↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/57

第20話「神々の軍勢」


神界全域に警報が鳴り響いていた。


最上位管理者への攻撃を確認。


反逆者アルトを排除せよ。


無数の門が開き、そこから神々が現れる。


アルトは周囲を見回した。


「……ここが神界か」


そこには、想像していたような白い雲も、金色の宮殿もなかった。


広がっていたのは、巨大な構造物の群れだった。


空には無数の球体が浮かんでいる。


それぞれの球体の内部には、世界があった。


青い海を持つ世界。

赤い大地が広がる世界。

生命の存在しない岩石だけの世界。

巨大な植物が大陸を覆う世界。


その一つ一つが、透明な膜に包まれていた。


膜の表面には、無数の文字と数字が流れている。


人口。

資源量。

平均寿命。

生産量。

魔力量。

出生率。

死亡率。


すべてが記録されていた。


アルトは目を細めた。


「これ、全部……世界なの?」


「そうだ」


神が答えた。


「私が管理している世界の一部だ」


アルトは別の方向を見た。


そこには、巨大な建造物がそびえ立っていた。


無数の管が伸び、光が流れている。


管の内部には、人間のような姿をしたものが浮かんでいた。


「何、あれ」


「生命の管理施設だ」


「生命?」


「各世界に誕生する生命の設計、管理、調整を行う」


アルトは黙った。


さらに遠くには、巨大な倉庫のような建物があった。


その内部には、無数の光が収められている。


「死者の魂だ」


神は説明した。


「死後の魂は分類され、必要に応じて再利用される」


「再利用……?」


「記憶を消去し、別の生命として再配置する。魂の資源を無駄にする理由はない」


アルトは倉庫を見つめた。


人間が死ぬ。

魂が回収される。

記憶が消される。

そして、別の人間として生まれる。


それもまた、管理の一部なのだ。


「君たちは……」


アルトは神を見た。


「こんなことをずっとやっていたの?」


「そうだ」


「何千年も?」


「時間の概念が生まれる以前からだ」


神は淡々と答えた。


「世界は管理されなければならない。放置すれば、資源は枯渇し、生命は絶滅し、文明は崩壊する」


「だから、管理する」


「そうだ」


「そして、僕も殺す」


「そうだ」


アルトは小さく笑った。


「分かった」


そのときだった。


数千の神々が、一斉にアルトへ向き直った。


炎を司る神。

雷を司る神。

空間を司る神。

重力を司る神。

生命を司る神。

死を司る神。


それぞれが異なる権能を展開する。


「反逆者アルト」


神々の声が重なった。


「管理者への攻撃を停止せよ」


アルトは右手を上げた。


「嫌だね」


次の瞬間。


神々が一斉に攻撃を開始した。


最初に動いたのは炎の神だった。


その背後に、巨大な太陽が出現する。


太陽から放たれた熱と光が、アルトへ押し寄せた。


「燃え尽きろ」


アルトは動かなかった。


周囲の電磁波を操作する。


可視光は屈折し、赤外線は反射され、熱放射の進行方向が変わった。


太陽の光が、アルトを避けるように曲がっていく。


「なっ……!」


炎の神が目を見開いた。


アルトは指を動かした。


太陽の表面に、無数の波が走る。


「熱を奪うんじゃない。君の放射を操作しているんだ」


太陽の光が一瞬で消えた。


いや、消えたのではない。


放射されるはずだったエネルギーが、別の方向へ押し流されたのだ。


アルトが手を握る。


太陽が収縮した。


そして、爆発した。


炎の神の身体が光の中に消えた。


「一柱」


アルトはつぶやいた。


直後、雷の神が動いた。


神の頭上に無数の雷雲が現れる。


数え切れないほどの稲妻が、あらゆる方向からアルトを襲った。


しかし、雷は届かなかった。


電場と磁場の変化。

電磁波の伝播。

電荷の移動。


それらの波をアルトは読み取り、操作した。


稲妻は空中で軌道を変え、互いに衝突する。


雷の神の周囲で、巨大な電気の嵐が発生した。


「自分の力に焼かれるといい」


アルトが手を振る。


雷の神は、自らの雷に包まれて消滅した。


続いて、重力の神が手をかざした。


アルトの周囲の空間が歪む。


上下左右の概念が崩れ、アルトの身体が一点に押し潰されようとする。


「重力で押し潰すつもり?」


アルトは周囲を観測した。


空間そのものが歪んでいる。


単なる力ではない。


時空の幾何学的な構造が変化している。


「なるほどね」


アルトは両手を広げた。


周囲の空間に、波が広がる。


歪みの伝播を読み取り、重力場の変化に干渉する。


押し潰されていた身体が解放された。


「君の力も、世界に作用している現象だ」


アルトは重力の神を見た。


「なら、僕の領域だ」


重力の神の身体に、無数の振動が走る。


神の鎧が砕け、身体が崩れた。


神々の表情が変わる。


彼らは初めて理解した。


この少年は、単に強いのではない。


神々が扱う現象そのものに干渉している。


「全員で攻撃しろ!」


誰かが叫んだ。


数千の神々が、一斉に権能を解放した。


空間が裂ける。

時間が歪む。

炎が渦巻く。

氷が降り注ぐ。

雷が走る。

無数の刃が飛び交う。


アルトは両手を広げた。


