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第7話 鉄格子の振動


「波を作れる……か」


アルトは地下牢の鉄格子を見つめていた。


「アルト。さっきから何を考えているんだ?」


隣の牢にいるレオが尋ねた。


「この鉄格子を壊せないか、考えていたんだ」


「壊す? そんなことできるわけないだろ。鉄だぞ」


「力ずくで壊すつもりはないよ」


アルトは鉄格子に手を伸ばした。


「レオ。少し実験に付き合ってくれ」


「実験?」


「まずは音だ」


アルトは小さく息を吸い込んだ。


「キュイイイイイッ!」


甲高い鳴き声が地下牢に響く。


レオは耳を塞いだ。


「うるさっ! いきなり何するんだよ!」


「ごめん。でも、今のはただの音じゃない」


アルトは鉄格子に触れた。


「音は空気の振動だ。空気の圧力が変化して、その変化が波として伝わっていく」


「それで?」


「空気だけじゃない。物体だって振動する。鉄も例外じゃない」


アルトは再び鳴いた。


今度は先ほどより低い音だった。


キィィィン……。


鉄格子が、かすかに震えた。


「お、おい。今、動かなかったか?」


「やっぱり」


アルトは目を細めた。


「音の振動が鉄格子に伝わっている」


「それで鉄格子を壊せるのか?」


「まだ無理だよ。だけど、ひとつ分かったことがある」


アルトは鉄格子を指で弾いた。


カン、と乾いた音が鳴る。


「物には、それぞれ揺れやすい振動の仕方があるんだ」


「揺れやすい?」


「例えば、この鉄格子を指で叩くと、決まった音がするだろう?」


「まあ、そうだな」


「それは鉄格子が特定の周波数で振動しやすいからだ」


アルトは少し間を置いた。


「もし、その振動と同じ周波数の波を送り続けたら?」


「どうなる?」


「振動が大きくなる可能性がある」


それは共振と呼ばれる現象だった。


外から加えられる振動の周波数と、物体が本来持っている固有振動数が一致すると、振動が大きくなることがある。


小さな力でも、タイミングよく繰り返せば大きな揺れを生み出せる。


「つまり……」


アルトは鉄格子を見た。


「僕の能力で、物体の固有振動数に合わせた波を作れれば、力ずくでは壊せないものも壊せるかもしれない」


「本当かよ……」


レオの表情が変わった。


アルトは鉄格子に手を添える。


「ただし、問題がある」


「問題?」


「固有振動数が分からない。それに、どれくらいのエネルギーが必要なのかも分からない」


「じゃあ、どうするんだ?」


「試すしかない」


アルトは目を閉じた。


低い音。高い音。その中間。


周波数を少しずつ変えながら、鉄格子に波を送り込んでいく。


しかし、目立った変化はない。


何度試しても、鉄格子は小さく震えるだけだった。


「くそ……」


アルトは息を吐いた。


「やっぱり簡単じゃないな」


そのときだった。


カツン。


遠くで、何かが鳴った。


アルトは顔を上げる。


「……レオ」


「どうした?」


「今の音、聞こえた?」


「何か鳴ったな。足音じゃないか?」


アルトは床に手をついた。


「いや。足音だけじゃない」


彼は目を閉じた。


「床も揺れている」


遠くから伝わってくる微かな振動。


複数の足音が、石の床を通してアルトの手に届いていた。


一人ではない。


二人、三人……いや、もっといる。


「誰か来る」


「どうして分かるんだ?」


「振動だよ。音は空気だけを伝わるわけじゃない。地面だって振動を伝える」


アルトは立ち上がった。


足音は近づいてくる。


そして、地下牢の扉が開いた。


「おい、アルト。出ろ。次の試合が決まった」


監督官だった。


その後ろには、見覚えのない大男が立っている。


大男は片手に巨大な鉄槌を持っていた。


「今度の相手はこいつだ。お前の妙な鳴き声が、どこまで通用するか見せてもらおう」


アルトは大男を見上げた。


相手の身体は、これまで戦った誰よりも大きい。


だが、アルトの視線は大男の筋肉でも、鉄槌でもなかった。


鉄槌の柄。


その先端に取り付けられた巨大な鉄の塊。


アルトは考えていた。


もし、物体の振動を操れるなら。


もし、相手の武器そのものを揺らせるなら。


力の強さなど、関係ないのではないか。


「分かった。行くよ」


アルトは牢から出た。


今度の戦いでは、相手の攻撃力を下げるだけでは終わらせない。


波で、武器を奪う。


そう決めていた。

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