閑話 魔王討伐はできない
――これは黒井蒼真が召喚される前のお話。
「うむ、やはりだめか……」
「ええ、だめですね……」
見知った顔、マレン・ガーデンとエリス・ルガニア。二人は魔王のいる洞窟に来ていた。
魔王は氷漬けにされているが生きている。 それに魔王は抵抗するつもりはない。いや、できないというのが正しいだろう。
「……なぜこんな状態でまだ生きれる?」
「……そうですね、本当に不思議です」
二人は苦悶していた。
ありとあらゆる手段を使って魔王討伐をしようとした二人、だがまったくと言っていいほどに手応えがない。
氷漬けにしても、火あぶりにしても、単純に殴っても、傷の一つもつかない。 それでも魔王は抵抗や反撃をしようともしない。
「今日は諦めようか」
「ええ、そうしましょう」
(本当に倒し方が分からんな、それに傷の一つもつかないとは尚更だ……)
☆☆☆☆☆☆☆☆
魔王の洞窟からの帰り道、エリスは口を開く。
「マレンさん、魔王って倒す必要あるんですか?」
その言葉に歩いていたマレンは止まった。
「……当然だ、倒さないとこの世界は救われない」
「ですが、今でもこの世界は平和ですよ?」
「……」
その言葉にマレンは言葉も出ない。確かに今のままでも世界は平和だ。 ただ、マレンは納得していない。
魔王が生きていて何が平和だ、いつかいけないことが起きると。 そう、マレンは考えている。
「……魔王など、この世界にはいらない」
「言いたいことは分かりますが……」
「何も起きないはずがないんだ、絶対に何かが起こる、はずなんだ……」
マレンの声が徐々に小さくなっていく。 今後ありえる未来を思ってるはずなのにどんどん自信がなくなっていく。
「今日は早く戻りましょう。それで明日また行きましょう」
「……」
マレンは何も言わずに足を進める。 少しだけ、マレンの肩が震えているようにも見えた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
あれから月日が経った。 暖かい季節、熱い季節、涼しい季節、寒い季節をいくつも超えた。
「クソ!なんでだ……」
「マレンさん、今日も……」
「言うな! 私も分かっている!」
(日に日にマレンさんとの関係が悪くなっている気がします。 マレンさんの言いたいことは分かるはずなのに……)
「エリス!帰るぞ……」
「は、はい!」
マレンの奥歯をギリっとする音が静寂の空間に響く。 そんな後ろをついていくエリスはマレンの背中が小さくなっているように見えた。
しばらく歩いていると前からある人物が歩いてくるのに二人は気付く。
そのまま通り過ぎようとしたその時、その人物が口を開いた。
「そこの二人!どうしたんだい?そんな顔して」
「誰だ、貴様?」
「おっと、ご機嫌斜めな感じ? だけど、悩みぐらいは聞くよ?」
子供のように小柄で青色の髪、そしてその瞳は海のように流れる水色だった。 口調的に子供ではないことは分かる、だが二人は警戒をしている。
「待ってください、貴女は誰なんですか? ここに人がいるとは何ともおかしなことです」
「まあまあ、そんなことは置いといて。 君達もしかして魔王を倒そうとしてる?」
「っ!? ああ……」
マレンは図星を突かれ、一瞬見開くがすぐに元の表情を戻す。
「ふふふ、あれを倒すのはこの世界の者では無理だからね〜」
「は?」
「え?」
「ちょちょ!? その拳を下ろして!! 別に君達が弱いって話をしてるんじゃないよ!」
「マレンさん!?」
その言葉を聞いたのかエリスの仲裁があったのか、マレンは静かに上げていた拳を下ろす。
「は、はぁ……よかったよ……」
「それで?どういうことなんですか? 魔王を倒せないって」
「ああ、そうそう。 簡単に言えばあの魔王は耐性がある」
「「耐性?」」
「ああ、しかもその耐性はこの世界に特化している」
「なるほど、つまり?」
「魔王を倒す方法は……"別世界の存在"ではないと倒せない」
「「!?」」
別世界の存在、その言葉に二人は見開く。
(別世界の存在……)
(別世界の存在ではないと倒せない……?)
「健闘を祈るよ」
「おい待て……!」
謎の少女は言葉を最後にその少女は姿を消した。
「マレンさん!これ……」
「これは……?」
姿を消した少女の場所には謎の、スマホのような物が落ちていた。 そこに表示されていたのは適正者リストと書かれていた画面だった。
「適正者リスト……?」
「これは一体……」
謎の少女が言っていた「別世界の存在ではないと倒せない」 その発言がマレンの頭で妙に引っ掛かっている。
「こんな物がなくても私は…… それでも、魔王を倒せるなら……」
「マレンさん?」
「エリス……」
「は、はい」
「これを使うぞ……」
「!? マレンさんが……?」
マレンの性格からは考えられない発言。 だが、エリスの心には驚きとは別の感情が芽生えている。
するとエリスは突然笑い出した。
「ははは、あっははは!」
「な、何を笑っている?」
「だってマレンさんがそんな真剣な顔で言ってるんですもの!」
「っ!? うるさい!黙れ!!」
マレンは顔をリンゴのように真っ赤にして叫んだが、その顔は笑っていた。
――こうして、黒井蒼真は召喚されることとなった。




