37 戦闘狂対鬼族
エリスさんとのデートから数日後が経ち、まだ若干あの時のことを忘れらない俺だった。 でもなんというか、今日はなんかすごいことになりそうな日だ。
「おはよう、皆」
「ご主人様ー!」
「ソウマ、おはよう」
「「「「「おはようございます、ソウマさん」」」」」
「おはようございます、ソウマさん」
一つ声を掛ければ一も十も返ってくる。こんな環境は元の世界でもなかった。
そう思いながら、俺は横目でエリスさんを見る。
本当にあの時、されたんだよな……。
俺は無意識に頬を押さえる。 そんな俺の様子を見たエリスさんも己の唇を慌てて押さえる。
そんな俺達を横から口を入れる者が一人。
「何をキス程度で恥ずかしがってるんだ」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
「な、なな……」
その場にいた俺を含む、マレン以外がまるで時間が止まったかのように固まった。
その途端、エリスさんはみるみるうちに顔が真っ赤になり、俺の目には見えない速度で食卓の扉をバンっと、力強く開けて消えた。
そんなエリスさんを見送った皆は声を上げる。
最初に動いたのはアン。
「どういうことですか、ご主人様!?」
「ちょっ、ま……」
次にメイド達。 まずはローホ。
「そうですよ!どういうことですかソウマさん!!」
「教えてください!どういうことですか!?」
「早く!!」
「ソウマさん? どういうことでしょうか?」
「どういうことですか!?」
「ぐぇ……ちょ、待って……ルプ、ラ……」
ローホの次はアズール、オーロ、ヴェル、ルプラの順に詰められ、ルプラにいたっては俺の胸ぐらを掴むほどに詰めてくる。
「ま、待って……本当にヤバいから……」
「説明をお願いします!」
全然話を聞く気がねぇな……。 あっ、だめだもう、落ち、る……。
俺の話を一切聞かずにルプラは胸ぐらを掴んだまま揺らされ、結局意識が落ちた。
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「あー死ぬかと思った……」
「す、すみません……」
「いや、いいよ……」
しばらく俺は気絶をしてたらしく、起きた瞬間、ルプラは俺に慌てて駆け寄りながら何度も謝罪を続ける。 その奥を見ると、マレンが少し機嫌が悪くしているのが見て取れる。
恐らく、俺が気絶をしていたのを見た瞬間にルプラを叱ったのだろう、ルプラの目には涙が枯れた跡がある。
その時、アンがマレンに近付く。
「マレンー? ご機嫌斜め?」
「当たり前だ」
「じゃあ運動する?」
「運動?」
「うん! たまには身体を動かそうよ!」
「ふむ、どうやって?」
「私とマレンで戦う!」
「なるほど、名案だな……」
待て待て、何か物騒なことが起きそうな雰囲気なんだが?
するとアンは食卓の場から消えたエリスさんを奥から連れ出す。
奥から連れ出されたエリスさんはドタバタと暴れていたがアンに首をトンとされて、ぐたっとなった。
そしてマレンが魔法で気付けされる。
「あ、あれ? ここは……」
「あーエリス、ちょっと庭借りていい?マレンと闘いたいからさ」
「え? どういう……」
「少し運動だ」
「な、なるほど……そういうことなら良いですけど……」
「よーし! じゃあ行こう!」
そう言い、マレンと肩を組みながら庭へと向かうアンの背中を見送る俺達をよそにエリスさんが呟く。
「あの……私、すごい気になるんですが」
「奇遇ですね、俺もです」
「私もです」
「同じく」
「右に同じく」
「同意」
「激しく同意します」
そして俺達は顔を見合わせ、頷いた後、黙って庭まで移動した。
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庭に移動するとマレンとアンはウォーミングアップをしている様子。
その中、アンは手で何かを振るような動作をしている。 俺はその動作にあることを思い出す。
そういえば、あの本だとアンはナイフみたいなのを使うのか?
