↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/57

第55話 神の身体


白い世界を、光の輪が覆っていた。


その中心に、始祖神が立っている。


「来るがいい、アルト」


始祖神の声に、揺らぎはなかった。


「お前たちが何を守ろうとしているのか、私に見せてみろ」


アルトは一歩前に出た。


「見せる必要はない。お前は、ここで終わる」


「そうか」


始祖神が右手を上げた。


瞬間、白い空間に無数の光点が浮かび上がる。


それぞれが、アルトたちの動きを映していた。


「お前たちの行動は、すでに観測されている」


アルトが動くより先に、始祖神の指がわずかに動いた。


次の瞬間。


「キュイイイイイッ!」


アルトの放った終端波が、始祖神の身体へ向かう。


だが、光の輪が回転した。


終端波は始祖神に届く直前で進路を変え、白い空間の彼方へ消えていった。


「無駄だ。お前の波がどのような性質を持つか、私は知っている」


「知っているだけで、止められると思うなよ」


アルトは間髪入れず、異なる周波数の波を重ねた。


一つ目は光の輪を揺さぶる。

二つ目は輪の内側で反射させる。

三つ目は反射した波同士を干渉させる。


複雑に重なった波が、始祖神へ迫る。


しかし。


「それも、予測の範囲内だ」


光の輪が一瞬だけ明滅した。


波の重なりが解かれ、攻撃は消えた。


アルトの眉が動く。


「……先回りしているのか」


「お前が波を放つ前から、その結果を知っている。結果が分かっているなら、対処は難しくない」


「なら、予測できないものを作るまでだ」


アルトが再び構えた。


その背後で、リナが声を上げる。


「アルト、待って!」


「どうした!」


「始祖神の光、私たちの動きだけを見てるんじゃない。私が見たものまで、利用してる!」


リナの視界に映る光点が、次々と形を変えていた。


彼女が何かを観測する。

その情報を始祖神が取り込む。

そして、次に起こることを先回りして封じる。


「私が見れば見るほど、あいつの予測が正確になるってこと?」


「そういうことだろうな」


始祖神が静かに答えた。


「観測とは、世界を知ることだ。お前の能力は優秀だが、私の前では情報を提供するにすぎない」


リナは唇を噛んだ。


「だったら、見なきゃいいってこと?」


「それも一つの方法だ」


「でも、それじゃ何も分からないじゃない!」


リナはゴーグルを押し上げた。


「私は見るよ。見たうえで、あんたの予測を外してやる!」


「威勢だけはいいな」


始祖神が左手を振った。


白い地面から、無数の構造線が立ち上がる。


それらは複雑に組み合わさり、巨大な格子となってゲンダの足元を囲んだ。


「なっ……!」


ゲンダが地面に手をつく。


「構造が変わってやがる!」


彼が支えていた空間の線が、次々と別の位置へ移動していく。


「お前の力は、構造を支えることだったな」


始祖神が言った。


「ならば、支えるべき構造を変えればいい」


ゲンダの身体が大きく傾いた。


「くそっ! こいつ、俺の支えを利用してやがる!」


ゲンダは両腕を広げ、崩れかけた構造を必死に押さえ込む。


しかし、始祖神はさらに線を動かした。


「ゲンダ!」


カイが境界を展開する。


ゲンダの周囲を境界が覆い、構造線の侵入を防いだ。


「これで少しは持つ!」


「助かる!」


だが、始祖神はその境界を見て、わずかに手を動かした。


境界の外側にあった空間が、内側へと折り畳まれる。


「何だと……!」


カイの境界そのものが、始祖神の管理する空間に取り込まれていく。


「境界を作る力か。ならば、その境界もまた管理対象にすればいい」


カイの額に汗が浮かぶ。


「境界を……境界の外から包んだのか」


「そうだ。お前が作る境界も、私の世界の中にある」


「だったら……!」


カイは歯を食いしばり、境界の向きを変えた。


「内と外を、もう一度分ける!」


わずかに空間が揺れた。


だが、すぐに始祖神の光がそれを押し戻す。


「長くは持たない!」


カイが叫んだ。


そのとき、セナがゲンダの腕に触れた。


「ゲンダさん、無理をしないで!」


「そう言われてもよ!」


「分かっています。だから、あなたの身体が壊れないようにします!」


セナの手から、淡い光が広がった。


ゲンダの腕に走っていた亀裂のような傷が、少しずつ塞がっていく。


しかし、その光を見た始祖神が、静かに手を上げた。


セナの光が止まった。


「な……!」


「生命の流れをつなぐ力。お前は命を守ろうとしている」


始祖神の声が響く。


「ならば、その命が続くための条件を変えればいい」


ゲンダの身体から力が抜けていく。


セナが必死に支える。


「やめてください!」


「お前たちは、何かを守るたびに、その対象を私に示している。守るものが分かれば、そこを押さえればいい」


始祖神が一歩近づいた。


「それが、私の世界だ」


アルトが動いた。


「キュイイイイイッ!」


今度は攻撃ではなかった。


アルトの放った波が、仲間たちの周囲を走る。


