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ヤンデレ少女の弟子にされたんだが。  作者: ぱりぽり土鍋
第三章 二人の魔導士の弟子
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セルティとうちの女性陣なんだが

 その後、セルティは俺の言うことをすんなり聞いてすっかり冷めてしまった朝飯を食べてくれた。


「じゃぁ俺は食器を返してくるから、少し待っててくれ」

「はい、わかりました、エドガーさん。ふふふ!」


 セルティは今まで見たことないような柔らかな笑顔を浮かべ、嬉しそうにしている。

 俺はそれに笑みを返すと、その部屋から出て行った。


 ***


 俺はひとり廊下を歩きながら彼女のことを考える。


 ――セルティ。


 彼女は一体何にとらわれているのか。

 彼女にとって俺は何なのか。

 今のままでいいのか。

 彼女は今、完全に俺に依存しきっている。

 それを――その在り方を俺は許せるのか。


 ***


「どうだった、囚われのお姫様は?」


 食器を返しに来ると、にやにやしながらアリサが待っていた。

 それに気付いた俺は、考え事を止め、彼女(・・)のことを一旦無理やり忘れて――“仮面”をかぶる。


 いつもの、なまけ癖の(・・・・・)あって適度(・・・・・)に緩い感じの(・・・・・・)、“エドガー”になる。


「あんな感じの子がエドガーは好みなのかしら?最近夜中によく会っていたようだし」


 その口調は問い詰めるようだが、目元は緩んでいる。


 それも当然だ。俺にそんな気がないことなどアリサはわかっている。あくまで冗談だ。


 ……それが冗談でなくなった時、俺がどうなってしまうかなんてことは、あまり考えたくない。


「……やっぱ知っていたんだな、アリサ。俺とセルティが会っていたことを」


 おどけるように答える俺に、くすくすと笑ってアリサが答えた。


「あたりまえじゃない、エド。夫が浮気しないかを見張るのも妻の役目でしょ?」


 一瞬、すっと細められるアリサの目。


(……見張る、か。俺は常に見張られている、のか?)


 ――何を?どこまで?いつまで?


 そんな疑いの海に沈んでいきそうになった俺の脳内で――。


 “そんな些細な事気にする必要はない。他にやることがあるじゃろ、エドガー?”

 

「――ッ!」


(――誰だッ?今の声は!?)


 ぶるり、と俺の体が震える。


 確かに、今、アリサじゃない声が聞こえた。


 "ほら、はようアリサに答えよ。待っておるぞ、お主を?"


(……まただ……)


 俺は頭痛を感じ自分の頭を押さえようとして……アリサの不安気な様子に気付く。


「どうかした……エド?」

「ああ、いや……なんでもない。それにしても、アリサには全部お見通しだな。これからもよろしく頼むな」

「ええ、もちろんよ、エド」


 そういってサラサラとアリサの滑らかな銀髪を右手で撫でると、アリサはその手を優しく掴んで微笑んだ。


 脳内への声はぴたりと止んだ。


 ***


 台所にはエリーがいた。


「エリー、この食器頼めるか?」


 台所でお皿を片付けているエリーに一言声を掛ける。


 だが。


「……」


 黙々と皿を洗っていくエリー。


「……エリー?」

「……」


 俺の言葉に帰って来るのは沈黙のみ。

 台所と言う狭い空間が、その息苦しさに拍車をかける。


「……ここに置いておくな。頼んだ」


 その空間から少しでも早く抜け出したくて、俺はそう言ってこの場を離れようとした。

 その瞬間。カチャカチャと皿を洗っていた手がぴたりと止まる。


「……エドガー。話があるんだけど」


 その地獄の底から這いあがる亡者のように恨みの籠った声に、俺はヒッと思わず声を上げてしまう。


「な、何だ?エリー……!?」


 ゆっくりと顔を上げたエリーは吸い込まれてしまいそうな闇の深そうな目をしている。


「ちょっと来て?」

「……あ、ああ」

 

