俺を強く、強く、その感触を確かめるようにその細い腕で抱き締める。


「……なぜそんなにも怖がる?アリサとエリーに何かされたのか?」


 その少女の異様なほどの錯乱ぶりに、俺はそう質問してしまう。

 だが、その少女は首を振りながら答えた。


「されて……ないです」

「本当か?ほんとに」

「だからないですから」

「そんなはずは、俺から言えばこんな部屋からすぐにでも……」

「だからされてないって言ってるじゃないですか!そういう問題じゃないんです!わかった気にならないでくださいッ!」

「わ、悪かった、セルティ」


 その剣幕に思わず俺は、セルティを抱き締めていた自分の腕に力を籠める。


「ぁッ……」


 一瞬セルティから甘い声が漏れた。


「そうです、いいからあなたは黙って私を抱き締めていればいいんです!もっと!もっと強く!私が寂しくならないようにッ!温かくなるようにッ!」


 俺を見上げ、叫ぶ。


 彼女の原動力。

 それは確かに恐怖ではあった。

 だが明確なものではないのだ。

 もちろんアリサに、エリーに恐怖をしているだろうが――そうではなく。

 少女は孤独だった。俺と抱き合っている今でさえ、彼女は孤独に怯えていた。


「……わかったよ、セルティ」


 俺はその疑心を封じ込め、その少女をただただ強く、強く、抱き締めた。

 セルティもまた小刻みに体を震わせながら、そのまましがみつくように、離してしまわないように、俺を抱き締め続けた。


 ***


 朝が近くなったのか、セルティは、俺をやっと解放してくれた。

 俺の体には少女の温もりが、その柔らかさが、甘い香りがじんわりと残っている。


「銀髪とダイアウルフの女には、このことは何も言わないでください」


 別れ際にそう何度も念を押すその少女(セルティ)


「あと、今夜も来てください、絶対ですよ」


 俺の手を強く握りしめ、また俺を冷たく睨みながら、その少女は言う。


「……何するんだ?」

「昨晩と同じことです。決まっているじゃないですか」

「……もし嫌だっていたら?」

「死にます」

「……は?」


 ――死ぬ?


「舌を噛んで死にます」


 どろどろ。

 目の奥に、凝り固まった何か(やみ)が蠢いているように見える。


 ――セルティは口角を吊り上げ、笑っていた。


 溢れ出している。

 この子の闇が。


 その言葉から、その視線から、その表情から。

 

 俺は目の前がくらくらと揺れるのを何とか我慢しながら、できるだけ優しく、説得するようにセルティに告げた。


「……わかった、わかったから。絶対来る。必ず次も来る。だから大人しく、待っていてくれ」


 俺の回答に満足したのか、金髪ツインテールの少女はクスリと笑って、俺の頬に静かに口づけし、そして歓喜に満ちた声でこう囁いた。


「……そう、それでいいのです……あなたはそれで……!」


 ***


 ――それから毎晩、その少女(セルティ)との秘密の合瀬が、アリサに世話係と任命されるまで続いていたのであった。

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