↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/57

第45話 永遠の心臓


星々が黒く染まった。


光を失ったのではない。


星はそこにある。炎も、熱も、核融合も続いている。


ただ、光が外へ出てこない。


宇宙そのものが、巨大な何かに覆われたようだった。


「これは……」


リナが周囲を見渡す。


「星が見えないんじゃない。星からの光が、こっちに届いていない」


アルトは目を細めた。


「光の伝達を止めている」


『その通りだ』


始祖神の声が響いた。


『お前たちは、世界を循環させると言ったな』


巨大な影が動く。


『ならば見せてやろう。循環の果てに何があるのかを』


始祖神の手が、宇宙の彼方を指した。


その先で、星が一つ消えた。


次に、別の星が消える。


さらに別の星も。


星が爆発したわけではない。崩壊したわけでもない。


星を星として成立させていた関係が、一つずつ断ち切られていた。


「アルト!」


セナが叫ぶ。


「星が死んでいるの?」


「いや……」


アルトは手を伸ばした。


遠くの星から、何も伝わってこない。


熱も、光も、振動も。


「星そのものを消しているんじゃない。星と宇宙のつながりを切っている」


『死とは終わりだ』


始祖神の声が響く。


『ならば、すべての終わりを与えればよい。星も、命も、世界も。何も残らなければ、苦しみも生まれぬ』


アルトは始祖神を見た。


「それは死じゃない」


『何?』


「ただの破壊だ」


アルトの周囲に波紋が広がる。


「死は、終わりだ。だが終わりは、次の始まりにつながっている」


『その次がなければどうする』


始祖神が指を動かした。


今度は、仲間たちの周囲に黒い空間が生まれた。


ゲンダの身体が、その場から切り離される。


「ぐっ……!」


彼の足元にあった構造線が、一本ずつ消えていく。


「ゲンダさん!」


リナが手を伸ばす。


しかし、彼女の観測も届かない。


ゲンダは自分の身体を見た。


手がある。


足もある。


意識もある。


だが、自分がどこにいるのか分からない。


空間との位置関係が失われていた。


「これは……座標を奪われたのか」


ゲンダは歯を食いしばった。


「ふざけるな。俺はまだ、ここにいる!」


彼は両手を広げた。


見えない構造を探る。


空間を支える線。


力を伝える線。


それらが見えなくても、構造が存在していることは分かる。


「見えないなら、探せばいい!」


ゲンダの両手から、無数の線が伸びた。


一本、二本、三本。


やがて、それらは巨大な網となり、空間をつなぎ直していく。


「これが……俺の力か!」


ゲンダは、自分の身体と宇宙の位置関係を再構築した。


彼の足元に、確かな地面が戻る。


「俺は構造を支える。世界がどれだけ壊れようと、支える場所がある限り、まだ終わらん!」


その声に応えるように、構造線が宇宙へ広がった。


一方、リナは別の異変に気づいていた。


始祖神の姿が、いくつにも分かれて見える。


巨大な神。


小さな神。


老人の姿。


子供の姿。


そして、何もない空間。


「これは……未来?」


違う。


過去でも未来でもない。


始祖神が存在する可能性そのものが、無数に重なっていた。


「どれが本物なの……?」


リナは目を閉じた。


観測者として、彼女はこれまで多くの可能性を見てきた。


しかし、すべてを選ぶことはできない。


選ばなかった可能性は消えてしまう。


そのことが、彼女には恐ろしかった。


だが、今は違う。


「全部を残す必要はない」


リナは目を開いた。


「でも、全部を消す必要もない!」


彼女は手を伸ばした。


始祖神の無数の姿の中から、一つだけを観測する。


それは、他の可能性を否定しない姿だった。


始祖神の巨大な影が、わずかに揺らぐ。


『小さき観測者よ。何をした』


「あなたがどんな存在なのか、見ただけよ」


リナの視界に、始祖神の輪郭が浮かび上がる。


「あなたは一つの存在じゃない。無数の可能性を自分の中に閉じ込めている」


『それが我の力だ』


「違う。あなたは可能性を生かしているんじゃない。閉じ込めているだけ」


リナは手を握った。


始祖神の姿が、一瞬だけ分裂した。


その隙に、アルトの波が届く。


「セナ!」


アルトが叫んだ。


セナは、崩れかけた星の残骸に手を当てていた。


星の一部が、黒い粒子となって消えていく。


その内部には、まだ小さな生命反応が残っていた。


「この星に、生き物がいる……!」


セナは目を閉じる。


生命の流れを感じ取る。


生まれる。


成長する。


傷つく。


修復する。


そして、終わる。


彼女には、その一つひとつが見えた。


「まだ終わっていない……!」


セナの手から光が広がる。


消えかけていた生命反応が、再び強くなる。


だが、星全体を救うことはできない。


彼女の力は、すべてを元に戻す力ではなかった。


「アルト! この星はもう戻らない。でも、中にいる命だけはつなげる!」


「分かった!」


セナは星の残骸から、生命の流れを一つずつ拾い上げた。


それらを小さな光の球に集める。


光の球は、星の外へ飛び出した。


「これでいい……」


セナは息を切らした。


「終わるものは終わる。でも、その中にある命まで、全部終わらせる必要はない」


彼女の言葉に、アルトはうなずいた。


「カイ!」


アルトの声が飛ぶ。


