↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/57

第56話 世界からの独立


白い空間を、無数の光線が走っていた。


始祖神の背後に浮かぶ光の輪は、絶え間なく回転している。


アルトたちの攻撃を受けて一度は揺らいだものの、今では以前よりも強い光を放っていた。


「さあ、続けよう」


始祖神が手を広げる。


光線が一斉にアルトへ向かった。


「キュイイイイイッ!」


アルトは波を放ち、光線の進路を変える。


しかし、避けた光線は空間の壁に反射し、別の角度から襲いかかってきた。


「くそっ!」


アルトは身体をひねり、かろうじて直撃を避けた。


その隙に、始祖神が指を鳴らす。


ゲンダの足元にあった構造線が消えた。


「おっと!」


支えを失ったゲンダの身体が傾く。


「ゲンダさん!」


セナが駆け寄ろうとしたが、床そのものが波打ち、彼女の足をすくった。


カイが境界を張る。


だが、その境界は光の輪に吸い込まれるように消えていった。


「またかよ!」


カイが歯を食いしばる。


リナはゴーグル越しに光の輪を観測していた。


「みんな、少し待って!」


「待てる状況じゃねえぞ!」


「分かってる! でも、見えたの!」


リナは光の輪を指差した。


「アルト! あの輪、世界そのものじゃない!」


アルトは光線を受け流しながら、視線を向けた。


「どういうことだ!」


「輪から伸びている光は、世界中の現象につながってる。でも、世界の構造そのものとは違う!」


「つまり?」


「世界を動かしているんじゃない。世界の動きを管理しているのよ!」


始祖神が静かに答えた。


「違いが分かるか。世界は私の管理によって安定している。私が管理をやめれば、世界は再び混乱する」


「それは、お前がそういう仕組みにしたからだろ」


アルトが言った。


「世界そのものが、お前を必要としているわけじゃない」


「証明できるのか?」


始祖神の手が動く。


光の輪から、一本の太い光線が放たれた。


それはアルトを狙わず、白い空間の奥へと伸びていく。


光線が触れた場所から、世界の景色が現れた。


山。海。街。森。


人々が暮らす世界だった。


その景色に、無数の細い光がつながっている。


「見ろ」


始祖神が言った。


「この世界は、私の管理によって成り立っている。季節、気候、生命の循環、地殻の動き。あらゆるものが私の管理下にある」


光が一つ揺れた。


世界の一角で、雲の流れが止まる。


別の場所では、川の水が逆流し始めた。


「私との接続を断てば、こうなる」


「それは、管理の仕組みが壊れたからだ」


アルトは言った。


「世界が壊れることとは違う」


「同じことだ」


「違う」


アルトは光の輪を見つめた。


「お前は、世界が自分で動くことを許していない。だから、お前の管理が止まれば、世界も止まるように作られている」


始祖神は答えなかった。


その沈黙が、答えだった。


「アルト、分かったわ!」


リナが声を上げる。


「輪を全部切っちゃ駄目なのよ! 世界につながっている線まで切ったら、本当に世界が壊れる!」


「なら、どうする?」


「管理の線だけを切るの!」


リナは光の輪を見つめた。


「世界とつながっている線は残す。でも、始祖神が世界のすべてを決めるための線だけを断つ!」


「そんな都合のいいことができると思うか?」


始祖神が言った。


「世界の接続と管理の接続は、一つの仕組みになっている。分けることはできない」


「一つになっているなら、分ければいい」


アルトは答えた。


「そのために、俺たちがいる」


ゲンダが立ち上がった。


「なるほどな。つまり、世界の構造を支え直せばいいんだろ」


「そうだ。始祖神の管理がなくても、世界が自分で成り立つ構造にする」


「簡単に言ってくれるぜ」


ゲンダは腕を回した。


「だが、やるしかねえな」


カイが一歩前に出る。


「俺は、世界と管理の境界を作る。二つを分けるための境界だ」


セナは静かにうなずいた。


「私は、その間にある生命の流れを守ります。管理が外れても、命が途切れないように」


リナは光の輪を見つめた。


「私は、分かれた世界を観測する。始祖神の管理がなくなったあとも、世界が続いていることを確かめる」


アルトは仲間たちを見た。


「頼む」


始祖神が手を下ろした。


「愚かなことを」


光の輪が激しく回転する。


「お前たちに世界の仕組みを変えることなどできない。世界を維持するには、管理する者が必要なのだ」


「それは、お前の考えだ」


アルトが答えた。


「世界の答えじゃない」


始祖神の光が、仲間たちへ襲いかかった。


「始めるぞ!」


ゲンダが両手を地面についた。


白い空間の奥に、巨大な構造線が浮かび上がる。


彼はその線を一本ずつたどり、世界につながる部分を探した。


「見つけた! 世界を支えている線は、こっちだ!」


ゲンダが力を込める。


構造線が大きく揺れた。


「だが、こいつを支えるには、別の支点がいる!」


「こちらで作る!」


カイが両手を広げた。


彼の前に、巨大な境界が生まれる。


それは世界と管理の間に差し込まれる、薄い壁だった。


「境界を固定する! ゲンダ、今だ!」


「おう!」


ゲンダが構造線を動かす。


世界を支える線が、始祖神の管理から少しずつ離れていく。


だが、光の輪がそれを許さなかった。


無数の光が、境界を押し潰そうとする。


「くっ……!」


カイの身体が震える。


「持ちません!」


セナが駆け寄った。


カイの腕に手を添え、生命の流れをつなぐ。


「身体の負担をこちらで引き受けます。だから、境界を保って!」