始祖神が光を動かすよりも早く、波はそれぞれの身体に届いた。


ゲンダの足元にある構造線。

カイの境界の縁。

セナがつないでいる生命の流れ。

リナの観測によって生まれた微細な変化。


それらを、アルトは一つの波としてつないだ。


「お前が俺たちの力を利用するなら、俺も利用させてもらう」


始祖神の目が細くなる。


「何をした?」


「お前が予測しているのは、俺たち一人ひとりの行動だ。だが、俺たちの力は独立していない」


アルトの波が、仲間たちの間を走り続ける。


「ゲンダが支えるから、カイが境界を作れる。カイが境界を作るから、セナが生命をつなげる。リナが観測するから、俺は変化を捉えられる」


「それがどうした」


「お前は、俺たちを個別に管理しようとしている。だが、俺たちは互いに影響し合っている」


アルトは始祖神を見据えた。


「一人の行動を予測できても、全員の関係まで固定できるとは限らない」


リナが顔を上げた。


「そうか……! 私が見つけた変化を、ゲンダさんが支えて、カイさんが守る。セナさんがつないで、アルトが波にする!」


「理解が早いな」


「そりゃあ、研究者ですから!」


リナは笑った。


「だったら、やってやるわよ!」


リナが目を閉じる。


何かを探すように、白い世界を観測する。


始祖神の光が、彼女の視界を覆い尽くそうとした。


しかし、リナはその光の中に、ほんの小さな違いを見つけた。


「アルト! 右上!」


アルトが反応する。


そこには、光の輪がわずかに途切れる場所があった。


完全な切れ目ではない。


始祖神の管理が、ほんの一瞬だけ遅れる場所。


「見つけたか」


「ええ! でも、ほんの一瞬よ!」


「十分だ」


アルトが波を放つ。


ゲンダが構造を支え、カイが境界を開く。


セナが仲間たちの生命の流れをつなぎ、リナがその一瞬を観測し続ける。


五つの力が重なった。


光の輪が、大きく揺らいだ。


始祖神の身体が、初めて後ろへ下がる。


「……なるほど」


始祖神は自分の手を見つめた。


「予測の外に出たわけではない。予測された結果の中に、私が処理しきれない重なりを作ったか」


「そうだ」


アルトは答えた。


「俺たちは、お前の予測どおりに動くためにいるんじゃない」


「だが、今の攻撃も一度きりだ。次は対応できる」


「分かってる」


アルトは仲間たちを振り返った。


ゲンダは片膝をつき、肩で息をしている。

カイの境界はひび割れ、維持するだけで精一杯だ。

セナも消耗し、両手を震わせている。

リナの目には、観測を続けた負担が色濃く表れていた。


全員が限界に近い。


それでも、誰も退かなかった。


「アルト」


セナが呼びかける。


「私たちの力は、まだ使えます。でも、長くは持ちません」


「分かってる」


「なら、無駄にはしないでください」


ゲンダが立ち上がる。


「次は俺が支える。今度は簡単に動かされねえぞ」


カイも境界を張り直した。


「俺も続く。だが、次で決めろ」


リナがゴーグルを直す。


「私も見る。最後までね」


アルトは小さくうなずいた。


「頼む」


始祖神は、彼らを見つめていた。


「理解できないな」


その声には、怒りよりも困惑があった。


「お前たちは、なぜそこまでして世界を守ろうとする。失われるものがある。傷つく者がいる。選択を誤れば、取り返しがつかない」


「だから何だ」


アルトが言った。


「それでも、世界は続いていく」


「続けることに、何の意味がある?」


「それを決めるのは、お前じゃない」


始祖神の背後で、光の輪が再び回転を始めた。


今度は先ほどよりも速い。


白い空間全体が、巨大な機械のように動き出す。


「ならば、見せてやろう」


始祖神が両手を広げた。


「お前たちが信じる、その不完全な世界がどれほど脆いものか」


光の輪から、無数の光線が放たれた。


それらは仲間たちを避け、アルトだけを狙っていた。


「アルト!」


リナの叫びが響く。


アルトは逃げなかった。


波を重ね、光線を受け止める。


しかし、光線は一つひとつが異なる性質を持っていた。


反射させれば別の光線が追い、吸収すれば内部から崩される。


「くっ……!」


アルトの身体が押し戻される。


始祖神は歩み寄った。


「お前の力は強大だ。だが、世界のすべてを相手にすることはできない」


「……そうだな」


アルトは膝をついた。


「俺一人なら、無理だ」


始祖神の手が止まる。


アルトは仲間たちを見た。


「だから、俺一人で戦ってるんじゃない」


ゲンダが構造線を押さえ込む。


カイが境界を広げる。


セナが生命の流れをつなぐ。


リナが、まだ見ぬ変化を探し続ける。


その力が、アルトの周囲に集まった。


白い空間に、五つの異なる波が生まれる。


始祖神の光の輪が、わずかに揺れた。


「次は、俺たちの番だ」


アルトが立ち上がる。


始祖神は初めて、表情を変えた。


「……来い」


光の輪が、さらに強く輝く。


最終決戦は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。