 自分顔が引きつっているのを感じながら、大人しくエリーの言うとおりにする俺。

 俺の手を引くむすっとしたエリーを見て、エリーが怒ってることだけは理解できた。


 ***


「エドガー、何か言うことがあるでしょ?」

「な、何のことだ?」


 リビングで向かい合う、俺とエリー。

 エリーは腕を組んで疑うように俺を見つめる。


「あの女のことに決まってるじゃん」

「セルティ、か?」

「……ふうん、そんな名前なんだ」


 さらにエリーの目は鋭くなった。


(――やばい)


 さらにエリーの機嫌は悪くなる。


「夜、二人で、密室で。何してたの?」

「別に特に言うことはしてな……」

「そんなわけない」


 エリーが俺にグイッと身を寄せ。


「な、なんだ?エリー?」

「……いいから、少しじっとしてて」


 そしてすんすんっと鼻を鳴らしながら、俺の匂いを嗅いでいった。


 首筋、背中、胸、腹。


 全身の匂いをくまなくチェックする。


「……それで結果は?」


 恐る恐る俺が聞くが、答えは明白だ。

 先ほどまでセルティが抱き着いていたのだ。

 何もないわけがない。


「……真っ黒。あの女、ありえない」


 苦々しそうに顔を歪めたエリーはそう告げる。


「……もう一回聞くよ?何をしてたの?あの女と毎晩二人で」

「……ただ少し話をしていただけだ」

「うそ。それだけじゃないでしょ?エドガーの体にあの女の匂いがこびりついてる。もっと私が早く気付かなくちゃいけなかった……!」


 何か苦しそうに胸を掴むエリー。その目は怒りに燃えていた。


「お、落ち着いてくれ、エリー。何度も言うが、別にセルティとは何も――!」

「エドガーはそう思ってても、向こうは違うんだよ!

 ……ああ!ありえない、ありえない!

 エドガーからこんなにも他のメス(・・)の匂いがするなんて!

 許せない、許さないからな、あの雑魚風情が……!」


 エリーからあふれ出す、殺気(・・)


 その赤く変色した目。

 エリーの怒りは本物だという証。


「ごめんね、エドガー。わたしちょっと我慢できそうにないや」


 そういって殺気を出したままニコリと笑って、エリーは俺から離れ、部屋の扉へと向かう。


 何処へエリーは行くのか?

 何をしに行くのか?


(――ダメだ。行かしてはいけない!)


「待て、待ってくれ!エリー!」


 俺は必死にその背を呼び止め、そして後ろからその華奢な体を抱き締めた。


「頼む。頼むからセルティは俺に任してくれ……頼む……」


 そうやって無理やりエリーを引き止めると、次第に俺が抱き締めている少女の体から力が抜け、俺の方へと体重を預けてくるようになった。


 懇願する俺に何を思ったのか――ポツリとエリーは呟いた。


「……ばかだよね。エドガーって」

「……すまない」

「ならいったん区切りがついたら、何か埋め合わせをしてね」

「ああ、何でもする」

「……本当に、何でも?」

「……やっぱ死ぬことと、結婚すること以外で……」

「……ぷっくくく……微妙に弱気にならないでよ……!」


 俺の言葉の何かがエリーのツボにはまったのか。吹き出すエリー。


「なら、それ以外で考えておくね。絶対に拒否しないでよ」

「……覚悟しておく」

「もう、そんな顔しないでよ、エドガー。大したことじゃないから」


 そう言い残して、笑顔でエリーは台所へと戻っていった。

 だが、その言葉とは裏腹に、俺は安心はできなかった。


 エリーがその言葉を言い放った瞬間。


 エリーは見たこともないような、期待と、悦びと、罪悪感――それらがごちゃ混ぜになったような、それらを押し殺したような狂おしい笑みを浮かべていたのだから。

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