「助かる……!」


「まだです。無理をすれば、あなたの命が先に尽きます!」


「分かってる!」


セナの光が強くなる。


ゲンダの構造線が、少しずつ形を変えていく。


しかし、始祖神は動じなかった。


「それで世界を救ったつもりか」


彼が指を動かす。


ゲンダの支えていた構造線が、別の形へと変わった。


「なっ!」


「構造を変えるなら、その構造ごと私の管理下に置けばいい」


ゲンダの手から力が抜ける。


「くそっ、またかよ!」


「ゲンダさん!」


リナが叫ぶ。


「違う! そっちじゃない!」


彼女は光の輪の一部分を指差した。


「始祖神の管理は、世界の全部に同じ強さでつながってるんじゃない! あそこだけ、線が集中してる!」


「そこが管理の中心か!」


「そう! でも、まだ線が重なっていて、どれが管理の線か分からない!」


アルトが目を閉じた。


世界の中を走る波を探る。


地面を伝わる振動。

空気の揺れ。

生命の鼓動。

光の反射。


それぞれの波が、無数の関係を示していた。


世界を支える関係。

世界の中で変化する関係。

始祖神が一方的に決定する関係。


それらは複雑に絡み合っている。


だが、同じではない。


「……見えた」


アルトの目が開く。


「始祖神の管理は、世界の関係を一つに固定している。世界そのもののつながりに、管理という関係を重ねているんだ」


「それを外せばいいのね!」


リナが言った。


「そうだ。だが、間違えれば世界のつながりまで切れる」


アルトは光の輪を見据えた。


「一つずつ、分ける」


始祖神が初めて声を荒らげた。


「やめろ!」


光の輪が激しく回転する。


白い空間が軋み、世界の景色が乱れた。


「私がいなければ、世界は再び争い、飢え、病に苦しむ! 人々は互いに傷つけ合い、何もかも失っていく!」


「それでも、世界は自分で選ぶ」


アルトが答えた。


「お前が決めることじゃない」


「私は守ってきた!」


「分かっている」


アルトは、始祖神をまっすぐ見た。


「お前は世界を守りたかった。だから、世界から選ぶ力を奪った」


始祖神の顔が歪む。


「選択など、苦しみを生むだけだ」


「選択があるから、変わることができる」


アルトの身体から波が広がった。


「お前が守ってきた世界を、俺たちは壊さない。お前が独占してきた管理だけを終わらせる」


アルトの波が、光の輪の中心へ向かう。


ゲンダが構造線を支えた。


「こっちは任せろ!」


カイが境界を広げる。


「分けるぞ!」


セナが生命の流れをつなぐ。


「命は途切れさせません!」


リナが目を見開く。


「見えた! 今よ、アルト!」


その瞬間、アルトは一つの関係を捉えた。


世界が存在するための関係ではない。


世界のあらゆる変化を、始祖神だけが決めるための関係。


その一本だけを、正確に選び取る。


「キュイイイイイッ!」


終端波が走った。


光の輪の中心に、小さな亀裂が生まれる。


始祖神の身体が揺れた。


「そんな……!」


亀裂は輪全体へ広がることなく、中心にある一本の光だけを断ち切った。


その瞬間、世界の景色が大きく揺れた。


山が崩れかける。

海が逆巻く。

街の時計が止まる。


だが、それらはすぐに元の動きを取り戻した。


風が吹く。


川が流れる。


人々が歩き出す。


誰かが笑い、誰かが泣き、誰かが空を見上げる。


世界は、続いていた。


光の輪はまだ存在している。


世界とのつながりも残っている。


ただ一つ、始祖神が世界のすべてを決めるための線だけが、失われていた。


「……そんなはずはない」


始祖神は自分の手を見つめた。


「私の管理がなくなれば、世界は崩壊するはずだ」


「崩壊してないだろ」


アルトが言った。


始祖神は、遠くに映る世界を見た。


そこでは、何も知らない人々が暮らしている。


誰かが転び、誰かが手を差し伸べる。


誰かが間違え、誰かがそれを正す。


完璧ではない。


争いも、病も、悲しみも残っている。


それでも、世界は動いていた。


「私がいなくても……」


始祖神の声が、かすかに震えた。


「世界は続くのか」


「そうだ」


アルトは答えた。


「お前がいなくてもな」


光の輪が静かに消えていく。


始祖神の身体から、世界を管理するための光が失われた。


しかし、彼自身はまだ立っていた。


その目に、初めて迷いが浮かんでいる。


「ならば……私は何のために存在していた?」


アルトは答えなかった。


その問いに答えを与えるのは、始祖神自身だ。


始祖神はゆっくりと顔を上げた。


「まだ終わってはいない」


「分かっている」


「私は神だ。管理する力を失ったとしても、私自身が消えたわけではない」


始祖神の身体に、残された光が集まり始める。


「お前に世界を任せるつもりはない」


「俺も、そんなものを引き受けるつもりはない」


アルトが一歩前に出た。


「世界は世界のものだ。お前のものでも、俺のものでもない」


始祖神の光が、拳に集まる。


「ならば、最後まで戦おう」


「望むところだ」


アルトも拳を握る。


仲間たちは、少し離れた場所で二人を見つめていた。


世界を管理する光は消えた。


もう、始祖神が世界のすべてを決めることはできない。


残されたのは、始祖神自身と、アルトだけだった。


「これが最後だ」


アルトが言う。


始祖神は、静かにうなずいた。


「そうだ。これが最後だ」


二人の間に、白い空間が広がる。


その先に、世界があった。


今度こそ、決着をつけるために。


アルトと始祖神は、同時に動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。