始祖神の黒い空間が、仲間たちを包み込もうとしていた。


カイは両手を広げた。


「分かってる!」


彼の前に、巨大な境界が現れる。


しかし、始祖神の攻撃は境界そのものを消そうとしていた。


『境界とは、内と外を分けるもの』


始祖神が告げる。


『ならば、内も外もなくしてしまえばよい』


カイの境界に亀裂が走った。


「くそっ!」


境界が崩れ始める。


カイは歯を食いしばった。


「違う……!」


彼は両手を強く握った。


「境界は、ただ分けるためにあるんじゃない!」


カイの能力が変化する。


これまでの境界は、波を反射するための壁だった。


だが今は違う。


彼の境界は、異なるものが接する場所そのものになっていた。


内と外。


生と死。


始まりと終わり。


その間に存在する、境目。


「境界があるから、向こう側へ行けるんだ!」


カイは境界を広げた。


始祖神の黒い空間が、境界に触れる。


その瞬間、黒い空間は境界の向こう側へ押し出された。


「これが、俺の新しい力だ!」


アルトは仲間たちを見た。


ゲンダが世界を支え、リナが可能性を観測し、セナが命をつなぎ、カイが境界を守る。


それぞれの力が、世界を循環させるために働いていた。


「みんな、ありがとう」


「礼は後にしろ!」


ゲンダが叫ぶ。


「まだ敵の親玉が残ってるぞ!」


アルトは始祖神を見上げた。


『面白い』


始祖神の声が響く。


『お前たちは、世界を支えるというのか』


「そうだ」


『ならば、世界を支えるものをすべて壊してやろう』


始祖神の身体が開いた。


その内部には、巨大な心臓のようなものがあった。


無数の光の輪が、そこから宇宙全体へ伸びている。


リナが叫んだ。


「アルト! あれが始祖神の中心よ!」


アルトは目を細めた。


「心臓か……」


『そうだ』


始祖神が答えた。


『これこそ、神々の永遠を支えるもの。世界のあらゆる変化を監視し、終わりを拒み、存在を維持する心臓だ』


アルトは、その心臓を見つめた。


「お前たちは、世界の循環を止めるために、世界そのものを監視していたのか」


『我らがいなければ、世界は崩壊する』


「違う」


アルトの手に、黒い波が集まる。


「お前たちがいなくても、世界は動く」


『ならば証明してみろ』


始祖神の心臓が脈打った。


その振動が宇宙全体へ広がる。


星々が震え、空間が歪む。


アルトはその波を読み取った。


心臓の振動。


神々の存在を維持する振動。


宇宙全体へ伝わる振動。


それらは複雑に絡み合い、巨大な定常波を形成していた。


「なるほどな」


アルトは目を閉じた。


「お前たちは、宇宙全体を一つの共鳴箱にしている」


『理解したか』


「だが、共鳴は永遠じゃない」


アルトの身体から、黒い波が広がる。


「振動には、必ず終わりがある」


『我の心臓は止まらぬ』


「なら、止める」


アルトは両手を広げた。


宇宙全体に広がる波が、彼の周囲へ集まっていく。


音波。


光波。


空間を伝わる弾性波。


生命の鼓動。


星の振動。


あらゆる波が、一つの場所へ集まる。


そして、その中心に死が宿る。


「終末共鳴」


アルトの声が響いた。


集められた波が、始祖神の心臓へ向かって放たれる。


始祖神は両腕を広げた。


『無駄だ!』


心臓が強く脈打つ。


アルトの波が押し返される。


しかし、波は消えない。


反射された波が、別の波と干渉する。


干渉した波は、さらに別の波を生む。


それらが幾重にも重なり、始祖神の心臓の振動に干渉し続ける。


心臓の周期が乱れた。


一拍。


二拍。


三拍。


『やめろ……!』


始祖神の声が震える。


「お前たちは、永遠に同じ拍動を続けてきた」


アルトは手を握った。


「だが、心臓はいつか止まる」


黒い波が心臓を包み込む。


「それが、生きるということだ」


始祖神の心臓に、亀裂が走った。


しかし、その亀裂はすぐに修復される。


『我は始まりだ! 終わることなど許されぬ!』


「始まりなら、なおさらだ」


アルトは一歩踏み出した。


「始まりがあるなら、終わりもある」


彼の右手が、心臓に触れた。


「お前の永遠を、終わらせる」


その瞬間、始祖神の心臓が大きく脈打った。


そして、宇宙全体が白く染まった。


光が消えた。


アルトは、自分の手を見た。


そこには何もなかった。


始祖神の心臓は、まだ動いている。


だが、以前とは違う。


心臓の中心に、黒い穴が開いていた。


『……何をした』


始祖神の声が聞こえる。


アルトは答えた。


「お前の心臓に、終わりを刻んだ」


『我はまだ生きている』


「そうだな」


アルトは手を下ろした。


「今はまだ」


始祖神の身体が、ゆっくりと遠ざかっていく。


その背後で、無数の神々が動き始めた。


『我らの永遠を、終わらせることはできぬ』


神々の声が重なる。


『我らは、何度でも戻る』


アルトはその声を聞いていた。


そして、静かに言った。


「なら、何度でも終わらせる」


黒い衣が揺れる。


「終わりがあるから、次が始まるんだ」


その言葉と同時に、遠くの星が一つ輝いた。


その星の内部で、新しい生命が生まれようとしていた。


神々の永遠を終わらせる戦争は、まだ続く。


そして、始祖神の心臓に刻まれた黒い穴は、確実に広がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。