そんな俺の予想はアンの一言で的中した。
「エリス、ちょっとナイフくれない?」
「え? あっはい、どうぞ……」
「ありがと」
ナイフ対拳……、流石にマレンが不利じゃないか?
そんな俺の疑問を感じ取ったようにマレンが口を開く。
「大丈夫だソウマ、何も問題はない」
「……じゃあ良いかな?」
「あぁ!」
「じゃあ、いく……よ!」
いつの間にか鬼化していたアンは大地を壊さんといわんばかりの踏み込みを見せ、マレンの懐に侵入する。
だがやはりマレンと言うべきか、そんなアンに反応して反撃をする。 そんな見えない拳をアンは当たり前かのように避けながらナイフを突き出す。
「ふん……」
「さっすがー!」
顔を傾けたマレンは皮一枚で頬を掠め、アンのナイフを避ける。その時、マレンはニヤリと笑いながら拳ではなく、膝を突き上げた。
マレンの膝攻撃はアンにクリーンヒットし、そしてアンは額から血を噴き出しながらも空中で体勢を立て直し、着地する。
その時、アンの顔は悪魔と見間違えるほどの笑みを浮かべた。
「ここからが本番だよね」
「ふん、来い!」
「遠慮なく!」
到底、俺達の目には追えない速度でアンは横一閃に動く。
初手と同じ、ナイフを突き上げる。
「見切ってるぞ」
「なら、これは?」
「なに?」
「ぷっ……!」
「なっ!?」
アンはナイフを突き上げた瞬間に止める、言わばフェイントを掛けた。 そしてアンは口から何かを吹き出す。
「なるほど、含み針か……」
「一応ね、昔からある攻撃なんだけど、よく避けたね」
「そこまで弱いつもりはない」
「あはは、私もそっちの方が楽しいよ」
お互いが笑う瞬間が合図といわんばかりにまた、目で追えない速度で近付く二人。
ガキンガキン!っと、何故か金切り音が鳴り響く。
見ている俺達は何の音かと分からない状態でいる。マレンとアンは一度お互いに離れると、その音の正体が判明する。
「流石だねー」
「え?」
「ふん……」
何も持っていなかったはずのマレンの手が離され、何かが落ちる。
「まさか私の含み針も使うとはね」
「環境を利用するのも戦闘だ」
手から落下したのはアンの口から吹き出された含み針だった。そして、よく見るとマレンの手に持っていた含み針は折れてすらなかったのだ。
マレンはアンのナイフを含み針で捌きながらも折れないように慎重にしていたという。
「もっと速くするよ」
「あぁ、私もだ!」
「ふふふ……」
「ははは……」
二人は瞬間移動かと疑うほどの速度で三度ぶつかり、遂にはエリスさんの目でも追えなくなったらしい。
「なんか、ヤバい……」
「いつ終わるんでしょうかね……」
マレンと上手く避けているらしく、二人のぶつかりからは鮮血を舞う様子は見えない。だが、二人が殴り合ったり、空気を裂く音は遅れて聞こえる。
もう俺達には何をしているのかも分からなくなり、俺達は各々に解散した。
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日も暮れ、少し空がオレンジ色になった頃。庭から戻った二人が玄関から現れた。
「あースッキリした!」
「良い運動だな」
「結局、どっちが勝ったんだ?」
「「ドロー!」」
「まぁ、そんな気はしてたよ」
だけど、おそらく動き的にはマジの戦闘ではマレンが勝つんではないかと俺は踏んでいる。
まぁそんなことはいい、二人の身体を見るとマレンは頬の擦り傷。アンは痣が残っている。傷の数を見ればマレンが劣勢だったのは見て取れる。
「ご飯できてるよ、食べよっか」
「あぁ、そうする」
「やったー!」
そして運動からの疲れなのか、二人は冷蔵庫の中身を空にした……。
なんかキスのこととかどうでもよくなったよ、全員。