「いいね」


周囲の波が重なり合う。


反射。

屈折。

干渉。

共振。

集束。


神々の攻撃が互いに干渉し、軌道を変え、威力を失っていく。


炎は氷にぶつかり、雷は空間の裂け目へ吸い込まれ、刃は互いに衝突して砕け散った。


アルトはその中心で、静かに立っていた。


「次はこっちの番だ」


無数の波が神々へ向かって放たれた。


神々の身体が次々と砕ける。


ある者は鎧を失い、ある者は腕を失い、ある者は光の粒子となって消えた。


数千いた神々の軍勢が、わずかな時間で半数以下にまで減っていく。


しかし。


「……まだいるのか」


アルトの前に、一柱の神が立っていた。


その姿は、他の神々と違っていた。


鎧も武器もない。


白い衣をまとい、ただ静かにアルトを見つめている。


「私は因果を司る神」


「因果?」


「お前が何をしようと、結果は変わらない」


因果の神が指を動かした。


その瞬間。


アルトの胸に、穴が開いた。


「……っ!」


痛みが走る。


血が飛び散った。


アルトは自分の胸を見た。


何が起きた?


攻撃は見えなかった。

波も感じなかった。

防御も間に合わなかった。


因果の神は静かに言った。


「お前は私の攻撃を受けた」


「……いつ?」


「結果が先に確定した」


神が再び指を動かす。


今度はアルトの右腕が切断された。


アルトは即座に距離を取った。


しかし、距離を取ったという事実よりも先に、切断されたという結果が存在していた。


「なるほど……」


アルトは血を押さえながら、神を見た。


「攻撃が当たる過程を無視しているのか」


「そうだ」


「避けても、反射しても、攻撃が命中したという結果が先に決まる」


「理解が早いな」


「つまり、普通の波では防げない」


「その通りだ」


因果の神が手を上げた。


アルトの身体に、次々と傷が生まれる。


腹部が裂ける。

脚が砕ける。

背中に穴が開く。


アルトは膝をついた。


「お前の能力は、現象を操作するものだ。だが私は、現象が起きた結果を操作する」


因果の神は淡々と告げた。


「お前が何をしようと、私が決めた結果から逃れることはできない」


アルトは顔を上げた。


「……それは、面白いね」


「何?」


「君は、結果を決められるんだね」


「そうだ」


「じゃあ、君が決めた結果は、どうやって世界に反映される?」


因果の神は答えなかった。


アルトは続けた。


「結果が決まる。世界がそれに従う。そういうことだよね」


「そうだ」


「でも、結果が世界に反映されるなら、その間には何かがあるはずだ」


アルトの目が光った。


「情報だ」


因果の神の表情がわずかに変わった。


「君が決めた結果が、世界に伝わる。世界がその結果を受け取る。ならば、その伝達には何らかの構造がある」


「……」


「僕は波を作れる。波を観測できる。波を操れる」


アルトは立ち上がった。


「君が結果を決めるなら、僕はその結果が世界に届く仕組みを探す」


周囲に無数の波が広がった。


因果の神が指を動かす。


アルトの心臓が止まった。


だが、次の瞬間。


心臓が再び動き始めた。


「なに……?」


因果の神が初めて驚いた。


アルトは笑った。


「結果が決まるなら、別の結果を重ねればいい」


アルトは周囲の波を操作し、因果の神が確定させた結果に干渉した。


命中したという結果。

切断されたという結果。

停止したという結果。


それらを伝える情報の構造を、無理やり歪めていく。


「そんなことが……!」


因果の神の身体に亀裂が走った。


アルトは手を握った。


「君の因果にも、干渉できる」


神の片腕が吹き飛んだ。


因果の神は後退した。


「お前は……何者だ」


「ただの反逆者だよ」


アルトは答えた。


「僕の人生を、勝手に決めないでくれる?」


そのとき。


神界全域に、新たな警報が鳴り響いた。


先ほどまでの警報とは違う。


低く、重く、神界そのものを震わせるような音だった。


戦闘を続けていた神々が、一斉に動きを止める。


因果の神も、片腕を失ったまま顔を上げた。


「……まさか」


神界の奥。


無数の建造物のさらに向こう側。


巨大な黒い扉が開き始めた。


扉の表面には、無数の文字が刻まれている。


その一つ一つが、世界の管理に関する命令だった。


管理者権限。


第一防衛線、崩壊。


第二防衛線、起動。


軍事管理機構、接続。


神々は一斉に跪いた。


アルトだけが立っていた。


扉の向こうから、巨大な影が現れる。


それは神の姿をしていなかった。


無数の腕。

無数の眼。

無数の口。


その全身に、世界の情報が流れていた。


神々を従える存在。

神界そのものを動かす存在。


その声が響いた。


「反逆者アルト」


空間が震えた。


「お前の存在を確認した」


アルトは見上げた。


「君が次の相手?」


「私は神界軍事管理機構。神々の戦力を統合し、世界の秩序を維持する存在」


「へえ」


「お前を世界から削除する」


アルトは血に濡れた口元を拭った。


そして、笑った。


「やっと面白くなってきたね」


神界の奥で、巨大な歯車が回り始めた。


第二次神界戦争が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。