38 お酒はほどほどに
冷蔵庫の中身を空にした夕食を終えて、入浴も終えた頃、俺が自分の部屋に向かっていると――。
ある一つ、部屋の明かりがついていた。そこはエリスさんの書斎室。
「……」
「ん?」
通り抜けようとした時、ある声がして俺はいけないと思いながらも俺は聞き耳を立てる。
「うぅ……やっぱり無理ですね」
エリスさんの泣き声ようなものが聞こえ、俺は思わず歩いていた足を止める。
そして、中からは泣き声の他にもカンっと音を立てて何かが床に落ちる音までしている。 俺はその状態を通り過ぎることもできず、慌てて扉を開ける。
「うぇ?」
「……え?」
扉を開けるとエリスさんの机の上にはお酒の缶のようなものが複数転がっている。 いや、嘘だ。複数どころじゃない、普通に二十缶は超えてる!!
お酒を飲んだことのない俺でも分かる、あの量は人間が飲んで良い量じゃない!?
と、とにかく、急いで止めないと!!
「エ、エリスさん! そんなに飲んだらまずいですよ!?」
「うるはいです……、こうもしてないとやってけないですよ!!」
「そ、そんなに嫌なことが?」
「なんで……なんで、冷蔵庫の中身が一気に全部なくなるんですか!! 一週間分以上はあったはずです!!それが一瞬で……」
「あ、あぁ……」
エリスさんはどうやら、先ほどの夕食でマレンとアンが冷蔵庫の中身を食い尽くした現実から逃げるためにお酒を暴飲したらしい。 もし俺が大人であんなことをされたら、俺も暴飲していたかもしれない。
だけど、流石にエリスさんの缶の量が尋常じゃないレベルのため、俺は急いでキッチンからコップに水を汲んで、エリスさんに飲ませる。
「はい、これ飲んでください」
「いやれす、もっとお酒を……」
「これ以上飲んだら、ヤバいですよ」
今の量だけでもおそらく、明日は二日酔いとかのレベルじゃない気がするが……。
その時、この原因を作った内、一人が書斎室に入って来る。
「んー? 何してるんだ?」
「なんで今来るの!?」
「うぇ……マレンさん?」
「ほぉ、久しぶりに見たなエリスがこんなにも酔ってるのか……」
「原因はお前だけどな?」
「ん? なぜだ?」
「お前とアンが冷蔵庫の中身を全部食ったしかないだろ!」
「あーあれか……」
エリスさんの状態は完全にベロベロ。 多分、ほぼ周りを認識できてない。
実際にマレンの名前を呼ぶ際、目の焦点は合っておらずマレンの方向には向いていない。
「そうれす! マレンさん達は食べ過ぎれす!」
「……これがエリスさんの本音だよ、マレン」
「ふむ、そうか……」
「……」
コイツ、まったく反省してる気配が微塵もねぇ!?
俺は何か、マレンに仕返しできる方法を考えていると一つ、思い付いた。仕返しと言えるかは分からないが一つの興味。
そして俺はエリスさんの机の上から、まだ開けられていないお酒の缶を手に取り、プシュと開ける。
「ん? ソウマも飲むか?」
「いや、違うよ」
「……じゃあ、なぜ?」
この世界の成人規定は知らないが、俺は日本生まれである以上、二十歳まで飲まないと決めている。 じゃあなぜ開けたかと言うと……。
俺は無言で、まったく悪気もなく立っているマレンに近付き、持っている缶を口元に持っていく。
「ん!?」
俺はお酒をマレンの口に流し込む、そんな俺の行動に驚いているマレンをよそに俺は頭を掴み、上を向かせて飲ませる。
マレンがゴクンっと飲んだ瞬間、突然マレンが慌てふためく。
「ソ、ソウマ。お前何を……」
「いや、ちょっと気になって」
「そ、そんな理由で……」
何を慌てているのか俺は分からず、数分後――。
どんどんとマレンが顔がタコのように真っ赤になり、フラフラし始める。 目が回っているのか足元がおぼつかない。
あ、あれ? 予想とは違う反応……。
俺は慌てて、倒れそうなマレンを支えながら座らせるよう、促す。
「マレン、お前って……」
「あ、ぁ……」
「めちゃくちゃお酒弱い?」
「うるはい!」
「呂律回ってないじゃん……」
俺はとりあえず、いつの間にかすぅすぅと規則正しい寝息を立てながら寝ているエリスさんの横に座らせる。
だけど、よくよく考えると目の前に食べ物があったらすぐに食べるマレンが目の前にあるお酒を飲まないのは苦手だと自覚してるからだろう。
「はぁ、こうなるんならやらなければよかったな……」
「すぅ……すぅ……」
「ぐぇ……」
「何やってるんですかー?」
「ここで原因の元が集合!?」
俺がここから、どうしようも考えていると原因の元のもう一人もとい、アンが書斎室に入って来た。 するとアンは眠っているエリスさんとくたばっているマレンを交互に見た後、俺の手元の缶に目線を移し、気づいた時には俺の手からは缶は消え、アンの手元に移動していた。
「なるほど、これね……」
「は、え?」
「……美味しそう」
その一言と共にアンは一気に缶を飲み干し、机の上へと投げつけた。
「えっと、大丈夫? アン……」
「えへへ……、大丈夫れす……」
「絶対大丈夫じゃないよね!?」
「大丈夫、大丈夫……」
アンが飲み干した瞬間、顔がマレンのように真っ赤になりながら目を回した。既に呂律は回っておらず、向いている目線は俺ではなく壁に向いている。
この世界は強い者ほどお酒が弱いのか……?
俺はこの後、エリスさん、マレン、アンの介護をローホ達と一緒に手伝ったのである。




